上 下
50 / 143

50話〜兄、出立〜

しおりを挟む

「そんじゃ、行ってくるよ」
「行って来ますね」

 昼少し前。
 アニキは修行の為に出発した。
 ロウエンが用意した紹介状を持ち、エラスと共に旅立った。
 と言っても向かうのは皇国領にある山。
 そこの村にその相手は住んでいるらしい。
 その人の教え方は独特らしく、相性が悪いとほとんど何も学び取れないらしい。
 ただし、学び取る事ができれば確実にレベルアップができるともロウエンは言っていた。

「アニキ……大丈夫かな」
「まぁ、大丈夫だろ。ま、これでしばらくは部屋が広くなる訳だし、万々歳だぜ」
「まぁ、それはそうだな」
「さて、俺達は俺達でやる事やるか……薪割りとか」
「あ、そうだな……ま、仕方ないだろ」
「だな。ま、アイツ等はアイツ等で頑張るだろうし、こっちも頑張らないとな」
「そうだな。じゃあまずは」
「あ、では私は集会所で何か依頼がないか見て来ますね」
「あ、じゃあ私もミナモと行く~」
「じゃあミナモ、ユミナ。頼んだ」
「はいはーい」
「はーい」

 ミナモとユミナに集会所に向かってもらい、俺とロウエンとエンシさんで薪割りをする事になったのだが……



 ある程度薪を割り終わり、一息吐いていた時だった。

「た、ただいま~。ハヤテいる~?」
「いるぞ~。こっちだ」
「薪割り中だった?」
「いや、休憩中だったが……お客さんか?」

 帰って来たミナモとユミナが連れて来たのは鎧を着た女性だった。

「あ、ちょっと違くてね……」
「私達が新築された集会所で会ったんだけど……」
「ご挨拶はわたくしから致しますわ」

 一歩前に出る騎士。
 先が巻かれた長い金髪に透き通った湖面のような色の目。
 エンシさんとは違い、両腰に剣、背中に大剣を背負っている。

「わたくしは教国第二騎士団のカルア。ただ今教国は全ての冒険者、パーティーを対象にある依頼を出しております」
「ある、依頼?」
「は、はい……」

 何故だろうか。
 カルアは俺やロウエンを見ると頬を赤くしている。

「大丈夫ですか?」
「は、はい……大丈夫です。んんっ、依頼というのはですね……」
「……あ、そうか。すみません、少しお待ちください。ハヤテ、ロウエン。上に何か着てください。風邪を引きますよ」
「え? あぁ……そうだな」
「……成程。そういう事か」

 エンシさんに言われて上着を着る俺と何か分かったのか、ニヤッと笑ってから上着を着るロウエン。
 確かに、俺達二人は薪割りの途中で熱くなった事もあり上着を脱いでいたのだ。

「ようは俺達の身体を見て興奮してたって訳か……噂通り教国の騎士は隊によって男だけ、女だけのようだな」
「え? ……あ、そういう事?」
「ちっ!? 違いますからね!? わたくし別にお二方の筋肉を見て触ってみたいとか、触りたいとか触らせて欲しいとか思っていませんからね!?」
「はいはい分かった分かった。んで、話ってのは?」
「はっ!? も、申し訳ございません……んんっ、我々が出した依頼と言うのがですね、第三王女が三日前から行方不明なので探して欲しい……というものなのです」
「第三王女が行方不明って……」
「見付けていただけた場合、500ゴールド。払うと現教王様は仰っております」
「500ゴールド……すげぇ」
「それだけ大切なのか……それとも……いや、今話す内容ではないか」

 顎に手を当て、考えながら呟くロウエン。

「それで、その第三王女はどこに?」
「教国の側にある、迷いの森付近でお姿を見られて以来行方知れずなのです」
「迷いの森……成程な」
「お、ロウエン。迷いの森を知っているのか?」
「……まぁな。名前の通り、何の準備もせずに入れば抜け出す事はほぼ不可能。一日中薄暗く、晴天の時でも曇りの日と間違える程に暗い森だ」
「モンスターは?」
「当然いる」
「……そうか」
「おいおいまさか……」
「行かないと思ったか?」
「そうだが……五日も経っている。可能性は低いぞ?」
「それでも、ゼロでは無い」
「……ったく。まぁ引き止めて諦めるお前じゃない、か」
「そうだよ」
「やれやれ……ま、仕方ないか」

 肩を竦めながら微かに笑むロウエン。

「受けて、くれるのですか?」
「あぁ。俺達、風月の群狼はその依頼を受けるよ」
「あ、ありがとうございます!!」

 俺達に頭を下げるカルア。
 その目には涙が浮かんでいる。

「じゃあメンバーだが……」
「え? 全員で行けないの?」
「余裕があればそうしたんだな……猶予が無いとすれば話は別だ。少数で行く」
「そ、そっか……そうだよね。って事は」
「俺とハヤテで行く事になるな」
「で、ではなるべく」
「分かっている。ウルとルフの足なら馬には負けん」
「そうですか……本当にありがとうございます」

 再度頭を下げるカルア。
 その言葉に簡単に返しつつ、ウルとルフを呼ぶ。
 初めは遊んでもらえるかと思ってすっ飛んで来た二匹だったが、俺達の様子から依頼で呼ばれた事を理解したのだろう。
 目付きが鋭い、レイブウルフの目へと一瞬で変わる。

「そうと決まれば荷物を用意してさっさと行くぞ」
「は、はい!!」
「ウル、ルフ。頼むぞ!!」
「ガウ!!」
「ガル!!」

 初めて向かう地での救助。
 荷物を背負い、俺はウル、ロウエンはルフに、カルアは馬に跨り駆け出した。





「にしても五日、か。発表までにやけに時間が空いているが、自国の騎士だけで何とかしようとした結果か? それとも……いや、当人見つけて聞いた方が早い、か」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...