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7月
信じたくない事実 1
しおりを挟む眠い……。ひたすらに眠い……。
体が鉛のように重い……。
寝るのが大好きな私が、昨日は夜更かしをして結局二時間睡眠しかしなかったのが悪かった。
瞼は今にも閉じそうだし、立っていれば足元はフラフラする。
夜更かしなんてしたのは、いつぶりだろう……。普段はめちゃくちゃ健康的な生活をしているからなぁ。夜早くには布団に入って、朝ギリギリまで眠っているのだ。
二度寝をして、朝から千香ちゃんに、遅い!と怒られたりする。その時にはちょこっと反省もするけど、でもやっぱり睡眠の誘惑には勝てないのだ。こればっかりは、しょうがない。夢が私を呼んでいるのだ。
そんな訳で、睡眠優良児の私は寝ないことへの耐性がないのである。
昨日の夜、久しぶりにアルバムを開いた。
私の宝物のひとつの、小学生の頃からの千香ちゃんコレクションである。
これは学校行事の写真はもちろん、私自身が撮影したものまで幅広く収められているのである。
ちなみに現在七冊目に突入しているシリーズものだ。超大作である!
あぁあの頃は……とか、この時の千香ちゃん照れてて可愛かったな、なんて思い出を辿りながらじっくり鑑賞してたら、夜が明けて外は明るくなり出していた。急いで布団に潜り込んでももう遅い。
すぐに朝が来て、本当にホントに少しだけ寝たせいで、逆に眠気で重い。いっそ寝なければハイテンションだったかもしれなかったのに。
そして、こんな日に限って体育の授業がある。どんな拷問だ。
フラフラと足元の頼りない私を見る友人の顔を見るたび、申し訳なくなる。
いつも五月蠅いほど元気な私がこんな状況だから、体調不良なんだと勘違いされているのだ。ごめんよ、原因はただの寝不足なんだよ。
千香ちゃんにまで沈んだ顔をさせてしまっている。
ああ、なんて罪深いんだ、私!極刑に値する重罪である。
なんとか笑ってほしくて元気があるフリをしたら、辛そうに顔を顰められた。
体育はダンスである。
曲に合わせて踊っているが、あら?視界がひっくり返った。
「未希、大丈夫?!怪我ない?滑ったみたいだね。足元おぼつか無かったし、やっぱりダンスは無理だよね」
「怪我はないみたいだけど、このまま体育させるのは無理でしょ。見学させておく?」
何が起きたのか分からなかったが、すぐさま駆け寄ってきてくれた友達の言葉で理解した。
つまり、足元フワフワだった私はそのまま踏ん張りが利かず、何もないこんな場所で転んだのだろう。
ああ、なんて優しい友人達だろう。私のために駆け寄ってくれて、見学させようか相談してくれている。
「保健室に連れて行きましょう」
そう言葉を挟んだのは千香ちゃんだった。
保健室かー、ベッドでちょっと寝させてもらえるかな?寝れば元に戻るだろうしって、そうじゃない!待って!
「保健室には行きたくな――」
「わたしが一緒に行ってくるわ」
千香ちゃん、私の言い分聞いてー!
他のみんなも、お願いね。とか、頼んだよ。じゃないんだよ!行きたくないんだってば。
「未希、行くわよ」
なんとか逃げようとしたけど、後ろから腰に手を回されてしまった。
えへへ、千香ちゃんの手が腰に……。密着度、半端ないですね。
なんかいい匂いがする。すんすん。千香ちゃんのシャンプー変えたのかな?今までのと違うかも。
……って!そうじゃない。
連行され、保健室に刻々と近付いている。
「千香ちゃん、私ホントに――」
――保健室には行きたくないんだよ。
あの保健医に会いたくないのである。この前のあの目は絶対にヤバい。ヤられる、血祭りにあげられる。
言いかけた私の言葉は、千香ちゃんによって遮られた。
「元気がない未希なんて見たくないのよ。そんな状態なら学校に来ないで家で休みさないよ。心配させないでよ……」
私を支えながら連れて行くためにシャンとしていたのに、最後の最後で俯いた千香ちゃん。
その最後の、心配させないでよ……。の言葉が、私の中でエコーがかかった。
それまでの気丈とした声とは違って、小声で言われてズキューンときてしまったのだ。
そこまで心配させてしまっているのなら……。千香ちゃんが私のために想ってくれているのだから……。
ええい!嫌だけど。心底イヤだけど。千香ちゃんにこんなに心配をかけているのだ。
私が保健室で休むだけで安心してくれるのなら、行きましょう!千香ちゃんの憂いを払うのだ。
「失礼します」
保健室にとうとう来てしまった。
私は恐々としていることを気づかせないために腹に力を入れた。事情を何も知らない千香ちゃんに悟られないように。
でも、保健医の姿が見えない。ここには誰もいないようだ。
「いないわね。どこかに行っているのかも」
保健医の存在を恐れてビクビクしていた私にとって、それなら好都合である。むしろ一生帰って来るなという気持ちである。
「ベッドを使わせて貰いましょう。未希は寝ていいわよ。体調不良なら立っているのも辛いでしょう?先生が戻ってきたらわたしが説明しておいてあげる。だから今は寝て、元気になって」
「ありがとう」
ベッドを目の前にしたら一気に今まで以上の眠気が襲って来たのだ。横になっていいなら、すぐにでもなりたい。
ベッドに潜り込めば、三秒もかからないくらいすぐに体が沈み込む感覚と共に意識が落ちた。
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