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101話〜私は悪くない〜

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「カナト……いったい何処に行ったの……」

 リナシアはマインスチルの集会場でそんな事を呟いていた。

 カナト。
 私の幼馴染みで恋人でかけがえのない、代わりは存在しない人。
 そして見ず知らずの女に連れ去られた可哀想な人。

(騙されているんだ。きっとそうよ。カナトが私を捨てるはずが無い。きっとあの女に無理矢理……)

 そう思うだけで胸の中に怒りが込み上げてくる。

 早く見付けなければ。
 女と一緒という事は早く手を打たなければ手遅れになってしまう。
 あの女はきっと、何も知らないカナトを夜な夜な邪な道に誘っているに違いない。
 純情なカナトを汚そうとしているに違いない。
 そんな事許されない。許してなるものか。
 カナトは私の物なのだ。



 思い出すのは幼い頃の私達。

 同じ村で育ち、魔術を懸命に学ぶ彼に私は恋をした。
 恋をして、そこからは戦いだった。
 彼は村中の女子から人気になっていたからだ。
 村長の娘姉妹、村の学舎の女子共、少し年上の女……皆カナトに優しくした。
 そりゃもう、村の男子が妬くぐらいに。
 ただ、男子から嫌われるという事は無かった。

 その時は私も彼とは恋人にはなっていなかった。
 ただ相手に好意を向けるだけ。
 カナトの側にいて好き好きと言い続けるだけ。
 そうすれば二人の時間は簡単に作れていた。

 あの日までは……

 ある日、学舎の先輩が建物裏にカナトを呼び出し告白したのだ。

 その先輩はまさに才色兼備。
 男女問わず人気があり、カナトとはお似合いだと、先輩の友人間では言われていた。

 ハッキリ言って、邪魔な存在だった。

 その時カナトは返事を保留にし、先輩と別れた。

 マズイ、そう思った。
 カナトを取られると思った。
 だから私は、村の外れにある湖に先輩を連れて行き、そこでカナトを諦めるように言ったのだ。
 当然、先輩はそれを拒んだので私は教えてやった。
 私がどれだけ彼を愛しているか、また彼がどれだけ私を愛しているか。

 私の方がカナトを愛していると教えてやって。
 教えてやったのに……

「気持ち悪いよ。それに彼からは付き合っている人はいないって聞いたから。嘘はやめなよ」

 そう言って帰ろうと私に背中を向けた。
 当然、私の胸は怒りで埋め尽くされ……

 ガッ

 近くに落ちていた石を拾い上げ、先輩の頭を殴った。

「ァッ……」

 情け無い声をあげて崩れ落ちる先輩の背に馬乗りになり、その首に腕を回して締め上げてやった。

 痛みと息苦しさから必死に抵抗していた先輩だったけど、すぐに動かなくなった。
 死んだのかなと思って鼻に手を当てたけど、まだ息をしていた。

 だから私はその先輩を湖に捨ててやった。
 うつ伏せになるように。

 翌朝、日課の釣りに来た村人によって先輩と私は発見された。
 そう、私も発見されたのだ。
 湖畔に倒れていた私がまず見つかり、次に先輩が見つかったのだ。

 頭に傷を負い、首にロープが巻かれた状態で見つかった私は、村に連れ帰られるなり治療を受けた。
 その後、確か昼ぐらいに来た騎士に何があったのかを話した。

 散歩中をしていたら知らない大男が急に現れて私を殴り倒した事。
 その大男は私の首をロープで締めた事。
 途中で誰かの声が聞こえたが、その時には気を失ってしまい、次に気が付いた時は釣りに来た人に助けられた時だったと伝えた。

 騎士達はそれを生真面目にメモに取り、大男の顔がどんなものだったのか、似顔絵を作って帰って行った。

 それから数日後、カナトは先輩に答えを伝えに行ったのだが当然、家に先輩はいない。
 両親は彼女は他国に急に留学する事になったと伝えたのだ。
 その際に母親の方が

「私から言いだした事だが、私の事は忘れて運命の相手を見つけてくれ」

 と言われたそうだ。

 残虐な事件故に、大人達は子ども達にその事を隠したのだ。

 それから私は普段通り、カラトに接した。
 彼と話して私は安堵した。
 なんと彼は先輩の想いを受け入れようとしていたのだ。
 危ない危ない。私の行いは間違っていなかったのだ。

 それからも私は彼を守り続けた。

 一人は納屋に吊るして、一人はカカシに磔にして、また一人は馬に繋いで引きずり回して。

 カナトに近づく女から守り続けた。
 そしてその苦労は報われた。

 私達はやっと恋人になった。
 それからは甘い一時ひとときを過ごしていたのに、私達は勇者のパーティーに加えられる事となった。
 しかもその勇者は女でカナトを気に入ってしまっていた。

 そして案の定彼女はカナトに告白したが、私がいるからと断られたそうだ。
 イイ気味だと、そう思った。
 が、アイツは私に迫って来たのだ。
 私の恋人になればカナトの恋人にもなれると、訳の分からない事を言って迫って来たのだ。
 そう、カナトの事を諦めていなかったのだ。
 しかもバカ勇者は眠っている私を起こし、正常な判断を取れない所を狙って来たのだ。

 結果、その時は私は負けた。
 それでも私が愛するのはカナトただ一人。

 それは伝わっていたはずなのに問題が発生した。
 カナトがパーティーを抜け、出て行ってしまったのだ。

 愛していたのに。

 愛してやったのに!! 

 次に会った時、カナトは女と一緒にいた。
 私とは別れたと言って、私が先に裏切ったと言って怒っていた。
 そんな事無い。
 私はカナトを愛しているのに裏切るはずがない。
 なのに、なのにカナトは私が裏切ったと一方的に糾弾した。
 許せない……許せない。

 しかも私との思い出のペンダントまで捨てて行った。
 許せる訳が無い。

 だから、連れ戻す。
 連れ戻して教えてあげるんだ。
 私がどれだけ愛しているかを。
 カナトが私にどれだけ愛されていたのかを教えてやるんだ。
 そしてもう離れようと思わないように躾けてやるんだ。

 そう思い、探しているのだが手がかりは掴めない。
 人探しを専門に仕事を受けているパーティーに依頼をしようと思ったが、運悪く別の仕事で忙しいと断られた。

 結果、自力で地道に探しているのだが見つからない。

「はぁ……どこにいるんだろ」

 ため息と共に呟く。

「リナシア~、お待たせ~」

 そんな所へ戻って来たのは能天気娘こと勇者マリナ。
 私の元からカナトが去る原因を作った張本人。

「ううん、そんなに待ってはいないよ」

 顔だけは良いこの娘。
 それ以外は何も取り柄が無い。
 剣を持ってはいるが、剣の腕は私の方が上。

(いっそこの娘を……)

 そんな事すら考えてしまう程、私はこいつを恨んでいる。
 いつか必ず報いは受けてもらう。
 私達を引き裂いたこの女には必ず受けてもらう。

 コイツを溺愛しているのは現王だけ。
 幸い、コイツには兄がいるので後継ぎに問題は無い。

 そんな事を思いながら集会場を出る。

(待っていてねカナト。ちゃんと見つけるから……)

 無くして初めて、どれだけ大切だったかを知る事がある。
 私だってそうだ。
 過ちを犯し、失って、カナトの大切さを再認識した。
 だからこそ、今度はやり直す番。
 カナトと再会し、二人の仲を再開させる。
 その為に私は旅をする。

 ううん違う。
 この度は、私達の仲をより深めさせるための旅だったのよ。
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