8 / 12
夢の女の正体 04
しおりを挟む「……ちなみにその魔術は、どんな夢を見せてくれるものだったのかな?」
「……どんな夢? それはアルがしたいことを夢で見るだけよ? 夢の中で何をするかは私から、コントロールできないから」
「ルチアとしたいこと……」
「ええ、私はよくアルとピクニックに行ったり、街中をお忍びでお出かけする夢をよく見たの」
ルチアはふふっと笑いながら、可愛らしい夢の内容を話している。しまった。聞くんじゃなかった。俺が他の話題を持ち出そうと頭を捻っていると、すかさずルチアが質問してきて間に合わなかった。
「アルは私と、夢で何をしていたの?」
「えっ……! お、いや、私もルチアと同じで――」
俺の慌てた態度でわかってしまったのだろう。ルチアはじっと俺を睨むように見つめると、腕の中から出て行ってしまった。
「もしかして……私と性的なことをしていたの?」
ルチアは俺の前で腕を組み、睨んでいる。しかしその姿も女神のように美しすぎて、俺は神々に許しを請うように、またベッドに手をつき頭を下げた。
「すまない! ルチアだとは思わなかったんだ。夢の中の君はいつもの顔じゃなく、今の素顔で現れたから!」
そう言うとルチアは、きょとんとした顔で俺を見つめている。予想外な答えだったようで、頬に手を当て恥ずかしそうにしていた。
「えっ……? やだ。そうだったの? てっきり変えた顔のほうで現れるかと思ってたわ。それなら私って、わからないわね」
「そうなんだ! だから……」
俺が顔を上げルチアの顔を見ると、また険しい顔に戻っていた。フンと鼻を鳴らして、そっぽを向いて怒っている。
「いつもの私じゃないから、そういったことを楽しんでいたのね……」
(しまった! 俺は馬鹿か! これじゃ、ルチア以外の女性だから、好き放題していたと白状したようなものだ!)
「本当に、すまない!」
気付けば俺はマットレスに頭を擦り付けるようにして、全力で謝っていた。新婚早々情けないが、しょうがない。自業自得だ。しばらく部屋に沈黙の時間が流れたあと、俺の頭の上でふうっと大きなため息が聞こえた。
「……もういいわ! アルが以前の私を、女性として見ていなかったのは知っていたもの。今さらだわ」
「ルチア……」
俺が顔を上げると、そこには「仕方がないわね」と言わんばかりの顔で微笑むルチアがいた。ルチアは俺に近付くとそっと手を取り、コツンとおでこを合わせてきた。ふわりと彼女の使った石鹸の香りが立ち上がり、こんな時なのに俺の下半身は疼き出す。
「ねえ、アル。もう私達、隠しごとは無いわよね?」
「ああ、もちろんだ!」
「……じゃあ、許すわ」
そう言うとルチアはそっと俺の唇に、自分の唇を重ねた。ゆっくりと押し付けるように、ふにっとお互いの唇が合わさっている。初めてのキスだ。ルチアは慣れていないからか、その柔らかな唇は微かに震えていた。
「ねえ、アル。私、閨教育は受けたのだけど、本を読んだり、話を聞いただけだからわからないの……。アルが今まで夜伽の女性や、夢の私とした時みたいには、気持ち良くさせてあげられないわ……」
唇を離したルチアは、悲しそうにうつ向いている。そんなことを気にしていたなんて! 俺は慌ててルチアを抱きしめた。
「そんなこと、ルチアは気にしなくていい! それに気持ち良くさせるのは、男である私の役目だ!」
「……本当? じゃあ、アルバート……」
ルチアはそっと俺の手を掴み、自分の胸の膨らみに持っていく。夢の中で散々弄んだ、あの吸い付くような胸がそこにあった。
「私に、気持ちいいこと、教えてくれる……?」
その言葉に全身を駆け上がるように、ぞくりと快感が走る。今まで誰にも感じたことがない、怖いくらいの欲望が一気に溢れ出し、抑えることができない。気付けば俺は、返事もしないままに、ルチアをベッドに押し倒していた。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

閉じ込めちゃうほど重い愛を受け止めて!
しがついつか
恋愛
ルイーザは見知らぬ部屋で目を覚ました。
首輪を付けられ、部屋に閉じ込められていた。
アラフォーとなり日々の生活に疲れ切っていた彼女は、見知らぬ部屋からの脱出を簡単に諦めた。
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。


淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる