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27・混沌と光

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「あ、ぁあ……っ」

 ただ、この終わりのない快楽から解放されたいということしか頭になかった。出したい。それだけで思考が染まっていく。雛と優香は軽く頷き合い、棒の先についた輪に指をかけた。深く埋められた金属の棒をゆっくりと抜いていく。

「あぁ……っ、あ……」

 ようやく解放される。稔がそう安心した瞬間、優香は再び金属の棒を深く突き入れた。鋭く響く喘ぎ声。熱を持って疼く体。優香が棒を素早く抜き差しすると、こぽ、こぽ、と白濁が鈴口から溢れ出る。

「出したいときはちゃんとそう言わなきゃダメですよ? 言えるまでこのままですからね?」
「っ、ぁ、ああ……ッ! ダメ、も、ぁ……おかしく、なる……!」
「おかしくなっちゃっていいんですよ?」

 二人に翻弄され、思考が混濁していく。冷静な判断能力はとうの昔に失われていた。ただ今は、この無間地獄から解放されることしか考えられない。

「っ……だした、射精したい……っ、ぁあッ!」

 とうとう漏らしてしまった本音に、二人の悪魔は美しく笑った。優香は再び金属棒の輪に指をかけて、それを一気に引き抜いた。
 目の眩むような快楽。欲望の渦がようやく開かれた出口に殺到する。

「あ、あぁあっ! ぅ、ぁ、ああ……ッ!」

 射精は堰き止められていた分、長く続いた。次から次へと溢れていく白濁がシーツを汚していったが、それに拘泥するような余裕は稔にはなかった。
 力の抜けた体に雛と優香がそっと触れる。それだけでも身体は鋭敏に反応し、欲望を吐き出しきって萎えていたものが力を取り戻していく。しかし身体と裏腹に、稔の意識は朦朧としていた。

「うっ、ぁ……も、やめて、くれ……このままじゃ……っ」
「もうへばっちゃうんですか? 駄目ですよ、私たちまだ先輩に気持ちよくしてもらってないのに」
「っ……もう、これ以上は……」
「心配しなくてもいいですよ。私たちが動いてあげますから」

 優香が稔の上に跨がり、稔自身を股ぐらに擦り付ける。優香の秘部からは大量の蜜が零れ出し、どんどん滑りが良くなっていく。

「ああ……っ、先輩……ッ!」

 優香はそれだけで感じるらしく、腰を揺らめかせている。雛はその様子を笑みを浮かべながら眺めていた。

「もう入れちゃいますね、先輩?」

 優香の言葉を理解する前に、ぬるりと稔自身が呑み込まれていく。肉の壁を押し広げて侵入していく感覚に稔は身体を震わせた。優香は慎重に腰を下ろしていく。しかし雛が優香の胸に手を伸ばし、その先の飾りをつまんだ瞬間、優香の身体から力が抜けた。重力で最奥まで貫かれる形になり、優香は呻きと喘ぎが入り交じった声を上げる。

「んっ、あぁん! あ、ああ……奥まで、すご……あつ……んんっ!」
「いいなぁ、優香。男の人のものを入れるのは初めてだもんね?」

 優香はこくこくと頷き、己の悦楽だけを突き詰めて腰を動かし始める。腰の動きは徐々に速くなり、稔の身体と心は蹂躙されていった。淫らな水音と二人の喘ぐ声が響く。収縮する肉の洞に締め付けられ、稔はただ快楽だけを感じ始めていた。

「先輩も優香もとっても気持ち良さそう……じゃあ、私も先輩に気持ち良くしてもらおうかな?」

 雛はそう言い、ベッドに寝たままで優香にされるがままになっている稔の顔の上で膝立ちになった。雛の細い指が陰唇を広げると、とろりと透明な蜜が流れ落ち、稔の口の中に入った。むせ返るような性の香り。しかしぼんやりとしている頭はそれを甘露のように感じてしまった。

「私の美味しいですか、先輩?」
「っ、あ……ああ……ッ」

 雛の言葉に答えることはできなかった。優香が腰の角度を変えて動き始めたからだ。しかし雛は応えがなかったことを気にも留めず、ゆっくりと腰を下ろしていった。

「私のここ、舐めて気持ち良くしてください」

 そんなことをしてはならないと頭の片隅ではわかっているのに、本能的に目の前のものにむしゃぶりついてしまう。止め処なく溢れてくる愛液は、その味に夢中になってしまうほどに甘い。けれど人間の体から分泌されているものであると示すように、その後味には少し塩気と苦味があった。

「あっ、ああん……ぁ、気持ちいい……せんぱい、ぁ、ああんっ♡」

 雛が甘い声で喘ぐ。淫靡な水音と三人の嬌声だけが響く部屋で、稔は徐々に自分を失っていった。ただ目の前の快楽のことしか考えられない。自分を締め付ける肉の洞に欲望を放つことばかりが頭にある。稔は雛の性器に舌を差し挿れながら、優香の腰を掴んで自らも動き始めた。
 そこに自分のものを注ぎ込みたい。汚してしまいたい。それは性を超えた暴力的な欲求だった。けれどそれについて考えることも出来ないまま、稔は絶頂に向かって突き上げ始める。

「あ、ああ……ん、はげし……も、イっちゃ……ぁぁああん……ッ♡」
「俺も、もう……出る、う……っ!」

 稔が優香の中で果てると同時に、優香も絶頂に達したようだった。優香が自分の性器から稔のものをゆっくり抜いていくと、こぷりと音を立てるようにして白濁が溢れ出した。優香は内腿に垂れたそれを指ですくい、陶酔したような表情を浮かべる。

「ん、おいし……さっきまでよりずっと濃くなってきましたね」

 優香はその表情のまま、シーツの上にくたりと横になる。その様子を見て雛が微笑んだ。

「気持ちよくなりすぎて疲れちゃった?」
「ちょっとね」
「じゃあ優香は少し休んでて」

 そこだけを聞けば友人同士気遣っている会話だ。しかし稔にとっては悪魔の宣告に他ならなかった。雛は欲望を吐き出した稔の性器を軽く扱き始める。それだけでそこはすぐに硬さを取り戻した。

「ね、先輩? 私の中にも先輩のものをいっぱいいっぱい注いでくださいね?」
「そんなこと……できるわけ……っ」
「でも、もうまともに頭も動かなくなってるでしょ? 本能のまま女を犯すことしか考えられない。でもいいんですよ。私はそれを望んでるんだから」
「っ、俺はそんな……」
「さっき優香に中出ししたじゃないですか? もう自分に正直になっていいんですよ? 先輩のここは私の中に入りたいって言ってますけど」

 自分がしてしまったことに自覚はあった。何も考えられなくなって、衝動に突き動かされるままに快楽を貪った。そして今も、自分のものとは到底思えないほどの強く澱んだ欲望が身体中を巡っている。
 雛の声は悪魔の囁きのように甘い。雛は稔から離れ、稔に見せつけるように四つん這いになり、蜜を零す秘部を指で広げてみせた。

「我慢なんてしなくていいんですよ。獣みたいに、私のこと――犯してください」

 稔はごくりと唾を呑み込んだ。ひくひくと蠢く雛の媚肉は稔を誘う食虫植物のように感じられた。それがいけないことだとわかっているのに、抗えない引力が働いている。何かに操られているように体が勝手に動き始めたそのとき、稔の頭に強い痛みが走った。
 それは鮮明な記憶だった。雛と優香に与えられたものほど強烈な快楽ではなかった。けれど確かに心を満たした感情。それがここにはない。彼女たちは、璃子や和紗とは違うのだ。

「先輩……?」
「……君たちは、どれだけ人の思いを踏み躙れば気が済むんだ」

***

「和紗ちゃん?」

 真剣な表情でクリスティーヌを走らせている和紗に璃子は声をかけた。ただ稔のことを心配して焦っているだけの顔には見えなかったからだ。和紗はクリスティーヌを走らせるのはやめずに応える。

「……私が自分の中だけでとどめていれば、こんなに事が大きくなることはなかったんだよね」
「和紗ちゃん……でも、それは」
「あの子たちだって、先に手を出したのは私だし、お兄だって私が巻き込んでしまった。それに、璃子ちゃんだって」

 この症状が感染すると知らなかったとはいえ、自分だけでとどめておければ広がることはなかった。力なく呟く和紗に璃子は優しく言う。

「一人で我慢していれば、確かにこんなことにはならなかったかもしれない。でも、そうならないように仕向けられた可能性は高いと思うわ。広げるのが目的だったなら、一人で耐えている状態は都合が悪いから」

 憂花に植え付けられたものが与える衝動は抗いがたいものだった。それまで全く性的な欲求を感じたことのない身体には毒そのものだった。とても一人で抱えられるようなものではない。だから仕方なかったとは言えないが、あまり自分を責めてもいけないと璃子は思っていた。
 それに仮に和紗が必死で我慢していたとしても、それが限界を迎えるように何か策を打ってきた可能性が高い。そうなれば精神力だけで抗うのは無理だ。

「一番悪いのは、勝手に和紗ちゃんの身体を弄ったあの先生なんだよ。本当は自分の身体のことは自分の意思で決めるべきなのに、それを奪われてしまった」
「でも……」
「とりあえず、今は目の前のことだけ考えましょう。稔のことは必ず助け出さないと」

 納得しきってはいないだろうが、軽く頷く和紗を見て璃子は安心した。
 まずは目の前の問題を解決する。他のことはそのあとでもいいだろう。このまま憂花たちの居場所に突入して、それからどうするのかを考えなければならない。

「和紗ちゃん、武器とか持ってないわよね?」
「乗馬用の鞭くらいしかないよ」
「私も何も持ってなくて……でも何が起こるかわからないから、何かあればいいんだけど……」

 璃子は馬上から周囲を見回した。武器があったところで太刀打ちできるかはわからない。けれど稔を連れて逃げることが出来るくらいの時間は稼ぎたい。〈ナトゥア〉や拓海たちの応援も来るだろうけれど、それまで自分たち二人で乗り切らなければならないのだ。

「和紗ちゃん、あそこに釘抜きみたいなものが落ちてるんだけど」
「何で落ちてるのかはわからないけど、ちょうどいいね。璃子ちゃん、降りて取って来られる?」
「任せて」

 和紗がクリスティーヌを一端止める。璃子はすぐさま馬上から降り、ところどころ錆び付いている大きな釘抜きを手に取った。そのまま和紗の手を借りながらクリスティーヌに乗る。クリスティーヌは事態を察知しているのか、それとも和紗の事を信用しているのか、大人しく言うことを聞いていた。

「ギリギリ振り回せそうなくらいの重さね」
「役に立つかはわからないけど……無いよりはマシかな。急ごう」

 少なくとも頭に振り下ろせば大きなダメージを与えることが出来る。脅しにも使えるだろう。和紗はクリスティーヌの手綱を握り締めながらくすりと笑った。

「璃子ちゃんって、意外と殺伐としてるよね」
「ヤンキーものの映画とかも見るわよ、私。フィクションだってわかってるから楽しめているところはあるけれど」
「お兄はわりとそういうの苦手だった気がするけど」

 和紗が言う。確かに稔はそういった暴力的なものはフィクションでも苦手だった。だから稔と一緒にいるときは見ないようにしていたのだ。けれど稔は璃子の趣味については把握している。

「今まで、璃子ちゃんのことちょっと誤解していたかも」
「そんなことないわよ。以前は正しいとされることを疑いもなく信じてたし、他人にそれを押し付けてしまうこともあったから」
「今の璃子ちゃんの方が私は好きだよ」
「ありがと。稔もそう言ってくれると嬉しいんだけど」
「お兄はどっちの璃子ちゃんのことも好きだよ、多分」
「あ、和紗ちゃん。次の角を左ね」

 和紗はクリスティーヌに指示をして方向を変えた。もう少しで目的地だ。璃子は目的地が近付くにつれて緊張していく和紗に向かって微笑んだ。

「稔ならきっと大丈夫。私たちが信じないで、誰が信じるの?」
「――それもそうだね。やっぱり璃子ちゃんは強いなぁ」
「強いかどうかはわからないけど、強くいたいとは思ってるかな」

 だから釘抜きを振り回すことも辞さない、と璃子が言うと、和紗はどこか安心したように笑った。
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