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21話〜不機嫌なセーラ〜
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サザミナへと向かう勇者一行。
その中で私は非常に不幸せだった。
その原因は目の前を歩くカラトの隣を歩く騎士。
王都から、勇者が信用に足る人物がどうか見て来いと派遣された騎士。
アルという名の騎士。
来てからずっとカラトにくっ付いていて迷惑この上ない。
目障り。
鬱陶しい。
私がカラトに近付く隙が無い。
(……何でこのタイミングで)
もう少しで聖装の一つである聖槌があるサザミナにたどり着くという所で奴は来た。
聖槌を手にしたカラトを従順な人形に仕立て上げるようと計画していたのに、アルがいるせいでご褒美が与えられない。
カラトはカラトで同性の仲間が出来たせいか彼と話してばかり。私に話しかけすらしない。
(どうにかしないとなぁ……)
ガリギリと歯軋りをしながらアルの背を睨む。
その視線に気付いたのか、こちらを振り返るアル。
そんな彼に私は、笑顔を向ける。
ハヤテと付き合っていた頃によく見せていた笑顔。
あの頃は勇者の弟であるハヤテと付き合い、一緒に旅に出るつもりだった。
その旅先でカラトの大切な弟を殺し、傷付いたカラトを慰め少しずつ取り入っていこうと思っていた。
が、盲目の心を取得した事。
更にカラトの心が弱っていたので予定を変更したのだ。
おかげで付き合う気の無かったハヤテと別れる事も出来たし、万々歳。
ここまで聞くと私がろくでもない女に聞こえるかもしれない。
でも考えてみて欲しい。
将来の地位が約束され、金のなる木が目の前にあれば手にしようと動くものだ。
だから私はカラトに近付いた。
勇者の妻となり、勇者の子を生み、将来は優雅に暮らす為に。
苦労せずに生きたい。
楽して生きたい。
その為にまずはハヤテに近付き、彼が好む真面目な女子を演じた。
どんなにめんどくさい事でもやった。
あの頃のアイツは変な所で真面目だったからな。
嫌われないように無理をし続けた。
その結果、全ての段階をすっ飛ばせるスキルを身につける事が出来た。
だから私は、カラトに乗り換えた。
ハヤテからすれば、カラトに私を取られたように感じただろう。
だからなんだ。
私は、私の幸せだけを最優先する。
その邪魔になる物は必要無い。
邪魔をする者は必要無い。
私が歩む道に必要無い。
誰だって邪魔な石はどけるだろう。
それと同じ事。
私の人生にとって必要無い物は全て捨てる。
欲しい物を手に入れる為なら、いくらでも自分を偽るだけだ。
(ったく……いつまでくっついてんだよ)
邪魔だ。邪魔だ邪魔だ邪魔だ、邪魔だ。
どうにかしてアルをカラトから引き離したい。
(いや? さっさと仕事を終えさせて王都に返した方が早いか? )
さっさと追い返してカラトを躾け直す。
それが良い。
では、そうするにはどうするべきかと私が考えている中、カラト達はサザミナにある神殿へと向かう。
「ここの聖装は確か聖槌。ハンマーの形をしているそうですね」
「できるなら聖剣の方が良いんだがな……我が儘も言っていられない」
「そうですね……」
そう言って神殿へと入っていく。
神殿は街を一望できる丘の上に建てられていた。
その中で眠るように静かにその時を待っている聖槌。
台座に剣が斜めに突き刺さるように置かれている聖槌。
身の丈程の巨大なハンマーの形をした聖装が目の前に鎮座している。
重量も相当あるのだろう。
台座にはヒビが入っている。
「結構重たそうだけど行けるかな」
「聖槌が貴方を認めれば簡単に持ち上げられるそうですよ」
「へぇ~……んじゃ、やってみるか」
袖を捲り、聖槌の柄を握るカラト。
私達が見守る中、持ち上げるべく力を込める。
すると聖槌からは雷が迸る。
雷だけじゃなく真っ赤な炎も吹き出し、台座を赤く熱していく。
「っ、グオォォォッ!!」
徐々に持ち上がる聖槌。
それに伴い雷と炎の勢いが増していく。
あまりの熱さにカラトだけでなく、私達全員汗をかいている。
「も、もう少し……で!!」
もう少しで完全に持ち上がる。
その時だった。
なんとカラトは聖槌を台座に戻してしまったのだ。ただ、自分から戻したのではなく重さに耐えきれずに置いてしまったようにも見えた。
「カラトさん!?」
「カラト?」
「っ……こいつ、急に重くなりやがった」
「うーん、どうやら聖槌に嫌われたようですね」
アルの言葉で落ち込むカラト。
「き、きっと相性が悪かったんですよ~」
なんて言いながらエラスが慰めている。
そんな光景を私は冷めた目で見ていた。
(なんだ……勇者って言ってもたいした事無いんじゃん……)
二連続で聖装に拒絶される勇者なんてカッコ悪すぎる。
ハッキリ言って、減点だ。
いや、失望だ。
聖装に選ばれない時点でコイツに価値は無い。
相性の悪い聖装に二連続で出会うなんてよほど運が無いのか、それとも勇者として未熟過ぎるのか。
それに比べてハヤテは素晴らしい。
一発で聖槍を引き抜いた。
カラトとは大違い。
これじゃハヤテが勇者でカラトが愚兄だ。
(もしかして私。とんでもない間違いをしたんじゃ……)
私の願いは勇者と結ばれて楽に暮らす事。
そのためにはまず、勇者が必要だ。
聖装を持たない勇者は必要無い。
必要なのは、聖装に選ばれた勇者だ。
同じ勇者でも聖装が有るか無いかでは雲泥の差がある。
宝石を持つにしても高価な宝石が欲しい。
同じ魔獣を飼うに飼うにしても強い魔獣が良い。
同じ物だったら、格が上の方が良いに決まっている。
だから、私にとって聖装を持たない勇者はいらないのだ。
いや、まだハヤテが勇者と決まったわけでは無い。
それに私も鬼ではない。だから……
夜、私達は宿で休んでいた。
ここではちょうど一人一部屋を取れたので、エラス達は自分の部屋でゆっくり休んでいる事だろう。
そんななか私はカラトの部屋を訪ねていた。
「何で聖装を手に入れられないかな~」
「ご、ごめん……」
「ごめんじゃないの、よ!!」
椅子に座ったカラトの頭を叩く。
が、彼は一応勇者だ。
私がいくら叩いたところでたいしたダメージは入らないだろう。
だから
「いった……なにスキル使ってんのよ!!」
「ご、ごめん……」
カラトに防御強化のスキルを切らせて叩く。
「だから、謝って通る話じゃないのよ!!」
「あうっ……」
そのままカラトを椅子から蹴り落とす。
「アンタさぁ……どれだけアタシが尽くしてやったか、分かってる?」
「あっ、いっ、痛い……」
「当然だろ。髪掴んでんだからよぉ……なぁ、聖装に二度もフラれたダメ勇者~」
髪を掴んで顔を上げさせ、頬をペチペチ叩きながら煽る。
「うっ、うぅ……」
「あらら、本当の事を言われて泣いちゃった~?」
ペチペチペチ、ペチペチペチペチペチペチ……とネチネチと叩き続ける。
「久しぶりに二人っきりになって、ご褒美でも貰えると思った?」
叩きながら尋ねる。
「ほら、しょーじきに言って~?」
「は、はい。思いました」
「ふーん? 愚弟は聖装を手に入れたのに自分は手に入れられず、醜態を晒したくせに私からご褒美が貰えると思ったんだ?」
「は、はい……ご、ごめんなふぐぅっ!?」
「だ~から謝って済む問題じゃねぇって、さっきから言ってんだろうがボケェ!!」
そのまま私は、弓でカラトの胸を突く。
蹲って咳き込むカラト。
その背中や頭を弓で容赦無く叩く。
「このままじゃ私、お前に愛想尽かしてハヤテの事を愛しちゃうよ? アンタを愛するのやめちゃうよ? それでも良いのー?」
「いっ、嫌っ……嫌です!!」
「そっか~。嫌なのか~……でもさ、私には聖装の無いアンタには用が無いのよ」
「そ、そんな!?」
私の言葉を聞いて跳ねるように顔を上げるカラト。
その顔は情け無く、笑いを堪えるので精一杯。
「捨てられたくないの?」
「す、捨てられたくないです!! 捨てないでください!!」
「へぇ~? 私をハヤテから奪ったクズのくせに、捨てられたくないんだ~?」
「あ、あれはお前の方から」
「言い訳すんなよ。私の方から誘ったとしても選んだのはお前だろ。結果、お前は弟から彼女を奪ったんだ。寝取った最低最悪の勇者なんだよ」
「ち、違う。俺は」
「は~……」
カラトの顎を掴んで顔を寄せ、穏やかな口調で子どもに言い聞かせるように言う。
「もう一度言うね? 君は、自分の弟と将来を約束した女を寝取ったクズ勇者なの。クズなの。クズなのよ? 最低よ本当に。クズ……ク~ズ♪」
「ち、ちがっ」
私の言葉を聞いて否定しようとするカラト。
私は、彼が否定するより先にビンタをして黙らせる。
「良い? 事実を認めないとまた痛い目に遭うからね? 良い? もう一度言ってあげるね? クズ勇者の君に分かりやすく言ってあげるから、ちゃ~んと聞くのよ?」
「や、やめ……」
「ビンタ、行く?」
「い、いやだ……」
「そう。じゃあ黙ろうね。カラトはクズだけど単純で扱いやすいから、言うこと聞けるよね?」
「あ、あぁ……」
普通の人ならこの時点で怒り、反抗してくるだろう。
でもカラトにはそれができない。
だって私のスキル、盲目の心によって彼の心は私に縛られており、私のする事が正しいと信じ切っており、依存させているからだ。
「確かに私は誘ったわ。でもね、クズじゃない人だったらその誘いを断るの。断るのよ? それなのに貴方は何をしたかしら? 弟のハヤテと将来を約束した私の体を好きに使ってくれたわよね? 本当、ショックで眠れなかったわ……」
「ぁ……」
「本当に酷い人。それからは当たり前のように私を呼び出して……」
そこから私は、ただひたすらカラトがどれだけ人としてクズなのかを言い聞かせた。
耳を塞ごうとすればそっとその手を離させて言い聞かせ、時に囁いてやる。
勇者として完成する前からご褒美としてじっくりと躾けてきた。
おかげで今では従順な犬になってくれた。
「ねぇカラト。私は貴方のようなクズとは違って優しいからもう一度だけチャンスをあげるわ」
「ち、チャンス……」
「そう。次に見つける聖装。それに選ばれなかったら……分かるね?」
「ぁっ……ぁぁ……」
「分かるね?」
「は、はい……」
「よしよし、良い子良い子。言う事を聞ける良い子は好きだよ……」
「セ、セーラ……」
優しくカラトの頭を撫でてやる。
鞭だけでは犬は言うことを聞かない。
だから、鞭の後には飴もやらねばならない。
「ほらほら。元気出して? カッコいいカラトが台無しだよ?」
「うっ、うぅ……」
「私だって本当はこんな事したくないんだよ? でもね、こうしないとカラトがシャキッとしないから、心を鬼にしてやっているの……本当は辛いの……」
「本当にごめんよ……」
「ううん。私こそ辛い事言ってごめんね? ……本当に愛しているのはカラトだけだから、ね?」
「うん……ありがとう、セーラ」
そう言って私を抱きしめるカラト。
それに応じて私も抱きしめ返す。
これでしばらくはカラトも言う事をきくだろう。
あとはアルとかいう騎士だ。
目障りなアイツをどう始末するか。
その方法を考える私の顔が目の前の窓ガラスにたまたま映る。
その顔は私らしいとても、とても純粋な笑顔だった。
その中で私は非常に不幸せだった。
その原因は目の前を歩くカラトの隣を歩く騎士。
王都から、勇者が信用に足る人物がどうか見て来いと派遣された騎士。
アルという名の騎士。
来てからずっとカラトにくっ付いていて迷惑この上ない。
目障り。
鬱陶しい。
私がカラトに近付く隙が無い。
(……何でこのタイミングで)
もう少しで聖装の一つである聖槌があるサザミナにたどり着くという所で奴は来た。
聖槌を手にしたカラトを従順な人形に仕立て上げるようと計画していたのに、アルがいるせいでご褒美が与えられない。
カラトはカラトで同性の仲間が出来たせいか彼と話してばかり。私に話しかけすらしない。
(どうにかしないとなぁ……)
ガリギリと歯軋りをしながらアルの背を睨む。
その視線に気付いたのか、こちらを振り返るアル。
そんな彼に私は、笑顔を向ける。
ハヤテと付き合っていた頃によく見せていた笑顔。
あの頃は勇者の弟であるハヤテと付き合い、一緒に旅に出るつもりだった。
その旅先でカラトの大切な弟を殺し、傷付いたカラトを慰め少しずつ取り入っていこうと思っていた。
が、盲目の心を取得した事。
更にカラトの心が弱っていたので予定を変更したのだ。
おかげで付き合う気の無かったハヤテと別れる事も出来たし、万々歳。
ここまで聞くと私がろくでもない女に聞こえるかもしれない。
でも考えてみて欲しい。
将来の地位が約束され、金のなる木が目の前にあれば手にしようと動くものだ。
だから私はカラトに近付いた。
勇者の妻となり、勇者の子を生み、将来は優雅に暮らす為に。
苦労せずに生きたい。
楽して生きたい。
その為にまずはハヤテに近付き、彼が好む真面目な女子を演じた。
どんなにめんどくさい事でもやった。
あの頃のアイツは変な所で真面目だったからな。
嫌われないように無理をし続けた。
その結果、全ての段階をすっ飛ばせるスキルを身につける事が出来た。
だから私は、カラトに乗り換えた。
ハヤテからすれば、カラトに私を取られたように感じただろう。
だからなんだ。
私は、私の幸せだけを最優先する。
その邪魔になる物は必要無い。
邪魔をする者は必要無い。
私が歩む道に必要無い。
誰だって邪魔な石はどけるだろう。
それと同じ事。
私の人生にとって必要無い物は全て捨てる。
欲しい物を手に入れる為なら、いくらでも自分を偽るだけだ。
(ったく……いつまでくっついてんだよ)
邪魔だ。邪魔だ邪魔だ邪魔だ、邪魔だ。
どうにかしてアルをカラトから引き離したい。
(いや? さっさと仕事を終えさせて王都に返した方が早いか? )
さっさと追い返してカラトを躾け直す。
それが良い。
では、そうするにはどうするべきかと私が考えている中、カラト達はサザミナにある神殿へと向かう。
「ここの聖装は確か聖槌。ハンマーの形をしているそうですね」
「できるなら聖剣の方が良いんだがな……我が儘も言っていられない」
「そうですね……」
そう言って神殿へと入っていく。
神殿は街を一望できる丘の上に建てられていた。
その中で眠るように静かにその時を待っている聖槌。
台座に剣が斜めに突き刺さるように置かれている聖槌。
身の丈程の巨大なハンマーの形をした聖装が目の前に鎮座している。
重量も相当あるのだろう。
台座にはヒビが入っている。
「結構重たそうだけど行けるかな」
「聖槌が貴方を認めれば簡単に持ち上げられるそうですよ」
「へぇ~……んじゃ、やってみるか」
袖を捲り、聖槌の柄を握るカラト。
私達が見守る中、持ち上げるべく力を込める。
すると聖槌からは雷が迸る。
雷だけじゃなく真っ赤な炎も吹き出し、台座を赤く熱していく。
「っ、グオォォォッ!!」
徐々に持ち上がる聖槌。
それに伴い雷と炎の勢いが増していく。
あまりの熱さにカラトだけでなく、私達全員汗をかいている。
「も、もう少し……で!!」
もう少しで完全に持ち上がる。
その時だった。
なんとカラトは聖槌を台座に戻してしまったのだ。ただ、自分から戻したのではなく重さに耐えきれずに置いてしまったようにも見えた。
「カラトさん!?」
「カラト?」
「っ……こいつ、急に重くなりやがった」
「うーん、どうやら聖槌に嫌われたようですね」
アルの言葉で落ち込むカラト。
「き、きっと相性が悪かったんですよ~」
なんて言いながらエラスが慰めている。
そんな光景を私は冷めた目で見ていた。
(なんだ……勇者って言ってもたいした事無いんじゃん……)
二連続で聖装に拒絶される勇者なんてカッコ悪すぎる。
ハッキリ言って、減点だ。
いや、失望だ。
聖装に選ばれない時点でコイツに価値は無い。
相性の悪い聖装に二連続で出会うなんてよほど運が無いのか、それとも勇者として未熟過ぎるのか。
それに比べてハヤテは素晴らしい。
一発で聖槍を引き抜いた。
カラトとは大違い。
これじゃハヤテが勇者でカラトが愚兄だ。
(もしかして私。とんでもない間違いをしたんじゃ……)
私の願いは勇者と結ばれて楽に暮らす事。
そのためにはまず、勇者が必要だ。
聖装を持たない勇者は必要無い。
必要なのは、聖装に選ばれた勇者だ。
同じ勇者でも聖装が有るか無いかでは雲泥の差がある。
宝石を持つにしても高価な宝石が欲しい。
同じ魔獣を飼うに飼うにしても強い魔獣が良い。
同じ物だったら、格が上の方が良いに決まっている。
だから、私にとって聖装を持たない勇者はいらないのだ。
いや、まだハヤテが勇者と決まったわけでは無い。
それに私も鬼ではない。だから……
夜、私達は宿で休んでいた。
ここではちょうど一人一部屋を取れたので、エラス達は自分の部屋でゆっくり休んでいる事だろう。
そんななか私はカラトの部屋を訪ねていた。
「何で聖装を手に入れられないかな~」
「ご、ごめん……」
「ごめんじゃないの、よ!!」
椅子に座ったカラトの頭を叩く。
が、彼は一応勇者だ。
私がいくら叩いたところでたいしたダメージは入らないだろう。
だから
「いった……なにスキル使ってんのよ!!」
「ご、ごめん……」
カラトに防御強化のスキルを切らせて叩く。
「だから、謝って通る話じゃないのよ!!」
「あうっ……」
そのままカラトを椅子から蹴り落とす。
「アンタさぁ……どれだけアタシが尽くしてやったか、分かってる?」
「あっ、いっ、痛い……」
「当然だろ。髪掴んでんだからよぉ……なぁ、聖装に二度もフラれたダメ勇者~」
髪を掴んで顔を上げさせ、頬をペチペチ叩きながら煽る。
「うっ、うぅ……」
「あらら、本当の事を言われて泣いちゃった~?」
ペチペチペチ、ペチペチペチペチペチペチ……とネチネチと叩き続ける。
「久しぶりに二人っきりになって、ご褒美でも貰えると思った?」
叩きながら尋ねる。
「ほら、しょーじきに言って~?」
「は、はい。思いました」
「ふーん? 愚弟は聖装を手に入れたのに自分は手に入れられず、醜態を晒したくせに私からご褒美が貰えると思ったんだ?」
「は、はい……ご、ごめんなふぐぅっ!?」
「だ~から謝って済む問題じゃねぇって、さっきから言ってんだろうがボケェ!!」
そのまま私は、弓でカラトの胸を突く。
蹲って咳き込むカラト。
その背中や頭を弓で容赦無く叩く。
「このままじゃ私、お前に愛想尽かしてハヤテの事を愛しちゃうよ? アンタを愛するのやめちゃうよ? それでも良いのー?」
「いっ、嫌っ……嫌です!!」
「そっか~。嫌なのか~……でもさ、私には聖装の無いアンタには用が無いのよ」
「そ、そんな!?」
私の言葉を聞いて跳ねるように顔を上げるカラト。
その顔は情け無く、笑いを堪えるので精一杯。
「捨てられたくないの?」
「す、捨てられたくないです!! 捨てないでください!!」
「へぇ~? 私をハヤテから奪ったクズのくせに、捨てられたくないんだ~?」
「あ、あれはお前の方から」
「言い訳すんなよ。私の方から誘ったとしても選んだのはお前だろ。結果、お前は弟から彼女を奪ったんだ。寝取った最低最悪の勇者なんだよ」
「ち、違う。俺は」
「は~……」
カラトの顎を掴んで顔を寄せ、穏やかな口調で子どもに言い聞かせるように言う。
「もう一度言うね? 君は、自分の弟と将来を約束した女を寝取ったクズ勇者なの。クズなの。クズなのよ? 最低よ本当に。クズ……ク~ズ♪」
「ち、ちがっ」
私の言葉を聞いて否定しようとするカラト。
私は、彼が否定するより先にビンタをして黙らせる。
「良い? 事実を認めないとまた痛い目に遭うからね? 良い? もう一度言ってあげるね? クズ勇者の君に分かりやすく言ってあげるから、ちゃ~んと聞くのよ?」
「や、やめ……」
「ビンタ、行く?」
「い、いやだ……」
「そう。じゃあ黙ろうね。カラトはクズだけど単純で扱いやすいから、言うこと聞けるよね?」
「あ、あぁ……」
普通の人ならこの時点で怒り、反抗してくるだろう。
でもカラトにはそれができない。
だって私のスキル、盲目の心によって彼の心は私に縛られており、私のする事が正しいと信じ切っており、依存させているからだ。
「確かに私は誘ったわ。でもね、クズじゃない人だったらその誘いを断るの。断るのよ? それなのに貴方は何をしたかしら? 弟のハヤテと将来を約束した私の体を好きに使ってくれたわよね? 本当、ショックで眠れなかったわ……」
「ぁ……」
「本当に酷い人。それからは当たり前のように私を呼び出して……」
そこから私は、ただひたすらカラトがどれだけ人としてクズなのかを言い聞かせた。
耳を塞ごうとすればそっとその手を離させて言い聞かせ、時に囁いてやる。
勇者として完成する前からご褒美としてじっくりと躾けてきた。
おかげで今では従順な犬になってくれた。
「ねぇカラト。私は貴方のようなクズとは違って優しいからもう一度だけチャンスをあげるわ」
「ち、チャンス……」
「そう。次に見つける聖装。それに選ばれなかったら……分かるね?」
「ぁっ……ぁぁ……」
「分かるね?」
「は、はい……」
「よしよし、良い子良い子。言う事を聞ける良い子は好きだよ……」
「セ、セーラ……」
優しくカラトの頭を撫でてやる。
鞭だけでは犬は言うことを聞かない。
だから、鞭の後には飴もやらねばならない。
「ほらほら。元気出して? カッコいいカラトが台無しだよ?」
「うっ、うぅ……」
「私だって本当はこんな事したくないんだよ? でもね、こうしないとカラトがシャキッとしないから、心を鬼にしてやっているの……本当は辛いの……」
「本当にごめんよ……」
「ううん。私こそ辛い事言ってごめんね? ……本当に愛しているのはカラトだけだから、ね?」
「うん……ありがとう、セーラ」
そう言って私を抱きしめるカラト。
それに応じて私も抱きしめ返す。
これでしばらくはカラトも言う事をきくだろう。
あとはアルとかいう騎士だ。
目障りなアイツをどう始末するか。
その方法を考える私の顔が目の前の窓ガラスにたまたま映る。
その顔は私らしいとても、とても純粋な笑顔だった。
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