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43話〜最強からの求愛〜

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「えっと、お待たせしました」

 エンシさんに呼ばれて家に戻った俺達。
 来客者が人が人なので急いで帰りました。
 だった来たのは皇国最強。
 ちょっと待たせたから腹を立てて凍らされたくない。
 ので、メチャクチャ急いで帰りました。
 そりゃもう肩で息をするぐらい急いで帰りましたよ。
 だったが……

「いや、急な来訪。誠に済まない」

 当の本人は気にした様子も無く、連れて来たのだろう。
 メイドが入れた紅茶を飲んでいる。

「……少し熱いな」

 そう呟くと、何も無い空中から小さな氷を作ってお茶に入れて冷ます。

「えっと……」
「あぁすまない。本当ならアポを取るのがマナーなのだがな」
「あ、えっと……」
「君が、風月の群狼のリーダーのハヤテ君だね?」
「え、あ……はい」
「私は皇国騎士団のレイェス。繰り返しになるが、急な来訪。誠に済まない」
「い、いえ……」
「フフッ。私がいうのもあれだが、座ったらどうだい? ここは君の家だ」
「え……あ、そうですね」

 指摘されて俺はソファーに座る。

「それで、要件と言うのは」
「そうだね。要件。うん、それを伝える為に来たんだが、落ち着いて聞いて欲しい」
「は、はい……」
「私と婚約していただこうと思ってな」
「……え?」
「ふむ、言葉が難しかったか。何、簡単な事だ。私と結婚し、婿として来て欲しい」
「いや、それは分かるのですが」
「安心しろ。ちゃんと子も産む」
「いやいやそうじゃなくて」
「何だ? 私が好みでは無いのなら私の部下や他からも好きなのを選んで愛人にしてくれても構わないぞ?」
「ちょちょちょちょっと待って?」
「そんなに慌てるな。式は盛大に挙げるつもりだし、君が旅をしたいと言うのなら邪魔はしない。当然、旅費だって苦労はさせないさ」
「だからちょっと待って下さいって」
「なぁに心配はいらな」
「だーかーらー!! 待って下さいってば!!」
「ん、どうした? そんなに怒って」
「怒ってはいませんよ!! ただ驚いているだけでして」
「驚く? 何故だ? 私では不満か?」
「いやいやそういう訳では」
「そうか。不満が無いのなら安心した。では善は急げとも言うし、さっさと私の家で」

 そこでレイェスさんは言葉を止めた。

「随分な挨拶ですな。狂狼師匠?」
「ふん。挨拶も無しにんな話をぶち込むお前もお前だろ。それとその呼び方はやめろと言っているだろうが」
「それは申し訳ない。師匠からはマナーにまつわる事は一切教わらなかったもので」
「教えてもお前は聞かなかったろうが」
「はいはい申し訳ありませんでしたね。先生殿」
「カッチーン。相変わらず頭に来るなぁ? レイェス・フロスフィア」

 抜いた刀を突き付けて話すロウエンと、ロウエンを囲うように氷の刃を生み出して話すレイェスさん。
 どうやら知り合いらしいのだが、状況が状況なだけにヒヤヒヤする。
 つか苗字持ちって初めて見たわ。

「いきなりの話でリーダーも混乱している。初めから話せ」
「ふん。言われなくともそうするつもりだったわ」

 スッと目を細め、ティーカップをテーブルに置くレイェスさん。

「この件。ハヤテ殿にしか頼めない事なのだ。話だけでも聞いていただきたい。この通りだ」

 ソファーから立ち上がり、頭を下げるレイェスさん。

「ま、まぁ話だけなら……」

 俺より目上の人がそこまでするんだ。
 話ぐらいならと俺は頷いた。

「まずは先程の婚約の件についてだが、正確には恋人のフリをして欲しい」
「……はい?」
「うん。私は今、両親から見合いを勧められているのだが受ける気が無くてね……でも断るのも難しい相手なのさ」
「断るのが難しい相手……」

 なんだろう。
 貴族や王族だろうか。

「だから断る為に恋人がいればと思ってね。そこで君を選んだのさ」
「いや、どうしてそこで俺が出るんですか!?」
「そんなの簡単さ。君も聖装に選ばれし者だからね」
「……君もって。あ、レイェスさんもでしたね」
「ふふ。知っていてくれたんだね。そう、私の聖装はこれ。聖刀」

 そう言って彼女は自分の隣に立てかけておいた刀を手に取る。
 雪の様に白い鞘に納められているそれが彼女の聖装なのだ。

「それもただの聖装ではない。君の聖装がまだ聖槍だった頃。聖剣と合わせる為に折り取られた聖槍の刃を使って作られた聖装なのさ」
「え、マジですか!?」
「あぁ。本当だ。だから」
「聖槍の刃から刀を作るって……聖槍の刃ってどんな形だったんだよ」
「言い伝えではでは剣に似ていたそうだぞ」
「へぇ」
「話を戻そう。そこで私は気付いたのさ。聖装に選ばれる者と付き合っているのなら、相手も諦めるのではないかとね」
「……聖装ってそんなに凄いのか」
「当然さ。聖装は誰にだって扱える物ではない。私の聖刀だって私の前は別の家の者が使っていたからね」
「な、成程……」
「その点君は私より凄い。聖槍と聖剣、両者に選ばれたのだからね!!」
「は、はぁ……」
「そんな君なら恋人役として相応しいと判断をしたのさ」
「そ、そうですか……」
「ち、ちょっと待って下さい!!」

 そこで待ったをかけたのはエンシさんだった。

「どうした? エンシ・リバランス」
「貴方のその言い方では彼には好意を感じられません。そんな中恋人役をしたとしても不審がられてバレてしまうのでは?」
「そ、そうですそうです!!」

 エンシさんの言葉にユミナが頷く。
 あ、エンシさんの名字ってリバランスって言うんだ。
 初めて知った。

「そこの点はご心配無く。私は、嫌いな相手を恋人役にする程バカではありません」
「なっ!?」
「なんですと!?」
「それに彼はカザミ村出身。私とは身分も違いますし、私の家に来てオドオドしたとしても多少は仕方ないと思われます」
「ぐぬぬ……」
「ハヤ兄の事は調査済みですか……」
「それにあの時の戦いだって……」
「あの時の戦い?」
「いえ、何でもありません。それに、偽りの恋人を演じている内に本当に愛する可能性もあります。その時は、本気で私の元に来てもらいたいとも思っている」
「……俺が剣を教えている時は血に飢えていた女だったのに」
「これが皇国最強だとは……」
「ハヤ兄が取られる……」
「もちろん、ハヤテ殿が望まれるのでしたら群狼の拠点として私の屋敷を使っていただいても構わない」
「どんだけ至れり尽くせりなんですか!?」
「それだけ相手が嫌いなんだろ」
「それはそれで可哀想ですね」
「……だね」

 俺達四人は顔も名前も知らないお見合い相手にそっと同情した。

「どうだろうか。君さえ良ければ」
「も、申し訳無いのですが……少し考えたい、です」
「……そうか。うん、急な申し出だったからな。驚いても無理は無い。ゆっくり考えてくれ」
「すみません」
「……では、私達はこれで失礼するよ」

 そう言って立ち上がるレイェスさん。

「できれば、良い返事を期待しているよ」

 そう囁き、彼女は帰って行った。

「……勘弁してくれよ」
「大変だな。ハヤテ」
「ハヤ兄……まさか受けたり」
「しませんよね?」

 同情するように肩を竦めるロウエン。
 心配そうに俺を見るユミナ。
 何故か謎の威圧感を放つエンシさん。

「……急過ぎて理解追い付かねぇよ」

 ソファーにもたれかかりながら呟くので精一杯だった。



 後日、俺は薬草採取と狩猟の依頼があったので森に来ていた。

「んで……」
「ん?」
「何で貴女が来ているんですか!?」

 何故か、レイェスさんも一緒だ。

「何で? アプローチのためだ」
「ぇー」
「まぁそう言うな。こう見えて狩猟は得意でね」
「ハーソーデスカー」
「驚きのあまり言葉を失ったか……」
「ポジティブだな!? つか見合い相手をほっといて良いんですか?」
「あぁ、その事なら心配するな。両親には君の事を既に言ってある」
「逃げ道塞がれた!?」
「そういう訳では無い。君と言う男がいると言っておけば先方との見合いを先延ばしにできるから言ったのさ」
「……なんか、都合良く使われている気がする」
「その通りだ」
「えぇ……」

 俺のその反応を楽しそうに見るレイェスさん。

「まぁ安心しろ」
「はい?」
「嫌いな奴に恋人役は頼まんよ」
「……そ、ソーデスカー」

 気が気じゃ無い俺と楽しそうなレイェスさん。
 狩猟が得意という言葉の通り、今回の狩猟対象であるバレットモールを彼女はあっという間に規定数狩った。

 まぁ、俺一人だったらもっと時間かかっていただろうし、正直助かった。
 バレットモールは土の中に住む小形の獣で、地中を物凄い速度で進み、木の根を齧り、地中の虫や小動物を食べる生物だ。

 地中を移動する際に土をかき混ぜるので、自然の鍬とも言われている。
 今回コイツを狩猟した理由は簡単だ。
 増え過ぎたせいか、村の田畑にまで来て作物を食い荒らしているのだと言う。

 なので、少し数を減らす為に狩猟の依頼が出されていたのだ。
 ちなみにコイツ、珍味として一部の貴族連中に人気らしい。

 そのバレットモールと頼まれていた薬草をそれぞれ籠に入れて村へと戻る。
 バレットモールは狩り過ぎて数が減ってはいけないので依頼数だけ。
 ただ薬草はレイェスさんも手伝ってくれた事もあり、予定の倍は採る事ができたのでかなり喜ばれた。

 二日後にも彼女はまた来た。
 その時は荷台にドッサリと海の幸を乗せて来た。
 ウインドウッド村では海の幸は王都に行くかアクエリウスに行かないと買う事が出来ないので皆メチャクチャ喜んでいたし、レイェスさんも皆に配っていた。



 その翌日は財宝を持って来た。
 初めて見る輝きに一瞬俺は目が眩んだ。
 ミナモに至っては欲しい物を選別して勝手に自分の部屋に持って行っていた。



 更に翌日は氷の刃で薪割りを手伝って帰った。
 暇なのだろうか、と思いつつそれだけ俺に気に入られようと必死なのだろうか。

 ただそれと同時に俺はある事も考えてしまう。
 ユミナへの返事をする前にレイェスさんの彼氏のフリをして良いのだろうか。
 もし俺がユミナの立場なら良い気はしない。
 フリとはいえ自分の思い人が他人の恋人になるのだ。
 想像しただけでメチャクチャ辛い。

(……返事してからの方が良いよなぁ)

 だからといってユミナへの返事が決まった訳じゃない。
 早く決めねばいけないと焦れば焦るほど答えが見えなくなる。
 早く答えを出さねば。



 次の日、レイェスさんは来なかったので俺は日向ぼっこをしながらユミナへの答えを探した。
 俺はユミナの事は嫌いでは無い。
 だが、だからといって恋人に向ける好意を持っているかと聞かれると俺はなかなか頷けない。
 では俺がユミナに向けているこの感情はなんだろうか。

「よう。んな顔してると眉間に皺が残るぞ?」
「ロウエン……」
「なぁに悩んでんだ? ……ってまぁ、だいたいの想像はつくがな」
「じゃあ聞くなよ」
「ハハッ。悪い悪い」
「なぁ、どうすれば良いと思う?」
「ん? ……そうだなぁ。さっさとユミナを孕ませて、レイェスを二番目にするとか?」
「ブッ!? は、はらま!? ……つか知ってんのか!?」
「皆知ってるよ。村の奴等だってお前が受けるか受けないかで賭けやってんぞ」
「うわ最低だ」
「ま、俺も参加しているがな」
「うわぁ……天国の奥さんに言ってやろ」
「それはやめてくれ。向こうに行ってからが怖い」
「マジかよ……」
「ま、冗談はさておき」
「冗談かよ……時々怖いぞ」
「悪かったな。ま、俺から言えんのは悩むんならいっそ両方手に入れれば良いって事だな」
「それができれば苦労しねぇよ」
「……そうだよなぁ。お前はそう言うので序列を作るのが苦手そうだしな」
「……まぁ、な」
「ま、前にも言ったが結局はキャパだな」
「……恋愛にもキャパがあるのか?」
「当たり前だ。一人しか養えねぇのに二人三人と結婚するのはバカのする事だからな」
「そういう問題じゃない気がする……」
「そういう問題だよ。まぁその点は気にするな。アイツは金持ちだからな」
「……」
「それに、アイツは自分が嫌なら部下や他からも嫁を作って良いと言っていたな」
「あ、あぁ……」
「アイツなりに考えたか……素直じゃない奴だ」
「どういう事だ?」
「まぁ簡単に言うと、もし本当に夫婦となる結果になってしまった場合、ユミナ達の面倒もまとめて見ると言っているんだよ」
「何で?」
「そりゃお前、巻き込んじまったからだろ」
「……あ」
「まぁ他にも、心当たりはあるがな……」
「どういう事だよ」
「ハヤテ、お前レイェスとは初対面か?」
「は? なんだよ急に……」
「良いから」
「んー……会った事があるようなないような……」
「どっちだよ」
「……親父達が行方不明になった時にあるような気がする」
「あぁ。魔獣駆除の時に行方不明になったと言っていたな」
「うん……その時さ、魔獣が強力だからって王国から騎士団が派遣されたんだよ。その時に確か皇国や帝国からも騎士が派遣されてさ」
「おう」
「その中に雰囲気が似ている人がいたかもしれない」
「……まぁちっさい頃の話だしな。覚えてないのも無理ないか」
「……何か知っているの?」
「まぁな。俺、一時期アイツに剣を教えていてな。その時に少し聞いたんだよ」
「な、何を聞いたんだよ……」
「それは俺の口から話す事では無いな」
「お、おい」
「悪いな。ちょっと約束があるから行かせてもらう」
「そ、そうか……」
「まぁ結局はお前が選ぶんだ。協力するかしないか。ユミナに応えるか応えないか。俺達ができるのはアドバイスだけ。それを受けてお前がどうするか。それを決められるのはお前だけなんだ」
「……」
「後悔しなけりゃ良いんだよ。簡単だろ?」
「難しいよ」
「……ま、一時期とはいえ剣を教えていた身として言える事は、アイツは悪い奴では無い。そこは保証するよ。じゃあな」
「お、おう……」

 俺と別れると、俺達がこの村に来た際に取り戻した赤ん坊の家の方に向かうロウエン。
 まさかと思ったが、家の中から出てきた奥さんが家の戸を開けたり閉めたりしながらロウエンと話している。どうやら建て付けが悪いから直して欲しいみたいだ。

(後悔しない道、か……)

 ロウエンは彼女を悪い奴では無いと言っていた。
 それに彼女が何を知っているのかが気になる。

(……ユミナに聞いてみるか)

 多分この選択は最悪だろう。
 君への答えを保留にしたまま、レイェスさんの恋人のフリをしようと思うと話すのだ。
 俺なら辛い。
 でも、何も言われずに決められる方が俺は辛い。
 これは俺の完全な自己満足だ。

(怒られるだろうな……)

 最悪、泣かせてしまうかもしれない。
 でも、ロウエンが知っている事がなんなのかが知りたい。
 後悔しない為に。
 ユミナの意見も聞きたい。
 その為にも話そう。
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