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54話〜勇者とは〜

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「ふぃ~……腰が痛え」
「お疲れ様です」
「エンシさんも手伝ってくれてありがとな」
「いえいえ」

 教国の第三王女と騎士を王都の城に連れて行った日の翌日。
 ハヤテとウル、ルフはロウエンを城に残して先に家に帰って来ていた。

「にしても調べたい事って何だったんだろ」
「うーん。ロウエンって何ていうか、時々何を考えているのか分からない時がありますよね」
「……た、確かに。言いたい事は分かるけど」
「あぁでも、怪しんでいるとかではないですからね?」
「分かってますよ」

 薪割りを終え、上着を羽織る。

「にしても、俺が勇者スキルを持っているとはな」
「驚きでしたね」
「アニキの予備みたいな位置らしいけど……本当、信じられねぇよ」
「……セーラ、でしたっけ。前の彼女さん、ハヤテと付き合い続けていれば勇者の彼女でいられたのに」
「……それはもう、終わった事ですよ」
「そ、そうだね……ごめん……今はユミナちゃんがいるしね」
「いえ……別に」
「……どうかしたの? 喧嘩でもした?」
「……その、いざ付き合ってみてもその……前と変わらないなって思って」
「と言うと?」
「恋人になる前と後でこう……変わったものが分からなくて」
「イチャイチャとかは?」
「そこまでは……」
「うーん……」
「……無さそう、ね」
「前はあったんですけど……帰って来てからは」
「最近だね……まぁでもほら。お互いに分からないって事は話し合えるきっかけにもなるしさ。のんびり行こう?」
「……そう、ですね」

 まだ何か言いそうな感じだったが、話を切り上げてしまうエンシさん。

「……あ、そうだエンシさんの家って騎士なんですよね?」
「え、えぇ。そうですが」
「なら、何か勇者に関する昔話とかないんですか?」
「勇者の、昔話ですか?」
「はい。こう、参考にできたら良いなって思いまして」
「……成程。うーん、勇者の昔話ですか」

 顎に手を当て、休憩用に置いてある石の椅子に座るエンシさん。

「昔話と言われましても、私が知るのは一部ですし……そうですねぇ。勇者にも色々いた、としか言えませんね」
「色々?」
「はい。民のために戦った勇者もいれば、大臣といった者達と繋がり腐った勇者もいたり……あとは、勇者としての力に魅了され、更なる力を求めて魔王側に寝返った勇者もいた、というぐらいですね」
「寝返った勇者……」
「他にもハヤテさん達の様に双子だった勇者や兄弟での勇者。女性の勇者もいました……ですが……」
「……何か、あるのですか?」
「……兄弟や双子だった勇者で起きた事なのですが、勇者は一人でいいという理由で兄弟間で殺し合いが起きたら、貴族に殺されたりするケースがあったんです」
「……そんな」
「女性勇者の場合はもっと酷いです……自国の軍備を強化する為に、勇者部隊を作ろうと……旅を終えて帰った勇者を国は捕らえて」
「……まさか」
「……はい。子を、兵隊として使う勇者の子を産ませたのです」
「……そんな。それでも勇者部隊を作るのに何年かかると」
「国もそれは分かっていたみたいです。ですので彼等は、時間操作スキルを使い生産したんです。一月もすれば、数は揃うペースで」
「っ……うっ!? ……す、すみませっ」

 耐えられなくなった俺は慌てて隅に行き、エンシさんに背を向けて吐く。

「だ、大丈夫ですか!? ……すみません。苦手でしたよね……」
「い、いえ……うっ、大丈夫です。続けて下さい」
「……結局、その時の子どもは全て翌週には亡くなったそうです。それで勇者部隊計画は破綻。当時の勇者も心を壊してしまい、使い物にならないと判断された彼女は魔王との戦いで心を壊したと言われて故郷に送り返されたそうです」
「……そんな」
「……でも心は壊れても、彼女の中に子ども達への愛は消えていなかったんです」
「……え?」
「村の子達を見ては我が子と思い、連れ去ってしまうようになってしまったんです。我が子を奪われ、国に殺されたせいで、子に対する愛が暴走してしまって……結局は村の者によって」
「……」
「ただ、後日家族が墓を見に行った時に掘り返された跡があったそうで、埋めたはずの遺体がゴッソリ消えていたそうです」
「エ"ッ……」
「それからしばらくして、その国中で子ども達が行方不明になる怪奇現象が起きましてね……」
「ヒェッ……」
「恐ろしい事に。その子どもの中には王族の子もいたそうですよ」
「ガチモンじゃねぇか……」
「それどころかそこの国ではそれから一人として子が産まれず、数年後には滅んでしまったそうですよ……」
「うわ……いやそもそも勇者さん被害者だろ!?」
「そうですね……ですが、愛情があり過ぎるせいで暴走してしまったんです」
「ち、ちなみにその勇者さんのその後は?」
「以前、掴めていません」
「……」
「もしかしたら、今も何処かで……ハヤテさん?」
「……」
「気絶している!? ハ、ハハハ、ハヤテさーん!?」



「……ハッ!? 俺は!?」
「すみません。怖がらせるつもりは無かったのですが……」

 あの後、俺は話が怖かった事もあり気絶していたようだ。
 情けない。

「えっと、じゃあ話はこれで」
「いや、もう少し聞かせてくれないか」
「い、良いんですか?」
「あぁ。ヤバくなったら言うよ」
「そ、そうですか……でしたら最後に寝返った勇者の話をしましょう」
「お願いします」
「その勇者は、極東で産まれたそうです。王都からは遠く離れた地。そこで産まれた彼は勇者になり、初めは人々の為に魔族を倒して行ったそうなんです」
「うん」
「ある時彼はふと、思ったそうなんです。面白くない、と」
「面白くない?」
「はい。彼はいつしか、人の為ではなく強い相手と戦う事を目的にしていたんです。その結果」
「……勇者である自分の前に、次々と倒れていく魔族では満足がいかなくなっていった?」
「はい。その通りです。そして彼はある時気付いたんです。いるじゃないかと。強い相手が、側にいると」
「……まさか!?」
「はい。彼はまず、パーティーメンバーを傷付けたんです。死なない程度の傷を。そして彼はパーティーを離脱した……」
「そんな事したら」
「はい。翌日には勇者捕縛隊が結成され、勇者を追い始めました。ですが……全滅しました」
「……」
「捕縛が無理と判断され、次には元勇者パーティーのメンバーと、先代勇者を入れた討伐隊が結成されたのですが……残念ながら元パーティーのメンバーと先代以外は」
「そんなに強い人だったのか……」
「はい。結果、欲求を満たされない彼は単身魔族領に乗り込み、当時の四天王を打ち倒しました」
「マジかよ……」

 四天王を一人で倒すなんて、想像がつかない。

「そして彼はそのまま魔王に会うなりこう言ったそうです。俺に力をくれ。俺はもっと強くなりたいんだ、と」
「それで、魔王はどうしたんだよ」
「……魔王は己の力を与え、勇者を幹部として取り立てたんです」
「……それ、凄くヤバいんじゃ」
「はい。後日、彼は自身を勇者としての取り立てた当時の王国を……あぁ、この王国は今ウゼル様が治めている王国ではありませんのでご安心を」
「あ、おう」
「話を戻しまして……彼は王国を滅ぼし、魔族領の一部にしてしまったのです」
「そんな……」

 信じられない。信じたくない話だった。

「この話は、運良く逃げる事に成功した賢者と聖女様が書き記した書物にあったと聞きましたので間違いはありません」
「そうなんだな……事実、なんだよな」
「……その時の勇者は、聖装にも選ばれておりました」
「え!?」
「その聖装はそのまま魔族の手に渡り、今では失われた聖装と言われております」
「そ、その聖装の名前は!?」
「その名は、聖刃せいじん。ロウエンが持つ、刀に非常に良く似た形をしているそうです。そしてその時の勇者は、炎を自在に操っていたそうですよ」
「……そうなんだ。その勇者って、今は……流石に死んでいるか」
「いえ。おそらくまだ生きています」
「……まさか~」
「彼は魔族側に寝返った際、魔王から力を分け与えられました。その際に彼は半人半魔へとなり、常人を超える寿命を手に入れたんです」
「じ、じゃあ」
「はい。確実に、私達と戦う事になるでしょう」
「その勇者の名前は?」
「……申し訳ありません。その部分は上から塗り潰されていて……読めませんでした」
「……そうか。なら仕方ないな」

 お互いに黙ってしまい、沈黙が流れる。
 が、それもすぐに終わる。
 エンシさんが先に口を開いたのだ。

「……私は」
「ん?」
「私は勇者は、ただ敵を滅ぼすだけとは思いません」
「……と言うと?」
「ただ倒すだけでは、相手には憎しみだけが残ります。その憎しみはやがて膨れ上がり、相手へと返されます。その返された憎しみがまた新たな憎しみを生み、その憎しみがまた新たな憎しみを生む。それではいつまで経っても、真の平和は訪れません」
「そ、そうだな……うん、そうだよな」
「だから私は思うんです。勇者が真にするべき事。成すべき事は調和を保つ事だと」
「調和を?」
「はい。人も魔族もエルフも獣人も関係無く、皆が暮らせる世界を作る。その為の調和を」
「……それって大分難しくないか?」
「相当難しいです。だから、だからこその仲間なんです」

 ジッと、俺の目を見て彼女は続ける。

「一人では難しい事も、仲間がいればできます。どんなに寒い夜でも、仲間と寄り添えば乗り切れます。だから」

 ソッと俺の手を握って彼女は言う。

「私達をもっと、頼って下さい」
「エンシさん……」
「強過ぎる光は強い影を生みます。ですが、影は光が無くては生まれません。私をどうか、貴方を照らす光にさせて下さい。どうか私の槍を、貴方達の為に振るわせて下さい。騎士として、一人の人間として、お願いです」
「……エンシさん」
「とまぁ、騎士らしくカッコつけてみましたが……貴方は一人ではないという事。忘れないで下さいね」
「……はい。ありがとうございます」
「いえ。あ、そう言えばそろそろお昼ができる頃ですね。戻りましょうか」
「そうですね。最近ミナモの奴、料理が楽しいって言ってあるんですよ」
「へぇ~。それはまた、楽しみですね」
「ですね~」

 楽し気に話しながら帰る俺達。
 待っているのは出来立ての昼飯なのだが……

「お腹空いたでしょ!! ジャンジャン食べてね!!」
「うっ……」
「えっと……」
「これは……」
「……くぅぅぅ~ん」
「……く~ん」
「……きゅるる……」

 俺達の前に並べられたのは、初めて見るミナモの創作料理のオンパレードだった。
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