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55話〜迷子探し〜
しおりを挟む「……分かんねぇなぁ」
エンシさんと話をした翌日。
少し歩いた所にある草原で、俺は考えていた。
俺がなりたい勇者像は、果たしてなれる物なのか。
風に吹かれながら考える。
本当の平和とは何か。
敵を倒すだけが平和か。
仲間さえ守れれば平和になるのか。
エンシさんの言っていた調和を保つ事。
どうすれば良いだろうか。
(いっそ俺が敵側の大将にでもなるか?)
敵側の大将。
つまり魔王に俺がなってしまえば良いだろうか。
いや、魔族の大半が納得しないだろう。
それに俺はただの人間だ。
寿命は魔族と比べて圧倒的に短い。
そんな俺が魔王になった所で説得力の欠けらも無いだろう。
(なら俺も魔族になるか? ……嫌だなぁ……つか怖ぇよ)
昔の勇者が敵側に寝返った際に行った魔族化。
まず、魔族化する者と力を与える者の相性が良くないと成功しないと言われている。
一応、両者の相性が悪くても魔族化する者の素質が良ければ成功するらしい。
「俺じゃ無理だよな~」
俺の呟きに励ましているつもりなのか、風が吹き抜ける。
でも、俺は陰でアニキは陽。
陰と陽でペアなのだ。
二人でならできるかもしれない。
そうだよ。
俺は一人じゃない。
仲間がいるってエンシさんも言っていた。
(もっと仲間を頼らなくちゃな……)
そう思った時だった。
「ワウ!! ガウワウ!!」
「ん? どうしたウル……ってそんなに引っ張んなって」
急いで走って来たウルが俺の服を咥えるや来てくれと言うようにグイグイ引っ張り始めたのだ。
「分かったから。行くから引っ張んなって」
「ガルガル!!」
「分かったから引っ張んなっつーの!!」
俺の言葉に耳を貸さないウル。
どこか慌てた様子のウルに引っ張られながら俺は村に戻った。
「あ、来たかハヤテ!!」
「ど、どうしたんだよ」
「ウチの子が……出かけたきり帰って来ないの」
エルフの女性が泣くのを堪えながら話す。
確か彼女の所の子は男の子で大人しい性格だったはずだ。
「マジかよ……どこに行ったとか分からないのか?」
「それはルフさんが探してくれたのですが……」
「……あ~、俺に声がかかるって事は危ない所なのか」
「はい……」
「分かったよ。行かせてもらうよ。んで、その場所ってのは?」
「村外れにある洞窟なんだ」
「……そりゃ、危ないな。ルフは休んでろ。ウル、着いて来い」
「ガウ!!」
俺はウルを連れて村外れの洞窟へと向かった。
「ここ、だよな……」
「ワウ~……」
俺達が来た村外れの洞窟。
絶えず洞窟内から風が吹いており、村の子ども達は怖がってほとんど近付かない。
でも今回、子どもが一人入って行ってしまった。
理由なら見当がつく。
この洞窟の中では希少鉱物が採れるので時折恋人がいるエルフが入ったりするのだ。
だが今回入って行った子はまだまだ子ども。
「まさか度胸試しとか言わねぇだろうなぁ」
「グルルゥ」
「モンスターの匂いはするか?」
「……ガルッ」
「そこまで強くは無いけど、子どもには脅威になるレベルがいるって所か」
「ワウ!!」
「急いだ方が良さそうだな……行くぞ」
「ガウ!!」
ウルと共に洞窟へと入って行く。
行くのだが……
「メチャクチャ暗いな……見えるか?」
「ガウ」
「良いよなぁ。鼻が効くんだから……ってあれ? ランプは?」
「……わう?」
「忘れたぁ……」
「……」
「んな目で見るなよ……はぁ、せめて明かりを出せればな」
補助系スキルの類が苦手なのが俺の欠点だ。
なら覚えれば良いじゃんと思うが、それも中々上手くいかない。
どうしたものかと考えている内に、じゃあいっその事足が速いからそっちを育てようという考えに至ってしまい、今に至る。
今では一応、補助系スキル等は使えるがそれも初歩の初歩。
賢者や聖女レベルの人からすれば子どものお遊びレベルだ。
「でもなぁ……」
仮にも、陰ではあるが勇者だ。
こう、なんかの拍子に出たりしないだろうかと思ってしまう。
「明かりよ、出ろ!!」
スッと手を差し出す。
が、何も起きない。
うん、分かってた。
そんな都合良く行かないって事ぐらい分かってた。
でも、もしかしたら出るんじゃないかと思っていたのも事実だ。
「出ねぇかなぁ~、出てくれねぇかなぁ」
そんな事を呟きながら何度か手を差し出す。
イメージが足りないのだろうか。
掌の上に光る球が生まれる光景をイメージしてみる。
「明かりよ……来い!!」
ポンッ、コロコロコロ……と、俺の掌の上に現れた光る球が、掌の上をバウンドして地面に落ちて転がる。
「……嘘……」
「わう……わふわふ!!」
「あ、こら遊ぶな!!」
その球を前足でチョイチョイと遊び、洞窟の奥へとすっ飛ばすウル。
慌てて俺の方を見るなり、ごめんちゃいと言うように舌を出している。
可愛いから許す。
だが、明かりを出す事には成功した。
(イメージが大事なのか? ……それとも何か、勇者・陰が関係しているのか? )
そんな事を思いつつ、今度は掌の上で浮かぶ光の球をイメージする。
「……来い!!」
ポワンッという音を立てて現れた光の球が掌の上にホワホワと浮かんでいた。
「できたわ……」
「ワォ~ウ」
「あ~でもこれ、掌の上をイメージしたからダメだな……」
腕を下げると光の球も追いかけるように下がって行ってしまう。
これだと少し見にくいし、照らされる範囲も狭い。
(うーん……もう少し範囲を広くしたいが……いや、今は探すのが先だ。俺の周りを浮かんでもらえればそれで今は良いか)
そうイメージ、光の球を生み出す。
俺の肩ぐらいの高さにそれぞれ一つずつ。
明るさも良い感じだ。
これなら足元も良く見える。
「よし、ウル!!」
「ワウ!!」
俺の言葉に、まるで任せろと言うように吠えてから走り出すウル。
俺の足でも追い付ける速さで走ってくれるウルを追いながら、子どもの元へと向かう。
そして走る事数分……
「ワウ!!」
「いた!!」
ウルが一度吠えて立ち止まる。
その先にいたのは座り込んでいるエルフの少年。
「う、うぅぅ……」
俺達が来た事に気付いた彼は顔をあげるや……
「ごわがったぁぁぁぁぁっ!!」
「あぁ、分かった分かった。分かったから……はぁ。仕方ねぇか。ウル、悪いが少しの間警戒を頼む」
「……ガルゥ……」
泣きながら俺に抱き付く少年。
彼が落ち着くまで、少しの間ここにいるとしよう。
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