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喫茶アルカイド
2・空白の時間1
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能力者は危険な存在。それがこの世界の常識だ。だから能力者を雇う喫茶店には近付かない。そんな人が多い。けれど無能力者である亘理梨杏は数年前に一人でこの喫茶アルカイドに足を運び、その数日後にアルバイト店員として採用されたという。
星音は食器を洗いながら、ふと気になって梨杏に尋ねてみた。
「梨杏さんがここの店員やってるのって、由真さんがいるからですか?」
「まあそうなんだけど……でもここに来たのは本当に偶然。由真がここにいるとは思ってなかった」
ただ、飲みたかった紅茶がこの店なら飲めるという噂を掴み、お茶して帰るだけなら何も起こらないだろうとこの喫茶店に足を踏み入れた。そこには求めていた紅茶以上に、梨杏がずっと探し続けていた少女がいたのだ。
「由真さんって何年か行方不明扱いになってたんでしたっけ」
「そう。ある日突然いなくなって、見つかったときにはここで働いてたね。その間のことは、寧々とハルさんはある程度まで知ってるけど、その二人も知らないことがある」
「……それは、知らん方がええとかいうやつですか?」
「由真が話してくれるかどうかじゃない? 由真が話したくないときははっきりそう言うから。私は前に聞いたときそう言われた」
だから話せるときになったら教えて、と言ったきり、その空白の期間については触れないようにしてきた。梨杏はそれ以来、由真が姿を消す前と同じように由真と接している。昔から変わらない、能力者かどうかなんて関係ない、ただ一人の友人として。けれどそうも言っていられないのがこの世界だ。
「……悔しいんだよ。無能力者の私は由真のことを全部はわかってあげられない。望んでもないのに力を得て、そのせいで嫌われて……でも私は、ここを出ればそんな人たちとも溶け込んで生きていける」
「でも私は、梨杏さんみたいな人がいてくれてよかったって思ってますよ。無能力者の中にも私たちのことを一人の人間として見てくれる人がいるんだってわかったから」
「ふふ、ありがと、星音ちゃん。ちょっと元気出た」
「由真さんも多分、梨杏さんがそうやって普通の友達してくれるの嬉しいと思いますよ」
「そうかな。……でもやっぱり、昔と同じではないんだよ、私たち」
同じになろうとしても、梨杏が無能力者で、由真が能力者であることが勝手に溝を作ってしまうことがある。梨杏は棚にしまった紅茶の缶を確認しながら、由真と再会したばかりの日のことを思い出していた。
星音は食器を洗いながら、ふと気になって梨杏に尋ねてみた。
「梨杏さんがここの店員やってるのって、由真さんがいるからですか?」
「まあそうなんだけど……でもここに来たのは本当に偶然。由真がここにいるとは思ってなかった」
ただ、飲みたかった紅茶がこの店なら飲めるという噂を掴み、お茶して帰るだけなら何も起こらないだろうとこの喫茶店に足を踏み入れた。そこには求めていた紅茶以上に、梨杏がずっと探し続けていた少女がいたのだ。
「由真さんって何年か行方不明扱いになってたんでしたっけ」
「そう。ある日突然いなくなって、見つかったときにはここで働いてたね。その間のことは、寧々とハルさんはある程度まで知ってるけど、その二人も知らないことがある」
「……それは、知らん方がええとかいうやつですか?」
「由真が話してくれるかどうかじゃない? 由真が話したくないときははっきりそう言うから。私は前に聞いたときそう言われた」
だから話せるときになったら教えて、と言ったきり、その空白の期間については触れないようにしてきた。梨杏はそれ以来、由真が姿を消す前と同じように由真と接している。昔から変わらない、能力者かどうかなんて関係ない、ただ一人の友人として。けれどそうも言っていられないのがこの世界だ。
「……悔しいんだよ。無能力者の私は由真のことを全部はわかってあげられない。望んでもないのに力を得て、そのせいで嫌われて……でも私は、ここを出ればそんな人たちとも溶け込んで生きていける」
「でも私は、梨杏さんみたいな人がいてくれてよかったって思ってますよ。無能力者の中にも私たちのことを一人の人間として見てくれる人がいるんだってわかったから」
「ふふ、ありがと、星音ちゃん。ちょっと元気出た」
「由真さんも多分、梨杏さんがそうやって普通の友達してくれるの嬉しいと思いますよ」
「そうかな。……でもやっぱり、昔と同じではないんだよ、私たち」
同じになろうとしても、梨杏が無能力者で、由真が能力者であることが勝手に溝を作ってしまうことがある。梨杏は棚にしまった紅茶の缶を確認しながら、由真と再会したばかりの日のことを思い出していた。
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