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番外編7(2024年文披31題)

30・人の色相(色相)

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 物事の定義を書き換える力。それが寧々に宿った力らしい。その副産物として他人の能力を能力波の形で見ることができる。それはあまりに大きな力だが、寧々の知識を引き換えにするために、世界の定義を書き直すなどということはできない。
「でも、世界を書き換える手段はもう持っていると言える」
「……人工知能の知識量なんて詰め込んだら、私の頭パンクするわよ」
「人間の脳っていうのは使っていない部分もある。脳が焼き切れる覚悟さえできれば不可能ではないわけだ」
「何が言いたいの?」
 その女は何故か由真とよく似ている。けれど目指している方向は正反対だ。顔を合わせると互いに冷静さを失うほどに嫌っているので、寧々は二人をなるべく会わせないようにしていた。
「可能性の話だよ。君がそれだけノア覚悟を決めるとしたら、そのきっかけは何なのかなって」
「どうせ聞かなくてもわかってるくせに」
 ハルほどではないが、普通の人間よりは遥かに高い演算能力を持っている。オリジナルの人間はとっくに死んだ今でも、ある目的のためにその意思が機械に引き継がれている。
「あなたたちを作った人は、この世界を滅ぼしたいのか維持したいのかどっちなのかしらね」
「多分、どっちでもいいと言いながら……僕にとっては敵だっただろうね」
 世界の運命を決める七つの人工知能。対になるように作られた六つと、もっとも人間らしくあるように開発された一つ。その構成からは、自分では何も決めようとしていなかったようにも映る。
「先生は、どこかで人類が進化して滅びを回避するのを期待しているように見えたよ。まあ僕が直接見たわけではないけれど」
「上から目線もいいところよね」
「そういう人だったんだよ。それで、今のところ世界の鍵を握る君はどうするつもりなんだい?」
「わかってるでしょ。回避したい未来があるの。だからこの世界に滅びてもらっちゃ困るわ」
 別に人を愛しているわけではない。けれどたった一人を守るために、寧々は世界を守ることにしたのだ。
 寧々はぼんやりと下を眺める。人がひしめき合うスクランブル交差点。このあたりは能力者が多い地域だから、寧々の目には能力波のカラフルな光が見える。前に由真にそれを言ったら、羨ましいと呟いていた。でも寧々と同じ能力を持たなくても、由真は同じ世界を見ていると思うのだ。
「……この街を色で表現するならって話をしたことがあったのよ。まあ色々あるわよね、コンクリートの灰色とか、至る所に植樹された緑とか。由真の答えは何だったと思う?」
「さあ? わりと鮮やかな色を答えたとか?」
「わりと当たってるわね。――虹色だって」
 呆れたような小さな笑いが聞こえる。おそらくは自分が答える色と逆の色を答えたのだろう。人間を憎む者と人間を愛する者。見た目は似ていても正反対だ。
「沢山の人がいるから、とか言うんだろうね。どれだけ人が集まっても、人の本質なんて大して変わりはしないのに」
「でも、私は由真の答えの方が好きよ。今のところはね」
 寧々は帰り支度を始める。あまり遅くなると夕飯に間に合わなくなってしまう。
「そういうことなら忠告しておくよ。――一号機の新しい管理者が決まったみたいだ」
「別にあなたから聞かなくても知っていたけど」
「それもそうか。いずれにしても、そろそろ虹色なんて甘ったれたことは言えなくなるんじゃないかな」
 それは寧々にもわからない。
 これから何かが起きて、そのあとでも違う目で同じ世界を見られるだろうか。いや違う。そのために力を託さなければならないのだ。
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