87 / 100
12月
私は学んだのである1
しおりを挟む
林と恒例の図書館密会である。
周囲に人がいないのをいいことに、小声でにやけながら嬉しそうに話して聞かせるのは林である。
私はというと、図書館の窓の外を眺めていた。ああもう夕方か、空に星が出てきたなあ……。綺麗だな……。
「それでね、この前愛咲さんが行きたいって言ってたカフェに行って来たんだ」
「ふーん」
「その時にこの前橋本さんと行ったあのカフェの話になって、次一緒に行くことになったんだよ」
「へー」
「その流れで、橋本さんの話になったんだ」
「んー、……っお?!」
「だから橋本さんがあんまり勉強できないってことを教えたら、愛咲さんがちょっと――」
「何言ってやがるのよっ!」
林の胸倉掴みかかる。
途中から林の話聞いてなかったよ。というかさっきまで全然聞く気もなく適当に相槌売ってたよ。
だって林の惚気、長いんだよ。何時間話すつもりなのって感じで。
HRが終わってからずっと話聞いてたっていうのに、もうすぐ図書室の閉室時間である!いい加減にしろよって気分はとうの昔の過ぎ去って、もうどうでもいいって悟りの境地の気持ちであった。
だからか?!だからその仕返しに嫌がらせのつもりなのか?!
なんか私の名前が出てきたと思ったら。
よりにもよって、どうして。なんでその話をするチョイスをしたんだ。
林、お前私に何か恨みでもあるのか?!
勉強ができない?アホ?
そうだよ。私は確かに西川兄妹に助けてもらわないと毎回のテストを乗り越えられない子だけどさ。
でも、とっても良い人なんだよ、とか、友達になるといいことあるよ、とかそういうことを吹き込んできて欲しかった。
「は、橋本さん。ここ図書室だから。落ち着いて。静かにして」
「あぁ?!」
「できれば、手も放してほしい……」
捨てるように林を離す。
ちょっと林の背中の向こう側に、図書委員の姿が見えたせいである。姿を見なくちゃ思い出さないくらい、頭の中ですっかり忘れていた存在の図書男である。
誰も来なかったらもっと締め上げてやったのに!
「もっとマシなこと美鈴ちゃんに教えてよ。どうしてそんな話してきたわけ?」
「だって、この前英語の小テストのこと愛咲さんに教えてたでしょう?そのこと覚えてたらしくって、その流れで……」
「けっ」
やさぐれた気持ちになって、私は林から視線を外した。
この前のテストは私の中では良い点数だったのに。
いや、まあ。世間では低いってことは知ってるよ?
千香ちゃんは隠すことなく馬鹿にしてきたし、葵先輩は苦笑いしながらもっと頑張ろうねって言ってたし。
誰も私を褒めてくれないんだよ!
誰か私の喜びを一緒に共有してくれたっていいじゃないか。
「あっ、でも愛咲さんが橋本さんの予想以上の頭の悪さに同情して、もう使わない参考書をあげようか悩んでたよ」
「え、本当?!」
美鈴ちゃんが使ってた参考書……。
美鈴ちゃんが触った物。美鈴ちゃんが勉強してた物。美鈴ちゃんのお家にあった物。
クンクン匂い嗅いで、ナデナデ撫でまわして、スリスリ頬擦りしなきゃ!
「まあきっと危ないことになると思って、僕がそれは止めたんだけどね」
「はあ?!何してんのよ!」
胸倉リターンズ。
「は、離して……」
思い切り林を前後に振り回してから解放した。
このくらいの八つ当たり許されるでしょ。まったく余計なことしかしない奴め。
「けどもしかしたら愛咲さん優しいから勉強教えてくれるかもよ。……まあ、橋本さんにとって良いか悪いかは別にして」
「そうか、そうだね!そうだよ、美鈴ちゃん優しいもんね!私に勉強を教えるうちに……、仲良しになって、いつの間にか大親友。へへ、えへへへ。うっへっへっ」
「橋本さん、ここ図書室なんだって!静かに」
おっと、いけない。笑い声がいつの間にか大きくなってしまっていたようだ。
でも、勉強で近づく仲……。悪くない。
というかなんだか学生らしくて、青春っぽくていいんじゃない?
そのうちテストの点数で勝負とかしちゃってさ。きゃー、想像したら楽しみになってきたー!
「はっ!そういえば」
続きは家で妄想して楽しむとして。
林に聞きたいことがあったのである。
「林、いつ美鈴ちゃんに告白するの?」
「へ?告白?」
十和さまと保健医の関係を後押しした日の夜、思ったのである。
好いた人同士、想いが繋がっているなら付き合って、カップルになるのは自然な流れだよな、と。
むしろ十和さま達のように長く想い合うと、こじれることの方が多いのではないかと気が付いてしまったのである。
であるならば、傍目で見ていても両想いの林と美鈴ちゃんはさっさと付き合うという段階に突入しても問題ないのではないか、と思ったのである。
「は、は、橋本さん。な、何をい、言ってるの?」
「動揺しすぎだよ。落ち着け、林」
「こ、こく、告白って、な、何を」
「ほら、深呼吸して。吸って、吐いて、吐いてー息止めてー」
深呼吸もどきを促して、林を落ち着ける。
さっきの急激な挙動不審からやや落ち着きを取り戻したように見える。
ちょっと涙目のような気もするけど、平気だろう。あ、息止めるのそろそろ止めていいと思うよ。
「で、話を戻すけど。もう今月にはクリスマスもあるし、タイミング的にはちょうどいいのかなと思って」
どういう偶然か、ゲームの中で攻略対象が告白してくる日もクリスマスだったはずだし。
「ぼ、僕は。折角仲良くなれたし、彼氏彼女とか興味はあるけど、今のままで十分でいうか……。告白とか、そ、そんなことは考えたことなかったというか……」
語尾が弱くなっていく林の言葉をなんとか聞き取る。
モジモジしている林の表情を見る限り、本気で今のままで十分だと思っているようだ。
「ふーん」
林がそれでいいというならそれでも私は構わないと思う。
……なんて言うと思ったか!
甘ったれるな。
元々こじれまくってて、私が引っ掻き回したせいでもっと絡まりまくった事例があるのだ。私は懲りたのである。
片思い期間が長くなると事態は面倒くさくなることは、もうそのことが証明している。何もしなくたってきっと自然とこじれてくるんだ!もうあんなにこんがらがった事態に巻き込まれるのはご免である。
だから、私はそんなに悠長に待つつもりなどない!
ふっふっふっ。
私が林のためにもう一肌脱いでやろうではないか。
といっても、良い作戦なんかないから、そのあたり大募集してまーす!
宛先はこちらまで!
周囲に人がいないのをいいことに、小声でにやけながら嬉しそうに話して聞かせるのは林である。
私はというと、図書館の窓の外を眺めていた。ああもう夕方か、空に星が出てきたなあ……。綺麗だな……。
「それでね、この前愛咲さんが行きたいって言ってたカフェに行って来たんだ」
「ふーん」
「その時にこの前橋本さんと行ったあのカフェの話になって、次一緒に行くことになったんだよ」
「へー」
「その流れで、橋本さんの話になったんだ」
「んー、……っお?!」
「だから橋本さんがあんまり勉強できないってことを教えたら、愛咲さんがちょっと――」
「何言ってやがるのよっ!」
林の胸倉掴みかかる。
途中から林の話聞いてなかったよ。というかさっきまで全然聞く気もなく適当に相槌売ってたよ。
だって林の惚気、長いんだよ。何時間話すつもりなのって感じで。
HRが終わってからずっと話聞いてたっていうのに、もうすぐ図書室の閉室時間である!いい加減にしろよって気分はとうの昔の過ぎ去って、もうどうでもいいって悟りの境地の気持ちであった。
だからか?!だからその仕返しに嫌がらせのつもりなのか?!
なんか私の名前が出てきたと思ったら。
よりにもよって、どうして。なんでその話をするチョイスをしたんだ。
林、お前私に何か恨みでもあるのか?!
勉強ができない?アホ?
そうだよ。私は確かに西川兄妹に助けてもらわないと毎回のテストを乗り越えられない子だけどさ。
でも、とっても良い人なんだよ、とか、友達になるといいことあるよ、とかそういうことを吹き込んできて欲しかった。
「は、橋本さん。ここ図書室だから。落ち着いて。静かにして」
「あぁ?!」
「できれば、手も放してほしい……」
捨てるように林を離す。
ちょっと林の背中の向こう側に、図書委員の姿が見えたせいである。姿を見なくちゃ思い出さないくらい、頭の中ですっかり忘れていた存在の図書男である。
誰も来なかったらもっと締め上げてやったのに!
「もっとマシなこと美鈴ちゃんに教えてよ。どうしてそんな話してきたわけ?」
「だって、この前英語の小テストのこと愛咲さんに教えてたでしょう?そのこと覚えてたらしくって、その流れで……」
「けっ」
やさぐれた気持ちになって、私は林から視線を外した。
この前のテストは私の中では良い点数だったのに。
いや、まあ。世間では低いってことは知ってるよ?
千香ちゃんは隠すことなく馬鹿にしてきたし、葵先輩は苦笑いしながらもっと頑張ろうねって言ってたし。
誰も私を褒めてくれないんだよ!
誰か私の喜びを一緒に共有してくれたっていいじゃないか。
「あっ、でも愛咲さんが橋本さんの予想以上の頭の悪さに同情して、もう使わない参考書をあげようか悩んでたよ」
「え、本当?!」
美鈴ちゃんが使ってた参考書……。
美鈴ちゃんが触った物。美鈴ちゃんが勉強してた物。美鈴ちゃんのお家にあった物。
クンクン匂い嗅いで、ナデナデ撫でまわして、スリスリ頬擦りしなきゃ!
「まあきっと危ないことになると思って、僕がそれは止めたんだけどね」
「はあ?!何してんのよ!」
胸倉リターンズ。
「は、離して……」
思い切り林を前後に振り回してから解放した。
このくらいの八つ当たり許されるでしょ。まったく余計なことしかしない奴め。
「けどもしかしたら愛咲さん優しいから勉強教えてくれるかもよ。……まあ、橋本さんにとって良いか悪いかは別にして」
「そうか、そうだね!そうだよ、美鈴ちゃん優しいもんね!私に勉強を教えるうちに……、仲良しになって、いつの間にか大親友。へへ、えへへへ。うっへっへっ」
「橋本さん、ここ図書室なんだって!静かに」
おっと、いけない。笑い声がいつの間にか大きくなってしまっていたようだ。
でも、勉強で近づく仲……。悪くない。
というかなんだか学生らしくて、青春っぽくていいんじゃない?
そのうちテストの点数で勝負とかしちゃってさ。きゃー、想像したら楽しみになってきたー!
「はっ!そういえば」
続きは家で妄想して楽しむとして。
林に聞きたいことがあったのである。
「林、いつ美鈴ちゃんに告白するの?」
「へ?告白?」
十和さまと保健医の関係を後押しした日の夜、思ったのである。
好いた人同士、想いが繋がっているなら付き合って、カップルになるのは自然な流れだよな、と。
むしろ十和さま達のように長く想い合うと、こじれることの方が多いのではないかと気が付いてしまったのである。
であるならば、傍目で見ていても両想いの林と美鈴ちゃんはさっさと付き合うという段階に突入しても問題ないのではないか、と思ったのである。
「は、は、橋本さん。な、何をい、言ってるの?」
「動揺しすぎだよ。落ち着け、林」
「こ、こく、告白って、な、何を」
「ほら、深呼吸して。吸って、吐いて、吐いてー息止めてー」
深呼吸もどきを促して、林を落ち着ける。
さっきの急激な挙動不審からやや落ち着きを取り戻したように見える。
ちょっと涙目のような気もするけど、平気だろう。あ、息止めるのそろそろ止めていいと思うよ。
「で、話を戻すけど。もう今月にはクリスマスもあるし、タイミング的にはちょうどいいのかなと思って」
どういう偶然か、ゲームの中で攻略対象が告白してくる日もクリスマスだったはずだし。
「ぼ、僕は。折角仲良くなれたし、彼氏彼女とか興味はあるけど、今のままで十分でいうか……。告白とか、そ、そんなことは考えたことなかったというか……」
語尾が弱くなっていく林の言葉をなんとか聞き取る。
モジモジしている林の表情を見る限り、本気で今のままで十分だと思っているようだ。
「ふーん」
林がそれでいいというならそれでも私は構わないと思う。
……なんて言うと思ったか!
甘ったれるな。
元々こじれまくってて、私が引っ掻き回したせいでもっと絡まりまくった事例があるのだ。私は懲りたのである。
片思い期間が長くなると事態は面倒くさくなることは、もうそのことが証明している。何もしなくたってきっと自然とこじれてくるんだ!もうあんなにこんがらがった事態に巻き込まれるのはご免である。
だから、私はそんなに悠長に待つつもりなどない!
ふっふっふっ。
私が林のためにもう一肌脱いでやろうではないか。
といっても、良い作戦なんかないから、そのあたり大募集してまーす!
宛先はこちらまで!
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫が浮気をしたので、子供を連れて離婚し、農園を始める事にしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
10月29日「小説家になろう」日間異世界恋愛ランキング6位
11月2日「小説家になろう」週間異世界恋愛ランキング17位
11月4日「小説家になろう」月間異世界恋愛ランキング78位
11月4日「カクヨム」日間異世界恋愛ランキング71位
完結詐欺と言われても、このチャンスは生かしたいので、第2章を書きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる