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1・逃亡_4
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「こういうところでも普通にコーヒーとか置いているんだね」
朝が来たかもわからない部屋で、先に起きていたのは天花の方だった。いつの間にか服を着て、冷蔵庫に入っていたらしいミネラルウォーターを飲んでいる。
「……そのインスタントコーヒーとか水は無料だけど、他はタダじゃないからな?」
「え、ほんとに? よかった水にしといて」
部屋の料金を精算するときに一緒に精算になるらしい。天花は何も持たずに出てきたから、暫くは恭一の財布に入ってる金だけが頼りだ。余計な金は使えない。
「ってことは服もだよね……?」
「無料で服もらえると思ってた方が不思議だ……」
恐る恐る料金を見てみるが、幸いにも天花がシンプルな服を選んでくれたおかげで、思ったよりは安く済んでいた。血で汚れた服をいつまでも着させるわけにもいかないし、結果的にこれでよかったかもしれない。
「とりあえずそろそろ出ないと追加料金取られるな」
「それ彼女に言ったら嫌われるやつだよ」
「いないからいいだろ別に……」
昨夜のことが嘘だったかのようなやりとりをしながら、部屋を出る準備をする。料金の精算はエアシューターで行うタイプだった。かなり古い設備だが、誰とも顔を合わせなくていいのは好都合だった。
「どこ行くの、これから?」
「とりあえず人目につかないところで、雨風を凌げるところが見つかるといいんだけどな」
そして出来ればこの街を離れたい。都会に出るべきなのか、田舎に向かうべきなのかはまだ決めかねていたが、少しでも追っ手に見つかる可能性を減らしておきたかった。
「……本当にいいの?」
「何が?」
「だって、お兄ちゃんは誰も殺してないし」
「裏切ったら許さないって言ったのはそっちだろ」
裏切る気は毛頭ない。たとえ真実がどんなものであったとしても、天花が天花であることには変わりがないのだから。
「そもそも服を無料でもらえると思ってるような奴を一人で放り出せるか」
「だって値札ついてなかったんだもん」
部屋を出て、エレベーターに乗り込む。帰りのエレベーターは、行きのものとは違ってどこにでもある簡素な内装のものだった。まだ街は動き始めたばかりで、人の気配はない。色々なことが変わってしまったのに、何も変わっていない景色の中、二人は歩調を合わせて歩き始めた。
「こういうところでも普通にコーヒーとか置いているんだね」
朝が来たかもわからない部屋で、先に起きていたのは天花の方だった。いつの間にか服を着て、冷蔵庫に入っていたらしいミネラルウォーターを飲んでいる。
「……そのインスタントコーヒーとか水は無料だけど、他はタダじゃないからな?」
「え、ほんとに? よかった水にしといて」
部屋の料金を精算するときに一緒に精算になるらしい。天花は何も持たずに出てきたから、暫くは恭一の財布に入ってる金だけが頼りだ。余計な金は使えない。
「ってことは服もだよね……?」
「無料で服もらえると思ってた方が不思議だ……」
恐る恐る料金を見てみるが、幸いにも天花がシンプルな服を選んでくれたおかげで、思ったよりは安く済んでいた。血で汚れた服をいつまでも着させるわけにもいかないし、結果的にこれでよかったかもしれない。
「とりあえずそろそろ出ないと追加料金取られるな」
「それ彼女に言ったら嫌われるやつだよ」
「いないからいいだろ別に……」
昨夜のことが嘘だったかのようなやりとりをしながら、部屋を出る準備をする。料金の精算はエアシューターで行うタイプだった。かなり古い設備だが、誰とも顔を合わせなくていいのは好都合だった。
「どこ行くの、これから?」
「とりあえず人目につかないところで、雨風を凌げるところが見つかるといいんだけどな」
そして出来ればこの街を離れたい。都会に出るべきなのか、田舎に向かうべきなのかはまだ決めかねていたが、少しでも追っ手に見つかる可能性を減らしておきたかった。
「……本当にいいの?」
「何が?」
「だって、お兄ちゃんは誰も殺してないし」
「裏切ったら許さないって言ったのはそっちだろ」
裏切る気は毛頭ない。たとえ真実がどんなものであったとしても、天花が天花であることには変わりがないのだから。
「そもそも服を無料でもらえると思ってるような奴を一人で放り出せるか」
「だって値札ついてなかったんだもん」
部屋を出て、エレベーターに乗り込む。帰りのエレベーターは、行きのものとは違ってどこにでもある簡素な内装のものだった。まだ街は動き始めたばかりで、人の気配はない。色々なことが変わってしまったのに、何も変わっていない景色の中、二人は歩調を合わせて歩き始めた。
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