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8・イン・ザ・バスルーム

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「お兄、ちょっと確認したいことがあるんだけど」

 稔が風呂に入ろうと脱衣所で服を脱ぎ始めたところで、和紗が姿を見せた。和紗は部屋着のドルフィンパンツと薄手のパーカー姿だ。

「うん、風呂のあとにしてくれるかな?」
「今脱ごうとしてるんでしょ? だったら今の方が都合がいいよ」

 どういう意味だろうかと戸惑っている稔に痺れを切らしたのか、和紗が稔の服を脱がせ始める。稔は慌ててそれを止めた。

「わかった、脱ぐから! だからその前に何を確認したいのか教えてくれよ」
「お腹のところとかに、私と同じ模様が出てるんじゃないかと思って」
「いや、出てないけど」

 それならわざわざ脱がせなくても確認できる話だ。稔はシャツをめくってその部分を和紗に見せた。そこには模様どころか傷一つない。和紗は稔の腹をしげしげと眺めて言った。

「お兄、腹筋全然ないね」
「聞いてきたところと全然違うところ見てるな?」
「ごめん、気になっちゃって」

 そういえば、この前見た和紗の体は痩せていたけれど、どこにも程よく筋肉がついていた。馬術は素人目にはあまり運動していないように見えるが、実は結構筋肉を使うものらしい。

「もういいか?」
「うーん……もしかして男は違う部分に出るとかって可能性もある?」

 和紗は何やらぶつぶつとつぶやきながら、再び稔の服を脱がそうとする。稔はその手を一旦止めさせて、自分で服を脱ぐことにした。どうせ風呂に入るつもりだったのだから、ついでだ。

「ないならないでいいんだけど……」

 自分の体をじろじろと見つめられるのは正直恥ずかしい。けれど真剣そのものの和紗を止めるのも難しかった。稔は落ち着かないと思いながら和紗に尋ねる。

「でも、なんでいきなり?」
「いや……もしかして、うつるものとかだったら嫌だなって」

 心当たりがないわけではない。和紗と性行為に及んでから、璃子を見ているときに良からぬ妄想をしてしまうことが何度かあった。夜中に璃子のことを考えて勃起したこともある。けれど和紗が落ち着いたと言っていたから、自分のものもすぐに治るだろうと楽観視していたのだ。
 和紗は稔の体を注意深く観察している。見つからないならそれでいい。むしろ見つからないでほしい、と稔が思っていると、不意に和紗が無言で稔の陰嚢に触れた。

「何てところに触ってるんだよ」
「表面にはなかったから、念のために裏とかも見ておこうと」
「一言くらい言ってからにしてほしいな……」

 さすがにそこに触るのに無言はないだろう。和紗は聞いているのかいないのか、「ごめんごめん」と適当に謝っている。しかしその動きが途中で止まった。

「和紗?」
「……ごめん、お兄」
「そう言うってことは……あったのか?」

 和紗がうなずく。そして稔の体から手を離すと、そのまま真剣な顔で考え込み始めた。

「女性は腹部で、男性は陰嚢ってこと? いや、その二つの共通点と考えると……卵巣と精巣かな……」
「和紗、真面目に考えてるところ悪いんだけど、とりあえず落ち着かないから風呂入ってきていい?」
「駄目。緊急事態だし」
「緊急事態?」
「私のこれ、他人に伝染るものなんだと思う。症状は性的欲求の発露……場所的に、ホルモンが関係してるのかなって思うけど、詳しいことは医者じゃないしわからない。ていうかお兄、璃子ちゃんと何かしてたりしないよね?」

 璃子と長時間一緒にいたのは、あの美術館デートのときが最後だ。感染経路はわからないが、会話するだけでどうこうというものでないのなら、璃子は今のところ問題はないはずだ。和紗はひとまずそのことについては安堵したようだ。

「でも、そのうち落ち着くんだろ? だってこの前――」
「ごめん。あれ嘘なんだ」
「嘘って……じゃあ」
「お兄にあんなこと何回もさせられないから、自分でなんとかしようと思って黙ってたの。先生のところにはちゃんと行ってるよ。でも良くなってるって感じはしない」

 項垂れている和紗を前にして、なぜ嘘をついたのかと責めることはできなかった。和紗も稔の手を煩わせまいと気を遣った結果だ。稔は和紗に何かを言おうと考えたが、ふさわしい言葉は何一つ浮かんでこなかった。

「ちょっと一旦冷静に考えさせてくれ。とりあえず風呂に入ってくるから、その後でちゃんと話しよう」

 逃げるように稔が浴室に入ると、和紗が服を脱ぎながら稔を追いかけて中に入ってきた。和紗に背を向けた状態で浴室の壁に押し付けられる。

「ごめん。良くないことだってわかってる。でも……このままだと、おかしくなりそうで」

 和紗が稔の肉棒に手を伸ばす。和紗の吐息が首筋に触れた。そして背中に当たる二つの柔らかな感触。
 普段は男ですらかっこいいと思ってしまう和紗だが、実は女性らしい柔らかな体をしているのだ。背中に触れているもののせいで心臓が高鳴った。それに合わせるように稔のものに和紗の細くて長い指が絡み、ゆっくりと扱かれる。

「っ……和紗……」
「あの一回だけにしようと思ったんだよ。でも……お兄だって、つらいでしょ?」

 璃子に対して良からぬことを考えてしまうのが、和紗で発散することによって薄まるのなら、それも悪くはないのかもしれない。和紗の手淫によって稔のものが徐々に形を変えていく。鈴口から溢れてきた透明なものを指に絡めながら、和紗は徐々に手を動きを速くしていった。

「ねえ、お兄。目閉じてよ」
「っ……何でだよ」
「私のこと、璃子ちゃんだと思ってていいから」

 璃子は決してこんなことはしないだろう。璃子が乱れるところは全く想像ができない。けれどその体をひらいて、辱める妄想は何度もした。穢らわしいと自分でも思うのに、いつまでも頭を支配してしまうそれをぶつけてもいいといいというのか。稔は一瞬頭に浮かんだ思いを首を振って打ち消した。

「それはできないよ、和紗」
「そう。それなら――」

 和紗は稔に触れているのとは逆の手で蛇口を捻った。シャワーの雨が二人に浴びせられる。その少し冷たい水がちょうどいい温度のお湯に変わったところで、和紗が口を開いた。

「ねえ、お兄。私と契約しない?」
「契約?」
「そう。私たちの体が元に戻るまで、自分でどうにもできそうにないときはお互いを頼るよつにするの。他人に広めちゃうくらいなら、その方がいいでしょ?」

 それはもっともな提案だった。
 これは他人にもうつるものであるなら、どれだけ気持ちが昂ぶろうとも、手を出すわけにはいかない。その点での心配は要らなかった。
 考えていたのは、璃子のことだった。理性が耐えきれずに璃子を汚してしまうくらいなら、和紗の言う「契約」を受け入れた方がいい。稔が頷くと、和紗はなぜか少し寂しそうな顔をして笑った。

「……ありがとう、お兄」
「でも、体が元に戻るまでだ。本当は許されることじゃない」
「わかってる」

 稔の体から手を離した和紗と向かい合う。シャワーの温かい雨の中で、和紗はゆっくりと稔の唇を奪った。抱きしめられて肌が密着する。

「本当にいいの、お兄?」
「お互いのためだろ」
「……そうだね」

 和紗が稔の手を取り、自分の下半身へと導く。指先で触れたそこは、既にお湯ではないものでしとどに濡れていた。当然ながら、女性の秘められた部分に触れるのは稔にとっては初めての経験だった。戸惑いながらも稔は蜜をこぼす割れ目を指でなぞった。

「っ……もっと、触って……」

 稔は息を呑んだ。既に和紗とは一度関係を持っている。けれど前回はほとんど和紗が主導していた。自分から触れるのは初めてだ。稔は誘うように蠢く和紗の膣内に中指を遠慮がちに挿入する。

「ッ……お兄、もっと……ぁ、っ」

 心臓が早鐘を打つ。低くて甘い和紗の声が腰に響くようだった。稔は和紗の中に挿れた中指を慎重に動かしながら、柔らかな胸を逆の手で揉み、その先で存在を主張する乳首に軽く吸い付いた。

「っ、う……ぁ、ん……!」

 和紗の腹部の模様が妖しく光る。稔の与える刺激で歪んだ和紗の顔。それが何故か稔の興奮を煽っていく。
 次の瞬間には、稔は自分自身の行動を止められなくなっていた。胸の飾りを舌で転がしたり、軽く吸ったりしながら、中指で熟れた果実を掻き回す。シャワーの音でもかき消せないほどの水音が聞こえた。和紗の呼吸が乱れる度に中指が肉のうねりに飲み込まれていくようだった。

「ねぇ、お兄……そっちだけじゃなくて、こっちも……」

 和紗は触れられていない方の胸に伸びていた。そこは何もしていないのに、既に乳首がピンと立っている。稔は少し笑ってから、和紗に請われるままにそこに唇を寄せた。

「っ……あ、ぁあ……ッ、」

 和紗の中に埋めたままの指が、更に溢れ出した愛液を感じる。稔は本能に突き動かされるままに、和紗の中に挿れる指を二本に増やした。和紗の性器は少し窮屈ではあるものの、そこだけが別の生き物になったかのように稔の指を飲み込んでいく。
 稔は和紗の体に誘われるがまま、奥の方まで指を伸ばした。

「はっ……ん! そこ……っ……ゃあぁっ」

 指を動かす度に反応を示す和紗。快楽に歪む顔は苦しそうにも見えるのに綺麗だった。稔は徐々に夢中になっていく。自分のものには触れていないのに、和紗の乱れる姿を見ているだけで、それがむくむくと成長を始めた。

「ッ……お兄、気持ちいい……」

 その言葉で、喉が渇いていくような感覚を覚えた。必死に自分にしがみついてくる妹を愛おしいと思う。稔は徐々に手の動きを早くしていった。シャワーの音の中にあってなお、ぐちゅぐちゅという水音が浴室内に反響する。

「お兄……はっ、も……んんッ……だめ、イっ……ぁああっ!」

 和紗の蜜壺から大量の液体が溢れ出る。和紗の体からは完全に力が抜け、和紗は壁に寄りかかりながら、浴室の床に座り込んだ。和紗の中に入っていた手と和紗の間を透明な細い糸がつなぐ。
 稔はその手と、シャワーの雨の中で荒い呼吸を繰り返している和紗を交互に見た。女性の体の奥深くに触れたのは初めてだった。そして、自分の手で人を絶頂させたのも。ぼんやりとしながらもシャワーを止めると、和紗がどこか力なく笑った。

「ごめんね、先にイっちゃった……。今度は、お兄の好きにしていいよ」
「好きにって……」
「お兄もそれ……つらいでしょ? だから、私のことなら好きにしていいから」

 ぞくり、と背中に寒気が走る。
 けれどその寒気は何故か不快なものではなかった。好きにしていい、という言葉が稔の理性の箍を外していく。稔はようやく呼吸が整ってきた和紗を立たせ、浴室の壁に手を突かせた。
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