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123話〜類は仲間となる〜
しおりを挟むジュリアスという名の騎士とその娘さん達に救われ、俺とステラさんはあの後集会所へと戻れた。
俺とステラさんの傷は幸いな事にたいした事なく、大人しくしていればすぐに治る程度だった。
そんな俺達を助けてくれた二人が連れているモンスター達。
全部で四体いるが、どれも上級だ。
セイギンタイガーは数多の獲物を食らい、力をつけたレイブウルフとも互角に戦うと言われている。
クラックゴリラは知能が高く、難しい指示も理解すると言われている。
シンティラレイブンはワイバーンと互角に空中戦を繰り広げる事が可能な程に、見かけによらず力強い鳥だ。
ニトロタートルに至っては、小さな城塞ならばたった一頭で破壊し尽くせるほどの馬力と防御力を持っている。
そんな高位のモンスターを連れている親子に俺達は二日前、救われた。
そして二日後、俺達は……
「ゴッフ!! ウォゥウォゥ!!」
「あ、あの!! クラリラさん!?」
「ウォウ?」
「その……高いですね」
俺はクラックゴリラに担がれていた。
左肩に座るように乗せられて担がれていた。
そんな俺の足元でガルガル唸りながらセイギンタイガーのギンが見上げている。
「あ、あの……アバランシアさん。これは」
「ん~? あぁ、クラリラとギンに気に入られたみたいだね」
「それは……良い事ですか?」
「良い事だと思うよ? 二匹共あまり人に懐かないからさ」
「そ、そうなんですか」
どうやら悪い事では無いらしい。
それにステラさんはステラさんでニトロタートルのニートルの背中に乗っては楽しそうにしている。
さて俺達が何故、共に行動をしているかと言うと簡単な事。
共に旅をする事になったのだ。
既に俺とステラさんでリスリーというパーティーを作っていたので、ジュリアスさん親子にはリスリーに加わる形で仲間になってもらったのだ。
一応、リーダーは俺のままだ。
だが一番年下の俺がリーダーで良いのかと思い、メンバーに相談したのだがステラさんはそのまま続けてくれと言い、アバランシアさんはそういうのは苦手だからと言い、ジュリアスさんは自分は補佐の方が得意だからと言って断られた。
そうして新生リスリーが誕生したのだ。
「それにしてもお二人は一体どんな関係なのですか?」
「私とカナトですか? 恋人です」
「ブフッ!? ド、ドストレートに言いますね」
「本当の事ですので」
「そ、そうなのですか……へぇ~。因みにどこまで行ったんですか~? キスとかですか?」
「いえ」
「まさか、手を繋ぐ所ですか!?」
「いえ」
「え、それ以前ですか? い、意外と奥手さん?」
「いえいえ。最後まで行きました」
「ブフゥ!?」
「アバランシア。汚いからやめなさい」
「え!? えぇ!? お父さん驚かないの!?」
「まぁ、最近の子は色々と進んでいると聞くからなぁ……」
そんな事を話す親子。
父娘で旅をしているみたいだが、仲は良いようだ。
羨ましい。
少し前までは、将来はリナシアと温かい家庭を作りたいと思っていたのだが、それはもう叶わない夢となった。
ただ、今の俺にはステラさんという大切な女性がいる。
いつか彼女の隣に立てるぐらい大きくなって、彼女を守れるぐらい強くなって、温かい家庭を作れればと思っている。
そんな時だった。
「そう言えばカナトさんは確か勇者であるマリナ王女と旅に出たと聞きましたが」
「あっ……えっと、それは」
「何か、聞いてはいけなかっですかね」
「えっと、まぁ……」
ジュリアスさんの言葉に俺は苦笑いで返す。
するとステラさんが口を開いた。
「彼には恋人がいましたが王女が奪いましてね。傷心中の彼を私が奪い取りました」
「っ!? っく……ブフッ!!」
「こらアバランシア!!」
「だ、だってぇ!!」
ステラさんの言葉に何とか堪えたかと思ったら吹いてしまったアバランシアさん。
多分、僕でも吹いていたかもしれない。
「あはは……変な事を聞いてしまって申し訳ない」
「い、いえ……あ、そういうジュリアスさん達こそ何故旅を?」
「えっとそれが……」
「お母さんが浮気したから捨ててやったんです!!」
「そ、それは……」
「こらアバランシア……」
「あ、ごめんなさい……」
どうやらお互いに愛する相手を他人に奪われた者同士だったようだ。
その頃、オーブ王国内では大変な事になっていた。
「お、おおお、お茶のお代わりを……」
「いらん。そんな所に気が回すぐらいならさっさと団長を連れて来い」
「は、はいぃぃ!!」
今年騎士団に入ったばかりの新米騎士は客人の相手をしていたが、相手の言葉に含まれたプレッシャーに恐れ、慌てて部屋を出て行く。
「……全く。人を化け物のように扱いおって」
自らの髪を指で弄りながら呟く女性。
白コートに白いロングブーツ。
用意されたお茶には手をつけず、その切れ長の目を細めながら欠伸を噛み殺す。
「お待たせして申し訳ない」
するとそこへ恰幅のいい男性がやって来る。
服の上からでも分かる。
彼のその恰幅の良さは鍛錬の賜物。
貴族達のように、脂肪と贅肉だけで出来ただらしない物ではないと彼女は見抜いた。
「いえ、こちらこそ急で済まないな。ライアックス騎士団長殿」
「いえいえ。こちらとしてもお話ししたい事がありましたのでちょうど良かったですよ。レイェス殿」
彼女はレイェス・フロスフィア。
フリジシア皇国の騎士にして聖刀に選ばれし者。
対するライアックス騎士団長はその肩書きの通り、オーブ王国の騎士団を纏めるトップ。
立場で言えばライアックスの方が遥かに上だが、彼の表情は固い。
なんせ相手は皇国最強と言われ、小国程度なら片手間で凍てつかせる事ができる女。
つまり彼は今、彼女の射程圏内にいるのだ。
「おや、そちらからもお話があったとは……ではそちらからどうぞ」
「私から、ですか……では。先日、教導のために派遣していただいた騎士達が全員、貴国へと帰ったのですが、何かありましたか?」
「何か、と言いますと?」
「そうですね。騎士の大量に必要とする……戦、とかですかね」
「ほう……」
「して、どうでしょうか?」
ライアックスの話を聞いてレイェスは面白い、というように笑ってこう返す。
「そうだったらどうしますか?」
「どうしますか、ですか……正直安心できませんね」
「そうでしょうな。ですがご安心下さい。こちらは今の所どこの国とも事を構えるつもりはありませんよ」
「そうですか……でしたら何故」
「そうですね……因みに、その教導隊の世話になっていたのはどこの隊か分かりますか?」
「隊ですか……確か」
隊長の名を言おうとするライアックス。
だが、彼がいうより先にレイェスが口を開いた。
「ライアックス殿の御令嬢の旦那である、バラマ殿の隊ですよ」
「そ、そうだったな。にしても、よく知っているな……どうして」
「教導隊の中に私の部下もいましたので。ある程度の話は彼等からも聞いたのですよ」
「そ、そうでしたか……」
「それで、その隊をやめた者がいますね?」
「!? な、何故それを!!」
「言ったはずです。ある程度の話は、彼等からも聞いたと」
「……まさか、彼から。でも何故!?」
ライアックスは思わず声を荒げてしまうが、レイェスは気にせずに答えた。
「やめた彼。私の従兄なんですよ」
次の瞬間、ライアックスの顔から血の気が引いた。
「ま、まさか……うちの義息子が何かご無礼を」
「ご無礼? ハハッ、まさか……そんな事ありませんよ」
「で、ではどうして……」
「どうして? 簡単な事ですよ……旦那がいる女に手を出すような者がいる部隊に、私の可愛い部下を派遣する事はできないという事ですよ」
「旦那がいる女に、手を出した? それはいったい」
「おや、聞いていないのですか? バラマは私の従兄であるジュリアスの妻を奪ったのですよ」
「そんなバカな!? バラマからは家の都合で辞めたとしか……」
ライアックスの言葉に呆れたようにため息を吐くレイェス。
「団長ともあろう方が、言葉だけの報告で済ませるか。呆れて何も言えんな」
「す、済まない。私も忙しくて……」
「えぇ、えぇ。それは分かっております。ですがその報告主が義理とは言え息子なのなら、それだけの報告を信じるのは問題かと思いますが」
「そ、それもそうだな……いや、確かに彼の報告にはおかしい点があったんだ」
「……おかしい点?」
「あぁ。退職金を払うって話になった時、彼は忙しいから妻に渡して欲しいとか……色々と忙しいみたいだから会いには行きないで欲しいとか……」
「……聞けば聞くほど怪しいですね。で、それを信じた、と」
「面目ない」
眉間に手を当てながらそう返してから頭を下げるライアックス。
そんな彼にレイェスは続ける。
「私の部下にも家庭を持つ者はいます。その部下達をバラマの下には預けられません」
「分かっている……分かってはいるのだが」
「何か不都合が?」
「……いや、然るべき処分を下そう」
「然るべき処分、と言いますと?」
「……アイツの代わりはいくらでもある、という事です」
「……ふむ。それもそうですね」
ライアックスの言葉に頷き、立ち上がるレイェス。
その彼女を、ライアックスは慌てて呼び止める。
「ま、待って下さい!! 教導隊の事ですが……」
「あぁ。それでしたら然るべき処分が下った後、検討させていただきます。よろしいですね?」
「……分かりました」
「では、私はこれで」
そう言って部屋を出て行くレイェス。
残されたライアックスはすぐに部下を呼んで指示を出す。
「ジュリアスの……アイスハルトの家を探れ。誰にも気付かれぬように」
「気付かれぬように、ですか」
「あぁ。正直、バラマは義理の息子。彼の事は信じたいが……」
「信じるために探る、ですか」
「そうだ。頼めるか?」
「……分かりました。このフェイルス・ディテルガイズにお任せを」
「あぁ、頼んだぞ…….」
「では……」
そう簡潔に言うと、部下は部屋を去った。
そして部屋に一人残されたライアックス。
その顔は先程とは違い、憤怒の色に染まっている。
「バラマ……あの小僧。娘を不幸にするのなら許さんぞ」
深い深い洞窟の底から響くような低い声。
その声の主は騎士団の団長ではなく、父親の顔をしていた。
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