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夢の女の正体 04
しおりを挟む「……ちなみにその魔術は、どんな夢を見せてくれるものだったのかな?」
「……どんな夢? それはアルがしたいことを夢で見るだけよ? 夢の中で何をするかは私から、コントロールできないから」
「ルチアとしたいこと……」
「ええ、私はよくアルとピクニックに行ったり、街中をお忍びでお出かけする夢をよく見たの」
ルチアはふふっと笑いながら、可愛らしい夢の内容を話している。しまった。聞くんじゃなかった。俺が他の話題を持ち出そうと頭を捻っていると、すかさずルチアが質問してきて間に合わなかった。
「アルは私と、夢で何をしていたの?」
「えっ……! お、いや、私もルチアと同じで――」
俺の慌てた態度でわかってしまったのだろう。ルチアはじっと俺を睨むように見つめると、腕の中から出て行ってしまった。
「もしかして……私と性的なことをしていたの?」
ルチアは俺の前で腕を組み、睨んでいる。しかしその姿も女神のように美しすぎて、俺は神々に許しを請うように、またベッドに手をつき頭を下げた。
「すまない! ルチアだとは思わなかったんだ。夢の中の君はいつもの顔じゃなく、今の素顔で現れたから!」
そう言うとルチアは、きょとんとした顔で俺を見つめている。予想外な答えだったようで、頬に手を当て恥ずかしそうにしていた。
「えっ……? やだ。そうだったの? てっきり変えた顔のほうで現れるかと思ってたわ。それなら私って、わからないわね」
「そうなんだ! だから……」
俺が顔を上げルチアの顔を見ると、また険しい顔に戻っていた。フンと鼻を鳴らして、そっぽを向いて怒っている。
「いつもの私じゃないから、そういったことを楽しんでいたのね……」
(しまった! 俺は馬鹿か! これじゃ、ルチア以外の女性だから、好き放題していたと白状したようなものだ!)
「本当に、すまない!」
気付けば俺はマットレスに頭を擦り付けるようにして、全力で謝っていた。新婚早々情けないが、しょうがない。自業自得だ。しばらく部屋に沈黙の時間が流れたあと、俺の頭の上でふうっと大きなため息が聞こえた。
「……もういいわ! アルが以前の私を、女性として見ていなかったのは知っていたもの。今さらだわ」
「ルチア……」
俺が顔を上げると、そこには「仕方がないわね」と言わんばかりの顔で微笑むルチアがいた。ルチアは俺に近付くとそっと手を取り、コツンとおでこを合わせてきた。ふわりと彼女の使った石鹸の香りが立ち上がり、こんな時なのに俺の下半身は疼き出す。
「ねえ、アル。もう私達、隠しごとは無いわよね?」
「ああ、もちろんだ!」
「……じゃあ、許すわ」
そう言うとルチアはそっと俺の唇に、自分の唇を重ねた。ゆっくりと押し付けるように、ふにっとお互いの唇が合わさっている。初めてのキスだ。ルチアは慣れていないからか、その柔らかな唇は微かに震えていた。
「ねえ、アル。私、閨教育は受けたのだけど、本を読んだり、話を聞いただけだからわからないの……。アルが今まで夜伽の女性や、夢の私とした時みたいには、気持ち良くさせてあげられないわ……」
唇を離したルチアは、悲しそうにうつ向いている。そんなことを気にしていたなんて! 俺は慌ててルチアを抱きしめた。
「そんなこと、ルチアは気にしなくていい! それに気持ち良くさせるのは、男である私の役目だ!」
「……本当? じゃあ、アルバート……」
ルチアはそっと俺の手を掴み、自分の胸の膨らみに持っていく。夢の中で散々弄んだ、あの吸い付くような胸がそこにあった。
「私に、気持ちいいこと、教えてくれる……?」
その言葉に全身を駆け上がるように、ぞくりと快感が走る。今まで誰にも感じたことがない、怖いくらいの欲望が一気に溢れ出し、抑えることができない。気付けば俺は、返事もしないままに、ルチアをベッドに押し倒していた。
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