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71話〜やったね!!ぼっち卒業!!〜
しおりを挟む「お、お邪魔します」
ガリアさんに連れられて宿に来た俺だったが、来た事を少しだけ後悔していた。
というのも、ガリアさんが使っている宿は教国でもトップ3に入るグレードの宿。
いわゆる、ハイホテルと言われる高級宿だった。
ラウンジにはシャンデリアが下がっており、一部屋につき使用人が一人着いている。
そして部屋に入って更に驚いた。
まるで王城のように大きな窓に天蓋付きのデッカいベッド。
備え付けの風呂は大家族で入っても問題が無さそうな程に大きい。
そしてキッチンまである。
ここは本当に宿なのか!?
「……た、高いんじゃ?」
「ん? 問題は無いぞ。金ならある」
「……」
「あ、安心しろ。やましい金では無い。ちゃんと私が働いて稼いだ金だ」
「後半を聞きたく無かったですが、全財産ってなんですか!?」
「そのまんまの意味だよ。私は、もうあの国には帰りたくないのだ」
「……どういう、事ですか?」
「あの自己中姫には愛想が尽きてな……今回の旅を利用したのさ」
「そ、そんな事したら家が」
「取り潰しになるかもな」
「それは」
「構わんよ。それに私は元は妾の子。あの家に愛は無い」
「そ、そうですか……」
「それに、君を放っておけなくてな」
「……知ってたんですか?」
「いや、君がいないのに気付いてバカに聞いたら出て行ったと聞いてな。慌てて追いかけて来たという訳だ」
「何でそこまでして」
「君一人では危ないからな」
「どういう事ですか?」
「個人的な事さ」
「そ、そう、です……か」
そう言いながら部屋に入るガリアさん。
個人的に俺が危ないと思っている、という事なのだろうか。
と思っていると布の擦れる音が聞こえた。
まぁガリアさんは鎧を着ていたし、楽な服に着替えているのだろう。
「待たせたな。さて」
ガリアさんは着替え終わると戻って来た。来たのだが……
「……どうかしたか?」
「おかしい……」
「どこか変か!?」
「だ、だって……」
「ん?」
俺はガリアさんを指さして言った。
「女がいる!!」
そう。俺の目の前に立っていたのは険しい目をし、常に一人で行動していたガリアさんではなく、ゆったりとしつつどこか上品さを感じさせる服を着た美しい女性だった。
「あ、え……えっと」
「すまない。こちらの方が楽でね……新鮮だろう?」
「え、えぇ……まあ」
普段一纏めにしている髪は纏めずに自然体で。
緊張や余計な力が入っていないのだろう。
目元は女性特有の柔らかさを帯びている。
「じ、状況が飲み込めないんけど……」
「うん、そうか? 何、簡単な事さ。私は本当は女。ただそれだけの事さ」
「えぇ!?」
「本当の名はステラ・レビエル。さっきも言った通り、スティンガー卿の妾の娘さ」
「え、で、でもどうして……」
「男が産まれるまで男装して世継ぎのフリをさせられていただけさ」
「……うわぁ」
ガリアさん……ステラさんの話を聞いてドン引きする俺。
いや別に貴族とかが世継ぎ問題に悩む事があるのは聞いた事があるから知ってはいる。
知ってはいるが妾の子をわざわざ男装させてまで世継ぎのフリをさせるのは聞いた事が無い。
「え、でも……何で旅に?」
「本妻が男の子を産んだからお役御免。最後にあのバカ娘の護衛に行って、武勲でも立てろって所だろう」
「最低ですね」
「そうだな。だから、家を出た」
「そんな事したらお母さんが……」
「母か? ……あぁ。その点は心配ないさ。私の母は今頃私がしっかりやっているか見守ってくれているはずさ」
「それって……」
「先月の事さ。突然の事だったよ……」
「何か、病ですか?」
「まぁね……気が付いた時には手遅れだったよ」
「……そうですか。あれ? ステラって……」
聞き覚えのある名前。
俺が住んでいた村に確か同じ名前の人がいたのを思い出す。
その人はお母さんと常に二人で暮らしており、貧しいながらも二人で幸せそうに暮らしていたのを覚えている。
そしての家の子の名前が確かステラ。
そう。その子が今目の前にいる
「あの時のステラ姉さん!?」
「やっと思い出したか……と言っても名前が変わっていたしな」
「そうか……急に王都に出稼ぎに行ったっておばさんからは聞いていたけど、そんな事情があったんだ」
「言う暇が無かったからね……それに、言ってしまえば私が辛かったからね」
「……お疲れ様です」
私が辛かったというのは多分、俺のせいだ。
というのもステラさんは俺の初恋相手。
当時、年端も行かない俺はステラさんにドストレートに好意を伝えたのだ。
「大人になったら俺と結婚して!!」
思い返すと恥ずかしい。
だがステラさんはそんな俺の言葉を真面目に受け止めてくれて
「君が大きくなるのを待っているよ」
と言ってくれたのだ。
だがしばらくしてステラさんは王都へと行ってしまった。
それから俺は小さい頃のその約束を忘れてリナシアと出会って恋仲となり、冒険者となって有名になろうと王都へと向かったのだ。
そこからしばらくは二人で活動していたのだがリナシアが聖剣士の祝福に目覚め、俺も魔術師として見込みがあると言われ、王城にてそれぞれ腕を磨く事になったのだ。
そして勇者としての祝福を受けたマリナ様のパーティーに俺達は組み込まれ、今に至るのだ。
「お前はお前で大変だったんだな」
「ま、まぁ……何で俺なのかなって思ったりもしましたね」
「……噂では、あのバカ娘はお前に一目惚れしたそうだ」
「……うっそだ~」
「まぁ、噂だからな」
「本当だったら……嫌だなぁ」
「うん?」
「だって俺が」
「リナシアと付き合っているのに声をかけて来て、断ったらリナシアを横取りしたもんな」
「何で知っているんですか!?」
「アイツが言っていたからな。君の姿が見当たらなくてな。どこに行ったか知らないかと聞いたら、強くなるためにちょっと行ってくると言って出て行ったと言われたよ」
「え……俺はその」
「いや、言わなくて良いよ。それにアホ娘は二人が恋人になれば問題無いとか言っていたよ」
「マジっすか……」
「私としてもそんな奴が率いるパーティーに長居できんと思ってな。利用する形になったが、助かったよ」
そう言って微笑むステラさん。
その微笑みは昔見せてくれた優しい笑顔だった。
「さて、それはそうとお腹は空かないかい?」
「え、まぁ……少しは」
「よし、ならレストランに行こうか」
「え……急ですね」
「お腹いっぱいになれば気分も明るくなるさ。さ、行こう」
「は、はぁ……」
ニコニコ笑顔のステラさんを追いかけるように俺も部屋を出た。
「あの、俺金無いですよ……」
「気にするな。ここは私が持つ」
「……ありがとうございます」
「何でも好きな物を食べると良いよ」
ホテル内のレストランに来た俺達。
ホテルの利用客も食事に来ているが、皆俺より身なりのしっかりした人達で少し恥ずかしい。
他にも宿泊客では無いが、食事の為に利用する人もいる。
「さて、何を食べようか」
「えっと……」
「遠慮はいらないぞ。好きな物を頼むと良い」
「そうは言われても……」
俺は決して遠慮している訳では無い。
初めて見るメニュー。
初めて聞く料理名のため、どんな料理か想像できないのだ。
それ故にどれを頼もうか決められないし、選べないのだ。
「え、えっと……」
「……ふむ。そうだ、これなんかどうだ?」
「えっと?」
自分の見ているメニュー表を俺に向け、一つのメニューを指さすステラさん。
「ステーキだ。美味しそうだろ?」
「……あぁ、そうですね。じゃあ俺はそれで」
「よし、では決まりだな」
そう言ってウェイターさんを呼び、ステーキを二人分頼むステラさん。
「あれ……」
「昨日食べて美味しかったからな。だから勧めた」
「な、成程」
どうやらそのステーキはステラさんのオススメらしい。
待つ事数分。
綺麗な編み目の焼き跡の付いたステーキが運ばれて来た。
一緒に来たパンはフワフワ。
スープも味が薄過ぎず濃過ぎず、ちょうど良い。
ステーキもスッとナイフで切れる程に柔らかく、噛む度に肉汁が口の中に溢れ出る。
とても、とても美味い。美味いのだが
「本当にご馳走になって良いのですか?」
「勿論さ。安心して腹一杯食べてくれ」
俺を安心させるように微笑みながら食べ進めるステラさん。
「あれ? カナトじゃん」
その食事の時間を割くように耳に届いた声は、俺がもう聞きたくない声。
「やっぱりカナトだ~。もう急にいなくなってからビックリしたよ~」
「リナシア……」
「カナトもご飯食べに来たの? 私達もなんだ~。特訓の方は順調?」
「特訓? ……いやいや何言ってんだよ」
「え? だってマリナがカナトは特訓の為に一時的にパーティーを抜けたって」
ふざけるな。
「そんな訳、ねぇだろ……」
「え? でも……じゃあ何で……」
訳が分からないといった顔で俺を見上げるリナシア。
その顔を見るだけで、はらわたが煮え繰り返る。
「お前が、お前が一番……分かっているんじゃないのか……っ」
怒鳴って罵ってやりたい。
でもそんな事をすれば周りの人や、何よりステラさんに迷惑がかかる。
だから俺は精一杯堪えて言った。
「え? 分かんないけど……マリナと喧嘩でもしたの?」
「っ……お前が、マリナとどんな関係なのか知っているんだぞ」
「え? ……あぁ、マリナもねカナトと」
「ふざけるな……」
「……どうしたの?」
「……俺はお前といたかっただけなのに……」
「何それ。どういう意味よ」
「……分からねぇのかよ」
「分かる訳無いじゃん。ハッキリ言ってよ」
逆ギレ気味に話すリナシアに、俺の我慢が限界に達した。
「あぁじゃあ言ってやるよ!! 俺という恋人がいながら、勇者と寝やがって!!」
「え、何で知って」
「あんだけ盛ってればテントの外まで聞こえてくんだよこの尻軽!!」
「し、しりがっ」
「そんな女と、人の女を取るような勇者と恋人なんかやれるかって言ってんだよ!! 聖剣士だ? ふざけんな!! お前は聖剣士なんかじゃねぇ!! お前は」
「カナトくん……それ以上はいけないよ」
「……ステラ、さん」
ステラさんのおかげで俺は我に帰る。危ない所だった。
あのまま行けば、この場で言うには不適切な発言をしていただろう。
「な、何よ……尻軽って。べ、別に私が愛しているのはカナトだけだし!!」
「言い訳かよ」
「た、確かにその……そういう関係にはなったけど、心はカナトしか見ていないわ? だからほら、浮気じゃありませーん。セーフセーフ」
「バカかお前は」
「ハァ!? 今バカって」
「あぁバカって言ったさ。心だけは見ているからセーフ? ふざけるな!! 俺がどれだけ……」
その時だった。
「あの~、いかがなされましたか?」
ホテルの人が俺達のもとへとやって来たのだ。
「……えっと」
「お騒がせして申し訳ありません」
ステラさんがホテルの人と話始める。
今の内に話は終わらせよう。
「……マリナに伝えておけ。俺も、ステラさ……ガリアさんはもうパーティーには帰らないと」
「え、何でよ!! そんなしたら私達会えないじゃん!!」
「会えるとでも思っているのか?」
「だって恋人じゃん!!」
「その関係はお前が勇者と仲良くしている時に終わったよ」
「だから心は」
「残念ながら俺の心はもう別の人に向いているんだ」
「何それ……そっちこそ浮気じゃん!! この浮気野郎!!」
「好きに言えよ。でも勘違いするなよ。お前が先に裏切ったんだからな」
「人のせいにする気!?」
「事実だ」
「っ……そ、そもそもその女誰よ!! まさか、ソイツがカナトを……寝取ったのね!? 私のカナトを横取りして許さな……」
我慢の限界その二が来た。
乾いた音がレストラン内に響いた。
「……へ?」
俺の目の前でリナシアが自分の頬に手を触れる。
「……ステラさんを悪く言うな。それだけは、許さない」
「今、叩い……た?」
「お前達とはもう終わりだ。お前から貰った物は全て処分するよ」
「な、なんで……」
「お前にやった物は好きにすれば良い」
「ま、待ってよ……」
「悪いとは、思っていないから」
「あ、謝る機会ぐらい……話す機会ぐらいくれたって」
「……謝る機会ってお前、謝るタイミングなんていくらでもあっただろ。あの日の朝、俺に相談する事だってできただろ。それをしなかったのはお前だろ……そうしたのはお前だろ!!」
「だ、だって……」
「だからもう終わりにしよう。何より、俺がお前といるのが耐えられない。心が耐えられない」
「嫌だよ」
「お前はお前の勝手を押し通した。だから俺は、俺の勝手を押し通させてもらう」
「ごめんなさいカナト。私、貴方を……」
慌てて頭を下げるリナシア。だけど俺の心にはこれっぽっちも響かない。
「ごめん。君が何を言っているのか俺には分からない」
「本当にごめんなさい!!」
「ちゃんと人の言葉で話してくれるかい?」
「何でもするから許してください」
「分かりました。消えて下さい」
「何でもしますから!!」
「だから消えて下さい」
「お願いします。私にやり直すチャンスを下さい」
「あげません」
「お願いします」
「嫌です」
「カナト……そんな事言わないで」
縋るように俺を見上げるリナシア。
「……バレたらこうなるって分からなかったのかよ」
「それは……」
「分からなかったんだな……はぁ。ごめんステラさん。俺、先に部屋に戻っています」
「うん分かった」
「あ、ちょっと待ってカナト!!」
これ以上話しても意味が無いと判断し、俺は部屋に戻ろうと歩き出す。
当然、リナシアが追って来るのだが
「すみません、この人さっきから付き纏って来て迷惑なんです」
「何でそういう事言うの!?」
「……当施設内での迷惑行為を確認。表情、言葉から事実と判断……拘束、拘束」
「や、やだ!! 離して……助けてカナト!! カナトォ!!」
施設内を警備するガードゴーレムにリナシアを押し付けて俺は部屋に帰った。
「ただいま……大丈夫?」
「……うん」
「……隣、座るね?」
ソファーに座っている俺の隣にそっと腰を下ろすステラさん。
「……辛かった、よね」
「……ん」
「頑張ったね……」
「……うん」
「…….よく、我慢したね」
「……我慢、できたのかな」
「手は、上げちゃったけどね……あれで済ませて偉かったよ」
「……」
「……」
そのまま俺を抱き寄せ、肩に頭を預けさせて頭を撫でるステラさん。
「……もう、あんな奴どうでも良いって思ってる俺は、人でなしなんでしょうか」
「……そんな事無いよ」
「……あれだけ好きだったのに、別の人に心が向いているなんて……」
「それだけ、裏切られたのがショックだったんだね」
「……ステラさん」
「……ごめん。先に私が言って良いかな?」
「……何ですか?」
多分、ステラさんが俺に何を言いたいのか分かった。
そしてそれは俺が言いたい事と同じ事だ。
そしてそれはを俺から言った場合、最低な人間と思われても仕方ない言葉だ。
「……カナト君。私と、付き合わない?」
「……」
「……昔の約束もだけど、それ以前に私は君が好きだよ」
「……」
「王城で懸命に魔術を学んでいる姿も、休みの日に街で困っている人の手助けをしている姿も」
「……」
「そんな君が私は好きだよ」
「……ステラさん」
「……カナト君。嫌だったら避けてくれて構わないから……」
「……はい」
俺の返事の後、ステラさんの顔が目の前に広がり、そのまま俺は目を閉じた。
「……受けてくれて、ありがとう」
「……いえ、僕もステラさんの事」
「両思いだね。嬉しいな」
「……俺もです」
「ねぇカナト……」
「何ですか……」
ジィッと。
俺の目を見つめながらステラさんが言う。
「もう一回、良いかな?」
「……はい」
もう一度、俺の視界がステラさんで埋め尽くされる。
そして今度はさっきより長くて、リナシアとした事の無いものだった。
「……っ、はぁ」
「……ステラ、さん……」
俺達はお互いに相手を見つめながら次の言葉を探す。
「ねぇカナト。私達でパーティー登録しない?」
「……パーティー登録、ですか?」
「うん。ほら、私達王国内では勇者パーティーって言われていたけど、正式に登録された訳じゃないしさ。どう、かな?」
「……良いですね。俺と、ステラさんでパーティー登録しちゃいましょう」
「やった。ありがとう」
嬉しそうに笑いながら俺に抱き付くステラさん。
俺より年上なのに、めちゃくちゃ可愛く見える。
「……どうかしたの? 私の顔、じっと見て」
「……あっ、すみません」
「……あんな事思い出した後だもんね…………ごめん」
「いや、別に……」
可愛いと思ってじっと見ていたのを、どうやら勘違いされたらしい。
その勘違いを俺が正す前にステラさんは立ち上がると、俺の手を引いて立ち上がらせ
「よし。私があんな女の事、忘れさせてあげる!!」
「はい?」
ふんすふんすと鼻息を荒くしたステラさんに手を引かれながら、俺は月明かりが差し込む寝室へと連れ込まれた。
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