上 下
40 / 40

エピローグ 終幕、第1章完結

しおりを挟む
 扉の先へ足を踏み入れてからのことは覚えていない。

 ただ、この状況を見て、僕は思った。

「どうして、裸なんだ、アルス」

「う…………ん?起きたの?」

 僕の胸の中で眠そうに眼をこするアルスと同じベットで寝ている。

 しかも、アルスは裸っ!!

 まさか、やってしまったのか?やってしまったのか!?

 心の中でごちゃごちゃにかき混ぜられた気分に襲われる中、アルスはポンポンっと頭を撫でた。

「大丈夫だよ」

「アルス…………頼みから、服を着てくれ」

 扉の先へ踏み入れた後、僕はばたりと倒れたらしい。

 それでアルスが風呂に入れたり、ベットに寝かせつけてくれたり、いろいろしてくれたとのことだ。

「それにしても、いろいろあるんだな」

「ベットや食事に、大きなお風呂、何でもあったんだよ。大きな図書館もあったりしてっ!すっごく広い!」

「こんなに整っているのを見ると、誰かが暮らすことを想定していたのか?」

「わからない。でも、ここら辺一通り調べて、出口らしき場所を見つけたよ」

 アルスの案内で出口らしき場所へと移動した。

 そこはまるでエレベータのような円柱のような形をしていて、床には魔法陣らしきものが刻まれていた。

「たしかに、出口っぽいな」

 近づいてみると、壁に文字が刻まれていた。

「なになに…………魔力を注げ。さすれば、扉は開かれん。なるほどな」

 つまり、魔力を注げば、出られるってわけか。

 ここまで本当に長かったようで、短かったような…………。

「ヒナタ、このあとどうする?」

「そうだな。しばらく、ここに居座ろうかなって思っている。外に出た出たらで、ボロボロな状態だと、死にかけないしな。今は存分に体を癒すことにする」

「じゃあ、私はヒナタが癒されるために頑張るね」

「いや、アルスもだぞ。僕にとって、最高相棒なんだ。一緒に癒されよう」

「…………うんっ!!」

 しばらく、ここで暮らすことにした僕とアルスはとにかく、満喫した。

 この場所を探索したり、なぜか一緒にお風呂に入ることになったり、おいしいご飯を一緒に食べたり、笑って、遊んで、僕がいた世界とは比べ物にならないほど楽しい日々を過ごした。

「ヒナタは、外に出た後どうするの?」

「…………そうだな」

 とにかく、外に出て安全を確保するのが目的でもがきながら頑張ってきたわけだけど、今思うと特にこれと言ってやりたいことはない。

 いや、ひとつだけある。

 ルクスニア王国のせいでこんなめにあったわけだし、ほかの勇者たち4人が心配だ。特に結奈さんが。

 彼女はある意味で心の支えにもなっていたわけだし、安全だけは確認しておきたいかも。

 それに勇者や魔王、そして魔女のこともきになるところがいくつかある。

 それこそ、アルスの正体が傲慢の魔女だったことや、今思うと、ここまできて特に分かったことなんて何一つない。

 なら、僕が外に出てやるべきことは。

「ダンジョンに行こうと思う」

「また試練に挑むの?」

「ああ、東條サチさんは結局何も聞けなかったけど、きっとほかのダンジョンにも東條サチさんのようなダンジョンの管理者がいるはずだし」

「ヒナタが決めたなら、私は止めないよ」

 アルスが少し大人っぽく見えた。

 なんか、見守る母親みたいだ。

「アルスにそう言われると、調子が狂うな」

「今の私は一つ大人だからね。でも、ヒナタに対する思いは変わらないよ」

「思いってそれだったら、僕だって変わらないし、むしろ大きい!」

「それなら、私はヒナタ以上に大きいね」

「いや、ぼくのほうが大きいっ!」

「私のほうが大きいっ!」

 バチバチになったと、腹抱えて笑った。

「お互い同じぐらいってことで手を打とう」

「そうだね」

 そして、日々が淡々と過ぎていき、ついに外に出る時が来た。

 準備を整え、食料や水、装備品を整えて、魔法陣の前に立った。

「この魔法ポケット、すごく便利だよな」

 魔力量に合わせて、持ち込める量が変わる魔法ポケット。

 僕が使うと家一軒ぐらい入るぐらいの容量になるため、旅ですごく役立ちそうだ。

 ついでに、この魔法ポケットはこの部屋にあった道具の一つ。

 その他にもアルス用に魔法杖や僕用の超頑丈な剣だったり、いろいろ頂戴した。

「振り返ると本当にいろいろあった」

「そうだね」

「でも、アルスに出会えて、僕は変われた…………と思う、たぶんっ!」

「…………変わってないと思う」

「え?マジで」

「マジで…………」

「じゃあ、変わってないわ。でも、前向きにはなれた気がする」

「そんなことより、早くいこう」

「おい、せっかく、懐かしみながら、アルスとの思い出をかみしめようとしたのに」

「思い出はこれから作れるでしょ」

「それもそうだな、それじゃあ…………」

 僕は魔法陣に魔力を流し込んだ。

 すると、まほうじんがかがやきだし、僕たちを包み込んだ。

「やっと、やっと、外に…………」

 光に包み込まれ、自然とまぶたが落ちる。

 そして、目を見開けば、そこには桜舞い散る木々に囲まれた場所にいた。

「ここは…………」

 上を見上げれば、真っ暗な星空が輝いている。

「本当に、出られたんだな」

「ねぇ、ヒナタ」

「どうした?」

「あれ、見て」

 アルスが指さした先は、小さなお墓だった。

 お墓に近づくと、東條サチと彫られていた。

「これって」

 東條サチのお墓。つまり、ここにダンジョンがあったってことだ。

 もしかして、これで攻略ってことになるのかな。

 少しだけ悲しい気持ちになり、胸を締め上げた。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。さぁ、やっと出られたんだし、いこう、アルスっ!」

「うん、ヒナタっ!」

 二人の旅は始まったばかりだ。

 残り六つのダンジョンという名の試練やルクスニア王国の魔法使いジェルマンのたくらみ、結奈さんたちのこと。

 たくさんの不安がまだ残っている。

 やることは多いけど、目的には十分だし、それに今は最高の相棒、アルスがいる。

 こうして、二人の本当の旅が始まった。


□■□

 これにて第1章完結です。
 ここまで読んでくださりありがとうの気持ちでいっぱいです。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

処理中です...