上 下
136 / 143

136話〜新しい仲間〜

しおりを挟む

「力を貸して欲しい、か」
「はい。どうかあなたの力を」
「良いよ」
「……え?」

 まさかすんなりと承諾されるとは思っていなかったので、思わず聞き直してしまった。

「うん? 聞こえなかったか? 私は力を貸すのは構わんよ。封印を解いてもらった恩もあるしな。だが一応、何のために力を貸して欲しいのかを聞かせてはくれないか?」
「分かった。俺は……魔族と人間が共に笑顔で暮らせる国を作りたい。そのための力を、貸してください」
「分かった。そういう事ならば喜んで、力を貸そう」

 俺の言葉に竜は静かに頷く。

「あ、ありがとうございます!!」
「気にする事はない。それに」

 そう言って竜はセラをチラッと見て続ける。

「その娘が投げ込まれた際に感じた魔力が私の覚醒を促しもしたからな。それの礼も兼ねて、力を貸そう」

 こうしてエンシェントフレイム ドラゴンの協力を得られた俺達は、タルガヘイムにある家に向かうのだった。





「……急にすみません。助かりました」
「あの、彼女は」

 タルガヘイムのハヤテ領になんとかたどり着いたカナト達は今、ハヤテの屋敷に来ていた。
 というのも、途中で仲間に加わった魔族の少女が到着するなり倒れてしまったのだ。
 困っているカナト達の所にちょうど散歩帰りのウルとルフが通りかかり、倒れている少女を見るやウルが背中に乗せて運んだのだ。

 そして運び込まれた少女はミナモによって手当を受ける事ができたのだが

「疲労が限界だったのね。今は眠っているわ」
「あ、ありがとうございます」
「本当に、助かりました」

 魔族の少女と共にいた少女がミナモに深々と頭を下げる。

「別にたいした事はしていないから。それよりあの子、昔どこかで見た覚えがあるのだけれど」
「……やはり、魔族の方には隠せませんね。あの方はツランド・エルシェント様です」
「エルシェントって……ラナと同じ」
「はい。ラナスティア・エルシェントと同じく、エルシェントに名を連ねるお方です」

 ツランドと共にいた少女が説明する。

「んで、君は?」

 その少女にカラトが尋ねる。

「私はカーラ。魔王軍の元四天王、火炎のカーラです」
「っ!?」
「四天王だと!?」

 四天王という言葉にエンシが警戒する。

「ちょちょちょっと待ってよ。私はもう魔王軍をやめたのよ。あんな魔王ついていけないわ」

 怒りながら魔王軍を抜けたと伝えるカーラ。
 その様子から、嘘ではないなと判断するカラト。

(様子だけは本当みたいだが、ロウエンとラナがいないのが痛いな……俺では嘘か本当か分からない)

 せめて片方だけでもいれば、と思うか カラト。
 信じるべきか、どうするかかと考えるカラト。

(いや、下手をしたらここにはハヤテ達もいたんだ。そんな所で嘘をつく可能性は低いか)

 そう思い、カラトはカーラの言葉を信じる事にした。



 そのままカラトはカーラ達がここに住みたいと言った事もあり、知り合いが管理する家を紹介する事に。

「というわけなんだ。頼めるかな」
「まぁ俺としては構わんが、アンタらの連れまで入れる広い家はないからなぁ……」

 そう、問題はカナトの仲間のモンスター達だった。
 ウル、ルフ、フーよりも大きな体格のモンスターを連れているため、普通の家では入らないのだ。

「そこをなんとかならないか?」
「なんとかと言われてもなぁ……」

 カラトの話を聞きなから顎を指で撫でるオーク。

「ある事はあるんだがなぁ……」
「何か問題でもあるのか?」
「人間の生活スペースが狭いんだ」
「そっちか……何人ぐらいなら住めるんだ?」
「ちょっと待ってろ……」

 椅子から立ち上がり、本棚から管理している家屋の本を持ってくるオーク。

「えっとだなぁ……五人ぐらいだな」
「五人か……六人だと狭いか?」
「そうだな。体格次第って所だな」
「中を見る事は可能か?」
「もちろん可能さ。今から行くか?」
「あぁー、すまん。今日は多分無理そうなんだ」
「そうか……そういえば連れがまだ目を覚まさないんだっけな」

 オークが思い出したように呟き、カラトがそれに頷く。

「じゃあその子が目を覚ましてからにしよう。その子も住むんだろう? ならその子の意見も聞かないといけないからな」
「あぉ。それもそうだな。突然来たのにありがとうな」
「あぁちょっと待て待て」
「ん? なんだ?」

 帰ろうとするカラトをオークが呼び止める同時に部屋のドアが開く。
 そこにいるのは人間の女性。
 このオークの奥さんだった。

「はいこれ。ここまで来るのに疲れてるだろうし、アンタの所でご飯食べると思うけど、持って行き。家のミルクは元気が出るよ」
「ありがとうございます。必ず渡します」

 受け取ったバスケットの中に入っているのはオークの家の家畜からとれたミルクだ。
 味が濃厚で、領内で人気なのだ。

「じゃあ、目を覚ましたらまた来てくれよ」
「分かりました。本当に急にありがとうございました」

 最後に一礼して家を出るカラト。

「ようウル。待たせたな」
「……がう」
「分かってるよ。待たせて悪かったって」
「ガウガルルガゥガガゥ」
「……すまん。言葉は分からないけど、機嫌が悪いのは分かるよ」
「……がぁう」

 外で待っていたウルと共に家に帰るカラト。

「ハヤテのやつ、早く帰ってこねぇかなぁ……」
「がうぅ」

 そんなことを呟きながら、家路に着くのだった。










「お、おぉ。奇跡だ!!」
「お医者様は絶対に助からないと言っていたのに……ありがとうございます。ありがとうございます」
「いえいえ。当然の事をしたまでです」

 とある村で青年に感謝する夫婦がいた。
 夫婦の間にいる娘がある重い病にかかり、命の危機に陥っていたのだ。
 そこに現れた一人の青年が、医者でも治せないと匙を投げた病を瞬く間に治したのだ。

「あ、あのお礼を」
「お礼は結構です。私は当然の事をしただけですので」
「で、でしたらせめてお名前を」

 そう言われ、去ろうとした青年は振り返って簡単に名乗る。

「私の名前はフグリ。人々を守る勇者です」

 爽やかな笑みで本心を隠して、彼はそう言った。
しおりを挟む

処理中です...