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Op.2 帰還と始動 Tempo di Marcia

ファンファーレ(後編)

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 白夜の暁をりたい。

 まさかそんな言葉を聞くことになるとは思っても見なかった。あの日全てが壊れるきっかけとなったあの曲を、それでももう一度、吹きたいと言うのか。

「本当に白夜の暁そ  れでいいのか?」

「あったり前じゃないですか!だってあんな曲中々出会えないですよ?自分達しか知らない曲を人に届けることが出来て、さらにコンクールで通用し得るってなったらもう演るしかないと思ってましたから!」

 自分の曲がそんな評価を受けていたとは。過去の自分をほんの少しだけ褒めてやろうかと思った。

「ただ一つ問題があって…」

 急に佐藤の声がワントーン下がった。

「ん?」

「近藤先生、多分振れないんです…ご自身でも仰ってたんですけど、自分が振れるのはポップスで限界かなって…」

 それは盲点だった。近藤先生は学生時代サークルで軽く音楽をしていた程度、とそういえばよく言っていた。

 …となるとそもそも自由曲どうこう以前に出場が危ういじゃねーか。

 …あ。

「いる。指揮者が一人。」

「いるんですか?誰ですか?」

「クソ兄貴。」

「あああ!伝説の助っ人指揮者!」

 あの兄が伝説呼ばわりされるのはなかなか笑えるところではある。

「ちょっと七海に聞いてきます!近藤先生にも!」

 七海、というのは部長の金村七海のことである。担当はサックス。主にテナーを使う。

 一段落ついて久々に楽器を吹いてみる。

 楽器はオーソドックスなYAMAHAのYBBー641のⅡ型。マウスピースは私物のハモンドのHDー30XL。

 軽く前傾、かなり浅めに座る。全身の筋肉を軽く緩めて。右足は前に。左足は踵を椅子に立て掛けるのが癖だった。一番個人的には安定する位置だった。

 チューニングのからゆっくりと。

 久々のチューバは流石に意のままに、とはいかない。だがこれなら元に戻るまでに思ったほどは時間がかからなさそうだ。

「なーんだ、ほとんど変わらないじゃないっすか先輩。」

 そう言って顔を覗かせたのは三年の丸山奏子。バリトンサックスの名手だ。

「なーにを。まだまだっすよ。」

 「っす」が「っth」と聞こえる口癖を真似して返すのは当時お約束だった。

「そういえば先輩、尚ちゃん何処っすか?」

「さっきそっちに行ったと思うんだが…金村のとこに。」

「ああ、んじゃ多分すれ違ったんすね。ありがとうございます。」

「おうおう。」

 何気ない会話も懐かしく、これからのことを思うと楽しみで仕方がない。

 
 

 ああ、帰ってきたんだなあ。
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