3 / 5
3
しおりを挟む
そっか。こいつと俺の歩幅はだいぶ違う。
後ろを振り返りつつ歩いていないと、どうしても俺が速く歩きすぎてしまう。
ええい、面倒くせぇ。
芽キャベツみたいに見える、緊張で縮こまった手を握る。
すると、ちょっと恥ずかしそうに、
「ありがとう」
と言って、スキップするような歩調で俺の横に並ぶ。
「冷てぇ。水が跳ねんだろうが」
「あっ、ごめんなさい!」
思わずきつい口調で言っちまったのに、何故か嬉しそうにこっちを見上げている。
俺もつられて自然に笑みを返す。
どうも調子が狂う。
妹がいるってこんな感じなのか。
ちょっと歳の差ありすぎっけど。
道すがら、学校の事だの、テレビの事だの、ガキの母さんの話だのしているうちに、
「お兄ちゃん、着いたよ」
子供食堂とやらに着いたらしい。
すでに何人かのガキが集まって騒いでいる。
するとその中の1人が、
「麻友ちゃんだ~」
気づいて全員が駆け寄ってくる。
「雷ひどかったでしょ。怖かったね」
「うん、でもお兄ちゃんと一緒だったから大丈夫だった」
「ん?麻友ちゃんのお兄ちゃん?」
おいおい、本当の兄貴じゃねーぞ。
「おー、髪が金色でかっけー」
金じゃねー。アッシュっていう色だよ。
矢継ぎ早に俺に対する感想が出てくる出てくる。
俺はあっという間にガキに取り囲まれていた。
ちょっとしたスターが現れたかのような騒ぎに、大人の女性が温かそうな飲み物を沢山トレイに乗せて近づいてくる。
「どうしたの皆、お兄さん困ってるでしょ」
「久保さん、麻友ちゃんのお兄さんだよ~」
おいおい、すっかり誤解されちまってるし。
「あ、いや、俺、高橋と言います。こいつとはさっき雨宿りしてるときに偶然遇いまして」
「私、食堂スタッフの久保と申します。ひどい雨の中、大変でしたよね。
麻友ちゃん、今日は来るのが遅かったから、心配していたところで。
ご親切に、本当にありがとうございます」
まるで自分の子供の事のように、深々と頭を下げ、お礼を言う。
見るからに優しく、面倒見の良さそうな人だ。
「あ、暇だったし、その子供食堂っていうのがどんなのかなっていうのもあって」
「どうぞ、良かったら子供達と一緒にお休みされていってください。
肩も濡れてしまってますし、今、タオルお持ちしますね」
「あ、これ位大丈夫っすよ。すぐ帰りますから」
へっくし!
思わず、でかいくしゃみが出る。
思ったより濡れてしまっていたらしく、今更、全身の冷えを感じる。
「ほんと風邪をひいてしまいますから。こちらでココアでも飲んでいてください」
促されるまま、俺はガキ達とテーブルを囲み温かいココアを貰う。
雨の中を歩き続けていたせいで、自分が思っていたより体が冷えてしまっていたようだ。
マグカップの熱が手のひらから伝わり、口に含むと、甘く懐かしいココアの香りが広がる。体の芯まで温まってくるのが分かる。
ふぁ~。
昔、田中さんの家で学校帰りに飲んだココアの味を思い出す。
他のガキはすでに違う遊びで盛り上がってる中、あいつは、小さな鳥が羽づくろいしてるかのようにさらに身を縮め、ココアを飲んでいる最中だった。
あいつもかなり冷えてたんだな。
「大丈夫か。寒くねぇか?」
「うん。タオル貸してもらったし、ココアあったかいし」
蒸気で赤くなったほっぺを膨らませながら、ふぅふぅとココアを飲んでいる。
どうやら具合は悪くないみたいだ。
「なぁ、さっき田中さんと何話してんだ?」
「あのね、お兄ちゃんの小さい頃のこと」
「ん?どんな」
「お兄ちゃんもお母さんのお仕事が遅くて、小さい頃に田中さんのお家にお邪魔してることがあったって。
だから麻友にも遊びにいらっしゃいって」
「ああ、その事か。俺も母ちゃんが仕事で帰りが遅くて家に1人だったからさ。お前と同じようなもんだな」
「子供食堂とかなかったの?」
「俺が小さい時はまだなかったよ」
「ふうん。そうなんだ……」
子供なりに気を遣ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
俺が小さい時にもこんな場所があったら、もっと寂しさが紛れていたかもな。
田中さんはそんな俺のこと、店があるのに気にかけていてくれたんだろうなぁ。
後ろを振り返りつつ歩いていないと、どうしても俺が速く歩きすぎてしまう。
ええい、面倒くせぇ。
芽キャベツみたいに見える、緊張で縮こまった手を握る。
すると、ちょっと恥ずかしそうに、
「ありがとう」
と言って、スキップするような歩調で俺の横に並ぶ。
「冷てぇ。水が跳ねんだろうが」
「あっ、ごめんなさい!」
思わずきつい口調で言っちまったのに、何故か嬉しそうにこっちを見上げている。
俺もつられて自然に笑みを返す。
どうも調子が狂う。
妹がいるってこんな感じなのか。
ちょっと歳の差ありすぎっけど。
道すがら、学校の事だの、テレビの事だの、ガキの母さんの話だのしているうちに、
「お兄ちゃん、着いたよ」
子供食堂とやらに着いたらしい。
すでに何人かのガキが集まって騒いでいる。
するとその中の1人が、
「麻友ちゃんだ~」
気づいて全員が駆け寄ってくる。
「雷ひどかったでしょ。怖かったね」
「うん、でもお兄ちゃんと一緒だったから大丈夫だった」
「ん?麻友ちゃんのお兄ちゃん?」
おいおい、本当の兄貴じゃねーぞ。
「おー、髪が金色でかっけー」
金じゃねー。アッシュっていう色だよ。
矢継ぎ早に俺に対する感想が出てくる出てくる。
俺はあっという間にガキに取り囲まれていた。
ちょっとしたスターが現れたかのような騒ぎに、大人の女性が温かそうな飲み物を沢山トレイに乗せて近づいてくる。
「どうしたの皆、お兄さん困ってるでしょ」
「久保さん、麻友ちゃんのお兄さんだよ~」
おいおい、すっかり誤解されちまってるし。
「あ、いや、俺、高橋と言います。こいつとはさっき雨宿りしてるときに偶然遇いまして」
「私、食堂スタッフの久保と申します。ひどい雨の中、大変でしたよね。
麻友ちゃん、今日は来るのが遅かったから、心配していたところで。
ご親切に、本当にありがとうございます」
まるで自分の子供の事のように、深々と頭を下げ、お礼を言う。
見るからに優しく、面倒見の良さそうな人だ。
「あ、暇だったし、その子供食堂っていうのがどんなのかなっていうのもあって」
「どうぞ、良かったら子供達と一緒にお休みされていってください。
肩も濡れてしまってますし、今、タオルお持ちしますね」
「あ、これ位大丈夫っすよ。すぐ帰りますから」
へっくし!
思わず、でかいくしゃみが出る。
思ったより濡れてしまっていたらしく、今更、全身の冷えを感じる。
「ほんと風邪をひいてしまいますから。こちらでココアでも飲んでいてください」
促されるまま、俺はガキ達とテーブルを囲み温かいココアを貰う。
雨の中を歩き続けていたせいで、自分が思っていたより体が冷えてしまっていたようだ。
マグカップの熱が手のひらから伝わり、口に含むと、甘く懐かしいココアの香りが広がる。体の芯まで温まってくるのが分かる。
ふぁ~。
昔、田中さんの家で学校帰りに飲んだココアの味を思い出す。
他のガキはすでに違う遊びで盛り上がってる中、あいつは、小さな鳥が羽づくろいしてるかのようにさらに身を縮め、ココアを飲んでいる最中だった。
あいつもかなり冷えてたんだな。
「大丈夫か。寒くねぇか?」
「うん。タオル貸してもらったし、ココアあったかいし」
蒸気で赤くなったほっぺを膨らませながら、ふぅふぅとココアを飲んでいる。
どうやら具合は悪くないみたいだ。
「なぁ、さっき田中さんと何話してんだ?」
「あのね、お兄ちゃんの小さい頃のこと」
「ん?どんな」
「お兄ちゃんもお母さんのお仕事が遅くて、小さい頃に田中さんのお家にお邪魔してることがあったって。
だから麻友にも遊びにいらっしゃいって」
「ああ、その事か。俺も母ちゃんが仕事で帰りが遅くて家に1人だったからさ。お前と同じようなもんだな」
「子供食堂とかなかったの?」
「俺が小さい時はまだなかったよ」
「ふうん。そうなんだ……」
子供なりに気を遣ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
俺が小さい時にもこんな場所があったら、もっと寂しさが紛れていたかもな。
田中さんはそんな俺のこと、店があるのに気にかけていてくれたんだろうなぁ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甘夏と青年
宮下
現代文学
病気が発覚し、仕事と恋人を失い人生に失望した日々を送る女性、律。
深い傷を抱え、田舎を訪れ己の正解を求める少年、智明。
そして二人と交わる、全てが謎に包まれた『マキ』と名乗る青年。
これは、海の見える土地で、ひと夏を全力で生きた、彼女彼らの物語。
【完結】夜に咲く花
すだもみぢ
現代文学
タワーマンションの最上階にある展望台。ショウコとアズサとレイはいつもそこで出会う。
お互いのことを深く訊いたりせず、暗闇の中で会うだけのそれが暗黙のルールだ。
だからお互いに知っていることはわずかなことだけ。
普通すぎるショウコに比べて、アズサとレイは神様から特別を与えられている存在だった。
アズサは優秀さで。レイは儚い美しさで。
しかし二人はショウコに言うのだ。「貴方はそのままでいて」と。
ショウコは夢を持つこともできずにいるのに。
自分はこのまま枯れるだけの存在だというのに、なぜ二人はそんなことを言うのだろうか。
そんなある日、レイが二人の側からいなくなった。
そして、ショウコも引っ越すことを親から告げられて……。
大人になる前の少女の気持ちを書いた作品です。
6/1 現代文学ジャンル1位ありがとうございました<(_ _)>
周三
不知火美月
現代文学
どうしても表紙は黒猫を使いたかったので、恐縮ながら描かせていただきました。
猫と人間のちょっぴり不思議なお話です。
最後まで読んで初めて分かるようなお話ですので、是非最後までお付き合いの程よろしくお願い致します。
周三とは何なのか。
ペットがありふれるこの社会で、今一度命の大切さを見つめて頂ければ幸いです。
猫好きの方々、是非とも覗いて行ってください♪
※こちらの作品は、エブリスタにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる