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110話〜戦場へ〜

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「急な呼び出しに応じてくれて感謝する」
「い、いえ……暇でしたので」

 パルメチズ王国の王妃とモフランティカ獣国と獣王と会ってから二日後。
 俺とロウエンはまた王城へと来ていた。

「して、此度のお話はいったい」
「うむ。あのな、ハナイ王国を知っているか?」
「ハナイ王国……」
「ハナイ王国……あぁ、あのバカ。んんっ、子煩悩が治めているあの国ですか。それが何か?」
「うむ。それがな……フリジシア皇国と戦になった」
「フリジシアって……レイェスさんの?」
「あぁ。にしてもどうしてまた……」
「……本来は我が国へと攻め込もうと進行していたらしいのだがな、フリジシア皇国が止めてくれたのだ」
「おやおや……まだどうして攻め込もうと思ったのやら」
「それがな、どうやらハヤテ関連らしいのだ」
「……え、俺?」
「うむ、お主」

 戸惑う俺に告げられる戦の理由。
 それはハナイ王国の王女であるナナイが俺に会いに来たが追い返されたのた事に対する仕返しらしい。
 しかもその会いに来た理由というのが、俺を婿に迎えたいというものだった。

「うわ、会わなくて正解だったわ……」
「だろう? だからこちらで断ったのだがな……それが裏目に出たようだ」
「それで、俺達にどうしろと?」
「我が国からも援軍を出す事にした。それに加わって欲しい」
「ふむ……」
「分かりました」

 ロウエンが考える中、俺はその話を受ける事にした。
 ロウエンが驚いた顔で俺を見ていたが、俺が何を考えていたのか分かったのだろう。
 何も言わなかった。

 手柄を立てるのにちょうど良い機会。
 向こうがその機会をくれるのなら、最大限利用してやろう。

「すぐに出立致します」
「ほう? エンシ達は良いのか?」
「時には休みも必要でしょう。私にはウル達がいますので足には困りません」
「そうか……分かった。しっかりやって来るように」
「ハッ!!」

 ハナイ王国。
 初めての訪問が戦というのは悲しいが、仕方がない。
 やるからには徹底的にやらせてもらうとしよう。





 そうして俺達は国を発った。
 一応群狼の皆が心配しないよう簡単な文を書いて出した。

 数日後、着いたのはフリジシア皇国・クラング王国・ローライズ教国連合の砦。
 木造式の砦だったが、じゅうぶん立派な砦だった。

「おお、クラング王国の勇者殿まで来てくれるとはありがたい!!」
「初めまして。風月の群狼のハヤテです」
「同じくロウエン」
「それと、ウルとルフです」
「ワウ!!」
「わふ!!」

 出迎えの騎士に挨拶し、砦内に入る。

「なんとか国境を越えはしたのですがね」
「ここは敵国内。物資も豊富って訳か」
「はい。おまけに向こうの本陣……城は小高い丘の上ですからね。こちらとしては攻めにくいのですよ」

 俺達が着くまでの数日で連合はハナイ王国の軍団を一気に押し返していたのだ。
 が、こちら側の勢いはそこで一旦止まる。
 というのも向こうの本拠地である城に問題がある。

 その城の建ち方だが、珍しい立ち方をしている。
 城の周囲には水堀が走っており、大軍で攻め込まれにくくなっている。
 更に周囲は湿地帯となっており、これまた大軍で攻め込まれにくくなっている。

 そして一番攻め込みにくい理由となっているのが城を取り囲む環境にある。
 北側に山、南側に流れの速い川が走っているのだ。
 山を越えるのも大軍では困難。
 橋が架かっているが、川を越えるのも困難。

 ハナイ王国の城はまさに、敵からすれば攻めるに難し、味方からすれば守るに易しという地に建てられているのだ。

「成程。これは難しいな……」
「あと一息なのですが……」

 現在俺達のいる砦の前に城は見えている。
 が、その城の前には敵が陣を敷いている。

「ロウエンならどう攻める?」
「……そうだな」

 俺の問いに彼は腕を組んで考え込む。

「……攻め方が無い訳では無いが、こちらの人員が足りん」
「と言うと?」
「目の前の敵を叩きつつ、味方を背後に回り込ませる。ぐらいだな」
「成程。確かにそれには人員が足りませんな」
「兵糧はあとどれだけもつ?」
「まだしばらくは。幸いな事にパルメチズ王国からの支援もありますので」
「そうか……ひとまずは目の前の敵陣を片付けないとな」
「……その言い方、片付ければやりようがあると聞こえるが、何か策でも?」
「あぁ、それなんだが」

 と、ロウエンが話そうとした時だった。

「ハヤテ!! ここにいたか!!」
「レイェスさ」
「会いたかったぞ!!」

 部屋に突撃して来たレイェスさんに抱きしめられた。

「久しぶりだな。すこし逞しくなったんじゃないか?」
「あ、あのえっと」
「なんだ? 今日はいつもの仲間はいないのか?」
「ま、まぁ……はい」
「そうか。なら寂しいだろう!! 後でゆっくり共に過ごそうじゃないか」
「み、皆さんも見てますし」
「おや……それは済まない。取り乱したな」

 やっと落ち着き、俺を離してくれた。

「レイェス殿。急に走らないで下され」
「おぉ、済まないな」

 遅れて男性が一人、部屋にやって来た。
 竜の様に長い髭。
 ギョロッと見開かれた目には理性と野心が燃えている。

「レイェスさん、彼は?」
「ハヤテは初めてだったな。彼はレブレイ。皇国の軍師だ」
「初めましてハヤテ殿。お噂はかねがね」
「えっと、ハヤテです」

 紹介され、レブレイと握手を交わす。

「勇者の祝福を受けた貴方が来てくださったとあれば心強い!! 本当にありがとうございます」
「いえ。原因はどうやら俺にあるようですので……」
「そんな事はございませぬ。以下な理由があれ、攻め込む判断をしたのは向こうの理屈」
「ですが……」
「貴方は、弓を用意しただけです。それで相手を射ろうと判断したのは相手です。貴方の責任ではございませんよ」
「……」
「済まんな。うちのハヤテはまだそこまで割り切れないようでな。適当に流してやってくれ」
「そうか……まぁ、まだまだ成長の見込みがある良い青年だ。頼りにさせてもらうぞ!!」
「は、はぁ……」

 豪快に笑いながら俺の肩をバシバシ叩くレブレイ。

 と、その時だった。

「て、敵襲です!!」
「何だと!?」
「ふむ、ちょうど良い。存分に暴れさせてもらうとしようか!!」

 そう言って部屋を飛び出すレイェスさん。
 それに続くように俺達も部屋を飛び出し、敵を迎え撃ったのだった。



「……で、良いんですか?」
「うん? 何がだ?」
「いや、敵はまだいるんでしょう!?」
「そうだな。砦前にいるな」
「だったらこんな呑気に構えている暇は」
「良いんだよ。これで」
「ロウエン……でもよ」
「ハヤテ……ここの騎士が全員お前みたいに戦えると思うな。そして、お前一人で勝てる敵と思うな」
「……すまん」
「分かれば良い。すまんな。まだ青いんだ」

 苦笑いしながらロウエンが周囲に話す。
 俺が今いるのは砦の一室。
 そこには俺の他にロウエンやレイェスさん、レブレイやジンバといった軍師と将軍が集まっている。

「勇者といえど若いですな」
「私の若い頃よりも元気ですな」
「そういえばレブレイ殿は幼き頃、城の蔵に忍び込んでは拳骨を落とされていましたな」
「やめてくだされレイェス殿。私とて恥ずかしい過去がございますゆえ」

 そんな話をしている所に騎士が食事を運んで来た。

「えっと……」
「空腹では勝てんからな。一旦腹ごしらえだ」
「おぉ、ありがたい。ちょうど腹が減っていたのだ」

 騎士が持って来たのはパンと赤い飲み物。

「って、酒ですか!?」
「おう。どうせ向こうも今日は攻めて来んよ。ならのんびりと過ごそうじゃないか」

 そう言って酒を煽り、パンを齧り出すレブレイ。

「……そう、いうのでしたら」

 今日はもう戦わないのならと、俺も酒を飲む。

「ん? ……」

 飲んで、首をかしげた。

「あれ、この葡萄酒……」

 そう言いかけたところで皆の様子に気付く。
 皆、気にせずに食べているのだ。

(何か考えがあるのか? )

 そう思いながら食べ進める。
 食べ進めて……



 食べ終わった。

(何も無い? ……俺の考え過ぎか? )

 敵の急襲の時の事を考えていたのか? 
 そんな事を考えているとまた一人、騎士が訪れた。

「……うむ。そうか」

 騎士はレブレイに何やら耳打ちするとすぐさま部屋を出て行った。

「敵方が、陣へと向かったそうです」
「そうか……」

 途端、その場にいる全員の目に戦意が宿る。

「ったく。酒じゃなくて物足りなかったんだ」
「敵の目の前で背を向けるとはな……狩りと行こうか」

 皆椅子から立ち上がる。

「さぁハヤテも行くぞ」
「えっ、あ……はい!!」
「安心しろ。手柄は残してやる。さ、着いて来い!!」

 レイェスさんに言われるまま共に部屋を出て砦の門へと向かう。
 ウルも初めは何事だという顔をしていたが、状況を理解したのだろう。
 もう臨戦態勢に入っている。

 そして

「門を開け!! 眼前の敵を食い散らかすぞ!!」

 レイェスさんの掛け声に続くように騎士達はそれぞれの武器を掲げる。
 そして門が静かに開けられた。

 そこから雪崩出るように駆け出し、静かに敵へと突き進む俺達。

 草原を吹き抜ける風のように敵へと迫った俺達は、そのまま敵へと襲いかかる。

 俺達の接近に気付けなかった敵は背後から襲われて、陣形を取る間もなく倒されていった。
 陣を立て直そうとする者もいたが既に手遅れ。
 次から次へと切り倒されていった。

 何とか生き残った少数の敵は橋を渡って逃げて行き、しかも橋を落として行った。

「よぉし!! 追撃は不要!! 一旦引くぞ!!」
「え、良いのですか?」
「ここまでやられたんだ。アイツ等とて馬鹿ではない。それにこちらにも疲労が溜まっている。休ませないとな」
「あっ……」
「なぁに、安心しろ。ハヤテが連れて来たロウエンは案を思い付いているようだからな」
「え、そうなのか? ロウエン」
「……ん? あぁ、レイェスの言う通りだ」
「それってどんな案なんだ?」
「言っても良いがレイェス。お前の力も借りるぞ?」
「うん? 構わんが」
「教えろよロウエン」
「なぁに、簡単な事さ」

 本当に簡単だとでも言うようにロウエンは告げた。

「水攻めさ」
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