4 / 5
4
しおりを挟む
「麻友ちゃん、カードゲームで遊ぼ~」
「ほら、俺はいいから行ってこいよ」
「うん」
そういうと、あいつはみんなの輪の中にすっと戻っていった。
雨も少し小降りになってきたことだし、俺はそろそろ帰るか……。
マグカップを手にスタッフの女性が出てきた方の部屋に向かう。
「あの、ご馳走さまでした。俺はこれで失礼します」
先ほどの女性は今度は夕飯の用意でもしているのか、濡れた手を布巾でひと拭きしながら、こちらに出てきてくれた。
「いえいえ、もっとゆっくりしていってくださっても。
また良かったら、いらしてくださいね。子供達もお兄さんに興味津々みたいでしたし」
「もの珍しいだけっすよ」
「いえ、麻友ちゃん、とっても嬉しそうでした。
普段、1人で静かに本を読んでる時もあって。今日はなんだかいつもより楽しそうで」
「そうなんすか。ここまで来る途中も、よく喋ってましたよ」
「麻友ちゃんは兄弟がいないから、お兄さんができたみたいで嬉しかったのかも」
「ハハっ。そうなんすっかね」
俺はなんだか久しぶりに褒められた気がしてむず痒かった。
マグカップを渡して帰ろうとすると、ふと食事を作っているであろう配膳室の様子が見えた。
このスタッフの女性以外には誰もいないようだ。
「えっ。この食事って1人で作ってるんすか?」
「あ、はい。今日は雨がひどいですし来られるお子さんも少ないみたいで、私1人なんですよ」
話を聞くと、食堂はボランティアスタッフ等が中心となり運営されている事が多く、なかなか運営費とスタッフの確保が難しいらしい。
ここも少人数の当番制でどうにか運営しているとのこと。
あの明るい子供達の笑顔の裏には、こうして善意ある大人達が頑張っている背景があったのだ。
「あの……」
「はい?」
「あ、なんでもないっす。俺が言うのもなんですが、頑張ってください。
子供食堂、応援しています!」
俺は自分でも大人の女性に、青臭いガキが何言ってるんだろうと恥ずかしくなった。
ただ、何と言ったらいいのか分からないけど、気持ちを伝えたかったんだ。
「あ、ありがとうございます。私たちもそう言って頂けると、励みになります」
彼女も急な俺の言葉に少し動揺しながらも、深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。
帰り際、ふと友達と遊ぶあいつを見ると、視線に気づいたらしく、
小走りでこっちに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、今日はありがとう。今度また、ここに来て」
「いや、俺は子供じゃないしなぁ。まぁ田中さんの家の前ででも、また会えるさ」
一瞬、あいつは寂しそうな顔になったが笑顔に戻った。
「そっか。うん、じゃぁ、またね。バイバイ」
「おう。じゃぁな」
俺は、大げさに手をぶんぶん振ってドアを開ける。
すると、あいつはケタケタと笑って負けじと手を振り返した。
「ほら、俺はいいから行ってこいよ」
「うん」
そういうと、あいつはみんなの輪の中にすっと戻っていった。
雨も少し小降りになってきたことだし、俺はそろそろ帰るか……。
マグカップを手にスタッフの女性が出てきた方の部屋に向かう。
「あの、ご馳走さまでした。俺はこれで失礼します」
先ほどの女性は今度は夕飯の用意でもしているのか、濡れた手を布巾でひと拭きしながら、こちらに出てきてくれた。
「いえいえ、もっとゆっくりしていってくださっても。
また良かったら、いらしてくださいね。子供達もお兄さんに興味津々みたいでしたし」
「もの珍しいだけっすよ」
「いえ、麻友ちゃん、とっても嬉しそうでした。
普段、1人で静かに本を読んでる時もあって。今日はなんだかいつもより楽しそうで」
「そうなんすか。ここまで来る途中も、よく喋ってましたよ」
「麻友ちゃんは兄弟がいないから、お兄さんができたみたいで嬉しかったのかも」
「ハハっ。そうなんすっかね」
俺はなんだか久しぶりに褒められた気がしてむず痒かった。
マグカップを渡して帰ろうとすると、ふと食事を作っているであろう配膳室の様子が見えた。
このスタッフの女性以外には誰もいないようだ。
「えっ。この食事って1人で作ってるんすか?」
「あ、はい。今日は雨がひどいですし来られるお子さんも少ないみたいで、私1人なんですよ」
話を聞くと、食堂はボランティアスタッフ等が中心となり運営されている事が多く、なかなか運営費とスタッフの確保が難しいらしい。
ここも少人数の当番制でどうにか運営しているとのこと。
あの明るい子供達の笑顔の裏には、こうして善意ある大人達が頑張っている背景があったのだ。
「あの……」
「はい?」
「あ、なんでもないっす。俺が言うのもなんですが、頑張ってください。
子供食堂、応援しています!」
俺は自分でも大人の女性に、青臭いガキが何言ってるんだろうと恥ずかしくなった。
ただ、何と言ったらいいのか分からないけど、気持ちを伝えたかったんだ。
「あ、ありがとうございます。私たちもそう言って頂けると、励みになります」
彼女も急な俺の言葉に少し動揺しながらも、深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。
帰り際、ふと友達と遊ぶあいつを見ると、視線に気づいたらしく、
小走りでこっちに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、今日はありがとう。今度また、ここに来て」
「いや、俺は子供じゃないしなぁ。まぁ田中さんの家の前ででも、また会えるさ」
一瞬、あいつは寂しそうな顔になったが笑顔に戻った。
「そっか。うん、じゃぁ、またね。バイバイ」
「おう。じゃぁな」
俺は、大げさに手をぶんぶん振ってドアを開ける。
すると、あいつはケタケタと笑って負けじと手を振り返した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】夜に咲く花
すだもみぢ
現代文学
タワーマンションの最上階にある展望台。ショウコとアズサとレイはいつもそこで出会う。
お互いのことを深く訊いたりせず、暗闇の中で会うだけのそれが暗黙のルールだ。
だからお互いに知っていることはわずかなことだけ。
普通すぎるショウコに比べて、アズサとレイは神様から特別を与えられている存在だった。
アズサは優秀さで。レイは儚い美しさで。
しかし二人はショウコに言うのだ。「貴方はそのままでいて」と。
ショウコは夢を持つこともできずにいるのに。
自分はこのまま枯れるだけの存在だというのに、なぜ二人はそんなことを言うのだろうか。
そんなある日、レイが二人の側からいなくなった。
そして、ショウコも引っ越すことを親から告げられて……。
大人になる前の少女の気持ちを書いた作品です。
6/1 現代文学ジャンル1位ありがとうございました<(_ _)>
周三
不知火美月
現代文学
どうしても表紙は黒猫を使いたかったので、恐縮ながら描かせていただきました。
猫と人間のちょっぴり不思議なお話です。
最後まで読んで初めて分かるようなお話ですので、是非最後までお付き合いの程よろしくお願い致します。
周三とは何なのか。
ペットがありふれるこの社会で、今一度命の大切さを見つめて頂ければ幸いです。
猫好きの方々、是非とも覗いて行ってください♪
※こちらの作品は、エブリスタにも掲載しております。
その男、人の人生を狂わせるので注意が必要
いちごみるく
現代文学
「あいつに関わると、人生が狂わされる」
「密室で二人きりになるのが禁止になった」
「関わった人みんな好きになる…」
こんな伝説を残した男が、ある中学にいた。
見知らぬ小グレ集団、警察官、幼馴染の年上、担任教師、部活の後輩に顧問まで……
関わる人すべてを夢中にさせ、頭の中を自分のことで支配させてしまう。
無意識に人を惹き込むその少年を、人は魔性の男と呼ぶ。
そんな彼に関わった人たちがどのように人生を壊していくのか……
地位や年齢、性別は関係ない。
抱える悩みや劣等感を少し刺激されるだけで、人の人生は呆気なく崩れていく。
色んな人物が、ある一人の男によって人生をジワジワと壊していく様子をリアルに描いた物語。
嫉妬、自己顕示欲、愛情不足、孤立、虚言……
現代に溢れる人間の醜い部分を自覚する者と自覚せずに目を背ける者…。
彼らの運命は、主人公・醍醐隼に翻弄される中で確実に分かれていく。
※なお、筆者の拙作『あんなに堅物だった俺を、解してくれたお前の腕が』に出てくる人物たちがこの作品でもメインになります。ご興味があれば、そちらも是非!
※長い作品ですが、1話が300〜1500字程度です。少しずつ読んで頂くことも可能です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる