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11月
野暮ったい少年の決意
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珍しく林からメールがあった。
あいつは相変わらず用がある時しかメールして来ないから、最近じゃ林とのメールのやり取りは控えめだ。
私が美鈴ちゃんについて質問すると惚気しか返ってこないから、近頃は聞かないことにしているのである。
メールの内容は呼び出しだった。
私達が時たま使う、校舎端に位置する人気のない教室のうちの一つである空き教室に来てほしいとのこと。
実は私はちょっとドキドキしていた。
だってこの前の会議以来、私は林と会っていないから。まだ落ち込んでいるなら私が慰めてやらないといけないんだろうけど、私では上手な励ましの言葉を思いつけなかったのだ。
あの時の林の姿が、チラチラと頭にフラッシュバックする。
葵先輩と楽しそうに話す美鈴ちゃん。その光景は私が少し前まで叶えようとしていた光景だ。
でも、今は。
林の気持ちを聞いた。林の応援をしてやると、と考えるようになっていた。美鈴ちゃんも林が気になっていて、このままいけば上手くいくはずだった。
だからこそ、私は深く溜息をつく。
「恋心って難しい」
林のメンタルが大ダメージを食らっていたら、美鈴ちゃんの気持ちが葵先輩にあると勘違いをしていたら。
それを元に戻すのがいかに大変か。
こじれたらその分、林は美鈴ちゃんとの距離を離すことになるのだ。
気が重い。
林の今日の呼び出しの理由次第では、また寝不足になりながら作戦を練らなくてはいけない。
恋の盛り上げ兼障害役も大変である。
「あ、先に来てたんだ」
そっと空き教室の扉を開ければ、中では林が待っていた。
窓の方を向いているせいで、林の表情は確認できない。でも、林の背中にはどこか緊張感が漂っていた。
その緊張感が私にも伝染して、一瞬空気が張りつめた気がした。
「橋本さん」
「うん?」
静かな声で林が言う。
この辺は空き教室ばかりで、人がいないから小さくても林の声がよく響く。
「僕、変わりたい!」
こちらに振り返った林は凛とした声で宣言した。
いつものような猫背ではなく背筋を伸ばして、今まで見たことないほど胸を張って、堂々と。
「この前の風紀委員会で思ったんだ。西川先輩みたいにカッコいい人と愛咲さんはお似合いだと思う。僕はこんな容姿だし、愛咲さんと並んでも不釣合いだ。西川先輩みたいにカッコよくなれなくても、僕は僕のベストを尽くしたい。愛咲さんに胸が張れるような男になりたいと思ったんだ!」
正直、驚いた。
落ち込んでいると思ったし、僕じゃダメなんだって卑屈な気持ちになっているとばかり考えていた。
でも、林の声に迷いはない。林は本気で美鈴ちゃんのために自分を変えてみようとしている。
今まで見てきた林とは別人のように、林が林の足で一歩踏み出したのが私にも分かった。
「そのために橋本さんに手伝ってほしいんだ」
勝手に口元がにやけた。予想と違う林の姿は、良い意味で私の気持ちを昂らせる。
私は林に近づくと、えいっと肩を叩いた。ちなみに手加減はしていない。フルスイングだ。
「痛っ」
「もちろんだよ。私が林を美鈴ちゃんの横に並べても恥ずかしくないように、ちょっとだけ今のあんたよりもマシにしてあげる」
林は絶対にイケメンにはなれないし、ちょっと今よりもマシにするくらいが私のできる範囲である。
でも、そのためには。
「まずは、見た目をどうにかするよ。とにかく、髪やら眼鏡やらをどうにかしろ!猫背も直して……。ああ、やることいっぱい!林、今度の土曜は暇?!」
「う、うん。一応予定はないけど」
「なら、その時に一日かけて徹底的に林を改造してあげる!」
「……か、改造?」
今までがひどく野暮ったい容姿だったんだから、手を加える場所はたくさんあるだろう。
家に帰って計画を立てなくっちゃ。
「よし!脱・野暮ったいだよ」
やるなら徹底的にだよ。
こんな機会なんてもうないんだろうし。
「手伝いを頼む人、間違えたかな……?」
必ず美鈴ちゃんの隣にいても、まあまあいいんじゃない?と、思えるようにしてあげる。
美鈴ちゃんと林をくっつけた時に、私が心置きなく二人を祝福してあげられるように。
あいつは相変わらず用がある時しかメールして来ないから、最近じゃ林とのメールのやり取りは控えめだ。
私が美鈴ちゃんについて質問すると惚気しか返ってこないから、近頃は聞かないことにしているのである。
メールの内容は呼び出しだった。
私達が時たま使う、校舎端に位置する人気のない教室のうちの一つである空き教室に来てほしいとのこと。
実は私はちょっとドキドキしていた。
だってこの前の会議以来、私は林と会っていないから。まだ落ち込んでいるなら私が慰めてやらないといけないんだろうけど、私では上手な励ましの言葉を思いつけなかったのだ。
あの時の林の姿が、チラチラと頭にフラッシュバックする。
葵先輩と楽しそうに話す美鈴ちゃん。その光景は私が少し前まで叶えようとしていた光景だ。
でも、今は。
林の気持ちを聞いた。林の応援をしてやると、と考えるようになっていた。美鈴ちゃんも林が気になっていて、このままいけば上手くいくはずだった。
だからこそ、私は深く溜息をつく。
「恋心って難しい」
林のメンタルが大ダメージを食らっていたら、美鈴ちゃんの気持ちが葵先輩にあると勘違いをしていたら。
それを元に戻すのがいかに大変か。
こじれたらその分、林は美鈴ちゃんとの距離を離すことになるのだ。
気が重い。
林の今日の呼び出しの理由次第では、また寝不足になりながら作戦を練らなくてはいけない。
恋の盛り上げ兼障害役も大変である。
「あ、先に来てたんだ」
そっと空き教室の扉を開ければ、中では林が待っていた。
窓の方を向いているせいで、林の表情は確認できない。でも、林の背中にはどこか緊張感が漂っていた。
その緊張感が私にも伝染して、一瞬空気が張りつめた気がした。
「橋本さん」
「うん?」
静かな声で林が言う。
この辺は空き教室ばかりで、人がいないから小さくても林の声がよく響く。
「僕、変わりたい!」
こちらに振り返った林は凛とした声で宣言した。
いつものような猫背ではなく背筋を伸ばして、今まで見たことないほど胸を張って、堂々と。
「この前の風紀委員会で思ったんだ。西川先輩みたいにカッコいい人と愛咲さんはお似合いだと思う。僕はこんな容姿だし、愛咲さんと並んでも不釣合いだ。西川先輩みたいにカッコよくなれなくても、僕は僕のベストを尽くしたい。愛咲さんに胸が張れるような男になりたいと思ったんだ!」
正直、驚いた。
落ち込んでいると思ったし、僕じゃダメなんだって卑屈な気持ちになっているとばかり考えていた。
でも、林の声に迷いはない。林は本気で美鈴ちゃんのために自分を変えてみようとしている。
今まで見てきた林とは別人のように、林が林の足で一歩踏み出したのが私にも分かった。
「そのために橋本さんに手伝ってほしいんだ」
勝手に口元がにやけた。予想と違う林の姿は、良い意味で私の気持ちを昂らせる。
私は林に近づくと、えいっと肩を叩いた。ちなみに手加減はしていない。フルスイングだ。
「痛っ」
「もちろんだよ。私が林を美鈴ちゃんの横に並べても恥ずかしくないように、ちょっとだけ今のあんたよりもマシにしてあげる」
林は絶対にイケメンにはなれないし、ちょっと今よりもマシにするくらいが私のできる範囲である。
でも、そのためには。
「まずは、見た目をどうにかするよ。とにかく、髪やら眼鏡やらをどうにかしろ!猫背も直して……。ああ、やることいっぱい!林、今度の土曜は暇?!」
「う、うん。一応予定はないけど」
「なら、その時に一日かけて徹底的に林を改造してあげる!」
「……か、改造?」
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「よし!脱・野暮ったいだよ」
やるなら徹底的にだよ。
こんな機会なんてもうないんだろうし。
「手伝いを頼む人、間違えたかな……?」
必ず美鈴ちゃんの隣にいても、まあまあいいんじゃない?と、思えるようにしてあげる。
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