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20話〜親との繋がり〜

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「そうか……見張りがつく事になったか」
「あぁ。まぁこれで少しはおとなしくなると良いんだけどな」
「にしてもバカの居場所ってすぐ分かるの?」
「分かるはずだぞ。仮にもアイツは勇者だからな。いざという時に協力要請がしやすい様に、街に来たらまずその街の集会場に行く事になっているらしいからな。それを怠っていなければすぐに分かるはずだ」
「へぇ~……そんな決まりがあるんだ」
「ま、ちゃんとやっていればの話だがな」
「あのアニキの事だからなぁ……不安だな」
「……だな」
「あ~でもセーラってさ、そういうのサボって後で文句言われるの嫌いだったから報告はしているんじゃないかな」
「そうなのか……まぁ見張りがついてくれるのなら良いのだがな」
「そうだな……おとなしくしてくれれば良いんだけど」
「……主、何か心配事でもあるのか?」
「心配事っていうか、そ」
「たっだいまー!!」

 俺の言葉を遮るように部屋に戻ってきたのはユミナ。

「出来上がったのか」
「うん!! 今リョーシュさんから貰ってきたんだ」

 そう言うユミナの服装はいつもとは違う。
 カッパのように体をすっぽり覆う毛皮の上着を着ている。
 袖もモコモコ、フードもモコモコ。
 全部モコモコで温かそうだ。

「ユミナ、それって」
「うん。ウルとルフのお母さん。使わせてもらったの」
「ウル達の反応は?」
「なんか、少し嬉しそうだった」
「……そっか」

 ウルとルフの母親だったレイブウルフ。
 討伐したは良いがその遺体をどうするか迷っていた時にユミナがそれを素材に防具を作りたいと言ったのだ。

 それを請け負ってくれたのが村で加工屋を営んでいるリョーシュというエルフだった。
 このリョーシュ、めちゃくちゃ有能で農具の改良はもちろん、水車を応用し梯子を使って楽に上の階に移動できる器具を発明したり、歯車を使い楕円形の鉄の刃を回して木を楽に伐採できる器具を発明したりしている。
 付けられたあだ名は発明王リョーシュ。

 このあだ名は村の中だけでなく王都にも伝わっており、戦いで腕や足を失った騎士のために義手や義足を作っていたりする。

 しかもその義手と義足は実際の腕や足のように指を動かせる。リョーシュが言うには知覚魔法の応用らしい。

 そんな彼にユミナはレイブウルフの素材を持っていったのだ。
 そして完成したのが今ユミナが着ている上着。
 名は覆狼ふくろうの狩人。

 装着する事で発動するスキルに霧纏いという素材元が持っていた霧隠れに似た効果を持っている。
 その効果は魔力による霧を生成する所は同じなのだが、霧隠れが相手に視覚阻害の状態異常を付与したのに対し、霧纏いはそれに加えて消音状態を自らに付与する。

 更に嗅覚と聴覚の強化。
 加えてジョブプラスのおまけ付きだ。

 ユミナはよく親と狩りに出かけており、弓による攻撃を得意としていた。
 その結果彼女は弓使いの中の狙撃手のジョブを持っている。
 ちなみに俺は剣士の中の槍使い、ロウエンは二刀使い、ミナモは回復寄りの万能系術使いとなっている。

 そんなユミナがその覆狼の狩人を身につける事で、捕食者のジョブが追加される。
 この捕食者、かなりの高ランクジョブとなっており、普通はマスター出来ないジョブとなっている。

 保有する条件も厳しく、ハンターというジョブの者が同じ種族のハンター同士と戦い、戦って戦って戦い抜いた結果、ハンターが昇華したものが捕食者なのだ。

 その捕食者というジョブは持っているだけでプレッシャーという敵対する者に精神的重圧を与えるスキルが発動する。

 この精神的重圧には相手の魔法やスキルの発動阻害効果があるため非常に強力だ。
 しかもいるだけで発動している事もあり、探知能力が高い相手がユミナの気配を察知しただけでその重圧に襲われる。

 それでいてユミナにはこれと言ったデメリットは無いのだ。
 デメリットがあるとしたら、この状態のユミナと喧嘩したら俺達が不利になるぐらいだ。
 あとはそのプレッシャーを跳ね除ける事ができる者には効果が無く、それでいてあの辺りにプレッシャーを放つ者がいるなとバレてしまうぐらいだろうか。

「あとね、これも作ってもらったの」
「それは、母親の牙か?」
「うん……」

 ユミナが首から下げているのは母狼の牙で作られたネックレスだ。
 それには母の慈愛というスキルが入っているのだが、この場にいる誰もそのスキルがどういうものなのかは分からなかった。

「でも、きっと悪いスキルじゃ無いと思うよ」
「根拠は?」
「……だって、お母さんだから」
「……理解できないな。ま、お前が良いのなら良いと思うがな」
「ロウエンにもその内分かるよ」
「……だと良いんだがな」

 そう言って微笑むロウエン。
 だけどその笑顔はどこか疲れた感じに見えた気がした。





「支度は整いました」
「そうか。寂しくなるな」
「大丈夫ですよ。私の後任も優秀ですので」
「ふん」

 王城の一室。ローザの部屋を訪ね、出立前の挨拶をするアル。
 先端に行くに連れて橙色になっていく赤い髪の青年。

「今日は髪が見えるな」
「最後ぐらい兜は取りますよ」
「そうか……」
「調査報告はなるべくこまめに送らせていただきます」
「うむ。頼む」
「それと……」
「分かっておる。もしもお前に何かあった時は嫁と子を頼むと言うのだろう?」
「……はい」
「全く。親になる者がそんな心持ちでどうする」
「申し訳ありません」
「……まぁ、出来る限りはする。だが、あまり期待はするなよ。国の金を一個人の為には使えん。それが例え、私の金でもな」
「……」
「だから、ちゃんと守りたかったら這ってでも、それこそ死んでも帰って来い」
「……ローザ様?」
「お前の嫁と子を守れるのはお前だけだ。どうしても守りたいのなら、必ず帰って来い。良いな?」
「……はい!!」
「良い返事だ」

 その言葉を聞いて笑う両者。

「そうだ。これを持っていけ」
「……これは?」
「お守りだ。肌身離さず、常に持っていろ。良いな?」
「ハッ!!」

 ローザから人の形をした紙人形を受け取るアル。

「それと何かあった時、救援が欲しい時はウインドウッド村にいるハヤテという者に文を出せ。力になってくれるはずだ」
「ウインドウッド村のハヤテですね……」
「そうだ。彼なら、彼等なら力になってくれる」
「断言するなんて、余程信頼しているのですね」
「あぁ。彼のパーティーにはあのロウエンがいるからな」
「……先生が!?」
「先生? ……あぁ、そういえばお前はロウエンに剣を習っていたな」
「はい。先生のおかげでここまで強くなれました」
「じゃあ、その先生の為にも生きて帰って来い」
「はい」
「勇者一行は確か」
「はい。サザミナへと向かっていると聞きました」
「そうか。馬を飛ばせば彼等がサザミナへ入る前に追いつけるな」
「おそらく」

 サザミナ。
 聖装の一つである聖槌がある、海に面した都市。

「なるべく早く帰れると良いのですがね」
「……そうだな」
「……大丈夫ですよ。母は強しと同じく、父も強しですから」
「そうだな」
「……では、そろそら行きます」
「あぁ。行って来い」

 最後に一礼して部屋を出るアル。
 命令だからすぐに王都を発つ。
 出来る事なら妻に一言言ってから行きたい。
 でもそんな時間は無い。
 だが良いだろう。
 どうせ帰って来るのだから。
 帰って来てからゆっくり語ろう。
 時間はたくさんあるのだから。

 そう思っていた。
 そう信じていた。
 そう疑わなかった。
 その日がすぐ来ると、彼女もまた疑っていなかった……





「ふぅ~。今日も晴れて良かった~」

 庭に出ると空を見上げる一人の女性。
 栗色の髪の大人の女性。
 名前はステラという。
 その足元には洗濯物の入った籠。
 そして何より、彼女のお腹は大きい。

「お、奥様~。私がやります~う」

 その女性のもとにパタパタと走りながらやって来るのは家政婦の女性。
 名前はヘレナ。
 垂れ目に加えてのんびり口調なのも合わさってほんわかした子に見える。

「あら、良いのよ。今日は調子良いから」
「でもでも~」
「それに、この子もお日様にあたりたいって言っているしね」
「うーむ。じゃあ一緒に干しましょー」
「そうね。そうしましょうか」

 そう言って家政婦の女性と洗濯物を干し始める女性。

「旦那様、早く帰って来ると良いですね~」
「そうね。でも騎士の仕事は忙しいしね……大丈夫よ。あの人も私と同じように親になるのだから。待っていれば帰ってくるわよ」
「……そういうものですか?」
「そうよ。だから、私があの人が帰ってくる所を守らないとね。この子のためにも、ね」
「そうですね~」

 二人はそのまま洗濯物を干す。

「そういえば奥様~。赤ちゃんの名前は決まったのですか~?」
「うーん。一応候補はあるわよ? でもアルとちゃんと話して決めたいから」
「なるほど~」

 ニコニコと笑いながら話す二人。
 その光景はとても穏やかだった。
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