【R18】龍の谷に白木蓮

深山瀬怜

文字の大きさ
上 下
11 / 31

十一・焦がれ

しおりを挟む
(こんなこと……許されないのに)

 純潔を失おうとも巫の力は失われない。それは木蓮自身が証明していた。けれど長年そう信じ込んできたからこそ、抵抗感は拭えない。木蓮は自分のみに起きていることをまだ誰にも言えずにいた。
 大蜘蛛に犯され、焔に霊力を恢復させられ、龍神に呪いを浄化された。許されないことだと思う心はなかなか変えられないまま、体は甘い快楽を求めてしまう。
  鬼と戦う以外の穢れになるべく触れないように、木蓮の生活は守られていた。けれどそれを木蓮は内側から壊してしまっている。木蓮はまだ熱の残る身体に触れ、柔らかな胸を自らの手でまさぐった。 

「ん……ふ、ぅ……っ」

 龍神の与える快楽に本当は身を任せてしまいたいと、そんな欲望が頭をもたげるようになった。巫が快楽に耽るなど本当は決して許されないことだ。そもそもあの龍神は呪いを浄化するためにやっているだけなのだ。だから浄化など関係なく触れて欲しいなどと考えてはならない。でも欲望を簡単に消すことはできない。せめて誰にも気付かれないように自分を慰め、欲望を散らすことしか出来なかった。
  鬼の呪いが身体を蝕む苦痛と、それが消えていくと共に与えられる心地よさ。それは木蓮がこれまで味わったことのないものだった。まるで薄い膜に包まれているような。それでいて嫌な熱はなく、かえって心は鎮められていくような。 

(鬼の呪いがなければ、触れてもらえないこともわかってる……)

  そもそも神と人間なのだ。人間が神に選ばれ契りを結ぶことはあるが、そうでなければ別種の存在として交わることは許されない。恋をするような立場でなければ、このような浅ましい欲望を抱く相手でもない。それでも木蓮は龍神の美しい貌と、未だ見たことのない龍の姿を思い描きながら自らの秘所に手を伸ばした。
  そっと指を挿入すれば濡れた音が響く。自分の指では龍神の操る水の筋のように奥まで触れることは出来ない。それでも木蓮は頭の中に先程までの行為を思い描きながら指を動かした。 

「ふぅ……っ、んん……っ!」

 親指で陰核に触れ、木蓮は背をのけぞらせて絶頂を迎えた。濡れた指を太腿に擦り付けて乱れた呼吸を整える。 

(もっとしてほしいなんて、思ってはいけないのに……)

  罪悪感に駆られながらも木蓮はそのまま眠りに落ちていく。朝が来ればまたいつもと変わらない一日が、木蓮の純粋さを誰も疑わない日々が始まるのだ。 


 しかし、木蓮のその姿をじっと見つめる影があった。暗闇に紛れた影は、木蓮が眠った後でそっと部屋を這い出ていった。

***

『どうしてわたくしを求めてくださらないのですか?』

 男に寄り添う女が悲しげに言う。しかし男は首を横に振った。偽物だとわかっている。自分を陥れようとしている影には決して応えてはならない。

『いつまでそうやって自分を殺し続けるのですか?』
「……全ての鬼が消えるまでだ」

 後悔と憎しみを、全てそのための力に変えた。男は鬼と直接対峙しているわけではないが、鬼を倒すための最強の牙を鍛え上げた。木蓮の戦果はこれまでの巫とは比べ物にならない。全ての鬼を倒すのも夢ではないのだ。だからこそこんな影に心を囚われるわけにはいかない。
 たとえ目の前にいる女が、最も愛した女の姿をしていたとしても。

『ああ、可哀想なお方。その願いは決して果たされないというのに』

 女の手が男の胸板に乗せられる。その白い腕には蔓のように細い影がまとわりついていた。

「っ……やめろ」
『もういいではありませんか。あなたは十分に務めを果たしたのです。私のためだったのでしょう?』

 そうだ。女を殺した鬼を、邑に巫を置かなければならない状況を作り出した鬼を全て滅ぼすこと。それは全て女のためにやったことだった。鬼への復讐心が男を突き動かし続けていたのだった。

『でも、もういいのです。私はあなたがこれまでしてくれたことに満足していますわ』
「っ……離せ……」

 女の指が男の胸の飾りをくすぐる。それに酔わされてはならないと思いながらも、男は下半身に熱が集まっていくのを感じていた。女は刺激によって少し膨らんだ乳首をゆっくりと舐める。男は身じろぎして抵抗しようとするが、首から下が自由に動かせなくなっていた。

「ぅ……ぁ、ああ……っ」
『私に身を委ねて下さいませ。もう、自分に正直に生きていいのですよ』

 男は首を横に振る。そんな言葉に従うわけにはいかない。痛いほどに理解しているのだ。目の前にいる、あまりにも自分に都合の良すぎる女がまやかしでしかないことは。

「まやかしの分際で、俺を惑わすな」
『ふふ……可愛い人』

 男の抵抗も虚しく、女の指が胸から下半身へとゆっくり降りていく。男は荒い息を漏らした。男はずっと我慢していた。女のためにと耐えてきた。それが今、あっさりと崩されようとしていた。

『もうこんなに張り詰めて……苦しいのでしょう?』
「っ……やめろ!」

 男の制止の声もむなしく、女の手は張り詰めた男のものをゆっくりとしごいた。男はその快楽に目を見開く。

「っ……あっ、ああっ……!」
『気持ち良いでしょう? ほら……先走りもこんなに溢れて』
「やめろ……!」

 男は自由になる首を何度も横に振って抵抗したが、女は更に強くしごき始めた。穢れを絶って生きて来た男に、その刺激はあまりにも強烈だった。自身がどくどくと脈を打っているようにすら感じる。

「っ……、駄目だ、もう……ああっ……!」
『いいのですよ。もう、楽になっても』
「駄目だ……俺は、こんなものには……ぁあっ!」

 男の必死の抵抗も虚しく、男の張り詰めたものから白濁が吐き出された。男は射精後の快楽と背徳感にぐったりとする。しかし女はその間も手を止めることなくしごき続け、更には亀頭をぐりぐりと刺激した。

『どうしてそんなに頑なになるのですか? もうあなたが欲しいものはここにあるというのに』
「違う……お前は、偽物だ……っ、ああ……」
『いいえ、私は本物でございます。黄泉の国から戻って来た、あなたの愛する女ですわ」

「違う、それは……」

 男が否定し終わる前に、女は男の唇を奪った。男は目を見開いて女の舌の侵入を許す。今までずっと焦がれていたものに舌を絡められ、口内を蹂躙される。あまりの快楽に頭が白くなっていくのを感じた。しかし女の手は男のものを刺激し続けており、男は再び高められていく。
 だからこそ男は気付くことができなかった。女から口移しで影が流し込まれているということに。男は体の内側に奇妙な熱を感じたが、それは女に与えられる悦楽に簡単に塗りつぶされていった。

「っ……何をする……」
『こうしたかったのでしょう? 本当はずっと、私のことが欲しかったのでしょう?』
「違う……俺は……」
『違わないわ』

 女は男のものから手を離すと、自らの秘部にそれを押し当てた。男はそれを見て焦りだす。

「待て、やめろ……っ」
『もう我慢しなくてもいいんですよ』
「駄目だ、俺は……」

 男は首を横に振りながら拒んだが、女は妖艶な笑みを浮かべて男の上で腰を動かす。

『ねえ、わかるでしょう? 私のここはあなたを待ち望んでいるんです』
「違う……お前は、そんなことを言う女ではない……!」
『それはあなたが私を純粋なものと勘違いしていただけのこと。私は穢れてしまいたかったのです。けれど、あなたは私には決して触れてはくださらなかった』
「嘘だ……ぅ、うう……っ」
『もう心を解き放って下さいませ。……あの子もあなたを裏切り、堕ちて、穢れてしまったのですから』

 女の言葉に、男は目を見開いた。その瞬間に、女は自らの秘部に男のものを埋めていく。

「っ……ぁ、ああっ!」
『ようやく私のことを見てくださいましたね。それほどあの子のことは特別なのかしら』
「……誓ったのだ。必ず全ての鬼を滅すると。そのために、俺はあの子を育てた」

 それまでの巫たちよりも遥かに厳しい修行を積ませ、鬼に対する最強の牙とした。女は艶かしく腰を揺らしながら言う。

『けれど、もうそんなことはいいのです。あの子はもう、あなたの思うような子ではないのですよ』

 女は嫣然と微笑みながら男の額に指を置く。その瞬間に頭の中に広がった光景に男は瞠目した。

『あの子はもう、穢れてしまったのですよ』
「こんなものはいくらだって捏造できる。お前と同じ、都合のいいまやかしだ」
『信じられないのであれば、ご自分の目でお確かめになっては?』

 しかし女は男の自由な動きを許さないとでも言うように、激しく腰を振り始めた。

「やめろ……っ!」
『もう我慢しなくてもいいのですよ』

 その言葉と同時に男の視界は女のもので埋め尽くされた。その体に纏う黒い影が濃くなっていく。それでも男は頑なに拒み続けた。それがまやかしだとわかっているからだ。しかし女はそんな男を見て悲しそうに笑う。

『どうしてなのですか? もう、自分を解放して楽になってもいいではないですか』
「……俺はまだ何も成し遂げていない」
『鬼を全て倒して、それで何になると言うのです?』

 女の秘部は別の生き物のように蠢き、男を苛んだ。熱が込み上げてきて、頭に靄がかかる。その中で、女の玉を転がすような声だけがはっきりと響いていた。

『あなたがこちら側に来てくだされば、私はあなたのものになるのですよ。鬼を倒しても、私が戻るわけではありません。もう、心を殺して生きる必要などないのです。あなたも、あの子も』

 女の媚肉が男を強く締め付ける。女は微笑み、男の胸の飾りを軽く指で引っ掻くようにした。

「う、ぁ、ああ……っ!」

 男は女の中に精を放つ。水音を響かせながら男の体を解放した女の足の付け根から、白い雫がゆっくりと流れ落ちていった。

『ああ……あなたの心を感じますわ。あなたの胤を、もっと私の中に注いでくださいませ――』

 男の意識は徐々に遠のいていく。
 次に男が目を覚ました時、そこにあったのは、夜のことは全て幻だったのだと告げるような、いつもと変わらない朝であった。

***

 木蓮は泰良とともに鍛錬をしていた。木蓮と泰良には実力に開きがあり、木蓮が泰良に指導するという形になっている。しかし人に教えることにより、自分の動きを見つめ直す機会にもなるのだ。
 模擬刀を使った二人の試合が終わったところで、二人の様子を見ていた宿堤が声をかける。

「そろそろ朝餉だ」

 宿堤の言葉に、泰良は喜色満面で家に戻っていく。その姿を微笑みながら見送った木蓮は、道具を片付けながら宿堤の顔を見た。

「――宿堤様」
「どうした?」
「少し……顔色が悪いように見えます」

 木蓮は青褪めた顔をしている宿堤を心配し、彼に手を伸ばそうとした。しかしその手は強い力で振り払われた。手は行き場を失い、木蓮は驚いた顔で宿堤を見つめる。

「……すまない。少々寝不足でな。気が立っていた」
「寝不足……ですか」
「そうだ。鬼の資料を色々とまとめていたら、思いの外時間が過ぎてしまってな」
「少し休んだ方がいいと思います。宿堤様に何かあったら、邑の守りにも影響が出ます」

 木蓮が言うと、宿堤は優しく微笑んだ。しかしその顔には暗い影が差す。

「そうだな……今日は仕事はそこそこにして休もうか。その間、くれぐれも邑のことを頼むぞ」
「心得ております」

 宿堤は家の中に戻っていく。木蓮はその後ろ姿を見ながら、言いようのない不安に駆られていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...