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二十一・水に咲く
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龍の長い尾が木蓮の腰に巻き付く。木蓮は足元の水の上に横たわって龍を受け入れる。
「綺麗……」
銀の鱗は身じろぎの度に色を変える。それは光を浴びた川の水面にも似ていた。鱗が白い肌に擦れる。痛みはなかった。身体中に巻きついた龍は木蓮を捕らえてはいるが、きつくも緩くもない力加減で、まるで水の中で揺蕩っているようだった。身体をゆっくりと這う龍は、木蓮の呪いを祓うために動いているのだとわかっていても、その神気で浮遊感のような快楽を呼び起こしていく。
「ん、はぁ……あ……っ」
肌を龍が撫でていったとき、思わず口をついたのは甘い嬌声だった。
「吾に身を任せよ。その方が浄化もやりやすい」
「あ……っ、あ、ん」
木蓮は甘い声をあげながら頷いた。龍の尾が木蓮の脚の間を擦り上げる。そこはすでに熱を持っていた。木蓮の体が震える。
「……っ! ん、んんっ」
横たわる水が動き始め、木蓮の体をなぞる。鬼の呪いの紋様はそれだけで少し薄くなっていった。透明な水がほのかに色づいた木蓮の胸の実を包み込む。
「ん、はぁ……あ……っ」
木蓮は快楽に身を委ねて声を上げた。水は包み込んだ乳首を優しく摘み上げたり、軽く転がしたりして、木蓮に快感を与える。その間にも龍は木蓮の体をなぞるようにゆっくりと動いていた。
「……っ、あ……」
体の奥から熱が下りてくる。木蓮の内腿を伝う一筋を龍神は見逃さなかった。龍神は指ほどに細くした水を動かし、濡れた秘部の襞をなぞった。ひくり、と木蓮の腹が動く。鬼と戦うために鍛えられた体は、華奢ではあるが筋肉質だ。微かな筋肉の動きもよくわかる。木蓮の秘所が充分に潤んでいることを確認した龍神は、ゆっくりと水の筋をその中へ潜り込ませた。
「ふ……っ、う……ん……っ」
「痛むか?」
「ん……大丈夫……」
むしろ心地よさすら感じていた。体から毒が抜けていく感覚はいつもと同じはずなのに、心も身体も水の上をゆらゆらと揺蕩っているようだ。
「ん……もっと……っ」
思わず口を突いて出た言葉も、そのまま宙に浮いていく。龍神は木蓮の言葉に応えるように細い水の筋を二本、更に木蓮の膣内に潜り込ませた。
「ぁ……ん、なか……きもち……い……」
重かった体が軽くなっていく。呪いが抜けていく感覚と与えられる快楽を味わいながら木蓮は目を細めた。
本当はずっと、この感覚に溺れてしまいたかった。それは水の冷たさを湛えながらも温かい、木蓮がこれまで知らなかった温もりだった。龍神は水を操りながらもその体を木蓮に密着させていた。龍の体は少し冷たい。けれどどこか安心する冷たさであった。木蓮は心地よさに目を細める。そのとき、木蓮を傷つけないように優しく、けれど自在に動いていた水の筋の一つがある場所に触れた。
「あっ、ぁ、ああ……っ、そこ……っ」
龍神は木蓮の言葉に応えるように、執拗にその場所を刺激した。木蓮の腰が揺れる。絶頂が近いことは誰の目にも明らかだった。
しかし龍神は木蓮の中から水を抜いてしまった。木蓮は腿に触れる感触に少し驚いて龍神の青い瞳を見つめる。
「――吾が力を直接注いでも構わぬか?」
「直接……って」
木蓮が首を傾げると、龍神は少し躊躇いがちに応える。
「これまでは、この水を媒介としていた。人の身が神の力に負けぬようにそうしてきたのだ。だが、今なら――」
つまりは龍神の体の一部を直接木蓮の中に入れるということだ。龍神を受け入れることに対する迷いはない。木蓮は頷いた。しかし同時に龍神の首を引き寄せるようにして言った。
「――名前を教えてほしいの」
大水津薙命というのは、龍神の父と、そこから生み出された龍神とその弟の三柱を指す名前だ。しかし龍神の弟に名があるのであれば、当然龍神にも固有の名があるはずだ。かつて焔は「易々と本当の名を教えるものではない」と言っていた。けれど水を媒介とせずに龍神を直接受け入れるのなら、その本当の名を知りたかったのだ。
「……名前か」
「駄目……かな?」
「いや……吾らは契りを結んだ。ならば」
龍神にしがみつくようにしている木蓮の耳元に龍神は顔を近付いた。優しくも厳かな声で告げる。
「――水蓮だ」
木蓮はその響きを確かめるように龍神の名を繰り返した。それは初めて聞いた名であるのに、不思議と木蓮の耳によく馴染んだ。
「水、蓮……私の名前と……」
「そうだな。其方の名とよく似ている」
木蓮は少し掠れた声でその名を呼ぶ。それが合図になったかのように、龍神――水蓮は自らの昂りを木蓮にゆっくりと突き入れた。
「ん、あ、あぁ……っ」
これまで解かれた箇所が水蓮の昂りを容易に飲み込んでいく。内壁を擦られる快楽が木蓮の意識をかき乱していった。
「痛くはないか?」
「ん、ぁあ……っ、大丈夫、きもちい……」
水蓮は愛おしげに目を細めてゆっくりと龍の体を動かした。その度に木蓮の内側が擦られ、木蓮は甘い声を上げる。木蓮の秘部から溢れた蜜が水に波紋を描いていく。けれど二人はそれには目をくれることもなく、ただ互いに溺れていくように体を絡ませた。
「ぁ……ん、んんっ、は……ぁあ、あんっ」
龍の鱗が木蓮の体をなぞっていく。ただ肌を触れ合わせるだけの行為がたまらなく心地いい。呪いに侵された体から少しずつ黒い霧が晴れていくのを木蓮は感じていた。
「……っ、はぁ……」
水蓮は木蓮の首筋から頬にかけてを長い舌で舐め上げる。その刺激にすら木蓮は甘い声を上げた。そして水蓮のものが最奥を突いた瞬間、木蓮は大きく背をしならせた。
「あ……っ、あああっ!」
「っ、く……」
同時に木蓮の中に何かが吐き出された。それは精とは違うものだ。呪いの歪な熱を冷ましていくような冷たさ。透明な花のようなそれは紛れもなく水蓮の神気なのだと木蓮は感じた。
木蓮の中から龍がそっと抜け出す。木蓮はそれに寂寥感さえ抱いてしまった。
水蓮は少女のような姿に戻ると、水の上に横たわる木蓮の体をゆっくりと撫でた。水蓮は安堵の溜息を漏らしながら言った。
「呪いも浄化できたようだし……体に変化もないようだな」
木蓮が水蓮を見つめると、水蓮はわずかに目を伏せて言った。
「契りを結んだとしても、神の力を受け止めきれないこともある。何事もないのならば安心だ」
「……むしろ、もっと欲しいくらいだったけど……」
木蓮が言うと、水蓮は扇を広げながら笑みを浮かべた。
「つくづく強欲な娘よ。その言葉、後悔しても知らぬぞ?」
水蓮が扇を閉じると、足元に湛えられた水から透明な筋がいくつも現れた。それは木蓮の体に巻き付き、木蓮の動きを封じていく。
「あ……っ」
水蓮が木蓮の顎に扇を軽く当てた。すると木蓮はそれだけで指一本さえ動かせないようになってしまう。
「なに、其方を害するつもりはない。ただ――」
水蓮はその双眸で真っ直ぐに木蓮を見つめた。穏やかな青い瞳だと思っていたのに、それは深い湖の底のように光を吸い込んでいくような色だった。けれどそれに恐怖を感じることはない。むしろその眼差しに囚われたいとさえ思ったのだ。木蓮は水蓮の瞳を見つめ返しながら、これから何が起こるのかと胸を高鳴らせていた。
「もう遠慮は要らぬようだからな」
「水、蓮……ああ、っ……」
「これまで堪えていた分、その体に味わわせてやろう」
水蓮は扇を高く掲げると、それを一気に振り下ろした。
それに合わせて無数の水の筋が現れ、一斉に木蓮の体を目指す。
「あっ! あ、あああ……っ!」
水の筋は木蓮の全身に絡みつき、その肌をなぞり、敏感な場所をくすぐる。
「あ、っ……ん、はぁ……」
水蓮が木蓮の顎を捕らえてその唇を吸う。無遠慮に口内に侵入してきた舌が木蓮の舌に絡みつく。木蓮は自ら舌を絡めて応えた。水蓮の唾液はどこか甘く、もっと味わいたいとさえ思った。
「んっ! あ……っ!」
深い口づけのあとで、二人の唇を銀の糸が繋ぐ。しかしそれが切れる前に無数の水の筋が木蓮の呼吸を乱していく。水の筋は胸だけではなく、内腿や脇腹にも絡みつき、木蓮の敏感な場所を刺激していく。木蓮は水の上で身悶えた。複数の場所に同時に与えられる刺激で、もう何も考えられなくなっていく。
「はぁ……っ、あ、あぁ……」
水蓮が木蓮の下肢に手を伸ばした。そこはもうしとどに濡れている。水蓮はそこにも水の筋を這わせた。そしてそのままゆっくりと秘裂に潜り込む。
「ん、はぁ……あっ!」
木蓮は身を捩らせてそれを受け入れた。指で内壁を擦られる快楽と水の愛撫を同時に受けるのは初めてのことだ。水蓮が指を動かせばその分だけ体の内に振動が生まれていく。
「あ、っ……う……んっ」
膣内をかき回すように動く指の感触に木蓮は身悶えた。そしてそれは次第に本数を増やして木蓮を攻め立てる。
「ひ……ぁ! あ、ああ……す、い……れん……っ、もう……」
「もう果ててしまいそうか? 堪える必要はないぞ」
「あ、っ……あああっ!」
水蓮が指を軽く折り曲げて内側の一点を押し上げた。その瞬間に木蓮は達してしまった。深い快楽に体は小刻みに震えている。しかしそれはすぐに別の快楽に塗り替えられていく。
「んんっ! あ、はぁ……」
水蓮が木蓮の中に挿入した指を動かす。絶頂したばかりだというのに遠慮はなく、水の筋も操り木蓮を更なる悦楽に押し上げていった。再び果てても水蓮の動きは止まらない。けれど木蓮は水蓮がしっかりと木蓮の様子を見ていることに気が付いていた。木蓮の欲を読み取り、求めるがままに与えているのだ。
「ずっとこうしたかったのだと言ったら、其方は吾を軽蔑するか?」
木蓮は喘ぎながら首を横に振った。そんなことをするわけがない。今触れられていることにこの上ない喜びを感じているのだ。しかもこれまでは木蓮を気遣い、その欲望を隠していたのだ。その姿をいじらしいと思うことはあっても、軽蔑することなどないだろう。
結ばれた今、遮るものは何もない。木蓮は水蓮の全てを受け入れるように体の力を抜き、微笑みを浮かべた。
「私、は……もっと、あなたが欲しい……」
そう告げた瞬間、再び体の内に何か熱いものが満ちた。木蓮はその感覚に息を呑みながら身悶える。まるで無数の針が同時に体中を刺したような感覚が全身に広がっていく。しかしそれは痛みではない。甘い愉悦と強烈な多幸感だ。
「あ、ああ……っ」
「其方は本当に愛らしいな。そして――美しい」
水蓮は木蓮の頬を撫でると、細い水の筋を更に奥に進ませていった。それはゆっくりと木蓮の子宮の中に入り込み、そこから更に枝分かれして木蓮の内側を刺激した。その場所が水蓮の水で満たされていく感覚に木蓮は体を震わせた。
「ん、やぁ……っ、も……ああ……っ、すい、れん……んん、ああっ!」
木蓮が背中を反らして果てる。気を遣って力が抜けた木蓮の体を水で受け止めながら、水蓮は深く息を吐き出した。
***
木蓮が次に目を覚ましたときには、三日ほどが過ぎていた。木蓮は水の上に腰掛ける水蓮の横に見知った姿を見つけて目を見開いた。
「焔さん……!」
「心配かけたわね。ご覧の通りもう元気だから安心して」
影から木蓮を守るために酷い傷を負った焔は、傷を癒すために主である宇迦之御魂のところに戻っていた。確かに本人が言うように元気になったように見える。木蓮は安心して微笑んだ。
「私がいない間に色々あったみたいね。大体のところはさっき聞いたし、私としては落ち着くところに落ち着いたという感じだけれど」
「落ち着くところに……?」
「それはこっちの話。とりあえずこれからのことで大事な話があるらしいわよ」
焔が水蓮に水を向ける。水蓮は音を立てて扇を閉じ、木蓮をまっすぐ見つめた。
「其方は今でも鬼を倒したいと思っておるか? 吾が伴侶となった今、其方はあの邑の巫ではない。それでも尚、鬼を討ち果たしたいと思うか?」
木蓮は迷いなく頷いた。神の伴侶となり、人の理から外れた存在となったとしても、心まで変わったわけではない。幼い自分の幸福を全て壊した鬼に対する憎しみと怒りは変わらずにそこにある。それが水蓮の弟だと知っても、幼い頃から抱き続けてきた思いは容易には動かせないものだった。力強く頷いた木蓮を見ながら、水蓮は再び扇を開いた。
「ならば良し。これまでは後手に回って来たが、そろそろこちらから仕掛けるとしよう」
「こちらから仕掛けるって?」
「少なくとも吾がかつて施した封印は弱まりつつある。再び封じるか倒すことになるかはわからぬが、このまま指を咥えて見ているわけにはいかぬ」
水夜はかつて水蓮がかけた封印を解こうとしている。そのために木蓮を鬼にして自分の側に引き込もうとしていた。しかし木蓮が水蓮と結ばれたことによってそれは阻止された。
だが、おそらく他にも手を考えているだろうというのが水蓮の見立てだった。
「邑長の子が鬼に取り憑かれている状態はとても看過できるものではない。それこそ、あの邑の人間を滅ぼし、まとめて鬼にすれば封印を破るほどの力にもなるだろう」
「それは……」
「そうなる前に止めねばならぬ。そのためには其方の力を借りねばならぬのだ」
木蓮は頷いた。覚悟はとうにできている。この命を捧げても鬼を倒すとかつて誓ったのだ。
「木蓮ちゃん一人と邑の人間全員の霊力が拮抗しているというのが驚きだけれどね……」
焔が呟く。元々、母である緑波も父である那久弥も霊力が強かった。その子供である木蓮も生まれつき霊力が強かったが、それでも普通の人間の範疇であった。しかし父が鬼となり、母を目の前で殺されたあの日に箍が外れてしまったらしい。人の身に余る力を抱えながら、それを制御する術を身につけてこれまで生きてきた。
だが神と契りを結び、半神となった今、その力がどこまで使えるかは未知数であった。木蓮は自分の手をじっと見つめたあとで、ゆっくり拳を握った。
「まずはあの男に憑いた鬼を払わねばならぬ。そのために――宴をしよう」
不敵な笑みを浮かべて水蓮が言う。木蓮はその言葉に気合いを入れ、暫くしてから冷静になり水蓮に尋ねた。
「……宴?」
「吾らが結ばれたことを邑総出で三日三晩祝ってもらうのだ。宴は穢れを払うものであるからな」
「綺麗……」
銀の鱗は身じろぎの度に色を変える。それは光を浴びた川の水面にも似ていた。鱗が白い肌に擦れる。痛みはなかった。身体中に巻きついた龍は木蓮を捕らえてはいるが、きつくも緩くもない力加減で、まるで水の中で揺蕩っているようだった。身体をゆっくりと這う龍は、木蓮の呪いを祓うために動いているのだとわかっていても、その神気で浮遊感のような快楽を呼び起こしていく。
「ん、はぁ……あ……っ」
肌を龍が撫でていったとき、思わず口をついたのは甘い嬌声だった。
「吾に身を任せよ。その方が浄化もやりやすい」
「あ……っ、あ、ん」
木蓮は甘い声をあげながら頷いた。龍の尾が木蓮の脚の間を擦り上げる。そこはすでに熱を持っていた。木蓮の体が震える。
「……っ! ん、んんっ」
横たわる水が動き始め、木蓮の体をなぞる。鬼の呪いの紋様はそれだけで少し薄くなっていった。透明な水がほのかに色づいた木蓮の胸の実を包み込む。
「ん、はぁ……あ……っ」
木蓮は快楽に身を委ねて声を上げた。水は包み込んだ乳首を優しく摘み上げたり、軽く転がしたりして、木蓮に快感を与える。その間にも龍は木蓮の体をなぞるようにゆっくりと動いていた。
「……っ、あ……」
体の奥から熱が下りてくる。木蓮の内腿を伝う一筋を龍神は見逃さなかった。龍神は指ほどに細くした水を動かし、濡れた秘部の襞をなぞった。ひくり、と木蓮の腹が動く。鬼と戦うために鍛えられた体は、華奢ではあるが筋肉質だ。微かな筋肉の動きもよくわかる。木蓮の秘所が充分に潤んでいることを確認した龍神は、ゆっくりと水の筋をその中へ潜り込ませた。
「ふ……っ、う……ん……っ」
「痛むか?」
「ん……大丈夫……」
むしろ心地よさすら感じていた。体から毒が抜けていく感覚はいつもと同じはずなのに、心も身体も水の上をゆらゆらと揺蕩っているようだ。
「ん……もっと……っ」
思わず口を突いて出た言葉も、そのまま宙に浮いていく。龍神は木蓮の言葉に応えるように細い水の筋を二本、更に木蓮の膣内に潜り込ませた。
「ぁ……ん、なか……きもち……い……」
重かった体が軽くなっていく。呪いが抜けていく感覚と与えられる快楽を味わいながら木蓮は目を細めた。
本当はずっと、この感覚に溺れてしまいたかった。それは水の冷たさを湛えながらも温かい、木蓮がこれまで知らなかった温もりだった。龍神は水を操りながらもその体を木蓮に密着させていた。龍の体は少し冷たい。けれどどこか安心する冷たさであった。木蓮は心地よさに目を細める。そのとき、木蓮を傷つけないように優しく、けれど自在に動いていた水の筋の一つがある場所に触れた。
「あっ、ぁ、ああ……っ、そこ……っ」
龍神は木蓮の言葉に応えるように、執拗にその場所を刺激した。木蓮の腰が揺れる。絶頂が近いことは誰の目にも明らかだった。
しかし龍神は木蓮の中から水を抜いてしまった。木蓮は腿に触れる感触に少し驚いて龍神の青い瞳を見つめる。
「――吾が力を直接注いでも構わぬか?」
「直接……って」
木蓮が首を傾げると、龍神は少し躊躇いがちに応える。
「これまでは、この水を媒介としていた。人の身が神の力に負けぬようにそうしてきたのだ。だが、今なら――」
つまりは龍神の体の一部を直接木蓮の中に入れるということだ。龍神を受け入れることに対する迷いはない。木蓮は頷いた。しかし同時に龍神の首を引き寄せるようにして言った。
「――名前を教えてほしいの」
大水津薙命というのは、龍神の父と、そこから生み出された龍神とその弟の三柱を指す名前だ。しかし龍神の弟に名があるのであれば、当然龍神にも固有の名があるはずだ。かつて焔は「易々と本当の名を教えるものではない」と言っていた。けれど水を媒介とせずに龍神を直接受け入れるのなら、その本当の名を知りたかったのだ。
「……名前か」
「駄目……かな?」
「いや……吾らは契りを結んだ。ならば」
龍神にしがみつくようにしている木蓮の耳元に龍神は顔を近付いた。優しくも厳かな声で告げる。
「――水蓮だ」
木蓮はその響きを確かめるように龍神の名を繰り返した。それは初めて聞いた名であるのに、不思議と木蓮の耳によく馴染んだ。
「水、蓮……私の名前と……」
「そうだな。其方の名とよく似ている」
木蓮は少し掠れた声でその名を呼ぶ。それが合図になったかのように、龍神――水蓮は自らの昂りを木蓮にゆっくりと突き入れた。
「ん、あ、あぁ……っ」
これまで解かれた箇所が水蓮の昂りを容易に飲み込んでいく。内壁を擦られる快楽が木蓮の意識をかき乱していった。
「痛くはないか?」
「ん、ぁあ……っ、大丈夫、きもちい……」
水蓮は愛おしげに目を細めてゆっくりと龍の体を動かした。その度に木蓮の内側が擦られ、木蓮は甘い声を上げる。木蓮の秘部から溢れた蜜が水に波紋を描いていく。けれど二人はそれには目をくれることもなく、ただ互いに溺れていくように体を絡ませた。
「ぁ……ん、んんっ、は……ぁあ、あんっ」
龍の鱗が木蓮の体をなぞっていく。ただ肌を触れ合わせるだけの行為がたまらなく心地いい。呪いに侵された体から少しずつ黒い霧が晴れていくのを木蓮は感じていた。
「……っ、はぁ……」
水蓮は木蓮の首筋から頬にかけてを長い舌で舐め上げる。その刺激にすら木蓮は甘い声を上げた。そして水蓮のものが最奥を突いた瞬間、木蓮は大きく背をしならせた。
「あ……っ、あああっ!」
「っ、く……」
同時に木蓮の中に何かが吐き出された。それは精とは違うものだ。呪いの歪な熱を冷ましていくような冷たさ。透明な花のようなそれは紛れもなく水蓮の神気なのだと木蓮は感じた。
木蓮の中から龍がそっと抜け出す。木蓮はそれに寂寥感さえ抱いてしまった。
水蓮は少女のような姿に戻ると、水の上に横たわる木蓮の体をゆっくりと撫でた。水蓮は安堵の溜息を漏らしながら言った。
「呪いも浄化できたようだし……体に変化もないようだな」
木蓮が水蓮を見つめると、水蓮はわずかに目を伏せて言った。
「契りを結んだとしても、神の力を受け止めきれないこともある。何事もないのならば安心だ」
「……むしろ、もっと欲しいくらいだったけど……」
木蓮が言うと、水蓮は扇を広げながら笑みを浮かべた。
「つくづく強欲な娘よ。その言葉、後悔しても知らぬぞ?」
水蓮が扇を閉じると、足元に湛えられた水から透明な筋がいくつも現れた。それは木蓮の体に巻き付き、木蓮の動きを封じていく。
「あ……っ」
水蓮が木蓮の顎に扇を軽く当てた。すると木蓮はそれだけで指一本さえ動かせないようになってしまう。
「なに、其方を害するつもりはない。ただ――」
水蓮はその双眸で真っ直ぐに木蓮を見つめた。穏やかな青い瞳だと思っていたのに、それは深い湖の底のように光を吸い込んでいくような色だった。けれどそれに恐怖を感じることはない。むしろその眼差しに囚われたいとさえ思ったのだ。木蓮は水蓮の瞳を見つめ返しながら、これから何が起こるのかと胸を高鳴らせていた。
「もう遠慮は要らぬようだからな」
「水、蓮……ああ、っ……」
「これまで堪えていた分、その体に味わわせてやろう」
水蓮は扇を高く掲げると、それを一気に振り下ろした。
それに合わせて無数の水の筋が現れ、一斉に木蓮の体を目指す。
「あっ! あ、あああ……っ!」
水の筋は木蓮の全身に絡みつき、その肌をなぞり、敏感な場所をくすぐる。
「あ、っ……ん、はぁ……」
水蓮が木蓮の顎を捕らえてその唇を吸う。無遠慮に口内に侵入してきた舌が木蓮の舌に絡みつく。木蓮は自ら舌を絡めて応えた。水蓮の唾液はどこか甘く、もっと味わいたいとさえ思った。
「んっ! あ……っ!」
深い口づけのあとで、二人の唇を銀の糸が繋ぐ。しかしそれが切れる前に無数の水の筋が木蓮の呼吸を乱していく。水の筋は胸だけではなく、内腿や脇腹にも絡みつき、木蓮の敏感な場所を刺激していく。木蓮は水の上で身悶えた。複数の場所に同時に与えられる刺激で、もう何も考えられなくなっていく。
「はぁ……っ、あ、あぁ……」
水蓮が木蓮の下肢に手を伸ばした。そこはもうしとどに濡れている。水蓮はそこにも水の筋を這わせた。そしてそのままゆっくりと秘裂に潜り込む。
「ん、はぁ……あっ!」
木蓮は身を捩らせてそれを受け入れた。指で内壁を擦られる快楽と水の愛撫を同時に受けるのは初めてのことだ。水蓮が指を動かせばその分だけ体の内に振動が生まれていく。
「あ、っ……う……んっ」
膣内をかき回すように動く指の感触に木蓮は身悶えた。そしてそれは次第に本数を増やして木蓮を攻め立てる。
「ひ……ぁ! あ、ああ……す、い……れん……っ、もう……」
「もう果ててしまいそうか? 堪える必要はないぞ」
「あ、っ……あああっ!」
水蓮が指を軽く折り曲げて内側の一点を押し上げた。その瞬間に木蓮は達してしまった。深い快楽に体は小刻みに震えている。しかしそれはすぐに別の快楽に塗り替えられていく。
「んんっ! あ、はぁ……」
水蓮が木蓮の中に挿入した指を動かす。絶頂したばかりだというのに遠慮はなく、水の筋も操り木蓮を更なる悦楽に押し上げていった。再び果てても水蓮の動きは止まらない。けれど木蓮は水蓮がしっかりと木蓮の様子を見ていることに気が付いていた。木蓮の欲を読み取り、求めるがままに与えているのだ。
「ずっとこうしたかったのだと言ったら、其方は吾を軽蔑するか?」
木蓮は喘ぎながら首を横に振った。そんなことをするわけがない。今触れられていることにこの上ない喜びを感じているのだ。しかもこれまでは木蓮を気遣い、その欲望を隠していたのだ。その姿をいじらしいと思うことはあっても、軽蔑することなどないだろう。
結ばれた今、遮るものは何もない。木蓮は水蓮の全てを受け入れるように体の力を抜き、微笑みを浮かべた。
「私、は……もっと、あなたが欲しい……」
そう告げた瞬間、再び体の内に何か熱いものが満ちた。木蓮はその感覚に息を呑みながら身悶える。まるで無数の針が同時に体中を刺したような感覚が全身に広がっていく。しかしそれは痛みではない。甘い愉悦と強烈な多幸感だ。
「あ、ああ……っ」
「其方は本当に愛らしいな。そして――美しい」
水蓮は木蓮の頬を撫でると、細い水の筋を更に奥に進ませていった。それはゆっくりと木蓮の子宮の中に入り込み、そこから更に枝分かれして木蓮の内側を刺激した。その場所が水蓮の水で満たされていく感覚に木蓮は体を震わせた。
「ん、やぁ……っ、も……ああ……っ、すい、れん……んん、ああっ!」
木蓮が背中を反らして果てる。気を遣って力が抜けた木蓮の体を水で受け止めながら、水蓮は深く息を吐き出した。
***
木蓮が次に目を覚ましたときには、三日ほどが過ぎていた。木蓮は水の上に腰掛ける水蓮の横に見知った姿を見つけて目を見開いた。
「焔さん……!」
「心配かけたわね。ご覧の通りもう元気だから安心して」
影から木蓮を守るために酷い傷を負った焔は、傷を癒すために主である宇迦之御魂のところに戻っていた。確かに本人が言うように元気になったように見える。木蓮は安心して微笑んだ。
「私がいない間に色々あったみたいね。大体のところはさっき聞いたし、私としては落ち着くところに落ち着いたという感じだけれど」
「落ち着くところに……?」
「それはこっちの話。とりあえずこれからのことで大事な話があるらしいわよ」
焔が水蓮に水を向ける。水蓮は音を立てて扇を閉じ、木蓮をまっすぐ見つめた。
「其方は今でも鬼を倒したいと思っておるか? 吾が伴侶となった今、其方はあの邑の巫ではない。それでも尚、鬼を討ち果たしたいと思うか?」
木蓮は迷いなく頷いた。神の伴侶となり、人の理から外れた存在となったとしても、心まで変わったわけではない。幼い自分の幸福を全て壊した鬼に対する憎しみと怒りは変わらずにそこにある。それが水蓮の弟だと知っても、幼い頃から抱き続けてきた思いは容易には動かせないものだった。力強く頷いた木蓮を見ながら、水蓮は再び扇を開いた。
「ならば良し。これまでは後手に回って来たが、そろそろこちらから仕掛けるとしよう」
「こちらから仕掛けるって?」
「少なくとも吾がかつて施した封印は弱まりつつある。再び封じるか倒すことになるかはわからぬが、このまま指を咥えて見ているわけにはいかぬ」
水夜はかつて水蓮がかけた封印を解こうとしている。そのために木蓮を鬼にして自分の側に引き込もうとしていた。しかし木蓮が水蓮と結ばれたことによってそれは阻止された。
だが、おそらく他にも手を考えているだろうというのが水蓮の見立てだった。
「邑長の子が鬼に取り憑かれている状態はとても看過できるものではない。それこそ、あの邑の人間を滅ぼし、まとめて鬼にすれば封印を破るほどの力にもなるだろう」
「それは……」
「そうなる前に止めねばならぬ。そのためには其方の力を借りねばならぬのだ」
木蓮は頷いた。覚悟はとうにできている。この命を捧げても鬼を倒すとかつて誓ったのだ。
「木蓮ちゃん一人と邑の人間全員の霊力が拮抗しているというのが驚きだけれどね……」
焔が呟く。元々、母である緑波も父である那久弥も霊力が強かった。その子供である木蓮も生まれつき霊力が強かったが、それでも普通の人間の範疇であった。しかし父が鬼となり、母を目の前で殺されたあの日に箍が外れてしまったらしい。人の身に余る力を抱えながら、それを制御する術を身につけてこれまで生きてきた。
だが神と契りを結び、半神となった今、その力がどこまで使えるかは未知数であった。木蓮は自分の手をじっと見つめたあとで、ゆっくり拳を握った。
「まずはあの男に憑いた鬼を払わねばならぬ。そのために――宴をしよう」
不敵な笑みを浮かべて水蓮が言う。木蓮はその言葉に気合いを入れ、暫くしてから冷静になり水蓮に尋ねた。
「……宴?」
「吾らが結ばれたことを邑総出で三日三晩祝ってもらうのだ。宴は穢れを払うものであるからな」
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