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二十五・蜘蛛の糸
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「やはり、封印は相当弱っているようだな」
気が付けば、洞窟のような場所に水蓮はいた。この場所には覚えがある。この洞窟の最深部に水夜を封印したのだ。戦闘を得意としない水蓮にとって、弟の水夜は全力でも勝てる相手ではなかった。封印するのすら、その後に長い眠りを必要とした程だ。
「時間経過だけではなく、影の力もあるか……」
宿堤に取り憑いた鬼は木蓮を呪う影となったが、同時に水夜に力を与えてもいたのだろう。水蓮はその分を見誤っていた。
「吾だけになってしまうとは……厄介だな」
当然、水夜以外の鬼も襲ってくるだろう。その数がどのくらいかはわからないが、木蓮がいない状態でどこまで切り抜けられるだろうか。しかし迷っている暇はない。目の前のことを片付けるしかないのだ。
「早速お出ましのようだな」
瘴気を撒き散らしながら、四本足の巨大な生き物がこちらに向かってくる。もはや瘴気のせいでそれが元はどんなものだったのか判別がつかない。水蓮は敵に向かって手をかざす。
掌から放たれた水が、向かってくる巨大な獣に直撃した。しかし手応えがない。浄化はされているが、すぐに瘴気が供給されてしまう。それだけこの洞窟内の瘴気が濃いのだ。並の人間ならばここに足を踏み入れただけで瘴気に体を蝕まれる。水蓮と契りを結び、半分神となった木蓮でもあまり長い時間ここにいることはできないだろう。
水蓮は更に大量の水を発生させ、目の前の瘴気を浄化していく。しかしあまりにもきりがない。水蓮は一旦攻撃を止め、敵の出方を伺う。
「っ!」
巨大な獣が水蓮に向かって飛びかかる。それをかわした水蓮は、その獣の前足を水の刃で切り落とした。しかしすぐに再生してしまう。その上、奥からはさらに無数の気配がする。
「埒があかないな」
水蓮は再び手をかざし、顔ほどの大きさの水の珠を出した。そこに力を籠めると、洞窟内の瘴気が水の珠に吸われていく。鬼に力を与える瘴気を減らしてから攻撃すると、瘴気を纏った獣たちはあっという間に消し飛んだ。
「これで終わるとは思えぬが……ひとまず進むか」
ともかく最深部まで進む必要がある。水蓮は周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいった。
その時だった。
突然、水蓮の体が動かなくなる。まるで金縛りにあったかのように指一本動かすことができないのだ。強引に動かそうとしてもそもそも力が入らない。
『神トテコノ程度カ』
地の底から響いてくるような、水蓮を嘲る声。水蓮は右腕に力を集中させた。すると何かが千切れるような音が聞こえ、手が動かせるようになった。
「蜘蛛糸か」
それは不可視の蜘蛛の糸であった。見えない糸でいつの間にか全身を捕えられていたのだ。しかし力を集中させれば破れないものでもない。水蓮は動くようになった右腕で水の龍を出現させた。何もないように見えた空間に龍が飛び込むと、そこから水蓮の体の倍はありそうな巨大な蜘蛛の姿が見えた。
『ココヲ通スワケニハイカヌ』
「吾もこんなところで足止めをされるわけにはいかぬのだ」
水蓮は水の筋を生み出し、それを蜘蛛に向ける。しかしそれは蜘蛛に届く前に霧散した。見えない糸が張られている。しかもそれは瘴気の塊でもあるようだ。
(だとしても、吾の水すら通らぬとは)
これまでの瘴気とは質が違う。並大抵のやり方では浄化できないほどのものだ。
「ならば、こちらも全力でいかせてもらおう」
水蓮は水の龍を更に増やした。そして蜘蛛に向かって放つ。しかしやはり見えない壁に阻まれて届かない。それどころか、水蓮の力がどんどん吸い取られているようだ。
「くっ……何なのだ、これは……」
水蓮は何とか意識を集中し、水の龍を維持し続ける。しかし浄化はほとんどできなかった。そんなことは今までなかった。水蓮の浄化の力はこの国の多くの神の中でも上位に属するものだ。それなのに全く歯が立たない。瘴気には違いないが、あまりにも異質だ。
「おそらく、手を打たれているのだろうな」
水夜は水蓮の力をよく知っている。そもそも同じ神の神玉から生まれた存在だ。本来の力はかなり似通っている。それを利用して、水蓮の力に対抗できる瘴気を生み出したのかもしれない。それならこの状況を打破するには、水蓮のものではない別の力が必要になる。
(成程……それで木蓮と焔を向こうに残したのだな)
木蓮が人間であった頃なら、この瘴気には耐えられなかっただろう。しかし今の彼女は半分神のようなものだ。破格の霊力と水蓮の浄化の力、焔の増幅の力があれば倒せる相手かもしれない。おそらく二人もここに向かってはいるだろう。しかし当然邪魔も入るはずだ。二人が来るまで持ち堪えられるだろうか――水蓮がそう思った瞬間、蜘蛛の腹部が突然大きく裂ける。そしてそこから無数の黒い物体が飛び出してきた。
「くっ……」
それはまるで泡のように分裂し、洞窟内に広がっていく。その一つが水蓮にまとわりついてきたので、水蓮はそれを浄化しようと試みた。しかしその瞬間、その黒い塊から無数の白い蜘蛛糸が伸び、水蓮の体を包み込んだ。どうにか逃れようと力を使うが、水蓮の体はいつの間にか張られていた巨大な蜘蛛の巣に拘束されてしまった。
「蜘蛛風情が……」
『ソノ力、我ガ主ノ為ニ貰イ受ケヨウ』
「そう簡単に奪われてたまるものか」
水蓮は蜘蛛を睨みつけた。神が力を込めて睨めば大抵の者は怯んでしまう。しかし蜘蛛はそれを意に介さずに、口から糸を吐き出した。糸が触れた場所の服が溶けていく。服の下に隠れていたささやかな乳房が露わになると、蜘蛛はその頂を蜘蛛糸でくすぐった。
「っ……このようなことをして、赦されると……」
『赦サレル必要ナドナイ。ソノ力ガアレバ、災厄ハ解キ放タレル』
「誰が、力なぞ渡すものか……」
しかし体は全く自由にならなかった。抵抗すればするほどに力を吸われる糸だ。しかも水蓮の浄化の力は受け付けない。歯噛みしている水蓮の体を弄びながら、蜘蛛はその鋏角を水蓮の首筋に突き刺した。何かが流し込まれる感覚とともに、体が熱くなる。
『セメテ痛ミハ無クシテヤロウ。サア、悦ベ』
「くっ……無礼者……」
水蓮は必死に力を籠めるが、糸による拘束は全く解けない。そうしている間にも蜘蛛の鋏角から媚毒が流し込まれていく。体の内側からそれが広がっていく感覚に、水蓮は思わず呻き声をあげた。
「ぅぐっ……ううぅっ!」
それは快楽を与えると同時に、体を穢していく呪詛でもあった。普通の人間であれば一瞬で鬼となっているほどの瘴気だ。
『苦シイカ? ナラモットヨクシテヤロウ』
そう言うと、蜘蛛は水蓮の胸の飾りを弄る動きを速くする。その刺激でピンと立ち上がった小さな実に糸を巻きつけて引っ張ると、水蓮の口から微かな声が漏れた。
「く……ぅ……」
『ソラ、心地良イダロウ。ソノママ堕チテイクガイイ』
蜘蛛糸は形を変えながらも水蓮の胸を執拗に責め続けた。ツンと勃った乳首を撚り合わせた糸で押し潰し、擦り上げる。その度に水蓮は体を震わせた。しかし決して快楽に屈することはない。水蓮は歯を食いしばって耐え続ける。しかし蜘蛛は責めるのをやめなかった。胸だけではなく、脇腹や足などもその糸を筆のようにして刺激していく。
「んんっ……くぅ……」
水蓮は体を震わせ、必死に快感を逃そうとする。しかし糸による拘束はそれを許さない。蜘蛛の鋏角から流し込まれた瘴気もじわじわと体を侵していった。
(このまま堕とされるわけにはいかぬ)
けれど打開策を見つけることはできなかった。そのうち糸はするすると水蓮の足の付け根へと伸びていった。糸が秘められた泉を撫でると、蜘蛛が嗤う。
『神トテ所詮ハコンナモノダ』
濡れた音が響き、水蓮は歯噛みした。呪いで体を蝕まれている上に、力も徐々に吸い取られていっている。それなのに体は勝手に熱を持っていくのだ。
蜘蛛は既に愛液が溢れている水蓮の花弁と陰核を擦り始める。その上別の糸を陰核に巻きつけて軽く引っ張った。
「やめっ……ああぁっ!」
敏感な箇所への強烈な刺激を受けて、水蓮は思わず声を上げた。その声を楽しむように蜘蛛は何度も同じ場所を責め立てる。その度に水蓮の体が跳ねた。
『随分ト悦ンデイルヨウダナ』
「ん……そんな、わけ……っ」
『遠慮ハ要ラヌ』
蜘蛛は更に糸を増やして水蓮の花弁を擽る。その度に水蓮は甘い吐息を漏らした。愛液が絡まると、その糸も水蓮の中に侵入していく。そして膣内で蠢き始めた。
「ひっ……ああっ! やめ、……っ!」
『コレホド濡ラシテ何ヲ言ウ』
蜘蛛は嘲笑うかのように水蓮の膣から糸を引き抜き、それを見せつけた。蜘蛛糸はぬらぬらと光っており、水蓮は思わずそれから目を逸らした。
『口惜シカロウ……ダガ、我ラニ逆ラッタ者ニハ当然ノ報イダ』
そう言いながら蜘蛛は水蓮の膣内に再び糸を挿入する。そしてそれを激しく抜き差しし始めた。時折中で回転させながら、水蓮の弱い部分を擦り上げる。
「はぅ、あっ……んんっ!」
水蓮の顔が快楽に蕩け始めると、膣内で蠢く糸も激しさを増していった。思考が途切れ途切れになっていく。どうにかしてここから逃れなければならない。そうしなければ封印が解かれてしまう。それどころか全ての神力を奪われてしまったら、神として存在することができなくなってしまう。しかし水蓮の体は蜘蛛の糸に拘束されて動くことすらできない。
「あっ、あ……っ、やぁっ」
『サア、ソノ力ヲ我ラニ明ケ渡スノダ』
蜘蛛はそう言うと、水蓮の膣内で激しく動き回る糸の動きを速めた。そして同時に陰核に糸を巻きつけ、擦り上げる。
「っ……あああぁっ!」
強烈な快楽が水蓮を襲った。体が勝手に痙攣する。もう耐えられないと思ったときに、脳裏に浮かんだのは木蓮のことだった。
(あれを使えば、最悪の事態は避けられるか……? だが吾の力はこの蜘蛛には通用しない)
おそらく水夜がこの蜘蛛を用意したのだろう。元々普通の生物であったものが鬼になったものとは違い、本来の蜘蛛の性質とは随分違っている。水夜は自分が解放される力を得るためなら水蓮がどうなってもいいと思っているのだろう。
(そう易々と明け渡しはせぬ)
しかし水蓮の決意を嘲笑うように蜘蛛はその責めを激しくする。
「んあぁっ! んん……ああっ!」
水蓮の体は痙攣している。激しく抜き挿しされる度に透明な液体が地面に落ちる。もう限界が近かった。しかし蜘蛛はそれを許さない。
『ココマデ来テモ尚我ラニ逆ラウツモリカ』
蜘蛛はそう言うと、その糸を一気に引き抜いた。そして再び水蓮の中に勢いよく入り込み、その中に熱いものを撒き散らした。
「やあぁあああっ!」
水蓮は大きく体を震わせながら絶頂に達した。その間も蜘蛛の責めは止まらない。達したばかりでぐったりとした体を、更なる快楽が襲う。
「はっ……あぁああっ!」
膣内と陰核を同時に攻められ、水蓮は何度も絶頂を迎える。それでも蜘蛛の責めは止まらない。もはや苦痛に近い快楽に水蓮の瞳からは涙が溢れた。
『サア、力ヲ我ラニ捧ゲヨ』
「誰が……お前たちなどに……」
水蓮は必死に首を横に振る。その強情な様子に、蜘蛛は呆れたように嗤った。
『ナラバコレハドウダ?』
「ああぁっ!」
膣内で蠢く糸がその動きを激しくする。そしてそのまま抽挿を始めた。あまりの激しさに、水蓮の意識が朦朧としてくる。
『サア、ソノ全テヲ明ケ渡スノダ!』
蜘蛛はそう叫ぶと、再び熱いものを放った。それと同時に水蓮も大きく体を反らせて達する。その体から力が抜けると同時に、蜘蛛はその体から離れた。
(木蓮……)
出来る限りのことはした。しかしこれが限界だった。虚空にその美しい顔を思い浮かべながら、水蓮はその意識を手放した。
***
「あれだけやられて生きているとはね。姉上は実にしぶとい」
柔らかく笑う、懐かしい声が聞こえた。水蓮がはっと目を開くと、いつの間にかそこは洞窟の最深部になっていた。そして目の前に立つ、背の高い男――水蓮は掠れた声でその名を呼んだ。
「水、夜……」
「あれで力尽きてくれると思ったんだけどなぁ。あの子のやり方か」
蜘蛛には気付かれないように、自分自身の体に術を使った。浄化の力は効かないとわかっていたから、木蓮とは違う術を使ったのだ。自分自身の力に鍵をかけて、その全てを奪われることを防いだ。だからこそ今、水蓮は首の皮一枚で生きているのだ。
「あの子には散々苦しめられたな。何せ封印されているせいで、こちらは本来の力を出せなかったんだから」
全ては奪われなかったが、封印を解くのに必要な力は奪われてしまったらしい。こうなる前に手を打ちたかった。しかしこうなってしまった以上、次の手を考えなければならない。
「色々手を尽くしてあの子の力を貰おうとしたのに、まさか姉上があの子を娶ってしまうとはね」
水夜の目は異様な金色に光っている。かつては深い青の瞳であったが、堕ちたときに変わってしまったのだ。上半身には長手甲しか身につけていない。顕わになった胸板には鬼の呪いの紋様が這っている。蜘蛛の巣に囚われたままの水蓮の頬に水夜が触れた。長く黒い髪がその場の闇を深くする。
「色々と邪魔は入ったけれど、これで目的は達成された」
「……これ以上好きにさせるつもりはないぞ」
「無駄だよ。だって姉上はここで死ぬのだから。助けも来ないよ。邑にもあの子たちの前にも強い鬼を送り込んだから」
封印が解けたことで、全ての力を使えるようになったのだろう。そんな状態で送り込まれた強い鬼に木蓮たちは対抗できるのか。水蓮は歯噛みして水夜を睨めつけた。
「木蓮に何かあったら、今度こそ其方を赦さぬぞ」
「へえ、それじゃあ今までは少しは赦すつもりがあったってこと? 相変わらずお優しいことだ」
「そんなふざけた態度でいられるのも今のうちだ」
水夜の手がゆっくりと水蓮の首筋をなぞって下りていく。その手は先程まで散々弄ばれていた水蓮の胸に伸びた。
「もう動くこともできないくせに」
「く……っ、離せ……」
「これから自分がどうなるかわかる?」
そう言うと水夜は水蓮の胸元に顔を近づける。そしてそのままその頂を口に含んだ。
「あぁっ!」
舌で転がされ、強く吸われて水蓮は声を上げた。何とか逃れようと身を捩るが、拘束されている体は動かない。水夜は一度唇を離すと、今度はもう片方の胸に吸い付いた。そして空いた手で再び胸を愛撫し始める。
「ん……っ」
水蓮は必死に声を抑えた。しかし水夜は構わずに水蓮の体を弄ぶ。
「姉上とその巫がいる限り、僕たちの目的が果たされることはない。だからここで死んでもらうよ」
「っ……誰が……」
水夜は胸元から手を離すと、そのまま体を下の方へと移動させていく。そして内腿を撫で始めた。その擽ったさに思わず水蓮は身動ぎする。しかし縛られていては大した抵抗にもならない。むしろ自ら誘うような姿になっただけだ。それに気付いた水夜は小さく嗤う。
「まだ蜘蛛の毒は効いているみたいだね。随分よがっていたみたいだけど」
「其方があんなものを生み出すとは思っていなかった。木蓮に差し向けたやつもそうだ」
「あんなものとは酷いな。これこそ人間の醜い部分を詰め込んだ最高傑作さ」
水夜の横に蜘蛛の姿が浮かび上がる。水夜が手をかざすと、それは黒い煙のようになって、その手に吸い込まれていった。そして水夜はその手を再び水蓮の股間へと伸ばす。
「んん……っ」
「ほら、もうこんなに蜜が溢れてるじゃないか。さっきは随分お楽しみだったようだしね」
陰核を撫でられて、水蓮は小さく体を捩った。蜘蛛の毒が回ってからというもの、体はずっと火照っていたのだ。それを見透かされた気がして顔を背ける。しかし水夜はそのまま膣内に指を挿入した。中をかき回されると水蓮の口から艶めいた吐息が漏れる。指の数は次第に増えていった。
「ぅん……はぁ、あっ……」
水蓮は堪らず声を上げる。すると水夜は膣内から指を抜いた。
「このまま堕ちるがいい」
耳元で囁かれた低い声は、紛れもなく水夜のものだったが、別のものにも聞こえた。取り込んだ大蜘蛛のものが混ざり込んでいるのか。しかし水蓮の思考は直後の水夜の行動で寸断された。水夜は聳り立つ自身を水蓮に向けていた。
「楽しみだよ、姉上が堕ちる瞬間が」
水夜はそう言いながら水蓮の花弁にそれを擦りつける。首を横に振る水蓮をよそに、水夜はそれを一気に挿入した。
「んん……っ、あ」
水夜が動く度に水蓮の口から嬌声が上がる。蜘蛛糸で縛られて自由を奪われ、抵抗すらままならない状態で犯される。その屈辱感と絶望は計り知れなかった。しかし体は正直に反応してしまう。
「ほら見て。少しずつ呪いが広がってきた」
水夜の言葉に水蓮は唇を嚙んだ。水蓮の肌には水夜と同じような紋様が浮かび始めている。水蓮の浄化の力ではそれを防ぐことはできなかった。何度も突き上げられる内に、少しずつ理性が奪われていく。水夜のものが一際奥深くを突いた瞬間、水蓮は小さく声を上げた。
「あっ、やぁ……っ!」
水蓮はそのまま絶頂を迎えた。しかしそれでも水夜は止まらない。それどころか動きを速める始末だ。あまりの激しさに、水蓮の意識は飛びそうになるが、その度に強い快感で引き戻される。
「や……もう……っ!」
朦朧とする意識の中で、水蓮が思ったのは木蓮のことだった。今この瞬間も彼女は戦っているだろうか。どうか無事でいてほしい。――強く目を閉じて、そう願ったその時だった。
暗闇を裂く、鮮烈な白い花が見えた。
「まさか……!?」
水夜が驚きの声を上げる。同時に強い風が巻き起こり、水夜は危険を察知したのか水蓮から離れた。
「木、蓮……どうして……」
ここに来ることができないと思われていた木蓮が、刀の切先を水夜に突きつけている。その姿を認め、水蓮は力なく微笑んだ。
「……私はあなたを絶対に許さない」
木蓮が右足を深く踏み込み、警戒した水夜が影の蛇を繰り出す。しかし木蓮の刃は水夜とは別のところに向かった。
地面に向けられた切先から陣が広がる。それを水夜が認めた瞬間、目の前から木蓮たちの姿は完全に消え失せていた。
気が付けば、洞窟のような場所に水蓮はいた。この場所には覚えがある。この洞窟の最深部に水夜を封印したのだ。戦闘を得意としない水蓮にとって、弟の水夜は全力でも勝てる相手ではなかった。封印するのすら、その後に長い眠りを必要とした程だ。
「時間経過だけではなく、影の力もあるか……」
宿堤に取り憑いた鬼は木蓮を呪う影となったが、同時に水夜に力を与えてもいたのだろう。水蓮はその分を見誤っていた。
「吾だけになってしまうとは……厄介だな」
当然、水夜以外の鬼も襲ってくるだろう。その数がどのくらいかはわからないが、木蓮がいない状態でどこまで切り抜けられるだろうか。しかし迷っている暇はない。目の前のことを片付けるしかないのだ。
「早速お出ましのようだな」
瘴気を撒き散らしながら、四本足の巨大な生き物がこちらに向かってくる。もはや瘴気のせいでそれが元はどんなものだったのか判別がつかない。水蓮は敵に向かって手をかざす。
掌から放たれた水が、向かってくる巨大な獣に直撃した。しかし手応えがない。浄化はされているが、すぐに瘴気が供給されてしまう。それだけこの洞窟内の瘴気が濃いのだ。並の人間ならばここに足を踏み入れただけで瘴気に体を蝕まれる。水蓮と契りを結び、半分神となった木蓮でもあまり長い時間ここにいることはできないだろう。
水蓮は更に大量の水を発生させ、目の前の瘴気を浄化していく。しかしあまりにもきりがない。水蓮は一旦攻撃を止め、敵の出方を伺う。
「っ!」
巨大な獣が水蓮に向かって飛びかかる。それをかわした水蓮は、その獣の前足を水の刃で切り落とした。しかしすぐに再生してしまう。その上、奥からはさらに無数の気配がする。
「埒があかないな」
水蓮は再び手をかざし、顔ほどの大きさの水の珠を出した。そこに力を籠めると、洞窟内の瘴気が水の珠に吸われていく。鬼に力を与える瘴気を減らしてから攻撃すると、瘴気を纏った獣たちはあっという間に消し飛んだ。
「これで終わるとは思えぬが……ひとまず進むか」
ともかく最深部まで進む必要がある。水蓮は周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいった。
その時だった。
突然、水蓮の体が動かなくなる。まるで金縛りにあったかのように指一本動かすことができないのだ。強引に動かそうとしてもそもそも力が入らない。
『神トテコノ程度カ』
地の底から響いてくるような、水蓮を嘲る声。水蓮は右腕に力を集中させた。すると何かが千切れるような音が聞こえ、手が動かせるようになった。
「蜘蛛糸か」
それは不可視の蜘蛛の糸であった。見えない糸でいつの間にか全身を捕えられていたのだ。しかし力を集中させれば破れないものでもない。水蓮は動くようになった右腕で水の龍を出現させた。何もないように見えた空間に龍が飛び込むと、そこから水蓮の体の倍はありそうな巨大な蜘蛛の姿が見えた。
『ココヲ通スワケニハイカヌ』
「吾もこんなところで足止めをされるわけにはいかぬのだ」
水蓮は水の筋を生み出し、それを蜘蛛に向ける。しかしそれは蜘蛛に届く前に霧散した。見えない糸が張られている。しかもそれは瘴気の塊でもあるようだ。
(だとしても、吾の水すら通らぬとは)
これまでの瘴気とは質が違う。並大抵のやり方では浄化できないほどのものだ。
「ならば、こちらも全力でいかせてもらおう」
水蓮は水の龍を更に増やした。そして蜘蛛に向かって放つ。しかしやはり見えない壁に阻まれて届かない。それどころか、水蓮の力がどんどん吸い取られているようだ。
「くっ……何なのだ、これは……」
水蓮は何とか意識を集中し、水の龍を維持し続ける。しかし浄化はほとんどできなかった。そんなことは今までなかった。水蓮の浄化の力はこの国の多くの神の中でも上位に属するものだ。それなのに全く歯が立たない。瘴気には違いないが、あまりにも異質だ。
「おそらく、手を打たれているのだろうな」
水夜は水蓮の力をよく知っている。そもそも同じ神の神玉から生まれた存在だ。本来の力はかなり似通っている。それを利用して、水蓮の力に対抗できる瘴気を生み出したのかもしれない。それならこの状況を打破するには、水蓮のものではない別の力が必要になる。
(成程……それで木蓮と焔を向こうに残したのだな)
木蓮が人間であった頃なら、この瘴気には耐えられなかっただろう。しかし今の彼女は半分神のようなものだ。破格の霊力と水蓮の浄化の力、焔の増幅の力があれば倒せる相手かもしれない。おそらく二人もここに向かってはいるだろう。しかし当然邪魔も入るはずだ。二人が来るまで持ち堪えられるだろうか――水蓮がそう思った瞬間、蜘蛛の腹部が突然大きく裂ける。そしてそこから無数の黒い物体が飛び出してきた。
「くっ……」
それはまるで泡のように分裂し、洞窟内に広がっていく。その一つが水蓮にまとわりついてきたので、水蓮はそれを浄化しようと試みた。しかしその瞬間、その黒い塊から無数の白い蜘蛛糸が伸び、水蓮の体を包み込んだ。どうにか逃れようと力を使うが、水蓮の体はいつの間にか張られていた巨大な蜘蛛の巣に拘束されてしまった。
「蜘蛛風情が……」
『ソノ力、我ガ主ノ為ニ貰イ受ケヨウ』
「そう簡単に奪われてたまるものか」
水蓮は蜘蛛を睨みつけた。神が力を込めて睨めば大抵の者は怯んでしまう。しかし蜘蛛はそれを意に介さずに、口から糸を吐き出した。糸が触れた場所の服が溶けていく。服の下に隠れていたささやかな乳房が露わになると、蜘蛛はその頂を蜘蛛糸でくすぐった。
「っ……このようなことをして、赦されると……」
『赦サレル必要ナドナイ。ソノ力ガアレバ、災厄ハ解キ放タレル』
「誰が、力なぞ渡すものか……」
しかし体は全く自由にならなかった。抵抗すればするほどに力を吸われる糸だ。しかも水蓮の浄化の力は受け付けない。歯噛みしている水蓮の体を弄びながら、蜘蛛はその鋏角を水蓮の首筋に突き刺した。何かが流し込まれる感覚とともに、体が熱くなる。
『セメテ痛ミハ無クシテヤロウ。サア、悦ベ』
「くっ……無礼者……」
水蓮は必死に力を籠めるが、糸による拘束は全く解けない。そうしている間にも蜘蛛の鋏角から媚毒が流し込まれていく。体の内側からそれが広がっていく感覚に、水蓮は思わず呻き声をあげた。
「ぅぐっ……ううぅっ!」
それは快楽を与えると同時に、体を穢していく呪詛でもあった。普通の人間であれば一瞬で鬼となっているほどの瘴気だ。
『苦シイカ? ナラモットヨクシテヤロウ』
そう言うと、蜘蛛は水蓮の胸の飾りを弄る動きを速くする。その刺激でピンと立ち上がった小さな実に糸を巻きつけて引っ張ると、水蓮の口から微かな声が漏れた。
「く……ぅ……」
『ソラ、心地良イダロウ。ソノママ堕チテイクガイイ』
蜘蛛糸は形を変えながらも水蓮の胸を執拗に責め続けた。ツンと勃った乳首を撚り合わせた糸で押し潰し、擦り上げる。その度に水蓮は体を震わせた。しかし決して快楽に屈することはない。水蓮は歯を食いしばって耐え続ける。しかし蜘蛛は責めるのをやめなかった。胸だけではなく、脇腹や足などもその糸を筆のようにして刺激していく。
「んんっ……くぅ……」
水蓮は体を震わせ、必死に快感を逃そうとする。しかし糸による拘束はそれを許さない。蜘蛛の鋏角から流し込まれた瘴気もじわじわと体を侵していった。
(このまま堕とされるわけにはいかぬ)
けれど打開策を見つけることはできなかった。そのうち糸はするすると水蓮の足の付け根へと伸びていった。糸が秘められた泉を撫でると、蜘蛛が嗤う。
『神トテ所詮ハコンナモノダ』
濡れた音が響き、水蓮は歯噛みした。呪いで体を蝕まれている上に、力も徐々に吸い取られていっている。それなのに体は勝手に熱を持っていくのだ。
蜘蛛は既に愛液が溢れている水蓮の花弁と陰核を擦り始める。その上別の糸を陰核に巻きつけて軽く引っ張った。
「やめっ……ああぁっ!」
敏感な箇所への強烈な刺激を受けて、水蓮は思わず声を上げた。その声を楽しむように蜘蛛は何度も同じ場所を責め立てる。その度に水蓮の体が跳ねた。
『随分ト悦ンデイルヨウダナ』
「ん……そんな、わけ……っ」
『遠慮ハ要ラヌ』
蜘蛛は更に糸を増やして水蓮の花弁を擽る。その度に水蓮は甘い吐息を漏らした。愛液が絡まると、その糸も水蓮の中に侵入していく。そして膣内で蠢き始めた。
「ひっ……ああっ! やめ、……っ!」
『コレホド濡ラシテ何ヲ言ウ』
蜘蛛は嘲笑うかのように水蓮の膣から糸を引き抜き、それを見せつけた。蜘蛛糸はぬらぬらと光っており、水蓮は思わずそれから目を逸らした。
『口惜シカロウ……ダガ、我ラニ逆ラッタ者ニハ当然ノ報イダ』
そう言いながら蜘蛛は水蓮の膣内に再び糸を挿入する。そしてそれを激しく抜き差しし始めた。時折中で回転させながら、水蓮の弱い部分を擦り上げる。
「はぅ、あっ……んんっ!」
水蓮の顔が快楽に蕩け始めると、膣内で蠢く糸も激しさを増していった。思考が途切れ途切れになっていく。どうにかしてここから逃れなければならない。そうしなければ封印が解かれてしまう。それどころか全ての神力を奪われてしまったら、神として存在することができなくなってしまう。しかし水蓮の体は蜘蛛の糸に拘束されて動くことすらできない。
「あっ、あ……っ、やぁっ」
『サア、ソノ力ヲ我ラニ明ケ渡スノダ』
蜘蛛はそう言うと、水蓮の膣内で激しく動き回る糸の動きを速めた。そして同時に陰核に糸を巻きつけ、擦り上げる。
「っ……あああぁっ!」
強烈な快楽が水蓮を襲った。体が勝手に痙攣する。もう耐えられないと思ったときに、脳裏に浮かんだのは木蓮のことだった。
(あれを使えば、最悪の事態は避けられるか……? だが吾の力はこの蜘蛛には通用しない)
おそらく水夜がこの蜘蛛を用意したのだろう。元々普通の生物であったものが鬼になったものとは違い、本来の蜘蛛の性質とは随分違っている。水夜は自分が解放される力を得るためなら水蓮がどうなってもいいと思っているのだろう。
(そう易々と明け渡しはせぬ)
しかし水蓮の決意を嘲笑うように蜘蛛はその責めを激しくする。
「んあぁっ! んん……ああっ!」
水蓮の体は痙攣している。激しく抜き挿しされる度に透明な液体が地面に落ちる。もう限界が近かった。しかし蜘蛛はそれを許さない。
『ココマデ来テモ尚我ラニ逆ラウツモリカ』
蜘蛛はそう言うと、その糸を一気に引き抜いた。そして再び水蓮の中に勢いよく入り込み、その中に熱いものを撒き散らした。
「やあぁあああっ!」
水蓮は大きく体を震わせながら絶頂に達した。その間も蜘蛛の責めは止まらない。達したばかりでぐったりとした体を、更なる快楽が襲う。
「はっ……あぁああっ!」
膣内と陰核を同時に攻められ、水蓮は何度も絶頂を迎える。それでも蜘蛛の責めは止まらない。もはや苦痛に近い快楽に水蓮の瞳からは涙が溢れた。
『サア、力ヲ我ラニ捧ゲヨ』
「誰が……お前たちなどに……」
水蓮は必死に首を横に振る。その強情な様子に、蜘蛛は呆れたように嗤った。
『ナラバコレハドウダ?』
「ああぁっ!」
膣内で蠢く糸がその動きを激しくする。そしてそのまま抽挿を始めた。あまりの激しさに、水蓮の意識が朦朧としてくる。
『サア、ソノ全テヲ明ケ渡スノダ!』
蜘蛛はそう叫ぶと、再び熱いものを放った。それと同時に水蓮も大きく体を反らせて達する。その体から力が抜けると同時に、蜘蛛はその体から離れた。
(木蓮……)
出来る限りのことはした。しかしこれが限界だった。虚空にその美しい顔を思い浮かべながら、水蓮はその意識を手放した。
***
「あれだけやられて生きているとはね。姉上は実にしぶとい」
柔らかく笑う、懐かしい声が聞こえた。水蓮がはっと目を開くと、いつの間にかそこは洞窟の最深部になっていた。そして目の前に立つ、背の高い男――水蓮は掠れた声でその名を呼んだ。
「水、夜……」
「あれで力尽きてくれると思ったんだけどなぁ。あの子のやり方か」
蜘蛛には気付かれないように、自分自身の体に術を使った。浄化の力は効かないとわかっていたから、木蓮とは違う術を使ったのだ。自分自身の力に鍵をかけて、その全てを奪われることを防いだ。だからこそ今、水蓮は首の皮一枚で生きているのだ。
「あの子には散々苦しめられたな。何せ封印されているせいで、こちらは本来の力を出せなかったんだから」
全ては奪われなかったが、封印を解くのに必要な力は奪われてしまったらしい。こうなる前に手を打ちたかった。しかしこうなってしまった以上、次の手を考えなければならない。
「色々手を尽くしてあの子の力を貰おうとしたのに、まさか姉上があの子を娶ってしまうとはね」
水夜の目は異様な金色に光っている。かつては深い青の瞳であったが、堕ちたときに変わってしまったのだ。上半身には長手甲しか身につけていない。顕わになった胸板には鬼の呪いの紋様が這っている。蜘蛛の巣に囚われたままの水蓮の頬に水夜が触れた。長く黒い髪がその場の闇を深くする。
「色々と邪魔は入ったけれど、これで目的は達成された」
「……これ以上好きにさせるつもりはないぞ」
「無駄だよ。だって姉上はここで死ぬのだから。助けも来ないよ。邑にもあの子たちの前にも強い鬼を送り込んだから」
封印が解けたことで、全ての力を使えるようになったのだろう。そんな状態で送り込まれた強い鬼に木蓮たちは対抗できるのか。水蓮は歯噛みして水夜を睨めつけた。
「木蓮に何かあったら、今度こそ其方を赦さぬぞ」
「へえ、それじゃあ今までは少しは赦すつもりがあったってこと? 相変わらずお優しいことだ」
「そんなふざけた態度でいられるのも今のうちだ」
水夜の手がゆっくりと水蓮の首筋をなぞって下りていく。その手は先程まで散々弄ばれていた水蓮の胸に伸びた。
「もう動くこともできないくせに」
「く……っ、離せ……」
「これから自分がどうなるかわかる?」
そう言うと水夜は水蓮の胸元に顔を近づける。そしてそのままその頂を口に含んだ。
「あぁっ!」
舌で転がされ、強く吸われて水蓮は声を上げた。何とか逃れようと身を捩るが、拘束されている体は動かない。水夜は一度唇を離すと、今度はもう片方の胸に吸い付いた。そして空いた手で再び胸を愛撫し始める。
「ん……っ」
水蓮は必死に声を抑えた。しかし水夜は構わずに水蓮の体を弄ぶ。
「姉上とその巫がいる限り、僕たちの目的が果たされることはない。だからここで死んでもらうよ」
「っ……誰が……」
水夜は胸元から手を離すと、そのまま体を下の方へと移動させていく。そして内腿を撫で始めた。その擽ったさに思わず水蓮は身動ぎする。しかし縛られていては大した抵抗にもならない。むしろ自ら誘うような姿になっただけだ。それに気付いた水夜は小さく嗤う。
「まだ蜘蛛の毒は効いているみたいだね。随分よがっていたみたいだけど」
「其方があんなものを生み出すとは思っていなかった。木蓮に差し向けたやつもそうだ」
「あんなものとは酷いな。これこそ人間の醜い部分を詰め込んだ最高傑作さ」
水夜の横に蜘蛛の姿が浮かび上がる。水夜が手をかざすと、それは黒い煙のようになって、その手に吸い込まれていった。そして水夜はその手を再び水蓮の股間へと伸ばす。
「んん……っ」
「ほら、もうこんなに蜜が溢れてるじゃないか。さっきは随分お楽しみだったようだしね」
陰核を撫でられて、水蓮は小さく体を捩った。蜘蛛の毒が回ってからというもの、体はずっと火照っていたのだ。それを見透かされた気がして顔を背ける。しかし水夜はそのまま膣内に指を挿入した。中をかき回されると水蓮の口から艶めいた吐息が漏れる。指の数は次第に増えていった。
「ぅん……はぁ、あっ……」
水蓮は堪らず声を上げる。すると水夜は膣内から指を抜いた。
「このまま堕ちるがいい」
耳元で囁かれた低い声は、紛れもなく水夜のものだったが、別のものにも聞こえた。取り込んだ大蜘蛛のものが混ざり込んでいるのか。しかし水蓮の思考は直後の水夜の行動で寸断された。水夜は聳り立つ自身を水蓮に向けていた。
「楽しみだよ、姉上が堕ちる瞬間が」
水夜はそう言いながら水蓮の花弁にそれを擦りつける。首を横に振る水蓮をよそに、水夜はそれを一気に挿入した。
「んん……っ、あ」
水夜が動く度に水蓮の口から嬌声が上がる。蜘蛛糸で縛られて自由を奪われ、抵抗すらままならない状態で犯される。その屈辱感と絶望は計り知れなかった。しかし体は正直に反応してしまう。
「ほら見て。少しずつ呪いが広がってきた」
水夜の言葉に水蓮は唇を嚙んだ。水蓮の肌には水夜と同じような紋様が浮かび始めている。水蓮の浄化の力ではそれを防ぐことはできなかった。何度も突き上げられる内に、少しずつ理性が奪われていく。水夜のものが一際奥深くを突いた瞬間、水蓮は小さく声を上げた。
「あっ、やぁ……っ!」
水蓮はそのまま絶頂を迎えた。しかしそれでも水夜は止まらない。それどころか動きを速める始末だ。あまりの激しさに、水蓮の意識は飛びそうになるが、その度に強い快感で引き戻される。
「や……もう……っ!」
朦朧とする意識の中で、水蓮が思ったのは木蓮のことだった。今この瞬間も彼女は戦っているだろうか。どうか無事でいてほしい。――強く目を閉じて、そう願ったその時だった。
暗闇を裂く、鮮烈な白い花が見えた。
「まさか……!?」
水夜が驚きの声を上げる。同時に強い風が巻き起こり、水夜は危険を察知したのか水蓮から離れた。
「木、蓮……どうして……」
ここに来ることができないと思われていた木蓮が、刀の切先を水夜に突きつけている。その姿を認め、水蓮は力なく微笑んだ。
「……私はあなたを絶対に許さない」
木蓮が右足を深く踏み込み、警戒した水夜が影の蛇を繰り出す。しかし木蓮の刃は水夜とは別のところに向かった。
地面に向けられた切先から陣が広がる。それを水夜が認めた瞬間、目の前から木蓮たちの姿は完全に消え失せていた。
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