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そっか。こいつと俺の歩幅はだいぶ違う。
後ろを振り返りつつ歩いていないと、どうしても俺が速く歩きすぎてしまう。
ええい、面倒くせぇ。
芽キャベツみたいに見える、緊張で縮こまった手を握る。
すると、ちょっと恥ずかしそうに、
「ありがとう」
と言って、スキップするような歩調で俺の横に並ぶ。
「冷てぇ。水が跳ねんだろうが」
「あっ、ごめんなさい!」
思わずきつい口調で言っちまったのに、何故か嬉しそうにこっちを見上げている。
俺もつられて自然に笑みを返す。
どうも調子が狂う。
妹がいるってこんな感じなのか。
ちょっと歳の差ありすぎっけど。
道すがら、学校の事だの、テレビの事だの、ガキの母さんの話だのしているうちに、
「お兄ちゃん、着いたよ」
子供食堂とやらに着いたらしい。
すでに何人かのガキが集まって騒いでいる。
するとその中の1人が、
「麻友ちゃんだ~」
気づいて全員が駆け寄ってくる。
「雷ひどかったでしょ。怖かったね」
「うん、でもお兄ちゃんと一緒だったから大丈夫だった」
「ん?麻友ちゃんのお兄ちゃん?」
おいおい、本当の兄貴じゃねーぞ。
「おー、髪が金色でかっけー」
金じゃねー。アッシュっていう色だよ。
矢継ぎ早に俺に対する感想が出てくる出てくる。
俺はあっという間にガキに取り囲まれていた。
ちょっとしたスターが現れたかのような騒ぎに、大人の女性が温かそうな飲み物を沢山トレイに乗せて近づいてくる。
「どうしたの皆、お兄さん困ってるでしょ」
「久保さん、麻友ちゃんのお兄さんだよ~」
おいおい、すっかり誤解されちまってるし。
「あ、いや、俺、高橋と言います。こいつとはさっき雨宿りしてるときに偶然遇いまして」
「私、食堂スタッフの久保と申します。ひどい雨の中、大変でしたよね。
麻友ちゃん、今日は来るのが遅かったから、心配していたところで。
ご親切に、本当にありがとうございます」
まるで自分の子供の事のように、深々と頭を下げ、お礼を言う。
見るからに優しく、面倒見の良さそうな人だ。
「あ、暇だったし、その子供食堂っていうのがどんなのかなっていうのもあって」
「どうぞ、良かったら子供達と一緒にお休みされていってください。
肩も濡れてしまってますし、今、タオルお持ちしますね」
「あ、これ位大丈夫っすよ。すぐ帰りますから」
へっくし!
思わず、でかいくしゃみが出る。
思ったより濡れてしまっていたらしく、今更、全身の冷えを感じる。
「ほんと風邪をひいてしまいますから。こちらでココアでも飲んでいてください」
促されるまま、俺はガキ達とテーブルを囲み温かいココアを貰う。
雨の中を歩き続けていたせいで、自分が思っていたより体が冷えてしまっていたようだ。
マグカップの熱が手のひらから伝わり、口に含むと、甘く懐かしいココアの香りが広がる。体の芯まで温まってくるのが分かる。
ふぁ~。
昔、田中さんの家で学校帰りに飲んだココアの味を思い出す。
他のガキはすでに違う遊びで盛り上がってる中、あいつは、小さな鳥が羽づくろいしてるかのようにさらに身を縮め、ココアを飲んでいる最中だった。
あいつもかなり冷えてたんだな。
「大丈夫か。寒くねぇか?」
「うん。タオル貸してもらったし、ココアあったかいし」
蒸気で赤くなったほっぺを膨らませながら、ふぅふぅとココアを飲んでいる。
どうやら具合は悪くないみたいだ。
「なぁ、さっき田中さんと何話してんだ?」
「あのね、お兄ちゃんの小さい頃のこと」
「ん?どんな」
「お兄ちゃんもお母さんのお仕事が遅くて、小さい頃に田中さんのお家にお邪魔してることがあったって。
だから麻友にも遊びにいらっしゃいって」
「ああ、その事か。俺も母ちゃんが仕事で帰りが遅くて家に1人だったからさ。お前と同じようなもんだな」
「子供食堂とかなかったの?」
「俺が小さい時はまだなかったよ」
「ふうん。そうなんだ……」
子供なりに気を遣ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
俺が小さい時にもこんな場所があったら、もっと寂しさが紛れていたかもな。
田中さんはそんな俺のこと、店があるのに気にかけていてくれたんだろうなぁ。
後ろを振り返りつつ歩いていないと、どうしても俺が速く歩きすぎてしまう。
ええい、面倒くせぇ。
芽キャベツみたいに見える、緊張で縮こまった手を握る。
すると、ちょっと恥ずかしそうに、
「ありがとう」
と言って、スキップするような歩調で俺の横に並ぶ。
「冷てぇ。水が跳ねんだろうが」
「あっ、ごめんなさい!」
思わずきつい口調で言っちまったのに、何故か嬉しそうにこっちを見上げている。
俺もつられて自然に笑みを返す。
どうも調子が狂う。
妹がいるってこんな感じなのか。
ちょっと歳の差ありすぎっけど。
道すがら、学校の事だの、テレビの事だの、ガキの母さんの話だのしているうちに、
「お兄ちゃん、着いたよ」
子供食堂とやらに着いたらしい。
すでに何人かのガキが集まって騒いでいる。
するとその中の1人が、
「麻友ちゃんだ~」
気づいて全員が駆け寄ってくる。
「雷ひどかったでしょ。怖かったね」
「うん、でもお兄ちゃんと一緒だったから大丈夫だった」
「ん?麻友ちゃんのお兄ちゃん?」
おいおい、本当の兄貴じゃねーぞ。
「おー、髪が金色でかっけー」
金じゃねー。アッシュっていう色だよ。
矢継ぎ早に俺に対する感想が出てくる出てくる。
俺はあっという間にガキに取り囲まれていた。
ちょっとしたスターが現れたかのような騒ぎに、大人の女性が温かそうな飲み物を沢山トレイに乗せて近づいてくる。
「どうしたの皆、お兄さん困ってるでしょ」
「久保さん、麻友ちゃんのお兄さんだよ~」
おいおい、すっかり誤解されちまってるし。
「あ、いや、俺、高橋と言います。こいつとはさっき雨宿りしてるときに偶然遇いまして」
「私、食堂スタッフの久保と申します。ひどい雨の中、大変でしたよね。
麻友ちゃん、今日は来るのが遅かったから、心配していたところで。
ご親切に、本当にありがとうございます」
まるで自分の子供の事のように、深々と頭を下げ、お礼を言う。
見るからに優しく、面倒見の良さそうな人だ。
「あ、暇だったし、その子供食堂っていうのがどんなのかなっていうのもあって」
「どうぞ、良かったら子供達と一緒にお休みされていってください。
肩も濡れてしまってますし、今、タオルお持ちしますね」
「あ、これ位大丈夫っすよ。すぐ帰りますから」
へっくし!
思わず、でかいくしゃみが出る。
思ったより濡れてしまっていたらしく、今更、全身の冷えを感じる。
「ほんと風邪をひいてしまいますから。こちらでココアでも飲んでいてください」
促されるまま、俺はガキ達とテーブルを囲み温かいココアを貰う。
雨の中を歩き続けていたせいで、自分が思っていたより体が冷えてしまっていたようだ。
マグカップの熱が手のひらから伝わり、口に含むと、甘く懐かしいココアの香りが広がる。体の芯まで温まってくるのが分かる。
ふぁ~。
昔、田中さんの家で学校帰りに飲んだココアの味を思い出す。
他のガキはすでに違う遊びで盛り上がってる中、あいつは、小さな鳥が羽づくろいしてるかのようにさらに身を縮め、ココアを飲んでいる最中だった。
あいつもかなり冷えてたんだな。
「大丈夫か。寒くねぇか?」
「うん。タオル貸してもらったし、ココアあったかいし」
蒸気で赤くなったほっぺを膨らませながら、ふぅふぅとココアを飲んでいる。
どうやら具合は悪くないみたいだ。
「なぁ、さっき田中さんと何話してんだ?」
「あのね、お兄ちゃんの小さい頃のこと」
「ん?どんな」
「お兄ちゃんもお母さんのお仕事が遅くて、小さい頃に田中さんのお家にお邪魔してることがあったって。
だから麻友にも遊びにいらっしゃいって」
「ああ、その事か。俺も母ちゃんが仕事で帰りが遅くて家に1人だったからさ。お前と同じようなもんだな」
「子供食堂とかなかったの?」
「俺が小さい時はまだなかったよ」
「ふうん。そうなんだ……」
子供なりに気を遣ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
俺が小さい時にもこんな場所があったら、もっと寂しさが紛れていたかもな。
田中さんはそんな俺のこと、店があるのに気にかけていてくれたんだろうなぁ。
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