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番外編7(2024年文披31題)
3・空を飛ぶ能力(飛ぶ)
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「それってどうやってるの?」
訓練中に由真が尋ねてきた。アルはゆっくりと着地しながら答える。
「足に能力を使ってバネみたいにしてるんだよ」
「じゃあ本当に飛べるわけではないんだ」
「そうだな。これはただの滞空時間の長いジャンプだ」
「飛行系の能力者っているんだっけ?」
「空中浮遊は聞いたことがあるな。飛べるやつもいるんじゃないかな」
「そっか……見てみたいな」
***
「なんか昔、見てみたいとは言った気がするんだけど」
それは敵としてという意味ではなかったのだが。由真は溜息を吐いて剣を構えた。相手は自由に空を駆ける。跳躍を繰り返したところで流石に限界があった。
「このタイプは黄乃に任せたほうがいいかもな」
特殊光線で能力を一時的に停止し、落下していくところで電子網を使う。落ち着いて実行できるならそれが一番穏便な制圧方法だった。しかしその彼は今は他の現場にいる。
「いや、あの方法なら」
由真は剣をしまい、近くのビルに向かって走り出した。ビルの近くには星音と悠子たちを待機させておくことも忘れない。
ビルの屋上のフェンスを乗り越え、由真は建物の端に立った。暴れ回っていた能力者が由真を見つけて向かってくる。由真は挑発するように手招きをした。
靴に能力を使って、由真はビルの屋上から飛んだ。重力を相殺するような能力はないから、当然体は下に向かって落ちていく。しかしわずかな時間があれば十分だった。
「空飛べるなら、もっといいことに使いなよ」
空中で捉えた能力者にスタンガンを当てる。気絶はしなかったが、一瞬集中が途切れたために能力が解除される。由真はスタンガンを投げ捨て、再び手に剣を出現させた。能力を最大出力にして、目に見えない切先を地面に突き立てる。その近くでは悠子たち警察が電子網を手に待ち構えていた。
***
「いや、大丈夫なのわかってても厳しいやろ……」
「わりと楽しかったよ」
「まあかすり傷ひとつなかったからよかったですけど」
飛行能力を使って暴れ回っていた能力者は無事にお縄になった。土壇場で能力を使われて逃げられる可能性もあったけれど、自分の領域である空中で一瞬で勝負を決められたことですっかり戦意喪失していたらしい。
「由真さんって高いところも好きですよね?」
「寧々には『馬鹿と煙は……』って言われたよ」
「とりあえず怪我には気をつけてくださいね、本当に」
星音の言葉を聞いているのかいないのか、由真は静かに空を見つめていた。
訓練中に由真が尋ねてきた。アルはゆっくりと着地しながら答える。
「足に能力を使ってバネみたいにしてるんだよ」
「じゃあ本当に飛べるわけではないんだ」
「そうだな。これはただの滞空時間の長いジャンプだ」
「飛行系の能力者っているんだっけ?」
「空中浮遊は聞いたことがあるな。飛べるやつもいるんじゃないかな」
「そっか……見てみたいな」
***
「なんか昔、見てみたいとは言った気がするんだけど」
それは敵としてという意味ではなかったのだが。由真は溜息を吐いて剣を構えた。相手は自由に空を駆ける。跳躍を繰り返したところで流石に限界があった。
「このタイプは黄乃に任せたほうがいいかもな」
特殊光線で能力を一時的に停止し、落下していくところで電子網を使う。落ち着いて実行できるならそれが一番穏便な制圧方法だった。しかしその彼は今は他の現場にいる。
「いや、あの方法なら」
由真は剣をしまい、近くのビルに向かって走り出した。ビルの近くには星音と悠子たちを待機させておくことも忘れない。
ビルの屋上のフェンスを乗り越え、由真は建物の端に立った。暴れ回っていた能力者が由真を見つけて向かってくる。由真は挑発するように手招きをした。
靴に能力を使って、由真はビルの屋上から飛んだ。重力を相殺するような能力はないから、当然体は下に向かって落ちていく。しかしわずかな時間があれば十分だった。
「空飛べるなら、もっといいことに使いなよ」
空中で捉えた能力者にスタンガンを当てる。気絶はしなかったが、一瞬集中が途切れたために能力が解除される。由真はスタンガンを投げ捨て、再び手に剣を出現させた。能力を最大出力にして、目に見えない切先を地面に突き立てる。その近くでは悠子たち警察が電子網を手に待ち構えていた。
***
「いや、大丈夫なのわかってても厳しいやろ……」
「わりと楽しかったよ」
「まあかすり傷ひとつなかったからよかったですけど」
飛行能力を使って暴れ回っていた能力者は無事にお縄になった。土壇場で能力を使われて逃げられる可能性もあったけれど、自分の領域である空中で一瞬で勝負を決められたことですっかり戦意喪失していたらしい。
「由真さんって高いところも好きですよね?」
「寧々には『馬鹿と煙は……』って言われたよ」
「とりあえず怪我には気をつけてくださいね、本当に」
星音の言葉を聞いているのかいないのか、由真は静かに空を見つめていた。
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