【休載中】銀世界を筆は今日も

Noel.R

文字の大きさ
上 下
24 / 24
Op.3 スケルツォ 急転を駆けて

再現部(後編)

しおりを挟む
 ある暑い夏の日のこと。

 楢橋西高校吹奏楽部に所属する私、佐藤尚美は、来る東京都吹奏楽コンクールに向けての練習のため、いつもの坂道を自転車で駆け上がった。

 コンクールまであと二週間。部の緊張感は日に日に高まっていく。

 そんな中でも、常に落ち着いた奏者がただ一人。

 先輩にして後輩でもある人。黒木宥大。

 長期の休学から復帰し、コンクールへと共に歩む大切な仲間だ。その腕はやはり大したもので、三年間必死に練習してきた私でも敵わない。

 そんな先輩(いや、後輩なのかな?)の作曲した、交響詩『白夜の暁』も、他の吹奏楽作品に引けを取らない一曲だ。そんな曲を演奏できるのが嬉しい。

 今日はどんな変化があるだろう。日々進歩するバンドに居られるのは幸せなことだ。

 そんなことを考えていると、あっという間に着いた。門を抜け、駐輪場に自転車を停めた。



 ◆  ◆  ◆



 いつも黒木……先輩は誰よりも早く部活に来る。校舎を上がる頃にはもう音が聴こえることもある。今日はまだ聴こえないけど、もうじきいつもの自由で開放的な、優しい音が聴こえることだろう。

 校舎の階段は嫌いで、いつも登るのは億劫だけど、その先に今日もいつもの音があると思うと少し気が軽くなる。

 

「………あれ?」


 誰もいない踊り場で思わず声が出てしまった。

 音が、先輩の音が聴こえない。

 教室の鍵はもう職員室の鍵の棚には無かった。ということはもう来ているはずなのに、いつものように聴こえない。ただ蝉の力の抜けたような声がこだまする。

 どうしたんだろう?何かしてるのかな。


 342教室の鍵はやはり間違いなく空いていた。

「おはようございま…………………………………!!!先輩!どうしたんですか!?」

 そこに黒木先輩がうつ伏せで倒れていた。

 寝ているような場所でも体制でもない。

「先輩!聞こえますか!佐藤です!先輩!」

 …反応がない。

「誰か!誰かいませんか!」

 教室から顔だけ出して叫んだ。声が枯れそうになった。

「どないしてん?!」

 来てくれたのはパーカッションの三年、菅井雅文だった。

「先輩が!倒れてて!で…」

「救急車呼んでくる!お前は近藤先生のとこ行け!」

「分かった!」

 無我夢中で走った。何人かの運動部が慌てて道を開けてくれた。

「近藤先生!来てください!早く!」

 職員室には近藤先生しかいなかった。今度は二人でさっきは億劫だった階段を駆け上がった。




 ◆  ◆  ◆


 連絡を受けて駆けつけた先輩のお兄さんが付き添う形で救急車は出発した。

 その姿が見えなくなった途端、糸が切れたように私の体は崩れた。

 怖かった。びっくりした。怖かった。怖かった。怖かった。

 


 その後、一応平常通り部活は行われた。それでも、先輩がいない不安が薄っすらと部を包んでいた。


 そもそも何で教室で倒れていたんだろう。

 別に外傷も無かったし、病気って感じでもなかっ………






 …あの時か。

 




=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=#=


  受験勉強の方にそろそろ本腰を入れるため、暫く休載します。

  最速なら国公立の二次試験が終わる頃に帰ってきます。

  今暫くお待ちください。

                            Noel.R
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

#消えたい僕は君に150字の愛をあげる

川奈あさ
青春
旧題:透明な僕たちが色づいていく 誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

足を踏み出して

示彩 豊
青春
高校生活の終わりが見え始めた頃、円佳は進路を決められずにいた。友人の朱理は「卒業したい」と口にしながらも、自分を「人を傷つけるナイフ」と例え、操られることを望むような危うさを見せる。 一方で、カオルは地元での就職を決め、るんと舞は東京の大学を目指している。それぞれが未来に向かって進む中、円佳だけが立ち止まり、自分の進む道を見出せずにいた。 そんな中、文化祭の準備が始まる。るんは演劇に挑戦しようとしており、カオルも何かしらの役割を考えている。しかし、円佳はまだ決められずにいた。秋の陽射しが差し込む教室で、彼女は焦りと迷いを抱えながら、友人たちの言葉を受け止める。 それぞれの選択が、少しずつ未来を形作っていく。

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

処理中です...