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不自然な程、ピンク色の空に雷鳴が轟く。
思わず肩をすくめる。
あーあ。結構濡れちまった。
田中さん家の店で雨宿りでもすっか。
雨は容赦なく振り続き、雷も鳴り止まない。
これは、しばらく足止めをくらいそうだ。
田中金物店の庇の下に駆け込む。
庇は奥行きがあまりない。
かなり身を屈めないと、肩がずぶ濡れになってしまいそうだ。
有り難いことに、ここの店主は、俺と顔見知り。
気づかれても追い出しはしないだろう。
助かった。
ぐっしょりと纏わりつく制服がなんとも言えない感触だか、雨が上がれば家に着くまでは乾くだろう。
などと考えていると、どこからか視線を感じる。
左右、何処を見ても誰もいない。
気のせいかと正面を向くと、やはり視線を感じる。
もう一度、辺りを見回すと、その視線は目線より遥か下の方から送られているものだった。
あ、ガキか。
ランドセルを背負って、歯をカタカタ言わせて震えている女子小学生だった。
何か言いたげにこちらを見ているが、ガキの苦手な俺は無視を決め込む。
すると、ガキも俺に話しかけにくいのか、言葉は発さない。
ピカッ。バキバキバキッ!
どこか近くに雷が落ちたような音がした。
「ひぃっ!」
「きゃっ!」
俺とガキは、まるで息の合ったお笑いコンビの様に顔を同時に見合わせる。
俺でも声が出るくらいだ。ガキはもっと怖いだろう。
「おい。大丈夫か?」
「うん。怖かったぁ。雷いつ鳴り止むの?」
「知らねえよ。いつかは終わんだろ」
俺の突き放すような言い方に、余計にガキが泣きそうになっている。
「雨がもっと降りゃ、雷は遠くなってくはずだ」
「ほんとに?」
「たぶんな」
「良かったぁ~」
鼻水をすすり、今にもこぼれ落ちそうな涙を堪えながら、安堵した表情でガキが俺を見上げる。
なんとかギャン泣きは避けられたようだ。
暫く沈黙が続く……。
またもやガキがこっちをちらちらと見ている。
「なんだよ」
「お兄ちゃんの髪の毛って染めてるの?」
いきなりなんなんだ……。
俺は校則破りのカラーリングをしている。
金がないのでドラッグストアで売ってる安いやつだけど。
「そうだよ。何か気になんのか?」
「お兄ちゃん、『魔法少女ルリア』に出てくる、ユウキ君に似てる」
「なんだそれ?何かのキャラか?」
「日曜の朝にやってるアニメだよ。それに出てくる男の子」
アニメキャラに例えられたの初めてだ。
アニメに出てくるのは、ほぼイケメンだし悪い気はしねーな。
「あ、でも顔はあんまり似てない。髪型がそっくり」
なんじゃそれ。思わずツッコミそうになる。
まぁ、切れ長の一重瞼なんてアニメキャラでは端役だよな。
「あ、そっ。俺アニメ詳しくないから分からんわ」
「そうなんだ。お兄ちゃんはマンガは読むの?」
「時々な。でも少女漫画は読まねーぞ」
「麻友ね、クラスの男の子にたまに貸してもらうよ。男の子のマンガも面白いのあるよね」
「そうだな。小学生なら『孤独なサザンクロス』とか人気あるんじゃね?」
どうやら、このガキは麻友って名前らしい。
こうやって個人情報っていうのは、本人の気づかないうちに晒されていくんだぜ。
気をつけろよ、全く……。
「あ、それ読んだことある!対決シーンのセリフが面白いんだよね」
ガキは俺の反応お構いなしにペラペラと話し続ける。
ちょっと話せば10倍になって返ってくる。これだからガキは苦手なんだ。
さっきまでは、落雷の恐怖で青ざめていた癖に、興奮気味に話しているせいかすっかり血色が良くなっている。
思わず肩をすくめる。
あーあ。結構濡れちまった。
田中さん家の店で雨宿りでもすっか。
雨は容赦なく振り続き、雷も鳴り止まない。
これは、しばらく足止めをくらいそうだ。
田中金物店の庇の下に駆け込む。
庇は奥行きがあまりない。
かなり身を屈めないと、肩がずぶ濡れになってしまいそうだ。
有り難いことに、ここの店主は、俺と顔見知り。
気づかれても追い出しはしないだろう。
助かった。
ぐっしょりと纏わりつく制服がなんとも言えない感触だか、雨が上がれば家に着くまでは乾くだろう。
などと考えていると、どこからか視線を感じる。
左右、何処を見ても誰もいない。
気のせいかと正面を向くと、やはり視線を感じる。
もう一度、辺りを見回すと、その視線は目線より遥か下の方から送られているものだった。
あ、ガキか。
ランドセルを背負って、歯をカタカタ言わせて震えている女子小学生だった。
何か言いたげにこちらを見ているが、ガキの苦手な俺は無視を決め込む。
すると、ガキも俺に話しかけにくいのか、言葉は発さない。
ピカッ。バキバキバキッ!
どこか近くに雷が落ちたような音がした。
「ひぃっ!」
「きゃっ!」
俺とガキは、まるで息の合ったお笑いコンビの様に顔を同時に見合わせる。
俺でも声が出るくらいだ。ガキはもっと怖いだろう。
「おい。大丈夫か?」
「うん。怖かったぁ。雷いつ鳴り止むの?」
「知らねえよ。いつかは終わんだろ」
俺の突き放すような言い方に、余計にガキが泣きそうになっている。
「雨がもっと降りゃ、雷は遠くなってくはずだ」
「ほんとに?」
「たぶんな」
「良かったぁ~」
鼻水をすすり、今にもこぼれ落ちそうな涙を堪えながら、安堵した表情でガキが俺を見上げる。
なんとかギャン泣きは避けられたようだ。
暫く沈黙が続く……。
またもやガキがこっちをちらちらと見ている。
「なんだよ」
「お兄ちゃんの髪の毛って染めてるの?」
いきなりなんなんだ……。
俺は校則破りのカラーリングをしている。
金がないのでドラッグストアで売ってる安いやつだけど。
「そうだよ。何か気になんのか?」
「お兄ちゃん、『魔法少女ルリア』に出てくる、ユウキ君に似てる」
「なんだそれ?何かのキャラか?」
「日曜の朝にやってるアニメだよ。それに出てくる男の子」
アニメキャラに例えられたの初めてだ。
アニメに出てくるのは、ほぼイケメンだし悪い気はしねーな。
「あ、でも顔はあんまり似てない。髪型がそっくり」
なんじゃそれ。思わずツッコミそうになる。
まぁ、切れ長の一重瞼なんてアニメキャラでは端役だよな。
「あ、そっ。俺アニメ詳しくないから分からんわ」
「そうなんだ。お兄ちゃんはマンガは読むの?」
「時々な。でも少女漫画は読まねーぞ」
「麻友ね、クラスの男の子にたまに貸してもらうよ。男の子のマンガも面白いのあるよね」
「そうだな。小学生なら『孤独なサザンクロス』とか人気あるんじゃね?」
どうやら、このガキは麻友って名前らしい。
こうやって個人情報っていうのは、本人の気づかないうちに晒されていくんだぜ。
気をつけろよ、全く……。
「あ、それ読んだことある!対決シーンのセリフが面白いんだよね」
ガキは俺の反応お構いなしにペラペラと話し続ける。
ちょっと話せば10倍になって返ってくる。これだからガキは苦手なんだ。
さっきまでは、落雷の恐怖で青ざめていた癖に、興奮気味に話しているせいかすっかり血色が良くなっている。
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