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番外編7(2024年文披31題)
7・始まる前に終わる恋(ラブレター)
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「あ、あの! 好きです!」
「う、うん……?」
由真は急に押しつけられた手紙と、押しつけてきた小学生の少女を見て首を傾げた。相手は間違いなく初対面だ。喫茶アルカイドにも来たことがない。由真はおそるおそる少女に尋ねた。
「人違い……ではないよね……?」
「違いますよ! でも好きになるんです!」
「好きになるってどういうこと……?」
更に戸惑う由真に、少女は目を輝かせながら言った。
「夢で見たんです! 私はあなたに恋をするって!」
「確認したいんだけど、初対面だよね?」
「そうですよ?」
初対面の人間にこれだけグイグイいけるのもすごいな、と思いながら由真は渡された手紙に視線を落とした。そこには由真の記憶にない出来事と、それで自分は由真に恋をしたのだということが書いてあった。
「もしかしてこれ、全部未来の話?」
「はい、そうです! 実は私、未来が少しだけわかるんです。とはいえ夢で見るのでほぼ覚えてないっていう感じなんですけど」
「ということは、これがこのあと起こるってことだよね」
「そうですね。明日になるのか、それとも十年後かはわからないんですけど」
それで先回りして告白してくる人はなかなかいないだろう。そもそも未来を他人に教えてしまって、未来が変わったりしないのだろうか。時間が関係する能力は厄介だと寧々が言っていたことを由真は思い出した。
「それは大丈夫です。どうやっても私が夢見た部分だけは変わらないので。その分私は断片的なことしか予知できないんですけど」
「そうなんだ……でもこれがいつ起きるかはわからないと……」
だったら起きてしまってから告白してもいいのではないかと思ったが、それは言わないことにした。このタイミングで告白してきたことに理由がある可能性もあるからだ。
「うん、わかった。でもね……」
未来がどうあれ、答えはきっと変わらない。だから由真は少女の目を真っ直ぐに見つめた。
「あなたと恋人になることは出来ない。少なくとも今は……好きな人がいるから」
そう言った瞬間に、胸がズキリと痛んだ。好きな人がいる。いや、もしかしたら「いた」と言うべきかもしれないから。
「少なくとも今は、なんですね」
「だって、未来のことは私にはわからないし」
「ありがとうございます。やっぱり未来の私が惚れる人はさすがですね」
由真は少女の言葉の意図を掴みかねた。けれど少女はどこか満足そうな顔をして去って行ってしまった。まるで嵐のようだと由真は苦笑しながら、今では珍しいランドセル姿の少女を見送った。
「う、うん……?」
由真は急に押しつけられた手紙と、押しつけてきた小学生の少女を見て首を傾げた。相手は間違いなく初対面だ。喫茶アルカイドにも来たことがない。由真はおそるおそる少女に尋ねた。
「人違い……ではないよね……?」
「違いますよ! でも好きになるんです!」
「好きになるってどういうこと……?」
更に戸惑う由真に、少女は目を輝かせながら言った。
「夢で見たんです! 私はあなたに恋をするって!」
「確認したいんだけど、初対面だよね?」
「そうですよ?」
初対面の人間にこれだけグイグイいけるのもすごいな、と思いながら由真は渡された手紙に視線を落とした。そこには由真の記憶にない出来事と、それで自分は由真に恋をしたのだということが書いてあった。
「もしかしてこれ、全部未来の話?」
「はい、そうです! 実は私、未来が少しだけわかるんです。とはいえ夢で見るのでほぼ覚えてないっていう感じなんですけど」
「ということは、これがこのあと起こるってことだよね」
「そうですね。明日になるのか、それとも十年後かはわからないんですけど」
それで先回りして告白してくる人はなかなかいないだろう。そもそも未来を他人に教えてしまって、未来が変わったりしないのだろうか。時間が関係する能力は厄介だと寧々が言っていたことを由真は思い出した。
「それは大丈夫です。どうやっても私が夢見た部分だけは変わらないので。その分私は断片的なことしか予知できないんですけど」
「そうなんだ……でもこれがいつ起きるかはわからないと……」
だったら起きてしまってから告白してもいいのではないかと思ったが、それは言わないことにした。このタイミングで告白してきたことに理由がある可能性もあるからだ。
「うん、わかった。でもね……」
未来がどうあれ、答えはきっと変わらない。だから由真は少女の目を真っ直ぐに見つめた。
「あなたと恋人になることは出来ない。少なくとも今は……好きな人がいるから」
そう言った瞬間に、胸がズキリと痛んだ。好きな人がいる。いや、もしかしたら「いた」と言うべきかもしれないから。
「少なくとも今は、なんですね」
「だって、未来のことは私にはわからないし」
「ありがとうございます。やっぱり未来の私が惚れる人はさすがですね」
由真は少女の言葉の意図を掴みかねた。けれど少女はどこか満足そうな顔をして去って行ってしまった。まるで嵐のようだと由真は苦笑しながら、今では珍しいランドセル姿の少女を見送った。
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