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わたしを倒す旅の十六歩。
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「ちょっとどういうつもりですか?あんなに強引に直すと宣言するだなんて」
「確か、ちょっとゼルマン隊長らしくない話の流れだったわね」
無理矢理にラヒーとメルを小屋に残して、それ以外のメンバーが外へ出た。
「なに、ラヒーには友が必要ではないかと思ってな」
「友……、ですか?」
「旅では精神的な疲労もある。短い間だとしても、同年代と触れ合う機会は大事にしてやりたい」
「確かに、言われてみればラヒーちゃんと同年代の子がいる機会って少ないわね」
カーリナとフランクがゼルマンの言葉に、納得するように小さく頷く。
それを横目で見ていたアルが、興味がなさ気に呟いた。
「さっさと直すぞ。急ぎ過ぎる必要もないが、ゆっくりする時間もない」
「アルは堅いな」
「本当、真面目よね」
「それに……」
そこでアルが一度言い淀み、言葉を切った。
「出来るだけ早く次の町へ行かないと、あのチビがうるさい」
それだけ言い残すと、アルがさっさと納屋へと歩いて行った。
その後ろ姿を見て、苦笑を漏らしたフランクとカーリナが微笑み合う。
「素直じゃないわね」
「全くだ」
彼らは壊れた納屋の壁を直すべく、それぞれが出来ることに取り掛かった。
***
「何してたらいいの?」
「なんでしょうね」
残されたわたしと目の前の少女。
ホント何をしてたらいいっていうのさ。
困ったんだよ。困ってるんだよ。
甘い果実っていうのも、もう食べ切っちゃって。
美味しいものは他にないし。
「とりあえず、ラヒーちゃん?は旅をしているんですよね?」
「うん」
「じゃあ、旅の話、聞かせてくれませんか?」
「うん?何を話せばいいの?」
旅の話?それって旅の何の話すればいいのか分からないよ。
わたしが困っていると、メルって名乗っていた少女も同じ様に困った顔をした。
「魔王に倒すべく王都を発ったのですよね?もともと、王都で暮らしていたんですか?」
「ううん。住んでたのは別の所。……メルは、ずっとここに住んでるの?」
さすがに魔王城で暮らしてたって話はしちゃダメだよね。
だからわたしは逆に質問して、話の流れを有耶無耶にしてみた。
ふふん。わたし、頭いいなぁ。
「はい。私は物心ついた時からここにいて、これからもずっとここにいます。おばあ様が私に色々なことを教えてくれました」
「おばあ様?」
「とても優しく、とても強くて眩しい人でした」
「ふーん」
おばあ様って人を呼んだ時のメルの顔には、うっすらと微笑みが浮かんでいた。
「良い人間だったんだね」
「ええ、とても良い人でした」
「そっか。どんな人だったの?」
「捨て子だった私を、ここまで育ててくれました。おばあ様のお陰で、私は今も生きているのです」
すうっと、自然と話が止まって、静寂が訪れた。
特に話すことないんだよね。困っちゃったよ。
ぬぬぬ。
「……あの人は」
「うん?」
「本当に勇者なのですか?」
わたしが頭の中で困ったなあと考えていたら、メルが静かに口を開いた。
ちょっと戸惑いがちに、目を伏せながら。
「アルのこと?アルは、本当にユウシャだよ」
多分ね。
仮にユウシャじゃなくても、ゾクゾクしちゃうくらい興味が引かれる存在。
ムカつくことも多いけど、最近はなんだか話をすることも増えた不思議な関係。
「どうして?」
「……いえ。ちょっと……」
言葉尻を濁しながら、メルが言葉を切って考え込む。
「あの人について、教えてもらえませんか?」
「アルについて?」
「はい」
何なんだろう。アルのことが気になるみたいだけど……、何が原因なのかな?
そういえば、さっきもアルに対して過剰なまでに警戒してたみたいだし……。
ていうか、アルについてって何を教えればいいかな。
わたしが知ってるアルって大半がムカつくことなんだよね!
「アルはね、とってもムカつく奴だったの。口は悪いし、意地悪しか言わないし。いつもムスッとした顔してるんだよ」
わたしは忘れてないよ。
美味しくもない肉を食えって、わたしの前に押し付けてきたこと。
チビって呼んでたのだって、イラッとしてたんだからね。
「いえ、あの……。そうではなくて」
メルが慌てたように口を挟んだ。
しきりに首を横に振っている。
「え?アルについてって言ってたよね?」
「過去とか、あの人の経歴とか。あの人はなぜ勇者をしているのか、とか」
「えー?」
過去?ケーレキ?アルの?
えー、そんなの知らないよ。
なんでユウシャになったのかなんて、わたし何にも知らない。
「知らない」
「へっ?ラヒーちゃんは同じ旅の仲間なんですよね?」
「でも知らないもん。わたしは他の皆と違って、昔からの知り合いじゃないし」
リナやフランクは、昔からアルのこと知ってたらしい。
タイチョーだってそう。
皆、昔から知り合いだって言っていた。
けど、わたしだけ。
わたしだけが、知らない。
だってわたしは、この旅で皆と初めて出会ったんだもん。
「知りたいなら、アルに直接聞いてみる?」
この機会に聞いてみてもいいのかもしれないね。
前にリナがアルの昔について、気になること言いかけてたし。
うん、とってもいい考えなの!
わたし冴えてるね。
「うん、そうだよ。聞いてこよう!ほらほら行こう」
わたしはメルの腕を握って無理矢理に立ち上がらせる。
アルは今外にいるよね?
気になったんだから、すぐに聞いちゃえばいいんだ。
名案だね!
「ま、待って下さい!」
抵抗しながら、メルはわたしの腕を逆に抑えようとしてる。
「ラヒーちゃん。すみませんが。本人から聞くほどではないので、行かなくても大丈夫です」
「……え、聞かないの?」
「ええ。見ず知らずの私のような者が、直接尋ねるような内容ではありませんしね」
聞いてみるいい機会だと思ったんだけどな。
メルは首を横に振り、拒絶の意を示してる。
「それよりも、これから私の日課のお祈りへ、一緒に来ませんか?」
「オイノリ?何するの?」
「この家の裏手にある特別な場所で祈るのです。おばあ様がいた時からの習慣で、気持ちを落ち着けて、集中力を高める効果があるんですよ」
「へー。すごいんだね、オイノリって」
オイノリって、祈るって行為のことだよね?
祈る行為なんて、魔族領にいた時には無意味で価値のないものだと思ってたけど、意外とすごいんだねー。
効果があるものだなんて知らなかったよ。
「わたしも行く」
「じゃあ、行きましょう」
そんなに変わらない背丈なのに、わざわざちょっとだけ屈んでわたしの目線に合わせたメル。
わたしの目の前で、少しイラズラっぽく微笑んだ。
その時、メルのエメラルドの瞳が揺らめいた。
目を覗き込むけど、普通に綺麗なだけの目なんだよね。
うーん、何なんだろう。さっきから感じるこの違和感は。
「……確かめないと、正体を」
微かに聞こえた囁き。
それを聞き返す暇もなく、わたしはメルに腕を引かれて外へ出た。
小さな家の外へ出ると。
到着した時に感じた澄んだ雰囲気が、わたしの肌を刺す。
これまでにない奇妙な感覚で、本当どこかおかしいんだよね。
「オイノリどこでするの?」
「こっちです」
メルが、小屋の裏側へ回るから、わたしもそれについて行く。
そこからでも、畑の向こう側にある納屋の近くで、壁を修復するためにタイチョーやアル達が作業をしている姿が見えた。
けど。家の裏側には、別に何もない。
小さな家の裏側の壁と、低い草の覆い茂った地面。森の木々がまばらに生えているだけの、何の変哲も無い所。
何もないというのに、メルはピタリとある場所で停止した。
「……何にもないよ?」
祈るっていうくらいだから、何かあるのかと思っていたのに。
目印も何もないんだね。
なんだかちょっと拍子抜け。
「いいんですよ。何か見えていなくても、問題ないのです」
「どういうこと?」
意味が分からないの。
何もないのに、祈るの?
祈るって、やっぱり無意味な行為なんじゃないの?
「おばあ様は、この土地に馴染み浸透するようにと、この場所にある物を埋めました」
「ある物……?」
「私が立っている、この場所のちょうど真下です」
真下……?
そう言われても、何の目印もない。
特徴的なモノなんて、何一つないの。
「この場を中心に、浸透した力は魔物を退ける聖なる効果を発します」
わたしはメルの足元でしゃがみこんで、その場の土に手を触れた。
ただの土じゃん、と思っていたけれど。
手を通じて感じた力の波動に、ちょっとだけ目を見張る。
「おばあ様の教えを守りましょう」
メルが目を閉じて、胸の前で手を合わせた。
その瞬間。
わたしの手を介して、土の中の力の塊からメルへ一直線に魔力が注ぎ込まれるのを感じた。
「おばあ様の役目を、私が代わりに果たします」
それは、まるで意思を持っているようで。
周囲へ漏れ出すことなく、ロスなく魔力がメルへと導かれる。
きっと土に直接触れていなきゃ、このわたしでも見逃していたような魔力の流れ。
こんなおもしろい現象、わたし見たことがないよ。
「うふ」
笑いが隠せない。
ワクワクしてきちゃった。
ここに埋まっているであろう物も。
この少女も。
全部がおもしろくって、興味深いよ!
「正体を見定めさせてもらいます!」
メルがエメラルドのような瞳を大きく見開くのを、わたしは足元から見上げていた。
キラキラと、光を放つように妖しく輝く緑色。
よく目を凝らせば、異様なレベルの魔力を纏った目。
何度も感じた違和感の正体が、はっきりしたの。
きっと、これは魔眼と呼ばれる類のもの。
だから、わたしはこのエメラルドの瞳が気になったんだろう。
ああ。その瞳には、一体何が見えているんだろうね。
どんな世界が、その視界には広がっているんだろうね。
「……こんなの見たことがない。けど、中心にあるのは、人間?」
無意識なのか、メルの口からは呟きが漏れ出している。
メルの見ている先にいるのは、作業をしているアル。
「ねえ、メル」
食い入るように眺めているメルのことを、わたしはその足元から呼んだ。
名前を呼ばれて、反射的にわたしの方へ視線を向けたメルと数秒見つめ合う。
その後、何かに気がついたようにメルが息を飲む。
輝き煌めき続ける瞳を、大きく震わせて。
「何が見えたの?」
わたしは、知りたいの。
教えてほしいんだよ。
その目で何を見ることができるのか。
「何が見えているの?」
「ヒッ……!」
恐怖に顔を歪めないで、教えてよ。
ちゃんとわたしに。
「どう、見えているの?」
「……ば、化け物っ」
わたしもアルのこと知りたいの。
「確か、ちょっとゼルマン隊長らしくない話の流れだったわね」
無理矢理にラヒーとメルを小屋に残して、それ以外のメンバーが外へ出た。
「なに、ラヒーには友が必要ではないかと思ってな」
「友……、ですか?」
「旅では精神的な疲労もある。短い間だとしても、同年代と触れ合う機会は大事にしてやりたい」
「確かに、言われてみればラヒーちゃんと同年代の子がいる機会って少ないわね」
カーリナとフランクがゼルマンの言葉に、納得するように小さく頷く。
それを横目で見ていたアルが、興味がなさ気に呟いた。
「さっさと直すぞ。急ぎ過ぎる必要もないが、ゆっくりする時間もない」
「アルは堅いな」
「本当、真面目よね」
「それに……」
そこでアルが一度言い淀み、言葉を切った。
「出来るだけ早く次の町へ行かないと、あのチビがうるさい」
それだけ言い残すと、アルがさっさと納屋へと歩いて行った。
その後ろ姿を見て、苦笑を漏らしたフランクとカーリナが微笑み合う。
「素直じゃないわね」
「全くだ」
彼らは壊れた納屋の壁を直すべく、それぞれが出来ることに取り掛かった。
***
「何してたらいいの?」
「なんでしょうね」
残されたわたしと目の前の少女。
ホント何をしてたらいいっていうのさ。
困ったんだよ。困ってるんだよ。
甘い果実っていうのも、もう食べ切っちゃって。
美味しいものは他にないし。
「とりあえず、ラヒーちゃん?は旅をしているんですよね?」
「うん」
「じゃあ、旅の話、聞かせてくれませんか?」
「うん?何を話せばいいの?」
旅の話?それって旅の何の話すればいいのか分からないよ。
わたしが困っていると、メルって名乗っていた少女も同じ様に困った顔をした。
「魔王に倒すべく王都を発ったのですよね?もともと、王都で暮らしていたんですか?」
「ううん。住んでたのは別の所。……メルは、ずっとここに住んでるの?」
さすがに魔王城で暮らしてたって話はしちゃダメだよね。
だからわたしは逆に質問して、話の流れを有耶無耶にしてみた。
ふふん。わたし、頭いいなぁ。
「はい。私は物心ついた時からここにいて、これからもずっとここにいます。おばあ様が私に色々なことを教えてくれました」
「おばあ様?」
「とても優しく、とても強くて眩しい人でした」
「ふーん」
おばあ様って人を呼んだ時のメルの顔には、うっすらと微笑みが浮かんでいた。
「良い人間だったんだね」
「ええ、とても良い人でした」
「そっか。どんな人だったの?」
「捨て子だった私を、ここまで育ててくれました。おばあ様のお陰で、私は今も生きているのです」
すうっと、自然と話が止まって、静寂が訪れた。
特に話すことないんだよね。困っちゃったよ。
ぬぬぬ。
「……あの人は」
「うん?」
「本当に勇者なのですか?」
わたしが頭の中で困ったなあと考えていたら、メルが静かに口を開いた。
ちょっと戸惑いがちに、目を伏せながら。
「アルのこと?アルは、本当にユウシャだよ」
多分ね。
仮にユウシャじゃなくても、ゾクゾクしちゃうくらい興味が引かれる存在。
ムカつくことも多いけど、最近はなんだか話をすることも増えた不思議な関係。
「どうして?」
「……いえ。ちょっと……」
言葉尻を濁しながら、メルが言葉を切って考え込む。
「あの人について、教えてもらえませんか?」
「アルについて?」
「はい」
何なんだろう。アルのことが気になるみたいだけど……、何が原因なのかな?
そういえば、さっきもアルに対して過剰なまでに警戒してたみたいだし……。
ていうか、アルについてって何を教えればいいかな。
わたしが知ってるアルって大半がムカつくことなんだよね!
「アルはね、とってもムカつく奴だったの。口は悪いし、意地悪しか言わないし。いつもムスッとした顔してるんだよ」
わたしは忘れてないよ。
美味しくもない肉を食えって、わたしの前に押し付けてきたこと。
チビって呼んでたのだって、イラッとしてたんだからね。
「いえ、あの……。そうではなくて」
メルが慌てたように口を挟んだ。
しきりに首を横に振っている。
「え?アルについてって言ってたよね?」
「過去とか、あの人の経歴とか。あの人はなぜ勇者をしているのか、とか」
「えー?」
過去?ケーレキ?アルの?
えー、そんなの知らないよ。
なんでユウシャになったのかなんて、わたし何にも知らない。
「知らない」
「へっ?ラヒーちゃんは同じ旅の仲間なんですよね?」
「でも知らないもん。わたしは他の皆と違って、昔からの知り合いじゃないし」
リナやフランクは、昔からアルのこと知ってたらしい。
タイチョーだってそう。
皆、昔から知り合いだって言っていた。
けど、わたしだけ。
わたしだけが、知らない。
だってわたしは、この旅で皆と初めて出会ったんだもん。
「知りたいなら、アルに直接聞いてみる?」
この機会に聞いてみてもいいのかもしれないね。
前にリナがアルの昔について、気になること言いかけてたし。
うん、とってもいい考えなの!
わたし冴えてるね。
「うん、そうだよ。聞いてこよう!ほらほら行こう」
わたしはメルの腕を握って無理矢理に立ち上がらせる。
アルは今外にいるよね?
気になったんだから、すぐに聞いちゃえばいいんだ。
名案だね!
「ま、待って下さい!」
抵抗しながら、メルはわたしの腕を逆に抑えようとしてる。
「ラヒーちゃん。すみませんが。本人から聞くほどではないので、行かなくても大丈夫です」
「……え、聞かないの?」
「ええ。見ず知らずの私のような者が、直接尋ねるような内容ではありませんしね」
聞いてみるいい機会だと思ったんだけどな。
メルは首を横に振り、拒絶の意を示してる。
「それよりも、これから私の日課のお祈りへ、一緒に来ませんか?」
「オイノリ?何するの?」
「この家の裏手にある特別な場所で祈るのです。おばあ様がいた時からの習慣で、気持ちを落ち着けて、集中力を高める効果があるんですよ」
「へー。すごいんだね、オイノリって」
オイノリって、祈るって行為のことだよね?
祈る行為なんて、魔族領にいた時には無意味で価値のないものだと思ってたけど、意外とすごいんだねー。
効果があるものだなんて知らなかったよ。
「わたしも行く」
「じゃあ、行きましょう」
そんなに変わらない背丈なのに、わざわざちょっとだけ屈んでわたしの目線に合わせたメル。
わたしの目の前で、少しイラズラっぽく微笑んだ。
その時、メルのエメラルドの瞳が揺らめいた。
目を覗き込むけど、普通に綺麗なだけの目なんだよね。
うーん、何なんだろう。さっきから感じるこの違和感は。
「……確かめないと、正体を」
微かに聞こえた囁き。
それを聞き返す暇もなく、わたしはメルに腕を引かれて外へ出た。
小さな家の外へ出ると。
到着した時に感じた澄んだ雰囲気が、わたしの肌を刺す。
これまでにない奇妙な感覚で、本当どこかおかしいんだよね。
「オイノリどこでするの?」
「こっちです」
メルが、小屋の裏側へ回るから、わたしもそれについて行く。
そこからでも、畑の向こう側にある納屋の近くで、壁を修復するためにタイチョーやアル達が作業をしている姿が見えた。
けど。家の裏側には、別に何もない。
小さな家の裏側の壁と、低い草の覆い茂った地面。森の木々がまばらに生えているだけの、何の変哲も無い所。
何もないというのに、メルはピタリとある場所で停止した。
「……何にもないよ?」
祈るっていうくらいだから、何かあるのかと思っていたのに。
目印も何もないんだね。
なんだかちょっと拍子抜け。
「いいんですよ。何か見えていなくても、問題ないのです」
「どういうこと?」
意味が分からないの。
何もないのに、祈るの?
祈るって、やっぱり無意味な行為なんじゃないの?
「おばあ様は、この土地に馴染み浸透するようにと、この場所にある物を埋めました」
「ある物……?」
「私が立っている、この場所のちょうど真下です」
真下……?
そう言われても、何の目印もない。
特徴的なモノなんて、何一つないの。
「この場を中心に、浸透した力は魔物を退ける聖なる効果を発します」
わたしはメルの足元でしゃがみこんで、その場の土に手を触れた。
ただの土じゃん、と思っていたけれど。
手を通じて感じた力の波動に、ちょっとだけ目を見張る。
「おばあ様の教えを守りましょう」
メルが目を閉じて、胸の前で手を合わせた。
その瞬間。
わたしの手を介して、土の中の力の塊からメルへ一直線に魔力が注ぎ込まれるのを感じた。
「おばあ様の役目を、私が代わりに果たします」
それは、まるで意思を持っているようで。
周囲へ漏れ出すことなく、ロスなく魔力がメルへと導かれる。
きっと土に直接触れていなきゃ、このわたしでも見逃していたような魔力の流れ。
こんなおもしろい現象、わたし見たことがないよ。
「うふ」
笑いが隠せない。
ワクワクしてきちゃった。
ここに埋まっているであろう物も。
この少女も。
全部がおもしろくって、興味深いよ!
「正体を見定めさせてもらいます!」
メルがエメラルドのような瞳を大きく見開くのを、わたしは足元から見上げていた。
キラキラと、光を放つように妖しく輝く緑色。
よく目を凝らせば、異様なレベルの魔力を纏った目。
何度も感じた違和感の正体が、はっきりしたの。
きっと、これは魔眼と呼ばれる類のもの。
だから、わたしはこのエメラルドの瞳が気になったんだろう。
ああ。その瞳には、一体何が見えているんだろうね。
どんな世界が、その視界には広がっているんだろうね。
「……こんなの見たことがない。けど、中心にあるのは、人間?」
無意識なのか、メルの口からは呟きが漏れ出している。
メルの見ている先にいるのは、作業をしているアル。
「ねえ、メル」
食い入るように眺めているメルのことを、わたしはその足元から呼んだ。
名前を呼ばれて、反射的にわたしの方へ視線を向けたメルと数秒見つめ合う。
その後、何かに気がついたようにメルが息を飲む。
輝き煌めき続ける瞳を、大きく震わせて。
「何が見えたの?」
わたしは、知りたいの。
教えてほしいんだよ。
その目で何を見ることができるのか。
「何が見えているの?」
「ヒッ……!」
恐怖に顔を歪めないで、教えてよ。
ちゃんとわたしに。
「どう、見えているの?」
「……ば、化け物っ」
わたしもアルのこと知りたいの。
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