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Op.3 スケルツォ 急転を駆けて

中間部

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 それはもう振り返るのも恐ろしい、悪夢のような本番だった。

 課題曲こそ無難に乗り切ったものの、既にひずんでいた。縦が噛み合いきらない。音が濁る。

 そして自由曲はほぼ完全に壊滅と言って良かった。止まらずに終わっただけ恩の字、といったところだ。

 ほぼ全員がステージの圧と曲の緊張に完全に飲み込まれ、溺れていた。

 曲を知らない(オリジナルだから殆ど誰も知らないわけだが)素人が聴いても酷いと思ったことだろう。

 体育館ステージの片付けを終え、ミーティング。

 誰も話を切り出せずにいた。

「怖かった。」

 ようやく金村がそう呟いた。

「緊張してるのはわかってた。でもまさかここまで思い通りに動かないなんておもっでながっだァッ!」

 途中からは完全に泣いていた。

 隣にいた丸山が俯いて、その肩を叩いていた。丸山の表情もはっきりとは見えなかったが、恐らく悔しさに歪んでいたことだろう。

「これがステージなんです。」

 としか、俺は言えなかった。

 黒木先生がその言葉を引き継いだ。

「そう。これがステージ。何が起こるかわからない。何もかもが起こりうる。何だかんだで練習よりもうまく行かないことが殆ど。ましてこの曲だから。言おうと思えば何とでも言えるの。でもそれじゃあ通用しない。みんなが聴くのは私達の内面なんてそんな御大層なものじゃない。私達は音楽を届けることしか出来ない。でも、」

 一旦深く呼吸する。

「音楽を、このメンバーの精一杯の音楽を、届けることができるの。私達はそのために、これから出来ることを、やっていくだけ。」

 でもまあ、と続ける。

「正直半分くらいは私のせい。奏者を安心させて、最大限の力を引き出すのが指揮者コンダクターの仕事だから。本当にごめん。これからもっともっと、みんなで、音楽作り、突き詰めていこう!」

 はい!と、涙混じりの返事が響く。

「先輩、作曲者として何か、お願いします。」

 金村に急に話を振られた。

 そんな急に言われても。

「…正直書いた当時の自分の思考が時々わからなくなるような曲です。でも、みんなが今、表現しようとしていることが、この曲の全てだと思います。」

 うっわ無難。


「よし!じゃあこれから再スタートってことで!みんな行くよ!」

 金村が熱く呼びかける。

「「「はい!」」」





 さっきまでの湿気はもう、消えていた。
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