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24話〜魔の手を退けるのは……〜
しおりを挟む「こんなに早くまた来るとはな……」
「行くぞ、主」
ロウエンを先頭にして俺達群狼は王城へと入る。
事の発端は昨日届いた手紙。
差出人は、ローザ様だ。
内容は、急ぎのためとにかく城まで来いというもの。
なので俺とロウエンはウルとルフに、ユミナとミナモはフーに、エンシさんは自分の馬に乗って王城まで急いで来たのだ。
「急ぎの用ってなんだろう……」
「さぁな。ただ、アイツからの手紙からするとよほどの事だろうな」
「そういえば他にも手紙来てたみたいだけど?」
「あ~……それは俺にだ」
「そっか」
そのまま俺達は王の前に通される。
そこには先客がおり、片膝をついてウゼルさんに頭を垂れている。
「おぉ。来てくれたか!! ロウエン達!!」
「暇だったから……というのは冗談で、ローザ様からの手紙でしたからね」
「そうか。だがありがとう」
俺達も片膝をついて頭を下げるがロウエンだけは立ったまま。
しかも誰もその事について咎めたりはしない辺り、ウゼルさん達はよほどロウエンを信頼しているのだろう。
だが問題ってのはどこにも転がっているものでして……
「な、なんでお前が……」
「あ、兄貴だったんだ」
「だった……だと? ……お前、いつから俺にそんな口を聞けるようになったんだぁ? ……アァン!!」
思わず立ち上がり、俺へ詰め寄ろうとする兄貴。
「貴様!! 王の御前であるぞ!!」
側にいた騎士が兄貴の襟を掴んで力尽くで跪かせる。
「ぐっ!? ……テメェ!! 俺は勇者だぞ!! その俺に何してんのか分かってんのか!! この働きアリが!!」
「おう知っているぞ。未だに聖装に選ばれず、たいした活躍もしない勇者って事ぐらいな!!」
「んだとコラァ!!」
「……見ろ。たいした鍛錬もしていないから俺一人跳ね除けられないではないか。これが勇者だと? ……ハッ、聴いて呆れるな!!」
「グッ……テ、テメェ……」
兄貴の後頭部を掴んで額を床に擦り付けさせる騎士。
少しやり過ぎな気もするけど、助け舟を出してやる必要は無さそうだ。
少し反省しろ。
と思っていると
「そこまでにしなさい」
「ローザ様……」
護衛の騎士を一人連れたローザさんが入ってくる。
前回会った時と同じくドレスアーマーを着ている。
「離してやれ。手柄を立てられぬ事はソイツが一番知っているはずだ。それを指摘して、傷を抉ってやるな」
「は、はぁ……」
「……屈辱だ」
解放され、ボソリと呟く兄貴。
だが次の瞬間には
「そもそもなんでその女がお前といるんだよ……」
「あ? ……あぁ、エンシさんの事か。それがどうかしたのか? 強姦未遂野郎」
「なっ、なんでそれを」
「んな事されたら相談されるだろうが」
「……」
「んで? 城から派遣された見張りはどうした?」
「な、なんでそれを!?」
「提案者、ロウエンだからな」
「はぁ!?」
「あぁ、それは気になっていたのだ。派遣した、アルの姿が見えないが……どうした? 私は、パーティー全員で来るように。と、言ったはずだが?」
「そ、それは……」
ウゼルさんに言われ、顔色を悪くする兄貴。
すると
「アルさんは別命を受けたと言われて私達と分かれました」
セーラがそう言ったのだ。
「ほう? 別命か……誰か出したのか?」
「えぇ。私が」
「姉君が? ……そうか。なら良い」
どうやら別命があったと言うのは本当らしい。
が、どういう訳かセーラとヒモリはホッとしたような表情をしていた。
「まぁ良い。そろそろ本題に入ろう。貴殿達には今王都に向かって進行している魔族軍を共に迎え撃って欲しい」
「は?」
「それって……」
「あぁ。勇者と、聖装の力を貸して欲しい。頼む!!」
そこからはローザさんが話した。
王都目掛けて魔属軍が進軍中であり、このまま行くと来週には王国の目の前まで到達してしまうのだ。
そうなる前に市民を避難させてはいるが到底間に合わない。
間に合ったとしてもそれは、王都の住人。
王国全体は到底間に合わない程の進軍速度だそうだ。
そして相手も悪い事に魔王に仕える四天王の一人の右腕。
名をガオンといい、魔獣を中心とした軍団を率いているという。
そして奴の恐ろしさは容赦が無い事にある。捕らえた捕虜、市民はもちろん、使えない部下すら手にかけてしまうという。
そんな奴が王国に入ってしまえばどれ程の犠牲が生まれるか分かったものでは無い。
だから……
「頼む!!」
「私からも頼む!!」
そう言ってウゼルさんとローザさんが頭を下げる。
「……どうする主」
「ロウエン……」
「主は確かに聖装を持っている。が、主は正式に王に仕える騎士ではない。断る事も、一応は可能だ」
「……」
「俺達のリーダーは主だ。俺は、王ではなく主に従う」
「……ウゼル王」
「なんだ?」
「一つ聞きたい。奴等の進軍ルートに俺のいるウインドウッド村は入っているのか?」
「……予測される進路に入ってはいないが、かなり近くを通る」
「……分かった」
「覚悟は決まったか……」
「あぁ。この槍に、この国の民の為に戦う事をここに誓おう!!」
その言葉を聞き、頭を再度下げるウゼル王とローザさん。
「も、もちろん俺達だって戦ってやるさ!!」
負けじと兄貴も頷く。
「それは助かる。では続きは姉上」
「あぁ。分かった」
そう言って一歩前に出るローザさん。
「……まさか」
「察しが良いなハヤテ。そうだ。私が指揮をとる」
「いや無理だろ」
「ロウエン、即答するな!!」
「いやだってお前聞いたぞ。護衛の騎士がどれだけ手加減しても」
「……」
「あ~分かった分かったから泣こうとするな」
「……ま、まぁ確かに私は指揮が苦手だ。それは部下達も知っている」
「じゃあ何で来るんだよ……って、士気を上げるためか」
「そんなところだ」
「ま、確かにアンタがいれば士気はあがるが……危なくねぇか?」
「私が死んでもウゼルが残る。ウゼルがおれば王族の血は残せる。私の役目は、ウゼルを守る剣となる事だ」
「……ま、お前が良ければそれで良いんだけどよ」
「そこはご安心を。私がお守りしますので」
「……ソイツは?」
「申し遅れました。私の名はラウ。ローザ様の護衛の後任でございます」
そう言って頭を下げる男性。
長い髪はウェーブがかかっており、優しそうな目をしている。
「そう言えばお前も来るのだったな」
「はい。早く手柄を立てて上に行きたいのですよ」
「なるほどな……なら、手柄を立てたら何か褒美をやろうか」
「本当ですかな? ローザ様」
「あぁ本当だ。何でも言え」
「……そうですか。でしたら……」
そう言うとラウは何故か群狼と勇者パーティーの女性陣を順々に見てから
「新しい家族を望みます」
セーラを見ながらそう言った。
「なるほど……新しい家族、か。良いだろう。手柄を立てた暁には、新しい家族を約束しよう」
「ありがとうございます!!」
「えっ……え、それって」
ラウの言葉を聞き、両手を頬に当てるセーラ。
「私がお嫁さんに!?」
「わー!! おめでとうセーラ!!」
盛り上がるセーラとヒモリ。
(いや、セーラはやめとけー……)
それを見ながら俺はラウに心の中で言うのだった。
その後俺達はワシブサさんに事情を話すために一度村へと戻った。
魔族軍を迎え撃つ為留守にすると言うと、始めは心配そうに聞いていたが最後には
「留守の間家はしっかり守るから生きて帰って来い。腕や足が切れても絶対に治すから!!」
と言ってくれた。
それだけでなく、俺達が無事に帰って来れるように宴まで開いてくれた。
急だった事もあり、たいした事はできないけどと言われたが十分嬉しかった。
そして翌日。
村を出る時に俺達は全員にお守りとして茎を編んで作った花飾りを一人一つ、フー、ウル、ルフとウェイブにもくれたのだ。
「……どうか、お気をつけて」
「……はい」
最後に赤ん坊を抱いたエルフの女性の言葉に頷いて返し、俺達は村を出発し王都へと向かった。
王都に着いた俺達を待っていたのは迎撃軍の姿だった。
全員やる気に満ちているのだ。
しかも
「しっかりね!!」
「うん!! 絶対に帰って来るから!!」
「アンタの好きなモン。作って待っとるからね!!」
「カーちゃん……俺、お腹空かせて帰って来るから!!
「手柄はいらないから。貴方が生きていてくれれば、私達は良いから」
「分かっているよ。俺に死ぬ気は無いから。この子の名前、一緒に考える約束だもんな」
至る所で別れの挨拶をしている。
「みんな、同じだな」
「……守る者がいる。帰る場所がある奴はそれだけで強くなれるからな。俺達も行こう」
「おう」
俺達も騎士達の列に加わる。
「久しぶりに着るな」
「似合ってますよ。エンシさん」
「そうか? ユミナも似合っているぞ」
「えへへ~……大丈夫。ウル達のお母さんもいるんだもん」
青い鎧に身を包むエンシさんと覆狼を着るユミナ。
「うぅ~。緊張で吐きそう」
「グギャウ」
緊張のあまり吐きそうなミナモ。それを聞いてギョッとするフー。
「そんな緊張するなって。奴等と戦うのは今日じゃねぇ。今からそんなんじゃ、身がもたないぞ」
と、冷静に話すロウエン。
「そっか。今日戦う訳じゃないのか」
「あぁ。迎え撃つのは王国の外だ。まぁ、出会っちまったらその限りじゃないがな」
そんなこんなしていると騎乗を開始する騎士達。
出発の時だ。
「行くぞ!!」
先頭の方で合図がなされ、俺達は王都を出る。
互いの進行速度を考えると出会うのは三日後。
一応、三日あれば王国外で迎え撃つ事はできる。
それを可能にするのが、馬だ。
迎え撃つ為に参加した騎士達全員が馬に乗っているのだ。
そのせいで餌の用意が大変だったらしいが、それで王国を守れるのならと国民総出で餌を用意してくれたのだ。
彼等が言うには
「俺達の代わりに戦いに行く騎士さん達を連れて行く馬の飯の用意ぐらいさせてくれ!!」
らしい。
彼等は戦っていない訳じゃない。
彼等は、彼等の出来る範囲で戦っているのだ。
負けられない。
負けるつもりも無い。
俺だけじゃ無い。
ここにいる全員がそう思っていた。
その日の夜。予定より進んだ俺達は野営していた。
ミナモ、ユミナ、エンシさんは同じテント。
俺はロウエンと同じテントだったのだが、今は見張りに行っておりテントの中は俺一人となっている。
フー達は一応俺達のテントの近くにいる。
何かあったらテントに来いと言ってあるので問題は無いだろう。
と思っていると
「ハヤテ、いる?」
「……なんの用だよ」
「えへへ。良かった……いて」
セーラがテントの中に入って来た。
「聞いているだろ。何の用だ」
「そんな大きな声出して脅かさないで……じゃないと……」
そう言って自分の服の襟に手をかけて乱すセーラ。
「大きな声、出しちゃうよ?」
「っ……」
「えへへ。ありがと」
警戒しつつ座る俺。
その俺の隣に座り、腕に抱き付くセーラ。
時々身をよじらせて身体を押し付けて来る。
「……何のつもりだよ」
「んー? 久し振りにハヤテとイチャイチャしたいな~って思ってさ」
「……お前にはカラトがいるだろ」
そう言ってセーラとは反対の方を見る。
「むー。妬きもち~? 可愛いハ・ヤ・テ」
そう言いながら俺の頬を指先でチョンチョンとつつくセーラ。
「ねぇねぇこっち向いてよ~」
「ふざけんな……散々俺の事を」
「バカにしたのは謝るかさ~。ねぇねぇ~」
そう言って胸を押し付けて来るセーラ。
「こっち向いて。謝らせて……」
「……」
「お願い。私、本当はハヤテに助けて欲しくて来たの……」
「……どういう事だよ」
「私ね、本当はカラトに……」
兄貴に思い出したく無い何かをされたのか口ごもるセーラ。
「カラトに無理矢理汚されたの……その事をハヤテにバラされたくなかったら、俺の女になれって脅されて。だから仕方なくハヤテにキツク当たってたの!! 本当に……ごめんなさい」
「……」
そう言われてしまうと俺も強く言えない。
「そういう、事があったのなら……」
だから俺はセーラの方を向いてしまった。
「って、言う訳ねーだろバーカ」
「え……っ……」
直後、俺の頭の中が真っ白になった。
「そう単純で助かるよ。可愛い可愛い。バカハヤテ」
「セ……ラ……何、を」
「へぇ~。まだ正気保てんだ~……んじゃぁ」
そう言って俺の目を覗き込むセーラ。
「こうするとね~。ハヤテの心がトロ~ンって溶けて、私色に染まっちゃうの……」
「ぁっ……ぅっ」
「そうするとね、私だけのお人形さんになっちゃうの……カラトと同じ様にね」
(兄貴、と!? )
逃げないとと思っても体が言う事を聞かない。
「そろそろ頭の中が、霧がかかったようにボーッとして来たかなー?」
そう言って俺と目を合わせるセーラ。
「へぇ~。あれだけされてまだ抵抗している……流石は聖槍が選んだだけある、ってヤツ? ま、だからカラトから乗り換えるんだけどね」
ニコニコ笑いながら俺に跨るとそのまま押し倒すセーラ。
「ほーら。私色に染まっちゃえ。バカハヤテ。そうすれば、私の事を好きにして良いんだよー?」
ニヤニヤと笑いながら話しかけるセーラ。
「胸だってお尻だって……自由にしていいんだよー?」
頭の中にかかったモヤがドス黒くなっていく。
「ほら、無駄な抵抗はやめろ。やーめろやめろ。やーめーろ。労力の無駄遣いはや~め~ろ~」
もう、ダメだ。そう覚悟した時だった。
「バウバウバウ!!」
「ガウッ!! ガウガウガウ!!」
「グギャアァァァァァァウ!!」
外からけたたましい声が聞こえた。
(ウル!! ルフ!! フー!! )
その咆哮に驚き、俺からわずかに目を逸らすセーラ。
おかげで
「どけ!!」
「きゃっ!?」
動けるようになった体。
セーラを突き飛ばしてテントから出る。
そしてそのまま三頭がいる所まで走る。
すると
「くぅぅ~ん」
「わふわふっ」
「ぐるるっ」
と俺に甘えて来たので取り敢えず頭を撫でてやった。
「……主、何してんだ?」
その後、見張りから戻って来たロウエンに見つかったのだが
「いや、なんか俺がテントに戻ろうとすると吠えるからさ……仕方なく」
「ほぉ~……」
「あ、この説明。五回目だから」
「マジか。大変だな」
「まぁな……でも、お礼も兼ねてな」
「そうかい。ま、寝坊すんなよ」
「分かってるよ……な、なぁロウエン!!」
「ん? なんだ?」
「……あ、いや。なんでもない」
「そうか……安心しろ。分かっているから」
そう言ってテントに入っていくロウエン。
分かっている。
彼はそう言っていたが何の事だろうか。
疑問に思ってのだが、フー達の体温が気持ち良かったせいか俺はそのまま寝てしまったのだった。
ちなみにその夜はめちゃくちゃ暑くて、次の日起きたら寝汗で顔がベッドベトだった。
それから予定通り進み王国の外に出た俺達。
その目の前には……
「ウオォォォォッ!!」
「ウガァァァァッ!!」
「ガアァァァァッ!!」
目の前の平原を埋め尽くす程の魔獣の軍団だった。
「これは……」
「想定外、だな」
その光景。それを見てロウエンはそう呟いた。
場所は移って魔族軍。
人類軍と向き合う魔族軍の大将であるガオンは隣に立つ魔族の頭を、その大きな手で撫で回していた。
「すまぬなぁ。急に連れ出してしまって」
「ガオン様……私の初孫の最初の誕生日でしたのに」
「だからこうして感謝しているではないか」
「……ガオン様に、恩が無ければ来てはおりませんぞ」
「分かっておる」
ガオンと話す魔族。
ヤギのような角。
背中には蝙蝠のような翼。
悪魔のような尾を生やした女魔族。
「お前の幻覚のおかげで向こうの手の内が知れるというものだ」
「野蛮に見えて、賢い方です事……」
「フン。野生の生き物こそ、生き残るために知恵を絞る。賢い生き物よ」
「おぉ、怖や怖や……」
「クックックッ……さぁ、見せてもらおうか」
最後にニィッと口角を上げるガオン。
そして、両者はぶつかった。
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