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142話〜罪と罰〜

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「ではこれより、聖勇教会残党に対する裁判を開始する!」

 俺の言葉に、周囲にいる魔族達が咆哮をあげる。

「何が裁判だ! 貴様等我々に対してこのような無礼! どうなるか分かっているんだろうな!」

 そんななか、俺達に向かって勝手に発言をした残党の一人が、オーガの拳によって殴り倒される。

「発言があるのなら手を挙げろ。指名されてから発言するように」

 あの後、聖勇教会残党を匿っていた国を30分ほどで地図から消した俺達は、見付けた聖勇境界残党を引き連れ、領土に戻って来たのだ。

「まず彼らに対する罪状だが……」

 屋敷の一室にて開始される裁判。
 そこでロウエンが罪状を読み上げていく。

「まずは我が領主の故郷を焼き払った罪。そして墓を荒らした罪。次に正当な理由無く逃亡し、他国に匿われ、その国が滅ぶ原因を作った罪。まぁこんなものか?」

「まだあるわ。過去に竜を不当に封じた罪。魔族への不当な差別。挙げていったらキリがないわ」

「貴様ら! 魔族のくせに人間様に逆らうか!!」

「おい、話したければ手を挙げろって言ったよな?」

 叫ぶ残党の一人の喉に、抜いた刀を突き付けるロウエン。

「ま、その手じゃ挙げられないか」

 と、彼は後ろ手に縛られている残党達を見て軽く笑うのだった。

「さっさと続けるぞ」

 と言って俺が先を促す。
 ロウエンとラナによって聖勇教会の悪行の数々。

 そしてそれを聞いて怒りをあらわにする魔族達。

「静かにしろ。声が聞こえない」

 そんな魔族達も、俺の言葉には黙ってくれる。
 そのように、今だけ世界のルールを変えているからだ。

「……以上だ。ハヤテ、罰を頼む」
「ん……そうだな。罰は、彼らに決めてもらおうか」

 そう言って俺は、残党達を屋敷から連れ出した。



「さ、彼らがお前達を裁く者達だ」
「こ、こいつらは」

 俺が連れて行って先。
 屋敷裏にある小さな丘。
 そこにいるのは

「そう。お前達が無理やり従えていた飛竜達だ」

 そう。
 聖勇教会が鎧と霊薬で従えていた飛竜達だ。
 その飛竜達から鎧は外されており、身軽になっている。

「ど、どういう」
「やぁお前達。待たせたね。これは君達の問題だと思ってね。君達が許すのであれば、彼らを無罪放免にしようと思う。でも、もしも君達が彼らを許せないと言うのなら、君達の好きにして良いよ」
「なっ!?」

 その言葉に、コバトゥリアとかいう残党トップが目を見開いた。

「ち、ちょっと待っ」
「さ、好きにすると良い」

 残党トップの言葉を待たずに、俺は飛竜達に促す。
 直後、ギャアギャアとけたたましい叫びを上げながら、残党に飛びかかる飛竜達。

「ま、待て! 助けっ、ギャアァァァァァッ!!」
「ひ、引っ張るなちぎれっ」
「足が! 俺の足がぁぁぁぁっ!!」

 そこから始まるのは飛竜達による血の宴。
 手足が行き交い、肉が舞い、血が噴き上がる。

 そんな中で

「や、やめろ! 私が誰か、分かっているのか!」

 ジリジリと迫る飛竜に叫ぶコバトゥリア。

「この私は! 聖勇教会の!」
「ギギャァッ!!」
「ギャァァァァァッ!!」

 そんなの知るかと言うように飛びかかりコバトゥリアの頭を噛み付き、バリバリと砕く飛竜。

 こうして、聖勇教会は俺の目の前で壊滅した。

 が、話はこれでは終わらない。



「どういう事だハヤテ!」

 次に連れて来られたのは縛られた兄だった。

「どうもこうもないだろ」

 そう言うのはロウエン。

「お前はセラを背後から斬り、大怪我させた。それも、魔族になった彼女に対して破魔の剣でだ」
「お、俺はそんな事していない!」
「だが彼女はお前の剣で斬られており、彼女の傍らにはその剣が置き去りにされていたぞ」
「無くしたんだよ!」
「信じられんな」
「なぁ、信じてくれよハヤテ!」

 そう言って俺を見上げる兄。

 だが

「信じるも何も、アンタの剣でセラが斬られたのは事実だ」

 だから

「仲間を切る様な人間を、俺の領土に居させるわけにはいかない」

 その言葉に、カラトの表情が変わる。

「ま、待ってくれ……それだけは待ってくれ」

 俺が何を言おうとしているか分かったのだろう。
 カラトがすがる様に俺を見上げる。

 だから俺は言う。
 だけど言う。

 俺のために言う。

「勇者カラト。お前を、この領地から追放する」

 俺は兄を、勇者を、カラトを追放する事を告げた。

 それから話は早かった。
 その日の夜から雨が降り始めた事もあり、俺は兄に対して家族としてできる最後の事として、追放は雨が上がってからにした。

 そして、雨は3日後まで降り続いた……



「悪いな。でも」
「分かってる。領主になる以上、いくら勇者といえど疑いの種は取り除かないといけないからな……でも俺は!」
「分かってる。俺も信じているよ」

 無実を訴えるカラトにそう返す。

「エラスは残念だったな」
「いや、良いんだ……アイツにはここに居場所ができた。なら、無理やり連れて行く事はできないよ」

 エラスはすでにこの領地にある教会で働いてもらっている。
 そこで暮らす孤児達の世話を頼んだところ、初めは戸惑っていたが今では子ども達にも懐かれており、少しずつ仕事にも慣れてきて楽しそうにしていた。

 そんな彼女を見たカラトはモーラに声をかける事はかけたが、元気でなと言うだけに留めたのだ。

「じゃあ、そろそろ行くよ」

 雨が上がった日の昼。
 俺は領地の外れにカラトを見送りに来ていた。

「来て良かったのか? これでもお前は」
「気にするな。今は弟として来ている」
「……そっか。それはありがとうな」
「俺も、今の立場でなければ庇っていたさ」

 それから少し話しをした。
 兄弟でできる最後の話をだ。

「……じゃあそろそろ行くよ」
「あぁ……ついでだ。これを持って行け」

 そう言って俺はカラトに、ある程度纏った金が入った布袋を渡した。

「い、良いのか?」
「あぁ。俺が貯めた金だ。宿に泊まるなりするのに不自由は無いはずだ」
「……ありがとう。恩にきるよ」
「兄弟だろ。俺達」

 俺の最後の言葉にカラトは黙って頭を下げ、俺に背を向けて歩き出した。
 新たに剣を腰に下げてこの日、勇者カラトは弟の俺の手によって追放された。

 その背中を俺は、ロウエンとラナと共に、姿が見えなくなるまで見送っていた。



 そして、その背中が見えなくなってから俺は

「ラナ。やれ」
「本当に良いのね?」
「あぁ。俺の願いのためにもアイツの力は必要だ。人間と魔族が笑って暮らせる国を作るためにも……」

 そして

「モーラを生き返らせるためにも」

 また彼女に会うために必要なのだ。

「でも」
「アイツは最初に俺から色々奪ったんだ。なら今度は奪われたものを奪い返す。そのために」

 俺にとっての家族はミナモやユミナをはじめとする、仲間達だ。
 母親だった人も、カラトももう、俺の家族ではない。

 俺にはもう守るべきものがある。
 やるべき事もある。
 人間と魔族が笑って暮らせる国を作るために、魔王を殺し、場合によっては神族とも事を構えなければならない。
 そのためには、勇者・陰と風の力だけでは足りないのだ。

 だから俺は

「勇者カラトを殺して、勇者・陽の力を持って来い。陰と陽は2つで1つ。別れていて良いものでは無い。殺して奪い取れ」
「分かったわ。じゃあ、やるわね」

 そう言ってラナが軽く指を鳴らす。
 すると近くの森からガサガサと何かが動き出す音が聞こえた。

 ラナによって放たれた獣達が、カラトの命を狙って追いかける。
 1体の獲物として追いかける。

「これで良い。これで良いんだ」

 気付けば呟いていた。
 だが

「良い顔ねハヤテ」

 ラナが俺の顔を見て言う。

「今の顔、まるで魔王様みたいよ」

 どうやら気付かないうちに、そんな顔をしていたみたいだ。

「さ、戻ろう。ここにいても、俺達にできる事はない」
「そうだな。帰ろう」
「そうね」

 そんな時に口を開いたロウエンに促され、俺達は屋敷へと戻るのだった。
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