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一話
閻魔大王の威厳
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冥界の王あるいは地獄の王と呼ばれ、死者の生前の善悪を裁く死者裁判官、閻魔大王こと羅斗は疲れた表情を浮かべ頭を悩ませていた。
──理由は、ただ一つ。
愛息子の羅瑠璃が可愛いがすぎるからだ。
可愛い我が子のワガママに振り回されて、疲弊困憊する日々。
どうにかならんものかと、妻である猫女の凛に相談しても自分以上に猫かわいがりで、羅瑠璃のワガママを全て許してしまう。
そんなこんなで今日も頭を悩ませていると、地獄の番人兼閻魔大王の腹心の部下である赤鬼、夜鬼丸が勢いよく室の扉を開いた。
「閻魔様ー! どうにかしてくださいよ。天界の神々からクレーム入ってるんすから」
赤鬼、夜鬼丸は慌てた様子で駆け込んできて、書類の束を閻魔大王に手渡す。
閻魔大王は「静かに入ってこい! またか……」と、項垂れた。
「それで、今度は何をした?」
「三途の川の橋を爆破しました。お陰で、死者たちが立ち往生しちゃってます」
「ら~る~り~」
「それだけじゃあ~ございませんよ! 天界の皆さんもお怒りです。特に天界の総取締役、弟君の天照様も『兄上の羅斗は、閻魔大王のくせに、我が子の躾もできないのか? そのくせ、人の善悪を裁くなぞ笑わせる。何かの冗談か?』と、仰ってましたね」
「ハァ……羅天め」
天界の主神である優秀な弟にまで小バカにされ、閻魔大王はため息を連発。
……雑にポンと書類を机の上に投げた。
「夜鬼丸よ。羅瑠璃を、此処に連れてこい」
夜鬼丸は心底、嫌そうな表情を滲ませる。
「え~嫌っす。だって、羅瑠坊ちゃん、引っ掻いたり噛みつくんですよ。結構、痛いんですよね~。まったく、親の顔が見てみたい……あっ、失礼。つい、本音がっ!」
夜鬼丸は、閻魔大王の鋭い視線にたじろいだ。
「わざとらしいな……いいから連れてこいっ!」
「わ、わかりましたよ。ちょっと行ってきますね。ハァ~。鬼使いが荒いんだから……転職しようかな」
「夜鬼丸! 聞こえてるぞ。早く行け!」
「はいはい」
閻魔大王の命令に逆らえるわけもなく、夜鬼丸は渋々と室を出て行った。
──暫くすると、再び室の扉が開く。
夜鬼丸に、首根っこを掴まれた羅瑠璃が手足をジタバタさせ泣きべそをかきながら入ってきた。
「にゃー! パパ~。下僕の赤鬼がいじめるのぅ。……ガブッ!」
「痛ッ!」
羅瑠璃に、歯型がつくほど腕を噛まれた夜鬼丸は思わず掴んでいた手を放してしまう。
「羅瑠璃。お前はまた悪さをしたのか? 三途の川が渡れず、死者たちが困っているそうだ」
閻魔大王は冷たく言い放ち、書類の束でポカリと頭を叩く。
すると、羅瑠璃はキッと睨み返す。
「パパ、虐待した! どうでもいいじゃん、人間の魂なんて!」
羅瑠璃は泣きながら、小さな白猫の姿へと変身する。
そして父である閻魔大王の足元にすり寄り、頭を何度も擦りつけた。
雪のように真っ白なフワフワの被毛に、ピンクのお耳、その姿を見た閻魔大王の目尻はみっともないほど垂れ下がり、両手で深く頭を抱えてしまう。
(ダメだ! やっぱり可愛い。どうしたら、この私が怒れると言うのか……)
父親がこの姿に弱いことを、羅瑠璃はよく知っているのだ。
夜鬼丸はチラリと横目で、閻魔大王を見た。
(……バカ親子だな)
「閻魔様~。甘やかしちゃダメっすよ! 天界も仕事が遅れるってお怒りなんですから。ここは父親らしくビシッ! と、威厳を見せつけないと」
夜鬼丸が呆れながら言うと、羅瑠璃がギロリと睨みつける。
そして小さく呟く。
「下僕の分際で……。血が滲むほど引っ掻いてやる」
すると、羅瑠璃のピンクの肉球に鋭い爪が生えて、夜鬼丸に向かって飛びかかった!
「シャー!」
「こらっ! 羅瑠璃やめんかっ!」
閻魔大王が慌てて止めに入るも間に合わず。
次の瞬間には、夜鬼丸の悲鳴が冥界中に響き渡っていた。
「うわあぁぁ‼︎ 腕がぁぁあああー」
「あ~あ。やってくれたな……」
夜鬼丸の叫び声を聞きながら、閻魔大王は額に手を当て首を横に振った。
そして低い声で、羅瑠璃を叱りつける。
「羅瑠璃、パパはやめろと言った。パパの部下に手を出すことも、死者を弄ぶことも許さん。お前のオモチャじゃないんだ。冥界は、パパの職場だぞ」
「うぅ……。パパ怒った~」
羅瑠璃は大粒の涙を流しながら、閻魔大王に向かって小さな猫パンチを繰り出す。
そんな愛息子の攻撃など痛くも痒くもなく、閻魔大王は片手で軽々と受け止めた。
「いいか? 次に勝手なことをしたら、もっとキツくパパはお仕置きするからな?」
「うぐッ……」
羅瑠璃は、琥珀色に輝く大きな瞳をキッと吊り上げ反抗的な態度。
しかし、じっとり睨む閻魔大王の鋭い視線が突き刺さり、羅瑠璃はビクッと身体を震わせる。
かろうじて、父親としての威厳はまだあったようだ。
だが、可愛い自分を叱るパパの対応には納得いかず、もっと強い存在の助けを呼ぼうと羅瑠璃は叫ぶ。
「ママっ! ママ~! パパがいじめるぅ」
──途端、閻魔大王の室の扉がバンッ! と、蹴り破られた。
そこに、仁王立ちで立っていたのは羅瑠璃の母親、猫女の凛だ。
「ちょっと⁉︎ 誰よ! ママのベイビーちゃんを泣かせたのは?」
凛は猫耳と深紅の瞳を鋭くさせ、夫の閻魔大王を睨みつける。
「いや、凛。違うんだ。羅瑠璃が三途の川に悪戯を……」
「だから何? まあ、ベイビーちゃん。こんなに泣いてかわいちょうに~」
凛が羅瑠璃に頬擦りをすると、羅瑠璃は甘えるように鳴いた。
「みゅっみゅう~。ママあのね、パパと下僕がいじめるの」
「まあ、信じらんない! こんなに可愛いのに? そう、夜鬼丸と羅斗がね……」
凛はニッコリと微笑んではいるが、深紅の瞳の奥は笑っていなかった。
閻魔大王と夜鬼丸は、恐怖で身体が凍りつき冷や汗を流す。
(閻魔様~。奥様すっごい睨んでますけど助けてくださいよ。俺の腕、血がダラダラなんすけど)
(うるさいっ! 腕は自分で再生すればいいだろ。凛はいい女なんだが……私だって怖いんだ!)
(いやいやいや、あなた様が選んだ嫁でしょう? この状況、どうにかしてくださいよ)
そんな二人のやり取りに、気づかない凛は豊満な胸で羅瑠璃を優しく包み込むと頭を撫でた。
「いや~ん、怖かったでちゅねぇ~。泣き顔もとってもキュート。やっぱり、ベイビーちゃんは天使ちゃんね。食べちゃいたいくらい可愛いわ~」
凛は小さな羅瑠璃をギュッと抱きしめ、ひたすら頬擦りを繰り返す。
「みゅっ。ママくすぐったいよ~」
羅瑠璃はクスクス笑いながら、甘えた声で鳴くと凛の胸に顔を埋める。
そんな穏やかな母と息子の光景に、閻魔大王と夜鬼丸は胸を撫で下ろすが、凛の瞳からは光が消えており、再び二人はガタガタ身体を震わせた。
(まてまて待てッ! これはヤバいっす)
(わかっている……お前、部下だろ? なんとかしてくれ!)
(だからッ! あんたの嫁だって。無茶、言わないでくださいよぉ)
小声でコソコソ話す二人に、凛が気づく。
「あなたたち。何をコソコソと話しているの?」
二人はギクリと肩を震わせると、慌てて愛想笑いをする。
そんな様子に凛は首を傾げた。
「あ……いや……凛は今日も美しいなぁ~って。怒った顔も素敵だよ。さすが、私の妻だ」
毎回、この繰り返しに夜鬼丸はうんざりしていた。
(普段は偉そうなのに嫁と子供に弱すぎだろ! マジで職場に私情挟んでくんなよ。だから嫌なんだ、一族経営は)
閻魔大王と夜鬼丸は尋常じゃない量の額の冷や汗を拭い、ひたすら愛想笑いを続けることしかできなかった。
すると凛は小さくため息を吐き、羅瑠璃に向き直る。
そして猫なで声で話しかけた。
「ねえ、ベイビーちゃん。ママが一緒に三途の川に行って死者たちを叱ってあげましょう。ママが、めっめってしてあげるわ。そうしたら、もう大丈夫ね?」
「はーい!」
羅瑠璃は元気よく返事をする。
そして、凛と共に室を出て行こうとした瞬間──。
閻魔大王の怒りの稲妻が、羅瑠璃と凛の目の前に容赦なく落ちた。
「凛、私に恥をかかせるのか! 死者を叱るなど言語道断。裁くのは私の役目だ。もとはと言えば、羅瑠璃が悪い行いをしたんだぞ」
閻魔大王の怒鳴り声に、凛は無表情で立ち止まった。
羅瑠璃は頬を膨らませながら、父親である閻魔大王に向かって小さな舌をペロっと出して見せる。
「べーっ、パパなんか嫌い。僕は何も悪くないんだ! ノロノロ歩いてた死者が悪いんだもん。だから、ママと二人でお仕置きするから。ねぇ~、ママ?」
「え……ええ、そうね。ベイビーちゃんは何も悪くないわ。それより、あなた。今、あたしに稲妻落とした上に怒鳴ったのかしら? この美しい妻に」
──凛は満面の笑みを浮かべていた。
──理由は、ただ一つ。
愛息子の羅瑠璃が可愛いがすぎるからだ。
可愛い我が子のワガママに振り回されて、疲弊困憊する日々。
どうにかならんものかと、妻である猫女の凛に相談しても自分以上に猫かわいがりで、羅瑠璃のワガママを全て許してしまう。
そんなこんなで今日も頭を悩ませていると、地獄の番人兼閻魔大王の腹心の部下である赤鬼、夜鬼丸が勢いよく室の扉を開いた。
「閻魔様ー! どうにかしてくださいよ。天界の神々からクレーム入ってるんすから」
赤鬼、夜鬼丸は慌てた様子で駆け込んできて、書類の束を閻魔大王に手渡す。
閻魔大王は「静かに入ってこい! またか……」と、項垂れた。
「それで、今度は何をした?」
「三途の川の橋を爆破しました。お陰で、死者たちが立ち往生しちゃってます」
「ら~る~り~」
「それだけじゃあ~ございませんよ! 天界の皆さんもお怒りです。特に天界の総取締役、弟君の天照様も『兄上の羅斗は、閻魔大王のくせに、我が子の躾もできないのか? そのくせ、人の善悪を裁くなぞ笑わせる。何かの冗談か?』と、仰ってましたね」
「ハァ……羅天め」
天界の主神である優秀な弟にまで小バカにされ、閻魔大王はため息を連発。
……雑にポンと書類を机の上に投げた。
「夜鬼丸よ。羅瑠璃を、此処に連れてこい」
夜鬼丸は心底、嫌そうな表情を滲ませる。
「え~嫌っす。だって、羅瑠坊ちゃん、引っ掻いたり噛みつくんですよ。結構、痛いんですよね~。まったく、親の顔が見てみたい……あっ、失礼。つい、本音がっ!」
夜鬼丸は、閻魔大王の鋭い視線にたじろいだ。
「わざとらしいな……いいから連れてこいっ!」
「わ、わかりましたよ。ちょっと行ってきますね。ハァ~。鬼使いが荒いんだから……転職しようかな」
「夜鬼丸! 聞こえてるぞ。早く行け!」
「はいはい」
閻魔大王の命令に逆らえるわけもなく、夜鬼丸は渋々と室を出て行った。
──暫くすると、再び室の扉が開く。
夜鬼丸に、首根っこを掴まれた羅瑠璃が手足をジタバタさせ泣きべそをかきながら入ってきた。
「にゃー! パパ~。下僕の赤鬼がいじめるのぅ。……ガブッ!」
「痛ッ!」
羅瑠璃に、歯型がつくほど腕を噛まれた夜鬼丸は思わず掴んでいた手を放してしまう。
「羅瑠璃。お前はまた悪さをしたのか? 三途の川が渡れず、死者たちが困っているそうだ」
閻魔大王は冷たく言い放ち、書類の束でポカリと頭を叩く。
すると、羅瑠璃はキッと睨み返す。
「パパ、虐待した! どうでもいいじゃん、人間の魂なんて!」
羅瑠璃は泣きながら、小さな白猫の姿へと変身する。
そして父である閻魔大王の足元にすり寄り、頭を何度も擦りつけた。
雪のように真っ白なフワフワの被毛に、ピンクのお耳、その姿を見た閻魔大王の目尻はみっともないほど垂れ下がり、両手で深く頭を抱えてしまう。
(ダメだ! やっぱり可愛い。どうしたら、この私が怒れると言うのか……)
父親がこの姿に弱いことを、羅瑠璃はよく知っているのだ。
夜鬼丸はチラリと横目で、閻魔大王を見た。
(……バカ親子だな)
「閻魔様~。甘やかしちゃダメっすよ! 天界も仕事が遅れるってお怒りなんですから。ここは父親らしくビシッ! と、威厳を見せつけないと」
夜鬼丸が呆れながら言うと、羅瑠璃がギロリと睨みつける。
そして小さく呟く。
「下僕の分際で……。血が滲むほど引っ掻いてやる」
すると、羅瑠璃のピンクの肉球に鋭い爪が生えて、夜鬼丸に向かって飛びかかった!
「シャー!」
「こらっ! 羅瑠璃やめんかっ!」
閻魔大王が慌てて止めに入るも間に合わず。
次の瞬間には、夜鬼丸の悲鳴が冥界中に響き渡っていた。
「うわあぁぁ‼︎ 腕がぁぁあああー」
「あ~あ。やってくれたな……」
夜鬼丸の叫び声を聞きながら、閻魔大王は額に手を当て首を横に振った。
そして低い声で、羅瑠璃を叱りつける。
「羅瑠璃、パパはやめろと言った。パパの部下に手を出すことも、死者を弄ぶことも許さん。お前のオモチャじゃないんだ。冥界は、パパの職場だぞ」
「うぅ……。パパ怒った~」
羅瑠璃は大粒の涙を流しながら、閻魔大王に向かって小さな猫パンチを繰り出す。
そんな愛息子の攻撃など痛くも痒くもなく、閻魔大王は片手で軽々と受け止めた。
「いいか? 次に勝手なことをしたら、もっとキツくパパはお仕置きするからな?」
「うぐッ……」
羅瑠璃は、琥珀色に輝く大きな瞳をキッと吊り上げ反抗的な態度。
しかし、じっとり睨む閻魔大王の鋭い視線が突き刺さり、羅瑠璃はビクッと身体を震わせる。
かろうじて、父親としての威厳はまだあったようだ。
だが、可愛い自分を叱るパパの対応には納得いかず、もっと強い存在の助けを呼ぼうと羅瑠璃は叫ぶ。
「ママっ! ママ~! パパがいじめるぅ」
──途端、閻魔大王の室の扉がバンッ! と、蹴り破られた。
そこに、仁王立ちで立っていたのは羅瑠璃の母親、猫女の凛だ。
「ちょっと⁉︎ 誰よ! ママのベイビーちゃんを泣かせたのは?」
凛は猫耳と深紅の瞳を鋭くさせ、夫の閻魔大王を睨みつける。
「いや、凛。違うんだ。羅瑠璃が三途の川に悪戯を……」
「だから何? まあ、ベイビーちゃん。こんなに泣いてかわいちょうに~」
凛が羅瑠璃に頬擦りをすると、羅瑠璃は甘えるように鳴いた。
「みゅっみゅう~。ママあのね、パパと下僕がいじめるの」
「まあ、信じらんない! こんなに可愛いのに? そう、夜鬼丸と羅斗がね……」
凛はニッコリと微笑んではいるが、深紅の瞳の奥は笑っていなかった。
閻魔大王と夜鬼丸は、恐怖で身体が凍りつき冷や汗を流す。
(閻魔様~。奥様すっごい睨んでますけど助けてくださいよ。俺の腕、血がダラダラなんすけど)
(うるさいっ! 腕は自分で再生すればいいだろ。凛はいい女なんだが……私だって怖いんだ!)
(いやいやいや、あなた様が選んだ嫁でしょう? この状況、どうにかしてくださいよ)
そんな二人のやり取りに、気づかない凛は豊満な胸で羅瑠璃を優しく包み込むと頭を撫でた。
「いや~ん、怖かったでちゅねぇ~。泣き顔もとってもキュート。やっぱり、ベイビーちゃんは天使ちゃんね。食べちゃいたいくらい可愛いわ~」
凛は小さな羅瑠璃をギュッと抱きしめ、ひたすら頬擦りを繰り返す。
「みゅっ。ママくすぐったいよ~」
羅瑠璃はクスクス笑いながら、甘えた声で鳴くと凛の胸に顔を埋める。
そんな穏やかな母と息子の光景に、閻魔大王と夜鬼丸は胸を撫で下ろすが、凛の瞳からは光が消えており、再び二人はガタガタ身体を震わせた。
(まてまて待てッ! これはヤバいっす)
(わかっている……お前、部下だろ? なんとかしてくれ!)
(だからッ! あんたの嫁だって。無茶、言わないでくださいよぉ)
小声でコソコソ話す二人に、凛が気づく。
「あなたたち。何をコソコソと話しているの?」
二人はギクリと肩を震わせると、慌てて愛想笑いをする。
そんな様子に凛は首を傾げた。
「あ……いや……凛は今日も美しいなぁ~って。怒った顔も素敵だよ。さすが、私の妻だ」
毎回、この繰り返しに夜鬼丸はうんざりしていた。
(普段は偉そうなのに嫁と子供に弱すぎだろ! マジで職場に私情挟んでくんなよ。だから嫌なんだ、一族経営は)
閻魔大王と夜鬼丸は尋常じゃない量の額の冷や汗を拭い、ひたすら愛想笑いを続けることしかできなかった。
すると凛は小さくため息を吐き、羅瑠璃に向き直る。
そして猫なで声で話しかけた。
「ねえ、ベイビーちゃん。ママが一緒に三途の川に行って死者たちを叱ってあげましょう。ママが、めっめってしてあげるわ。そうしたら、もう大丈夫ね?」
「はーい!」
羅瑠璃は元気よく返事をする。
そして、凛と共に室を出て行こうとした瞬間──。
閻魔大王の怒りの稲妻が、羅瑠璃と凛の目の前に容赦なく落ちた。
「凛、私に恥をかかせるのか! 死者を叱るなど言語道断。裁くのは私の役目だ。もとはと言えば、羅瑠璃が悪い行いをしたんだぞ」
閻魔大王の怒鳴り声に、凛は無表情で立ち止まった。
羅瑠璃は頬を膨らませながら、父親である閻魔大王に向かって小さな舌をペロっと出して見せる。
「べーっ、パパなんか嫌い。僕は何も悪くないんだ! ノロノロ歩いてた死者が悪いんだもん。だから、ママと二人でお仕置きするから。ねぇ~、ママ?」
「え……ええ、そうね。ベイビーちゃんは何も悪くないわ。それより、あなた。今、あたしに稲妻落とした上に怒鳴ったのかしら? この美しい妻に」
──凛は満面の笑みを浮かべていた。
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