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47話〜背中合わせ〜

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「勇者・いんです」

 神父さんが俺が受けた祝福の名を告げる。
 告げるのだが……

「勇者……陰?」
「はい。ハヤテさんが受けた祝福は勇者・陰です」
「陰って……えっと」

 どういう訳なのか分からず、神父さんに聞こうとして遮られた。

「んなバカな!? 勇者が二人? ……し、信じられねぇ」
「アニキ?」
「だ、だって俺は帝国の神官に診てもらって……それで」
「だろうな。ま、詳しく知りてぇんならお前も診てもらえ。まぁだいたいの予想は付くけどな」
「……そ、そうだな……お願いします」
「はいはい。ではこちらへ」

 アニキも俺と同じ様に祝福を調べてもらう。
 結果

「お兄様の方は勇者・陽ですね」
「ゆ、勇者……陽?」
「はい」
「……やはりな」

 頷く神父さんとニヤリと笑うロウエン。

「ロウエンは何か知っているのか?」
「あぁ。陰と陽。スキルによっては二面性のあるものがあるからな」
「二面性?」
「表と裏。良い面と悪い面。光と影といった感じにな」
「で、でも……俺は勇者だって言われて」
「そりゃまぁ、帝国とここの鑑定方法が違ったんじゃないか?」
「違うって……まぁ、確かにそうだったけど」
「占いと一緒さ。やり方が変われば結果にも誤差が生まれる。ただ、勇者である事に変わりはないからハズレではないがな」
「……」

 どこか釈然としないアニキ。
 と、その空気を切り替える様に明るい声が響き渡った。

「こんにちは~。神父様~?  あ、いたー!!」

 礼拝堂の入り口に現れる一人シスター。
 いや、あの顔は見覚えがある。確か

「おや、クリスリルさん。よくおいで下さいました」
「遅くなって申し訳ありません~」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
「……おや、客か。んじゃ、俺達はこれで」
「はい、ではまた」

 クリスリルと入れ替わりになるように外に出る俺達。

「な、なぁロウエン!!」
「んだよカラト」
「どういう事だよ……その、陰と陽って!!」
「……ま、ここなら良いか」

 そう言ってロウエンは教会の敷地内にあるベンチに腰を下ろす。

「さぁてカラト、お前はこう言いたいんだろ? 勇者は普通一人だ、と」
「そ、そうだ」
「確かに歴史上勇者は一度に一人しか出ていない」
「そうだろ? じゃあなんで」
「だがそれは表の歴史だ」
「っ!?」
「表の歴史って……」
「今までの歴史の中でも勇者・陰のスキルを持つ者はいたし、確認もされている」
「何で分かるんだよ」
「俺の部下にもいたからだ」
「っ!? ……どういう事だよ」
「どうもこうもそういう事だ」
「……」

 ロウエンの答えに納得しないアニキ。
 だがロウエンは気にせず話を続ける。

「確かに、本来なら勇者は一人しか産まれない。だが時に二人産まれる事がある」
「何でだよ」
「産まれる子の器が小さい時だ」
「器が」
「小さい?」
「そうだ。人にはそれぞれキャパがある。それは、器の大きさでもある。その器の大きさが勇者となるに小さい時、二人目が産まれると言われている」
「そ、そんな……じゃあ、俺は」
「あぁ勘違いするな。器が小さいと言っても勇者じゃなくなる訳じゃない。それに、陰の方は単に予備と言われる事もある」
「俺、予備なのか……」
「落ち込むな落ち込むな。だが今回は予備があって良かっただろ? カラト、お前はセーラに良い様に利用され、最悪勇者ではなくなっていたかもしれないんだから」
「そ、そうか……」
「他にも分けられてその……違いみたいなのはあるのか?」
「ん? ……そうだな。覚えられるスキルが多少変わる……とかあったな」
「覚えられるスキル?」
「あぁ。陽はそのまま、表の存在。光の存在故に光属性のスキルや魔法を覚えられるし、相性が合うのならだいたいは覚えられる。だが陰は違う。裏の存在にして陰の存在。故に、光属性は覚えられん」
「マジか……」
「まぁ光属性が覚えられないからといって死ぬ訳じゃない。そこまで気にする事はないさ。ただ、陰の存在という事は魔に近いという事でもあるんだ」
「魔に、近い?」
「そうだ。魂の在り方が近いと言えば良いかな……そのおかげかハヤテ、テイムスキルが無かったのにフーを仲間にできただろ?」
「あれそんな理由だったの!?」
「在り方が魔に近いからな。ただ在り方が魔に近い者なんてそうそういないからな……珍しいんだぞ」
「そ、そうか……」

 良かったなと言って笑うロウエン。

「ただ、魔に近い分弊害もある」
「弊害?」
「だってそうだろう? 大半が表の歴史から消えているというのはそういう事だ」
「だ、だからどういう」
「魔に近いという事は、魔に魅入られやすいという事。つまり」
「ま、まさか……」
「おいロウエン、それって」
「闇に落ち、勇者の敵となったからだ」

 その言葉に俺達兄弟は言葉を失う。

「言っておくが全員がそうなる訳では無いぞ。中にはちゃんと勇者を支えていた者もいる」
「……そうか」
「まぁそういう場合でも別の名……例えばだが賢者やら別の名を与えて歴史にその名を刻まれているけどな」
「そうなのか」
「だからまぁ、ハヤテが闇に落ちるか……それとも今まで通りの風を吹かせ続けるか」

 立ち上がると腰を曲げ、俺の顔を覗き込む様にしてロウエンは言った。

「見ものだな」

 彼はそう言うと口の端を釣り上げ、歯を僅かに見せて笑う。

「……お前、怖いぞ」
「ハハッ。悪い悪い……からかっただけだよ」

 アニキに言われ、いつもの表情に戻るロウエン。

「まぁ、魔に近いから闇に落ちると決まった訳じゃないって事だけは覚えておいてくれ」
「お、おう……」
「分かった」
「ま、そのための仲間でもある訳だしな」

 最後にニッと笑うロウエン。
 そうだ、俺には仲間がいる。
 恋人になってくれたユミナだっている。
 アニキとの仲も今ではある程度前の関係に戻って来た。
 俺は一人じゃないんだ。
 と、思っていると

「あいつ、誰だ?」
「ん? ……不審者、ではなさそうだな」

 アニキが近くの別のベンチに座っている青年に気付いた。
 煤の様な色の髪、マフラー、包帯の巻かれた腕。
 その姿には見覚えがある。

「アイツ……確かレイェスさんの所のパーティーに来ていたな。確か名前は」

 そこまで言った頃、向こうも俺に気付いた。

「お、おい……こっち来るぞ」
「……あの屋敷以来だな。確か、ハヤテと言ったな」
「あ、思い出した!! バリーナ・ヘンリーだよな。教国の勇者の子孫のパーティーの一員の」
「……あぁ、そうだ。今日はクリスリルの付き添いで来たんだ」
「ガーラッド達はいないのか?」
「……アイツ等は国の中でお楽しみ中だろうよ……」
「そ、そうか……」
「お前、気を付けろよ。アイツは信用しちゃいけねぇ……」
「……どういう意味だ?」
「……そのまんまの意味だ。アイツは……いや、ここでする話ではないか……」
「おい、大丈夫か?」
「……」
「あ、バリーナ~、用事終わったよ~」
「……今行く。これだけは言っておく。守りたい人がいるのなら、アイツとは関わるな……良いな」
「あ、おい……」

 俺に言うだけ言うとバリーナは教会から出て来たクリスリルと共に街へと消えて行っ……

「わー見てバリーナ!! 美味しそうなパンよ!!」
「お、おいクリスリル」
「こっちには可愛いお人形もいるわ!! 買って行ったら孤児院の子達はきっと喜ぶと思うの!!」
「そんな金は持たされていない」
「後で請求すれば良いわ!! 買いましょう!!」
「あ、おいクリスリル……はぁ…………」

 アイツはアイツで大変そうだ。









「……へぇ~。アイツ信用できねぇんだぁ……」

 誰にも気付かれる事無く、狼は呟いた。
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