夢じゃなかった！？

異世界転移前 準備

現世で君を想う2

自分は既に　佐藤綾子さとうあやこという真名の響きも、名の由来さえも知っているが、もちろん誰にも教えるつもりなど毛頭もうとうない。

綾子さえ、自分から明かさなければ、誰も綾子の真名を知り得ることは叶わない。
「いい妙案みょうあんはないものか。」

身をもって経験させるのが一番か。
百聞ひゃくぶんは一見いっけんにしかずというし。よし、そうしよう。

綾子は、いつこちらに来るのだろう。自分の方が兄として年上だったが、エルフの身としては見た目と実際の年齢は当てにならない。

綾子も年齢より幼く見られがちだが、自分を年上として見てくれるだろうか。
再会しても、前世のことを知っているのはこちらだけなのだからいきなり、私は綾子の兄の生まれ変わりなんだと言うわけにもいかない が、初対面だとしても全くの｜赤あかの他人たにんだと綾子に思われたくない。

果たして、どう伝えたらよいものか。


できることなら、兄として受け入れてもらいたい。そして、ずっと側で守ってやりたい。
自分を兄だと呼ぶ綾子をしばし想像もうそうしてみる。

兄さん　　普通に嬉しい響ひびきだ。

エル兄さん　　ありだと思う。

エルお兄さま　
　…いけない扉が開きそうだ。
　（ギィ……）時すでに遅し

エル兄　　これも捨てがたい。

エルお兄ちゃん　
　　クスッ愛いとけない

顔に掌てのひらを当てて苦悩くのうするような仕草しぐさすら美形がすると様になる。

エルにー　　　くっ////　

にーに…　　　ッグハッ！

何だ？この胸の苦しみは。動悸どうきもしてきた。何かの病やまいか？

一人、真剣な顔で胸を押さえて思案しあんする姿は憂うれいを帯びていた。


まさか、あのエルシオンが道端みちばた妹の兄呼びで頭が一杯になり、初の妹萌もえに衝撃ダメージを受けていたと誰がわかろうか。

無自覚にも、村の老若男女ろうにゃくなんにょをいつものように魅了みりょうした裏で、不治の病シスコン（進行性）を発症していたエルシオンであった。