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ルチアの幸せ 01
しおりを挟むあまりにも激しい行為でさすがに疲れ果てたのか、アルバートは私の横ですうすうと可愛らしい寝息を立てていた。私はそっと頬に口づけをし、口元を緩める。
「アルバート様、良い夢を……」
私がアルの柔らかい髪を優しく撫でても、ピクリとも動かない。
(ぐっすり寝ていらっしゃるわね。ふふ。可愛い寝顔だわ)
私は夫を起こさないよう、そっとベッドから下りる。少しベッドが軋んだが、大丈夫そうだ。アルは起きる気配すらない。
そのまま隣に続く私の私室に移動すると、音が響かないようにゆっくりとチェストを開けた。このチェストはわざわざカザリー侯爵家から持ってきたもので、引き出しには魔術で二重底を作ってあった。底に隠してあったものをゆっくり取り出すと、出てきたのは魔法陣が描かれた羊皮紙と、アルと私の婚約の指輪だ。
(……証拠隠滅しとかないとね)
私は魔法陣をテーブルに敷き、その上に婚約の指輪を二つ置いた。ゆっくりと魔力を流すと魔法陣は青く光り、魔法の炎で魔術を施した指輪が燃え始める。暗闇にぼうっと青白い炎が浮かび上がり、とても幻想的だ。指輪が少しの欠片も残さず燃え上がると、部屋はまた暗くなっていく。私はその光景を満足気に見届けると、テーブルの灯りを点け、深々と椅子に座った。
「けっこう、楽しかったわね」
私は婚約指輪がはまっていた右手を見ながら呟き、クスリと笑った。アルバートには「私が夢に出てくる魔術」と伝えたけれど、実は違う。本当は「指輪を着けている者同士が、夢の中で会える魔術」なのだ。
だからもちろん「アルとピクニックした」とか「お忍びデート」なんてことは、大嘘だ。
最初っから私は、アルバートと夢の中でエッチなことをしまくっていたのだ。
初めて夢の中で会った時は、私から誘った。まあ、アルバートは私の姿を見た瞬間から、ゴクリと生唾を飲み込んでいたけど。それに私は勉強ばかりして堅物だと思われてたようだけど、こっちの勉強もかなりしていましたからね! 殿下はすぐに私の虜になってくれたわ。
爽やかで優しい第一王子として周囲に振る舞っているぶん、抑圧したものがあるのでは? と思って、心の奥の乱暴な欲望すら引き出した。
(ふふ。私も強引にされるのが好みなので、ちょうど良かったわ。好みじゃない男性には髪の毛一本も触られたくないけれど、好きな人は別ですもの)
そう、私がアルバートと会ったその日に一目惚れしたというのは、あながち嘘ではない。だって殿下はとってもお顔が良いし、私の好みど真ん中! 金髪碧眼で爽やかな容姿。絵本の中の王子様みたいにキラキラと輝く人が大好物なのだ。
(もっと正確に言うと、そういう一見爽やかな人が卑猥な言葉で私を攻めたり、反対に私にいじめられて喘ぐ姿が好きなのよね)
ついでに性欲絶倫なら最高ね! と思ってたら、なんとアルバートが夜伽の女性を毎晩呼んでいるではないか! 「あんな彫刻のような綺麗な顔をして性欲が旺盛だなんて、期待以上かしら?」なんて胸がときめいたものだわ。見かけどおり繊細な人で性欲が薄いなんて困るもの。私は結婚後の夜のことを考えては、ワクワクしていた。
それでも毎晩のように、殿下が伽の者と楽しんでいると思うと腹も立つ。
(私だってアルバート様と同じくらい性欲を持て余しているのに、殿下ばかりずるいわ!)
それが最初の不満だった。だって私達は恋をして結婚するわけじゃない。家格の釣り合いと、私の優秀さ。王妃教育も嫌がらない勤勉さを買われて、十二歳の時に決まった婚約だ。それに決まってしまったなら、私に決定権など無い。
それは殿下も同じだったのだろう。私達の関係は喧嘩もなく表面的には穏やかだったが、結婚間近の年齢になるにつれ「私以外の女を知りたい」という欲望が膨れ上がったようだ。
でも男性であるアルバートはそれでいいでしょうけど、淑女である私は他の男性となんて絶対にできない。そんな悶々とした日々の中見つけたのが、この魔術だったのだ。
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