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番外編7(2024年文披31題)

24・朝に見送る(朝凪)

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 由真は海に向かって突き出している道をゆっくりと歩いていく。強い風がその髪や服を揺らしていた。会話らしい会話はない。けれど沈黙はあまり苦にはならなかった。無理にそれを埋めようとは思わない。星音も岬に立ち、風を体に受けながらぼんやりしていた。
 夜中に出発し、日が昇り始めるこの時間になった。強い風がやみ、由真が振り返って星音を見る。
「何かあったの?」
「え?」
「星音が夜中に起きるなんて珍しいなって」
「それ聞くならもっと早いタイミングじゃないですか?」
 最初から何も聞かれなかった。蘆花岬に到着してからも二時間は過ぎている。その間何も聞いてこなかったのに、今になって。
「落ち着いてからの方が話しやすいのかなぁって」
「そんな深刻なことじゃないんですけどね」
 少なくとも壮絶な由真の人生に比べれば、星音の悩みなんて些細なことが多い。けれどその些細なことも受け入れてくれる人だということを星音は知っている。
「嫌な夢を見て。紛争地域みたいなところで能力を使って怪我人治してるんやけど、全然追いつかないって。寝る前に見たドラマでそういうシーンがあったからなのか」
 夢は夢だ。そんなことで眠れなくなって、わざわざこんな遠くまでやってくるなんて。でも由真は笑わずに話を聞いてくれた。
「すごく怖い夢だね」
 間に合わない。力を使ってもその命が溢れていく。自分の力を使い尽くせば救えるかもしれないけれど、どんどん増える怪我人に対応するためにはそんなことはできない。助けられる人を助けるための選択は苦しかった。
 もしかたらいつかそんな選択をしなければならない日が来るかもしれない。けれど今は幸いなことに夢の話だ。星音は由真の隣に立ち、水平線に目をやる。遠くに小さな船が進んでいくのが見えた。
 何だかそれが、悪い夢を運んで去っていくように見えた。星音は少し目を細めて、その白い船を見送った。
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