わたしを倒す旅

星ヶ里のブサネコ

文字の大きさ
上 下
4 / 21

わたしを倒す旅の二歩。

しおりを挟む
わたしたちは王都を出発し、ゆっくり移動を開始した。

相変わらず、というかむしろ前よりもユウシャが睨んでくるようになった。
やっぱ、あいつ嫌い。

遠足はとっても楽しい。
騎士や魔法使いやタイチョーがわたしに色んな話を聞かせてくれるんだ。
人間領のことは基本は知ってるけど、あんまり知識がないから、いっぱい知れて楽しいの。

森の中を移動中の今、横が崖だから気をつけるよう言われた。こんなの落ちたってなんてことないのに。人間はダメなのかな?

移動中のお喋りとして、騎士が食べれる木の実について教えてくれている。
人間の食べ物は美味しくないって分かったから食べたくないの。だから、ちょっと聞き流している。

「赤い実は甘くて美味しいんだけど、少しでも青いとマズ――」

話の途中で急に騎士が険しい表情になって周囲を見渡す。
え、なに?

「急になんの臭いだ、これ」
「くっさ……腐敗臭?」

臭い、の?わたしは何も感じない。
わたしの嗅覚はすごく鈍いからね。
だってわたしはラダヒー。花だもん。

花は咲き誇り匂いを放つものであって、匂いを吸収するものではない。

触覚以外の五感はもともとすごく鈍かったの。触覚は花にもあるから問題ないけど。
聴覚(会話するようになったから)と、視覚(見えると便利だからね)はそれなりに使えるようになった。
けど嗅覚ってあんま使わないし、味覚に関しては人間領に来て初めて使った。

だから周りが言う臭いがわたしには分からないの。

「魔物だ!囲まれてるぞ!」

ユウシャが剣を構えて叫ぶ。
木に隠れていた魔物が続々と姿を現し始める。

狸の魔物の群れだけど、どの狸も体が腐っている。
全然可愛くないの。
足が腐り中から骨がのぞいているもの、体の半分の肉が腐り崩れているもの、様々いる。

「腐狸かっ!」

タイチョーが苦々しげに言うのを合図に、ユウシャ以外も武器を構え戦闘態勢に入った。
いいね、いいね、楽しそうな雰囲気だね。

「ラヒーは危ないから、俺から離れないで」

騎士がわたしと腐狸の間に入りながら、狸から片時も目を離さず鋭く睨み牽制してる。
騎士、ジャマ!せっかくの遊びなのに。

「どいてよ」
「この数の魔物相手に魔法使いが無防備でいたら敵わないだろう。君は子供なんだから攻撃されたら死んでしまう!」

狸が一斉に動きだし、こちらに攻撃をしかけてきたの。それを剣で騎士が斬って、狸たちに傷を与えてゆく。
わー、ズルイ!独り占め!わたしも遊びたいのに。

騎士の背後から、横に飛び出る。
これで視界が開けた。

「風の刃よ、切り刻め」

狸をスライスにしていく。

やっぱり魔法なんかじゃ効率が悪くて嫌になるけど、こういうゲームなんだと思えば少しは楽しく思えるね。
戦いは退屈しないから好き。手応えがあるとすごく楽しいよね。

残念ながら、この狸は雑魚すぎて楽しくないけど。

と、騎士がわたしの方に飛んできた。
わー、避けれない。後ろ崖だから。


なんで騎士が、何が起きてたのか、ってことは視界の隅でちゃんと確認してたから慌てないけどね。
わたしが飛び出したことに驚いた騎士は、体勢を無理やり変えわたしの前に出ようとしたの。
けど、それは戦闘においては致命的な隙になる。隙を見せるなんて騎士はおバカさんだね。
腐狸たちはそれを見逃さず騎士に体当たりし、騎士はわたしの方に来てわたしごと崖にダイブ。

浮遊感を感じ、気分も高揚する。落下、楽しいよね。一時期ハマってたの。
あれ、けど、わたしは大丈夫だけど、人間は崖から落ちたらどうなるんだろう?


騎士とわたしと共に十匹ほどの腐狸も落ちてきたみたい。
わたしのことを空中で抱きかかえてきた騎士の腕から抜け出して、狸たちと対峙する。

腐狸たちも腐っている部分の肉が地面に削ぎ落ちていたりするけど、なんでもないようにこちらに威嚇をしてくる。
けど、騎士だけは立ち上がることが出来ないみたい。

ただ落ちただけなのに、脆いね。

「ラヒー、危険だ!」

落ちた状態のまま立とうともがく弱い生き物が何か言っているけど、知ーらない。
さっきわたしの邪魔したこと、根に持ってるんだからね。

「風よ」

一言呟けば、崖の上の時と同じように狸のスライスが生産されていく。
腐狸に攻撃の時間すら与えず、腐った肉がバラバラになった死体が完成。

「おしまい」

振り返れば騎士が驚いたように目を見開いて、それから恐い顔をしたの。

「あれだけの数を一瞬で倒せるのか。だからなんだね。納得したよ」

独り言のように小声で呟いた後で、騎士はうつ伏せから体を起こして座る体勢に直った。
わたしは騎士の正面に立つ。

「ラヒー、ありがとう。魔物を倒してくれたこと、感謝するよ。俺は足を怪我して倒せなかったからね」

堅い表情をして、騎士はわたしの手を取って自分の手で包み込んだ。

なんで騎士は感謝してるのかな?
わたしはただ遊んでいただけなのに。
騎士が怪我したことがわたしに何の関係があるの?

真面目な顔で騎士はわたしの目を見る。

「ラヒー、君は強い。でもだからこそ死に急いでいるように見える」
「わたしは死なないよ」

なんかこれユウシャにも言った気がする。

「それは分からないだろう。君のような12、3歳くらいの子供が戦いに魅せられ望むことは異常だ。
天才と言われるほどの魔法を身につけ、生きて帰れるかも分からない魔王討伐の旅に参加して、魔物に自ら進んで戦いに行く。

ねえ、ラヒー。君は何がしたいんだい?
そうまでして、未来に何を望むんだい?」

「ミライ?」

望むこと、したいこと。

美味しいものと、楽しいこと。
それは今の話で、わたしはいつでも今のためだけに生きている。

ミライだなんて、


わたしは知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...