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青の向こう側

3・普通の悪意1

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 生放送の歌番組での由真の行動は、無能力者ノーマからも能力者ブルームからも由真が憎まれるという状況を生んだ。意図的ではあったのだろう。能力者は、無能力者を守るために人から能力を奪い残酷に振る舞った悪魔として、無能力者は恐ろしい能力者として、世の中の関心は確かに緋彩から由真に映ったように見えた。しかし由真にも見通しが甘いところがあったのだ。
 人の小さな悪意が集まったものを制御することは非常に難しい。自分一人だけにそれを向けさせるつもりでも、周りに波及していくこともある。今回の場合は、由真を雇う喫茶アルカイドがその対象だった。ネットに悪評を書かれるのはもちろんのこと、迷惑電話やわざわざ店に出向いて罵詈雑言が書かれた紙を貼っていくなどの営業妨害も続いていた。星音はそれでも仕事に来て、店の状況を気にせずに来店してくれる客の相手をしながら、どこか心に穴が空いたような気分になっていた。
「……はぁ……」
 深い溜息を吐くと、隣にいた梨杏が笑う。
「由真に会いたい?」
「……え、今の溜息はそういうわけじゃ……あるんやけど……」
 由真が店に出ると過激な人たちの襲撃を受けかねない、という寧々の判断で、現在は謹慎中だ。もちろん由真にしか対処できない仕事があれば出動することになっているけれど、そうでないときは待機という名の休みだ。滅多に休んでいることがないので丁度いいのかもしれないが、顔が見られないのは少し寂しい。
「最近はB-4地区の河川敷によく行ってるらしいよ。個人的にやりたいことがあるらしくて」
「そうなんや」
 個人的にやりたいこととは何だろうか。でも確かにまとまった休みがあるときにしかできないこともあるだろう。星音が納得しかけたところで、梨杏が口元に手を当ててくすくすと笑っていることに気がついた。
「いや、だからね……会いたいなら行けばいいよっていう意味で言ってるんだよ、私は」
「あ、そういうことか!」
「今日はもうすぐ上がりでしょ? 閉店作業は一人でやっておくから、行って来なよ」
 何だか色々と察されている気がしてならないが、星音は梨杏に礼を言った。会って何をするというわけではないけれど、ただ顔を見て、元気かどうか確かめたかったのだ。
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