ある令嬢のスローじゃない人生

シュミー

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ここは乙女ゲーでした

お父様 side

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 初めは落胆だった。私の愛する妻の子に感じた気持ちは。そして私は生まれたばかりの子に平民落ちの烙印を押した。それでも愛する妻の子。平民になるまでは愛そうと努力した。

 が歩けるようになった頃から私は一ヶ月に一、二度共に食事をした。娘は驚くほどに静かで作法も完璧だった。あとで使用人に聞いても誰も教えてないという。それにもう専門家が読むような本も次々読んで行っているらしい。

 その時私の娘が天才だと知った。幸いにその時知っているものは数名。他の者には見つからないように、言わないように命令した。

 娘が利用されるかもしれない。そんなことを思っていた。何故だかわからなかった。でもそんなことはさせる気はおきなかった。ただに生きて欲しかった。

 少し経って、妻はずっと別館にいる。だがそれでは跡取り問題が出てくる。そこで公に知られている娘の才を使って決めることにした。

 そして数年が経ち、娘と次期当主候補の子達が学園に通う日だ。点数ずけとしてこの子達といるといじめられないかだった。学園に行く時も何も声をかけてあげられなかった。何を言えばいいのかわからなかった。

 初等部は何もおきなかった。でも中等部に入ってからスミレという身の程知らずの令嬢が娘にいじめられたと訴えてきた。娘がそんなことをするはずがない。私はその訴えを一蹴にした。

 しかし数ヶ月後、娘の方があの令嬢に虐められていることを知った。娘は私に何も言ってきはしない。娘はどうせ言って何も変わらないと思っているのだろうか?そんなわけはないと思った。だから娘が言ってくるまで何もしないと決めた。今思えば頼って欲しかったのかもしれない。

 娘が12歳になり、中等部の卒業パーティーの日になった。ずっと何も私に言わなかった。最低限の言葉しか交わしていない。いや、私が一方的に命令している形でしかまだ喋ったことがない。

 せめてドレスはプレゼントしようとした。私からの初めてのプレゼント。娘は義務で、と思っているだろう。それでも別に良かった。だが仕立て屋が候補の子達のドレスに多大な時間と、娘のドレス用の予算を全部使ったのだ。娘のは全く手をつけていなかった。

 だから父上、ジークレットに頼み、作ってもらうことにした。そして今日、ギリギリドレスが届いた。そしてそのドレスを着た娘が馬車のところまで来た。なんと言えばいいのかわからず、ついいつものように、きつく言ってしまいそうになった。だが、予想外なことに、自分の娘に

 見惚れてしまった。

 美しかった。こんなドレス一つでこんなにも変わるというのか?他の者も固まっていた。その光景に娘はセバスチャン。娘専属につけた執事に話しかけ、取り乱した。初めて見る娘の顔だった。いつもは無表情で何を考えているかわからなかったからだ。

 娘はセバスチャンが取り出したチェーンのようなものを奪い取るとそれを身につけた。そうすると先ほどまで存在感を放っていた娘の気配が薄れた。今までずっと認識阻害魔道具をつけていたらしい。

 少し動揺したが、馬車に乗り、娘と少し、少しだが、話せた。認識阻害魔道具は父上が昔につけたらしい。父上は分かっていたらしい。

 そして卒業パーティー。もしかするとセバスチャンが持っていた魔道具は少し弱かったのではないか?娘はひときわ目立っており、注目を浴びていた。その時、バカだと社交界ではささやかれている第一王子が娘をいじめているスミレとかいう娼婦のような令嬢に謝れと言って来た。スミレが娘にいじめられたからと。

 ふざけるのも大概にして欲しかった。私はその場を鎮めようと声を上げようとした時に国王陛下が出て来た。そして、第一王子と娼婦のような令嬢、そして取り巻き達を牢に連行した。

 冤罪をかけた謝罪として陛下は娘の願いを一つで叶えると言った。だが、魔道具を見破り、それを外させた過程で。

 私は少しそのことにイラッときた。何故だかわからないが。私はそのちょっとした怒りを抑えて娘の願いを聞いた。しかし娘が少しも考えず出した答え、願いに私は固まった。そう娘の願いは、

 平民になること。

 どうしてだ?何故だ?あと二年は大丈夫なはずじゃなかったか?何故私に礼を言う?をしている?

 呆然とした。娘がその場から消えても思考が混乱したままだった。そのあと数日間私は何かに取り憑かれたように仕事に没頭した。娘のことを考えないように。

 やっとのことで頭を整理できたのは約三週間分の仕事を一週間で終わらせた時だ。落ち着いた私はいつも引き出しに入れていた妻と娘の瞳と同じ色のネックレスを取り出そうとする。いつもは仕事をしている間に見て、元気をもらい、仕事をしていた。ここ一週間は取り出してはいない。

 しかしこれしか娘と結びつく品がない。あの日帰ってきてから娘の私物は全て消えていた。妻は別館から帰ってきてはいたが。

 私は机の引き出しを引く。そこにはいつも通りにネックレスが、そして隣に小さい箱があった。一つの封筒と共に。誰が入れたのだろう?私は封筒を開ける。そこには

 拝啓お父様
勝手に家を出たことを謝罪します。お父様がいつも話しかけずらそうにしていたのは知っていました。お父様。私は外の世界を見て見たいのです。そしてに過ごして見たいのです。この我儘をお許しください。私はいつまでもお父様の娘であることを誇りに思います。

 貴方の娘、クロロフェルより

 何かが頬を伝った気がした。

 そうか。私はお前を、娘を愛していた。私が愛し方を知らなかったからここを去ったのか?平民落ちしてもちゃんと生活できるまで支援をしようとしたが。それでは自由に生きているとはいえない。

 私は手紙と共に入っていた箱を開ける。そこには紫と銀が混ざった色のネックレスが入っていた。何処か娘、を思い出す。こんな宝石は見たことはなかった。形も複雑で美しかった。

 クロロフェル。私はずっとお前の父親でいよう。お前が行く場所がなくなってしまった時の居場所となろう。

-------------------
お父様ツンデレ属性に部類しそうですよね。最初はクロロフェルのこと何も思ってなかったのに心がもともとクロロフェルを愛する娘と無意識に判断していたのでしょう。

 今回はシリアスでした!クロロフェルも実は父のこと大好きだったんですよ!

新しい章が次始まります。
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