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番外編3

スノーフレークの花束を3

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「何で私だけ……」
「私、健康が最大の長所やから……」
 由真の誕生日の次の次の日。プールに長時間入っていたのが災いしたのか、由真は風邪をひき、ご丁寧に熱まで出して寝込む羽目になってしまった。額に冷却シートを貼って、真新しいメンダコのぬいぐるみを抱えている姿はまるで子供のようだ。
「てかどうしたんですか、そのメンダコ」
「黄乃からの誕生日プレゼント。かわいいでしょ」
「かわいいけど何でメンダコなんや……」
 由真の部屋は思ったよりも生活感があって、ぬいぐるみもいくつか置いてある。意外と年相応の部屋に済んでいることに安堵するよりも、星音はそのぬいぐるみの種類がどうしても気になってしまった。
「海洋生物縛りでもしてるんか?」
「別にそういうわけじゃないけど……まあ動物園よりも水族館が好きかな……」
「水辺好きやしな。前世は魚やったんかな」
「魚よりはイルカとかシャチとかがいいな」
 メンダコを撫でながら由真が笑う。それは一昨日の誕生日のときに見せた寂しそうな笑顔とは少し違っていた。
「今度、水族館がリニューアルオープンするらしいんやけど、よかったら一緒に行かへん?」
「え、行きたい! あー……でも私でいいの?」
「あいにく由真さん以外にそんなにメンダコ愛でてる知り合いいないんで……」
「じゃあ一緒に行こうか。いつがいい?」
 かなり前のめりな姿勢を見せる由真に、星音は苦笑いを浮かべた。
「水族館は逃げないんで、その前にちゃんと風邪治してください」
「でも薬も飲んだし、ちゃっとご飯食べて寝てるし、あと私にやることなくない?」
「白血球とかが今頑張ってるんやで? 知らんけど。もう余計なこと考えずにちゃんと寝とき」
 由真は文句を言いながらも、ベッドに横になった。黄乃からもらったメンダコのぬいぐるみは、尚も大事そうに抱えられている。
「じゃあその日は星音からもらったやつ着てこうかな」
「昨日着替えたとき、『これは似合ってるの?』って散々言っとったやん!」
「だってああいう可愛いやつ普段着ないし……でも中に合わせるの考えればいけるかなって」
 それを見越して買ったので、星音が言わずとも気が付いてくれて良かった。星音は顔を綻ばせながら、クローゼットの片隅にきちんとあのワンピースがかかっているのを確認する。
「あのワンピースの花、何だか知ってます?」
「なんか白い花だよね? 名前は知らないけど」
「スノーフレークっていうんです。四月十六日の誕生花のひとつ」
 それを知ってから、由真にプレゼントするならあのワンピースしかないと思ったのだ。スズランにも似た、白く可憐な花。その花言葉は――「汚れなき心」。危険を顧みずに他人に手を伸ばすことができる強さと、時折見せる脆さ。かと思えば勝負事になれば負けず嫌いを発揮する子供じみた一面もある。それはその心があまりにも純粋だから現れる表情の移ろいなのではないかと星音は思う。だからこそ、その白い花が由真にとても似合うと思ったのだ。
「誕生花かぁ。あんまり考えたことはなかったな。誕生石は……四月はダイヤモンドだっけ」
「そうやな。でも来年ダイヤモンドとか要求されてもお金的にちょっと……元素的に同じ炭素とかならいけると思うんやけど……」
「いや誰もそんな高いの要求してないし! いいよ、プレゼントなんて。気持ちだけで」
「ちゃんと用意しますって」
 来年という言葉を使えることに、そしてそのこと自体は否定されなかったことに、星音は密かに安堵した。プレゼントが重要ではなく、来年もまた由真の誕生日を祝えるということが大事なのだ。つらい記憶を上書きはできなくても、同じくらい幸せな思い出を増やしたい。いつか、由真が心から自分の誕生日を祝福できるその日が来るまで。
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