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12月
保健医を含む大勢の敵1
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廊下である日の放課後、偶然見かけたのは十和様と璃々さん。そして保健医であった。
楽しそうに話している十和様と璃々さんの目の前で、ムスっとした顔をしている大人気ない大人。
あの三人も示し合わせて集まったのではないのだろうと思う。
場所も下駄箱前の廊下の外れだし。多分十和様と璃々さんが帰ろうとしているところに偶然保健医が通りかかって話している、とかそんな状況なんだと思う。
けど、事情を知っている私からすれば、とんでもなく複雑な関係の人間関係である。
失恋した人間と、最近恋が実った人間と、ずっと正体に気づけなかった間抜けである。
何もなかったように過ぎ去ろう。
そう思った私が、そうできるはずもなく。
「あ、未希ちゃん」
案の定、見つかって私はこの人達の中に放り込まれることになったのである。
「こんにちは」
十和様は私に友好的な笑みを浮かべ、璃々さんは獲物を目にしたように笑う。
一方、保健医は私に恨みがましい視線を向けていて、私は大層居心地が悪い。
えっと……、帰っちゃダメですか?
外靴はすぐそこにあるんで、すぐに帰れるんですけど。
「ちょうど良かった。ちょうど未希ちゃんの話をしていたところだったんだよ」
「噂をすれば影ってね。丁度良い」
にこやかに十和様が私を話の輪の中に招き入れるけど、それに同調するに見せかけた隠れ敵がいるのに気が付いてますか、十和様?!
璃々さんの背後のオーラがこわい……。飛んで火にいる夏の虫、攻撃できるチャンス到来!って、そんな顔しているじゃないですか?!噂をすればって、言ってたけど呪いか何かで私のこと召喚しました?今の璃々さんならできる気がしますよ?!
「お前が来たなら特別に保健室でお茶でも飲むか?」
そして、明確に私の敵が一人。剣呑な空気を隠す気もない男。
絶対、それどうして本当のことをすぐに話さなかったんだ!ってネチネチ言われ続けるコースですよね?善意のお茶会じゃないですよね?!
「いいんですか?うち行きたいです」
賛同しないで!私を囲むつもりの敵が協定結んだ気がする。
「行きたい気持ちは山々なんですが、そんなに時間がないんですよ。璃々、そうだろう?今日は一緒に映画に行くって話をしていたじゃないか」
「あ、そうだったね。ごめんなさい」
てへっ、うっかり。みたいな顔してる璃々さん可愛いけど、それ絶対に計算ですよね。私に対してはしてくれたことない表情だからすごく写真に収めたいけど、それやったら絶対にヤラレル……。
十和様から見えないように顔を顰めたのが私からは見えた。私を攻められる機会を逸したと思いましたよね、絶対。
そうこう思っているうちに、十和様がゆっくり私の方に体を傾けた。
十和様の、か、顔が近づいて来てるよー。
ふぁー!
「耳貸して?」
私は首振り人形にでもなったつもりで、上下に細かく首を振り続けながら顔の向きを変えて耳を差し出した。
そうやって顔を回すついでに視線を周りに走られて見ると、ちょっとしたギャラリーが周囲に集まっている。
女の子ばっかりだし、軽い悲鳴が湧き上ったから、きっと彼女たちは十和様ファンなんだと思う。それに思い至って、私からさっと血の気が引いた。
やっばい。私、袋叩きコース?周りに敵しかいない……。
「未希ちゃんのおかげで朔兄と話ができたんだ。お互いにお互いの話を擦り合わせて、これからは今までとは違う新しい関係を築いていこうって話し合ったんだ」
そこまで囁かれてから、十和さまの手が私の頬に添えられ、顔を十和さまの方に向けさせられる。ぽかーんとしている自覚のある私の顔を見て笑った十和様は、両手を私の肩に落とした。決して強引にはならないくらいの力加減で私と十和様を向かい合わせにするように体の向きまで変えさせて、そこで十和様の笑顔が変化した。
それはまるでテレビの中やドラマの俳優を前にしたように非現実的な光景で、私自身この状況についていけない。
アイドルスマイル全開の十和様は輝きすぎて直視できないほど眩しい笑顔で、静かに私の手を取って、手の甲に口を近づけた。
周囲の悲鳴が私の頭をガンガン刺激する。
え、今十和様の唇が私の手の甲に……?えっ、えっ?!
き、キ、キス?!うぎゃー!!
「正しく君は私の味方だった。感謝しているよ、ありがとう」
「イ、……イエ」
瞳の奥まで射抜かれるほどじっと私を見据えた十和様は一瞬だけ無垢な少女のように笑ってから、お仕事モードの柔らかな笑みを湛えて。
私はというといっぱいいっぱいで、真っ赤な顔がプシューっと音を立てていても不思議じゃないくらいキスって事実に動揺してる。
「未希ちゃんも一緒に今日デートするかい?」
未だ私の手を持ったまま、そう誘った。
ちなみに、私は脳の処理が追いついておらずポンコツ状態継続中である。
脳処理を中断した影響か、いやに五感が鋭くなってしまったようで間近の舌打ちを容易く聞き取った。
「おい、お前ら。離れろ離れろ。教師の前で変なことしてんじゃねえ」
不機嫌そのままの保健医が低い声を出して、私たちを引き離そうと間に入る。
璃々さんが十和様を後ろから軽く引っ張って、十和様の体が一歩下がる。同時に私は保健医に引っ張られて、体が簡単に傾いて。
あ、転ぶ。
働かない脳味噌が体を動かす指示を出さないまま、私は直観的にそう理解した。
楽しそうに話している十和様と璃々さんの目の前で、ムスっとした顔をしている大人気ない大人。
あの三人も示し合わせて集まったのではないのだろうと思う。
場所も下駄箱前の廊下の外れだし。多分十和様と璃々さんが帰ろうとしているところに偶然保健医が通りかかって話している、とかそんな状況なんだと思う。
けど、事情を知っている私からすれば、とんでもなく複雑な関係の人間関係である。
失恋した人間と、最近恋が実った人間と、ずっと正体に気づけなかった間抜けである。
何もなかったように過ぎ去ろう。
そう思った私が、そうできるはずもなく。
「あ、未希ちゃん」
案の定、見つかって私はこの人達の中に放り込まれることになったのである。
「こんにちは」
十和様は私に友好的な笑みを浮かべ、璃々さんは獲物を目にしたように笑う。
一方、保健医は私に恨みがましい視線を向けていて、私は大層居心地が悪い。
えっと……、帰っちゃダメですか?
外靴はすぐそこにあるんで、すぐに帰れるんですけど。
「ちょうど良かった。ちょうど未希ちゃんの話をしていたところだったんだよ」
「噂をすれば影ってね。丁度良い」
にこやかに十和様が私を話の輪の中に招き入れるけど、それに同調するに見せかけた隠れ敵がいるのに気が付いてますか、十和様?!
璃々さんの背後のオーラがこわい……。飛んで火にいる夏の虫、攻撃できるチャンス到来!って、そんな顔しているじゃないですか?!噂をすればって、言ってたけど呪いか何かで私のこと召喚しました?今の璃々さんならできる気がしますよ?!
「お前が来たなら特別に保健室でお茶でも飲むか?」
そして、明確に私の敵が一人。剣呑な空気を隠す気もない男。
絶対、それどうして本当のことをすぐに話さなかったんだ!ってネチネチ言われ続けるコースですよね?善意のお茶会じゃないですよね?!
「いいんですか?うち行きたいです」
賛同しないで!私を囲むつもりの敵が協定結んだ気がする。
「行きたい気持ちは山々なんですが、そんなに時間がないんですよ。璃々、そうだろう?今日は一緒に映画に行くって話をしていたじゃないか」
「あ、そうだったね。ごめんなさい」
てへっ、うっかり。みたいな顔してる璃々さん可愛いけど、それ絶対に計算ですよね。私に対してはしてくれたことない表情だからすごく写真に収めたいけど、それやったら絶対にヤラレル……。
十和様から見えないように顔を顰めたのが私からは見えた。私を攻められる機会を逸したと思いましたよね、絶対。
そうこう思っているうちに、十和様がゆっくり私の方に体を傾けた。
十和様の、か、顔が近づいて来てるよー。
ふぁー!
「耳貸して?」
私は首振り人形にでもなったつもりで、上下に細かく首を振り続けながら顔の向きを変えて耳を差し出した。
そうやって顔を回すついでに視線を周りに走られて見ると、ちょっとしたギャラリーが周囲に集まっている。
女の子ばっかりだし、軽い悲鳴が湧き上ったから、きっと彼女たちは十和様ファンなんだと思う。それに思い至って、私からさっと血の気が引いた。
やっばい。私、袋叩きコース?周りに敵しかいない……。
「未希ちゃんのおかげで朔兄と話ができたんだ。お互いにお互いの話を擦り合わせて、これからは今までとは違う新しい関係を築いていこうって話し合ったんだ」
そこまで囁かれてから、十和さまの手が私の頬に添えられ、顔を十和さまの方に向けさせられる。ぽかーんとしている自覚のある私の顔を見て笑った十和様は、両手を私の肩に落とした。決して強引にはならないくらいの力加減で私と十和様を向かい合わせにするように体の向きまで変えさせて、そこで十和様の笑顔が変化した。
それはまるでテレビの中やドラマの俳優を前にしたように非現実的な光景で、私自身この状況についていけない。
アイドルスマイル全開の十和様は輝きすぎて直視できないほど眩しい笑顔で、静かに私の手を取って、手の甲に口を近づけた。
周囲の悲鳴が私の頭をガンガン刺激する。
え、今十和様の唇が私の手の甲に……?えっ、えっ?!
き、キ、キス?!うぎゃー!!
「正しく君は私の味方だった。感謝しているよ、ありがとう」
「イ、……イエ」
瞳の奥まで射抜かれるほどじっと私を見据えた十和様は一瞬だけ無垢な少女のように笑ってから、お仕事モードの柔らかな笑みを湛えて。
私はというといっぱいいっぱいで、真っ赤な顔がプシューっと音を立てていても不思議じゃないくらいキスって事実に動揺してる。
「未希ちゃんも一緒に今日デートするかい?」
未だ私の手を持ったまま、そう誘った。
ちなみに、私は脳の処理が追いついておらずポンコツ状態継続中である。
脳処理を中断した影響か、いやに五感が鋭くなってしまったようで間近の舌打ちを容易く聞き取った。
「おい、お前ら。離れろ離れろ。教師の前で変なことしてんじゃねえ」
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