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5・はじめての

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「助けて、ってどういうことだよ……」

 和紗の体を引き剥がしながら稔は尋ねた。先程まで痴態を繰り広げていた和紗の体が目の前にある。稔はそれを直視することができなかった。

「手術のあとからずっとなの。先生は一時的なものだからすぐに治るだろうっていってたけど、全然治らないし、むしろひどくなってる気がするし、こんな変な模様だって……」

 和紗の腹部でピンク色に発光する禍々しい模様。明らかにその体には異常が発生しているが、憂花の検査では原因が全くわからないらしい。

「こっそり一人でなんとかしてたけど、もう我慢できなくて。だから、お兄に助けてほしいの」
「助けてって……でも、俺は医者でも何でもないし」
「でもお兄にはこれがある」

 和紗の手がズボン越しに稔の中心をなぞる。しかしそこは排尿以外の役割を持ってはいないはずだった。確かに昔の人類はこれを使って性行為をしていた。でも今の人間にはそんなことはできないはずだ。

「無理だよ。使える人間なんていない」
「ううん。機能が失われているわけではないんだって。だから、ちゃんと準備すれば」
「だからってできるわけないだろ! そんな……野蛮なこと! しかも俺達は兄妹なんだぞ!」

 性的に奔放を極めた前時代でも、近親同士の行為は禁忌だった。人間が解放されたはずの醜い行動。その上にそれが許されていた時代でも忌避されてきた関係。そんなものを容認することはできなかった。

「駄目だってわかってる。でも一人じゃもうどうにもできないの」
「和紗……わかった。病院に行こう。布施先生じゃわからないことでも、もっと大きい病院に行ったらなんとかできるかもしれない!」

 和紗は病気なのだと思った。手術の後遺症で、もしかしたらそういうものがあるのかもしれない。それでも最新の研究をしているような大きな病院に行けば解決策も見つかる可能性はある。
 しかし、和紗は何故か笑みを浮かべながら首を横に振った。

「お兄は何もわかってないね」
「何もわかってない、って何だよ……」
「これはね、すごく気持ちいいことなんだよ。苦しいって思うときもあるし、止められなくてつらいってこともあるけど、すごくすごく気持ちいいの」

 和紗は稔の頭の後ろに手を回した。腹部の模様はより強く光を放ち、甘い匂いが漂う。頭の芯が痺れるような香りだ。

「和紗、何言って……」
「お兄だってやってみればわかる。一度でいいの。私を助けると思って――」

 再び和紗に唇を奪われる。和紗は稔の頭をしっかりと抱えたまま、わずかに開いた唇の隙間から舌を入れた。熱い舌に口の中をいいようにされる。歯列をなぞられ、舌を何度も絡められたあとで、軽く吸われた。兄として流されてはならないと気を張る稔を嘲笑うように、稔の体からは力が抜けていく。

(なんだ、これ……変な感じだ。甘くて、切なくて、腰のあたりがきゅっとなる感じ――)

 彼女である璃子ともキスをしたことはなかった。
 そもそも触れたいという欲求すら抱いたことはなかった。ただ一緒にいることが楽しかったから恋人になっただけだ。
 けれど今、和紗に与えられた口づけが、稔に未知の感覚を生み出していた。いけないことだとわかっている。恋人がいるのに、実の妹なのに、そもそも野蛮だと言われている行為なのに、もっとしていたくなってしまう。
 いつしか和紗の舌の動きに合わせて、稔もその舌を絡めるようになっていた。自分がされたように和紗の舌を軽く吸うと、和紗の脚がわずかに震える。稔は和紗の腰を支えながら、更に口づけを深くしていった。

「ん……っ、お兄……っ」

 クロールを泳いでいるときのような息継ぎを何度も繰り返しながら、稔たちは慣れないキスを重ねた。最初こそぎこちない動きだったが、二人の舌は蛇のように絡み合い、時折離れながら、互いの唾液を混ぜ合わせていった。

「ん、ぷは……ぁ、っ」

 息がもたなくなり、稔は和紗の唇を離した。二人の間を銀の糸が一瞬だけつなぎ、儚く切れていく。和紗は切なげな顔をして自分の濡れた唇を指でなぞっていた。

「お兄……」
「一回だけだ。それで治まらなかったら、ちゃんと大きな病院に行って、相談しよう」

 一度だけなら。今この瞬間の苦しみから和紗を救うためなら。
 そんな大義名分を打ち立てながらも、実のところは和紗とのキスで感じていた今までにない感情に突き動かされているだけだった。

「ありがとう、お兄」
「でも……申し訳ないんだけど、やり方よくわからなくて」
「大丈夫。だいたいわかってるから」

 和紗は自分のベッドまで稔を導いていく。先程の自慰の名残で少し汚れているシーツの上に稔を横たわらせると、和紗は稔に覆いかぶさって、軽くついばむようなキスをした。
 そのまま舌と唇が首筋へおりていき、くすぐったいような刺激を稔に与える。和紗は稔のシャツをまくりあげ、稔の痩せた胸を顕にした。和紗は肋骨を指でなぞり、稔の体を確かめているようだった。そこから腹側部や臍のあたりに触れる。くすぐったさは感じるが、稔は和紗にされるがままになっていた。歴史として、過去に人間がやっていた行為だとは知っているけれど、その詳細な方法まで教科書に描いているわけではなかったからだ。

 和紗は少しだけ体を持ち上げて、今度は稔の胸の先に吸い付いた。和紗はそこを何度も軽く吸ったり、指で転がしたりする。その刺激がもどかしくなって、稔は思わず和紗を止めた。

「なんか、すごくくすぐったいんだけど、それ……」
「嫌?」
「嫌かって聞かれると正直よくわからないんだけど……」
「でも少し立ってきてる。かわいいね」

 歯の浮くようなセリフを聞いて、目の前にいるのは紛れもなく妹で、学園の王子様とまで言われる人なのだということを思い出した。女子生徒を褒めることをためらわないがために絶大な人気を誇る和紗だが、それが自分に向けられると照れくさくなる。

「もう少し我慢できる? 私がやりたいだけだから」
「ぅ、和紗……っ」
「お兄のここ、甘くて美味しいよ」

 人の肌なんて、舐めたところで少し塩味がする程度だ。けれど和紗はどこか楽しそうに稔の胸をいじっていた。乳首を軽く吸われる度に、ちゅっという音が響く。その音に徐々に思考が呑み込まれていく。稔は今までに感じたことのない熱を腰のあたりにかけて感じていた。

「ちょっとは感じてくれてるのかな?」

 和紗の手が股の間に触れる。そこにある稔自身は、ほんのわずかとはいえ、確かに今までにない反応を見せていた。

「和紗、やっぱり……」
「嫌だよね。……お兄が好きなのは璃子ちゃんだもんね」
「そういうことじゃなくて……璃子とは、こういうことしたいとか、考えたこともなかったし……。だけど、こんなことするなんて……しかも兄妹でなんて、駄目だよ」

 和紗は稔の言葉には答えず、稔のズボンの中に手を入れた。下着越しに、そこに収まっているものを手でなぞられる。

「お母さんは仕事に行ってるんだし、内緒にしていれば誰にもわからないよ」
「和紗……」
「それに、もう我慢できない」

 和紗は稔のズボンを下着ごと引き下ろし、顕になった性器に触れた。それはわずかにだが和紗の愛撫に反応し、勃ち上がり始めていた。和紗は右手でそれを包み込むようにして、ゆっくりと上下に扱きだす。

「かず、さ……っ、それは……!」
「色々調べたんだけどね、私達の体は欲がなくなっただけで機能は失われてないんだって。だからちゃんと触れば反応するし、気持ちいいんだよ」

 和紗が稔のものを扱き続けていると、鈴口から透明なものが溢れ始めた。それは和紗の手の滑りを更に良くしていく。腰に重く響く感覚に、稔の呼吸は徐々に乱れていった。

「うまくできるかは、わからないけど」
「和紗、っ……何を……ん、ぅ」

 先程よりも硬さを増した稔のものは、和紗の口の中に呑み込まれていった。ぬめる舌が鈴口をつつく。和紗は更に奥深くまで稔自身を咥え込んだ。それは和紗にも負担だったらしく、端正な顔が歪む。けれど和紗に与えられる快感に稔はすっかり押し流されてしまいそうになっていた。なけなしの理性と兄としての矜持で和紗の頬に手を伸ばす。

「和紗。無理しなくていいから」
「大丈夫。私がしたいだけだから」

 和紗は一旦稔のものから口を離し、今度は尖らせた舌先で稔の裏筋をなぞり始めた。ぞくぞくとした感覚が体に走る。ジェットコースターで急降下が始まった瞬間のような背筋の寒さ。しかしそれが次の瞬間には甘い疼きに変わる。

「ん……おっきくなってきた」

 低く、甘く、嬉しそうな声で和紗が言う。和紗は稔のものを再び手で扱きながら、自分の秘裂を逆の手で触った。そこは十分に潤っていて、和紗の手の動きに合わせて水音を立てている。

「ねぇ、お兄……もう我慢できない。そろそろいいかな?」

 覚悟を決めなければならない、と稔は思った。しかしその前に和紗の濡れそぼつ性器が稔のものにあてがわれる。止められるようないとまはもうなかった。和紗はゆっくりと慎重に腰を下ろし始めた。

「っ、んん……う、ぁ、あ……ん……ッ」

 和紗が苦しげな声を漏らす。和紗の中は稔が想像していた以上に狭かった。柔らかいものをゆっくりと押し広げていくような感覚。同時に稔のものに絡みつく肉の感触に、稔は体を震わせた。

「もう、ちょっと……だから……んんっ」

 和紗は更に腰を沈めていく。和紗が稔の全てを呑み込もうとしたその瞬間、何かを突き破るような感覚があった。和紗の顔が歪む。稔は心配になって、和紗に声をかけた。

「和紗……」
「ちょっと痛かったけど、大丈夫……」

 けれど繋がってしまった場所に、今までとは違う熱を感じた。和紗が身じろぎをした瞬間に、和紗の白い内腿に赤い筋が描かれる。

「和紗、血が……」
「そうだね。でももう痛くない」

 それでも、やはりやめた方がいいのではないか。稔がそう言おうとすると、和紗がその言葉を塞ぐように動き始めた。単純な動き。それだけでも稔にとっては劇薬のようだった。未知の感覚が全身を貫いていく。そしてそれは和紗も同じようだった。

「お兄、っ、これ……ッ、気持ちい……んんっ……!」

 和紗の腹部の模様が発光し始める。その光が揺らめく度に、稔は自分自身がうねる媚肉に締め付けられるのを感じていた。それに和紗の腰の動きが合わせられ、ベッドに寝かされたまま全く動いていないのに息が荒くなっていく。

「ん、んんぅ……ぁ、おにい、そこ……っ、いい……ぁ、ッ!」

 和紗は自ら快楽を享受していた。和紗の膣内で硬さを増していく稔の肉棒で、己の欲望を満たしていく。肌と肌がぶつかる音。粘膜と粘膜が立てる音。荒い息遣いと和紗の嬌声。その全てが稔にとっては毒だった。今まで知らなかった快感で、頭の中が真っ白になっていく。

「っ、駄目だ……和紗、このままだと……!」

 未知の何かがせり上がってくる。尿意にも似ているが、それとは明らかに違う緊張感があった。機能自体は失われてはいない。だからそれが何なのかはわかっていた。寝ている間に下着を汚してしまったこともある。けれどそれが快楽とともに吐き出されるものだということを稔は知らなかったのだ。

「ごめ……っ、お兄、もう止められな……っ、あ、ああっ!」

 和紗の腹の模様がひときわ強く光り、和紗が体をのけぞらせる。その瞬間の締めつけで、稔のものもまた限界を迎えた。止める間もなく温かいものが和紗の中に叩きつけられる。
 和紗は稔の上に倒れ込みながら、欲望を吐き出し終わった稔のものをゆっくりと抜いた。繋がっていた場所からどろりとした白濁が流れ落ち、シーツを汚していく。

「っ、はぁ……シーツ、洗わないと……だね……」

 荒い呼吸を紡ぎながら和紗が言う。和紗は自分の太腿を伝っていく白いものを指ですくい、そのままそれを口の中に入れた。

「……あんまり、美味しくはないね」
「当たり前だろ、そんなの……。それよりも和紗、体は大丈夫なのか?」
「うん……ちょっと落ち着いたかも。お兄は?」
「いや、俺は別に……」

 元はといえば、和紗が助けてほしいと言ったから、それに付き合っただけなのだ。体の心配をすべきなのは和紗の方だ。しかし和紗の問いはそういう意味合いのものではなかったらしい。和紗は稔の隣に横たわりながら再び尋ねる。

「そうじゃなくて……気持ちよかった?」

 正直に答えるのであれば、今までに味わったことがないほどの気持ちよさだった。甘い倦怠感が未だに体を支配している。けれどこの行為はこれっきりにしなければならない。

「まあ、気持ちよくはあったけど……もう、こんなことはしないからな。ちゃんと病院に行こう」
「ん、わかってる。……ありがとね、お兄」

 稔は思わず和紗の頭を撫でていた。妹の頭を撫でるなんて、幼稚園の頃以来だ。いつもはキラキラしている学園の王子様だが、このときばかりは紛れもなく可憐な少女に見えたのだ。  
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