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夢の女の正体 02
しおりを挟む「もう! お父様ったらまた……。わたくしは、アルバート様と初めてお会いした時に、一目惚れをしてしまったのですよ? 幸せに決まってます!」
「ルチアが、私に一目惚れ……?」
「……はい。だって、アルバート様は、幼い頃に絵本で読んだ王子様そっくりでしたから」
そう言って赤くなった頬に手を当て恥ずかしがるルチアは、ぞくっとするほど美しかった。ちらりと俺の顔を覗き込むように見る仕草に目が離せず、無作法にも口を開けたまま、ぼうっとルチアに見惚れていた。
「フン! まあ、いい。ルチアを泣かせたら、絶対に許さないからな」
侯爵がここまで王族の俺に強く言えるのは、それだけ国内外に力を持っているからだ。何かあったらそれこそルチアを連れて国外に出て行ってしまうだろう。俺は真剣な顔で「もちろんです」と約束し頷いた。
(それにこの決意は本当だ。俺はルチアを絶対に幸せにする! 彼女を泣かせることはしないと誓う!)
俺は隣に座るルチアの手をぎゅっと握りしめる。ルチアも俺の目を見つめ、微笑みながら頷いた。
「なるべく早く式を挙げよう! ルチアのドレス姿を早く見たいよ!」
「私もです。アルバート様と結婚できるなんて、夢のようですわ」
そこから結婚式までは異例の早さだった。早くルチアと結婚したい気持ちで、俺はあらゆる準備を急がせ、今日この日を迎えた。
「ルチア! なんて綺麗なんだ!」
「アル! あなたも素敵よ!」
ルチアのドレス姿は、この世のものとは思えないほど美しかった。見る人全てが声を失い、ただ呆然と立ち尽くしてしまう。男はもちろん、女性まで頬を染めうっとりと見つめていた。
本人は「なるべくシンプルにしたいわ。顔が派手だから国民に贅沢していると思われたら駄目でしょう?」と言っていたが、ルチアの美しさは隠しきれるものではない。
「真面目そうに見せるため髪はまとめたい」という本人の意向だったが、複雑に結い上げた金色の髪は太陽の光で艷やかにきらめき、白くほっそりとした首筋が艶めかしさを醸し出していた。豊かな胸元もルチアの希望で繊細なレースで隠しているが、腰回りが細いのでスタイルの良さが際立っている。
身に着けている宝石は、代々受け継がれているティアラだけ。それなのにルチアの存在そのものが華やかで、皆一様に心を奪われていた。ルチアの学生時代の同級生達だろう。姿が変わったルチアを遠巻きに見ては、悔しそうにしている。
(俺は幸運だ。もし婚約破棄になっていたら、この美しいルチアを知らずに手放していたかもしれない。あそこで悔しがっているのは、俺だったかもしれないな……)
「アル? どうしたの? 眉間に皺が寄ってるわ。気分が悪くなったのなら……」
怖ろしいことを想像していたからか、いつの間にか俺は王子の仮面が剥がれていたらしい。ルチアが心配そうに俺を見上げている。そんな顔さえも美しく、すぐにでも口づけをしたい欲望が湧いてきた。
「大丈夫だ。早く二人っきりになりたいから、この時間が苦痛なだけだよ」
「……っ! もう、アルったら!」
ルチアは俺の言葉に頬を染め、上目遣いで見つめてくる。俺達はあの日から急速に仲を深めてきた。しかし毎日のように会い二人だけの時間を過ごしていたが、まだキスもしていない。
(良い雰囲気にはなったが、ルチアが恥ずかしがってしまったからな……)
でも別にいい。男慣れしていないルチアなのだから、緊張して当然だ。それに早く結婚式をすれば、いくらでも同じ夜を過ごせる。そう思って今日まで過ごしてきた。ルチアもそれがわかっているようで、潤んだ瞳で俺を見て呟いた。
「私も、早く二人っきりになりたいわ……」
その言葉に俺の下半身がズクンと熱を持った。今夜は二人で過ごす初めての夜だ。楽しみで仕方がない。
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