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序・強欲な色欲の女

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「う、っ……ぁ、ああ……ん、あつ、あついのぉ……ッ!」

 清潔な白いベッドに寝かされた少女は、嬌声を上げながら自らを慰めていた。愛液を垂れ流す膣に右手の人差し指と中指を挿入し、ぐちゅぐちゅと音を立てながらかき混ぜている。左手は水色のブラジャーから溢れた胸を揉みながら、ピンと立った乳首を親指で転がしていた。次々と溢れる少女の蜜は白いシーツの色を変えていく。
 少女は前開きの服を着せられていたが、そのボタンは全て少女自身の手で外され、少女の腕に引っかかっているだけの布と化している。煌々と明かりが点いた真っ白な部屋。様々な機械があるもののそれが何のためのものなのかは少女にはわからなかった。清潔な白い部屋には少女の喘ぎ声が響いている。

「ああ、ああ……っ! だめ、どうして、こんな……!」

 少女は自分の手を制御することが出来なかった。こんなところで自慰などしてはならないとわかっている。ここは病室なのだ。個室があてがわれているとはいえ公共の場所と言える。しかし体が熱く、耐えようとすればするほどに湧き上がってくる欲望が少女の手を動かしていた。

「なんでぇ……わたし、こんなのッ、いままで……ああ、んっ!」

 少女は自らの変化に心がついていかず、戸惑いながら涙を流していた。少女はこれまで性とは隔絶された場所で生きていたのだ。いや、少女だけではない。この世界の人間は自らの安寧を守るために性を捨てた。
 生殖は体外受精と人工子宮を使い、申請して許可された者にだけ許されている。人間の体についている生殖器はほとんど使われることがない。全ての生殖が人工的なものになったため、女性の体は月経の苦しみからも解放されつつある。
 生殖を自らの体から切り離した人類は、次に薬を使って自らの性欲を殺した。大概の子供は一歳になるとすぐ、麻疹や風疹のワクチンと一緒にその薬を打たれることになる。二回目は六歳、十五歳のときに追加接種。それによって人は誰に対しても性欲を抱くことがなくなる。それは人々の間に安心感をもたらした。
 性というのはとかく暴走しがちなものだ、とこの政策を進めた大臣は言った。その欲望は際限なく肥大し、それを向ける相手を傷つけることもある。生殖を人間の体から切り離すことが出来た以上、そのために必要とされていた性欲も不要だ。人々の安寧のために捨てるべきだ。その思想はまず子を持つ母親たちに支持され、反発されながらも施策が実行され、今や当たり前のことになっている。

 だからこそ、少女は今まで知らなかった自らの欲望に混乱していた。その部分は清潔を保たねばならないと教えられていたが、今や特に意味のない器官だと教えられていた。しかし不要なものと言われていた性器は少女の指を締めつけながらうねり、少女の下にあるシーツを汚していく。

「どうしよう、わたし……おかしくなっちゃった……んんっ!」

 少女は病気で入院していた。でもそれは単なる虫垂炎のはずで、術後の経過も良好だったため、今日の昼には退院できるという話だった。けれど本当は大きな病気だったのかもしれない。もう助からないから、最後は家に帰してあげようという温情で退院できるのかもしれない。少女は次々と悪い方向へと考えを巡らせる。けれどその間も少女の手は少女の性感を高めていた。止めることができないのだ。

「っ、だめ……ッ、もう、とまんな……ぁ、ああ……!」

 少女は体を弓なりに反らせ、親指で膨らんだ陰核を弾く。その瞬間に大量の液体が少女の股の間から溢れた。少女の体から力が抜け、しとどに濡れたシーツがそれを受け止める。

「どうしよう……わたし……っ」

 少女は手首まで濡れた手を見つめながら、放心していた。未知の欲望に支配され、してはならないことをしてしまった。自分はおかしくなってしまったのだと絶望しながら、少女は濡れた手をシーツで拭う。体が重くて、ベッドサイドにあるティッシュを取る余裕さえなかったのだ。

「はぁ、はぁ……どうして、わたし……っ、やだ、また――」

 再び少女の体に熱が灯る。少女は自分の体の変化に戸惑いながらも、欲望に突き動かされて自らの性器に手を伸ばした。これが人々の間では最も野蛮な行為とされていることは少女も理解していた。性を克服した人間には必要がなくなった行為なのだ。こんなことをしているのが発覚したら、きっと酷く怒られてしまうだろう。でもこの汚れた寝具についての言い訳も見つからない。そんなことよりも、早くこの体の熱を鎮めたい。いや違う。この熱の先にあるものを少女は知ってしまった。
 体が緊張し、それが解き放たれる瞬間の快楽。食べ過ぎてきつくなったスカートのウエストを少し緩めるのにも似ている。けれどそれを何百倍にも濃縮したような感覚だ。これまでの人生で少女が味わったことがないほど強い快感。それは少女を完全に虜にしつつあった。

「あ、ああっ……だめ、だめなのに……きもひ、いい……ッ!」

 少女の理性は欲望の波に押し流され始める。少女の右手は今や器用に膣内を掻き回しながら、敏感に体が反応する陰核にも触れ、少女の快楽をより強く引き出すようになっていた。少女ははしたなく嬌声を上げ、もはやそれが外に聞こえるかもしれないという恐れを抱くこともなく自慰に耽り始める。

 快楽に溺れる少女の腹部には、ピンク色に発光する複雑な模様が浮かび上がっていた。
 その模様はハートを模したトライバルタトゥーのようであり、同時にそのちょうど真下にある女性特有の器官を模しているようにも見えた。それは少女が身悶えする度に発光するが、少女は未だにその存在には気付いていないようだった。

***

「実験は成功みたいね」

 少女の痴態を画面越しに眺めていた白衣の女が笑みを浮かべる。白衣の女の手元には、少女の腹部の模様と同じものが描かれた無針注射器が置かれていた。少女にある薬を打ってから二日。効果自体は昨日から出ていたと思われるが、少女が実際に行動を起こすまでにはそこから一日を要した。それだけ少女が理性で湧き上がる欲望を抑えていたのだろう。

「そう。欲望に正直に生きればいいのよ」

 人間が本来持っているはずの欲求を封じて、かりそめの平和を手にした世界。白衣の女にとってはそれが不満だった。人類は生殖というしがらみから自らを解き放った。それなのに今度は性欲を消して、自ら檻の中に閉じこもってしまった。冒瀆だと散々言われながらも苦しみから逃れることを目指した結果が、こんな清潔で息苦しい世界なのか。
 白衣の女はそんな現状を変えようとしていた。まずは少数の女性から。そこから世界を壊し、人間が人間を取り戻すための宴が始まるのだ。満足げに笑いながらモニターを眺める白衣の女の腹部にも、少女と同じ模様が浮かび上がっていた。

「さて、次は――このリストの子たちね。この子たちはどうなってくれるかしら?」
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