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15話〜私のやりたい事〜

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 エンシは今迷い、考えながら王城の中を歩いていた。

 アビスドランを倒した後にあった騒動。
 ジンバの友、ラギルの裏切り。
 ラギルの狙いが私だった事。

 そのせいでとある少年にあらぬ疑いがかけられてしまった。
 その少年は、周りが私の事をどう見ていても関係無い。
 私は私だと言ってくれた。
 その言葉でどれだけ救われた事か。

 アビスドラン戦では彼の状態付与スキルのおかげで勝てたと言っても過言では無い。
 その彼を私のせいで危険な目に遭わせてしまった。

(何かお詫びをできないだろうか……)

 だが私に何ができる。
 私は騎士だ。
 幼い頃より戦う事だけを教え込まれてきた。
 戦う事しか知らず、時が来れば家の為にどこかの貴族か騎士の家の男と結婚させられる。
 そう思っていた。

 だが今はやりたい事がある。
 少年に恩を返したい。
 受けた恩は返したい。

(だが何をすれば……)

 何をしたら良いか分からない。
 何をすれば彼は喜ぶだろうか。
 まずそこからが分からない。

(猪を狩って持って行くか?)

 彼のパーティーには飛竜がいる。
 きっと食費はかかるだろう。

(……いやいや違うだろ。確かに喜ばれるとは思うが違うだろ)

 では何が喜ばれるか。
 彼は何を貰えば喜ぶだろうか。

(宝石、アイテム、家……うーむ)

 どれもしっくりこない。
 プレゼントした場合、彼は受け取ってくれるだろう。
 だが果たして本当に彼が望む物だろうか。
 そう考えると不安になってくる。

「はぁ~……」
「どうしたエンシ」
「ほひゃっ!? じ、ジンバ!! ……殿」
「何やら悩んでいるようだがどうした?」
「い、いや……その」

 何でもない、と言ってもしつこく聞いてきそうなので何を悩んでいたのかと正直に話した。

「何だ。そんな事か」
「そんな事って……これでも私は真剣に」
「分かっておる分かっておる。あの少年、ハヤテと言ったな」
「はい」
「そやつに恩を返したいと」
「……その通りです」
「なら、側に行くのが手っ取り早いな」
「えっ……」
「何を驚いでいる。何を渡せば分からぬのなら聞きに行けば良い」
「ですが私には騎士としての役目が」
「それが枷になっているのならその任を解こう」
「はい!?」
「お前の父と私が友人なのは知っているな?」
「は、はい……」
「その父から言われているのだ。出来る限り力になってやってくれとなる。今が、その時ではないか?」
「で、ですが……」

 私の、一個人のわがままの為に騎士の任を解いてもらって良いものだろうか。

「勘違いするな。騎士としてのお前の代わりなんぞ幾らでもいる」
「っ!?」

 その言葉に私はショックを受ける。
 私は騎士としての職務に私なりに責任を持って向き合ってきた。
 だがそんな私の代わりは幾らでもいると言われたのだ。

「だがな、お前のその気持ちを伝えられる者は代えが効かん。分かるな? エンシ」
「ジンバ……」

 直後に私の背を押すように話す。

「行け。お前も世界を知って来い。城の中の世界、騎士の世界以外も見て来ると良い」
「世界を……」
「あの少年、ハヤテならお前にいろんな世界を見せてくれると思うぞ」
「……失礼する」
「どこへ行く?」
「我が王のもとへ。話をして来る」
「……上手く行くさ。きっとな」
「……ジンバ」
「なんだ?」
「……ありがとう」
「……行け」

 そのまま私は城の主人ウゼルの元へと向かう。
 騎士を辞めさせてもらう事。
 おそらくすんなりとはいかないだろうが、根気よく説得すればきっと……



「ん? 騎士を辞める? 分かった」
「え?」

 すんなり了承された。

「え、あの……良いのですか?」
「うん、良いよ。むしろ今までよく仕えてくれたね。ありがとう」
「は、はぁ……」
「しっかりね」
「ありがとうございます」
「……っと、そうだ。これを」
「これは?」

 ウゼル様は何かが入った袋を私に渡す。

「少ないかもしれないから受け取っておくれ」
「こ、これは!!」

 その袋に入っていたのは金だ。
 金貨が10枚も入っている。

「こ、こんなに受け取れません!!」

 当然受け取る訳にはいかない。
 そう思い返そうとするが

「退職金だと思ってくれ」
「ですが……」
「さぁて、自分の仕事に戻るとするかな」
「う、ウゼル様!!」
「エンシ」
「っ。な、なんでしょうか……」
「辛くなったら、辛い時はここにおいで。誰と一緒でも温かいスープぐらいは出させるよ」
「……ありがとうございます!!」

 ウゼル様の言葉を噛みしめるように頭を下げる。

 ウゼル様のスープ。
 それは彼がまだ幼い頃、母上様の誕生日に何かお祝いをしたいといって私が作るのを手伝った物。
 それ以来、彼の中ではお祝いの時にはそのスープを出すのがルールになっていた。
 もちろん、ウゼル様の手作りでだ。

 その言葉に感謝しつつ私は部屋を出る。そのまま自分の部屋に向かい旅の支度をする。

 と言っても荷物はそんなに無い。
 着替えに野営用のテント。
 馬の餌に自分用の保存食を魔術袋に入れていく。
 この魔術袋は一般的に売られている魔法袋よりも収納量が増えている。

 またこの袋には収納した物に自動的に保存魔法がかけられる為食糧が腐る事は無い。
 遠征する騎士の為に作られた事もあり、一般には流通していない逸品だ。

 必要な物を詰めた魔術袋を持ち、厩舎きゅうしゃで愛馬のウェイブを連れて城を出る。

 向かう先は王都の集会場。
 まだいるかは分からぬが、情報ぐらいは掴めるだろう。
 そう思い集会場へ向かった私が掴んだ情報は、彼等は南にある水の都アクエリウスへと向かったという話。
 それに聞いた私は受付嬢に礼を述べ、馬を走らせる。



 アクエリウスへ着くまで二日程かかったが、たいした障害にぶつかる事なく無事辿り着けたのは幸いだ。
 ただこれにはカラクリがあり、ウェイブが持つスキルのおかげでウェイブよりレベルが下の魔物と出会いにくくなっているのだ。

 そう、このウェイブ。
 実はただの馬ではなく、リバーホースという名の魔獣の一種なのだ。

 このリバーホース。
 主に川辺に住んでおり水の上を走れる種族なのだ。
 ただ水の上を走れるのであって、水の上には立ち続ける事はできない。
 ちょっと残念で可愛い種族なのだ。

 そのウェイブを走らせ、アクエリウスに着いたのは夕暮れ時。
 町長であるメーアさん宅を訪れた私はすぐに日も暮れるし、ウェイブも休ませた方が良いとメーアさんに言われそのままメーアさんの家に泊まる事となった。

「急にすみません。ご飯までいただいてしまって」
「良いんですよ。勇者様達もまだいますし、一人増えたところで変わりませんよ」
「……勇者?」
「はい。勇者のカラト様が先の戦いの傷を癒しているのですよ」

 勇者カラトの名は知っている。
 王国領内のカザミ村出身で勇者。
 ただ、勇者というのが判明したのが隣の帝都だった為、帝国の勇者という事になっている。
 ちょっと複雑な立ち位置にいる。

「そうなのですか……」
「おぉ、そう言えばその時の戦いで聖剣が抜かれましてね」
「聖剣が!?」
「はい」
「勇者がですか?」
「はい。と言っても、貴女が思う勇者では無いのですが」
「え、勇者のカラトさんが抜いた訳では無いのですか?」
「はい。ハヤテという名の、アクエリウスを救った我等の勇者が抜きました」
「彼が……」

 その事実に私は驚きを隠せない。
 今までの歴史の中で、勇者だけではなく勇者パーティーのメンバーが聖装を手にした事は何度もある。
 文献にもそう残されている。
 いやそこでは無い。

「ハヤテが勇者って……」
「はい。ここを襲った魔族を退けてくれたのです」
「な、成程……え、カラトさんは」
「見事に敗れました……」
「えぇ……」

 大丈夫か勇者よ。
 聖槍を抜けなかったうえに魔族に負けるなんて……

(単に相性が悪かったのか?)

 その可能性は十分にある。

「そんな中ハヤテさんは聖剣を抜き、お仲間さんと共に魔族の長を退けたのですよ!!」
「は、はぁ……」

 熱く語る町長。
 それに思わず引き気味になってしまうが、相手は気付く様子も無く話し続ける。
 解放されたのは町長の奥さんがお風呂が沸いたと呼びに来た時だった。

「ごめんなさいね。お父さん、ハヤテさんに凄く感謝しているから」
「あ、いえ……私は別に」

 と、私がお風呂に入る際に奥さんが言っていた。
 分かる。

 話し方から子どもが自分の好きな物や憧れている者について話している姿に似ていた。
 活き活きとしていという表現が適切だろうか。

「そんなに凄くなっていたか……」

 奥さんの好意に甘え、お風呂をいただく。
 浴室は半露天になっており、星が美しく輝く夜空が見える。

 温度はちょうど良く心地良い。
 王都を出てからアクエリウスに来るまで風呂に入る事ができなかった。

 まぁ野営の時に浄化魔法で身体の汚れを落としていたので臭ったりはしなかったが、やはり風呂に入るとスッキリする。

「はぁ~……本当に感謝だな」

 自然とそんな言葉が出てしまう。
 と、そんな時だった。脱衣所と浴室を隔てている入り口のドアが急に開けられ、誰かが入ってくる。
 誰だろうと思い、その方を見てみると

「おやおや、先客がいたか」
「勇者、様?」

 勇者のカラトさんが立っていた。
 それも、言葉とは反対に堂々とした様子でだ。

「な、何か用でしょうか」
「いやいや。風呂が沸いていたみたいでね。入らせてもらったんだよ」
「私の着替えがあったと思いますが」
「それはすまない。俺の連れの物かと思ってな」

 嘘だ。
 態度からそう分かる。
 しかも謝りつつ近付いて来るや自然と浴槽に入り、私の隣に座る。

「何か?」
「いやいや、せっかくだからね。仲良くなりたくてさ」

 そう言いながら私に微笑むカラトさん。
 だがその目は私では無く、私の胸を見ている。
 初めはチラ見程度だったが、今では普通に見ている。
 ハッキリ言って不快だ。
 そう思う片腕で胸を隠すようにし、横にズレて距離を取る。

「ハハハッ。すまないすまない。そんなに嫌わないでくれよ」

 そう言って近付くカラト。

「こ、来ないで下さい」
「良いじゃないか。これから仲良くするんだし?」
「言っている意味が分かりません」
「そうかそうか。じゃあゆっくり話し合うとしようじゃないか」
「ちょっ、やめっ……」

 そのまま彼は何と私の前に移動するやその両手で私の両肩を掴み押さえ付けたのだ。

「な、何のつもりですか!!」
「騒ぐなって。静かにするなら優しく説得してやるからよ」
「私にそのつもりはありません!!」
「ちっ……じゃあ予定変更だ。ここで」
「やめろ!!」
「うぐっ!? ……おっ!?」
「失礼する!!」
「あっ、ま……待てっ……くうぅっ」

 身の危険を察知した私の渾身の膝蹴りを股間に受け両手で股間を覆うカラト。
 私は彼が手を離した隙に浴槽から出てそのまま脱衣所へ。
 乾燥の魔法で体表の滴を吹き飛ばし、服を着て脱衣所を出る。

 私が脱衣所を出るまでカラトの呻き声が微かに聞こえていた。

「あらあら、もう良いのですか? ちゃんと温まりましたか?」
「はい。おかげさまで。ありがとうございます」
「い~え~」

 途中奥さんと出会ったがカラトの事は知らなかった様だ。
 そのまま奥さんと別れ、貸してくれた部屋に入る。

 中はベッドと机とタンスがある。
 明日にはもう発つ予定なので、豪華な気がする。
 荷物を置けて寝れればそれで良かったのだが、ありがたいものだ。

「ウェイブはちゃんと寝ているだろうか……」

 アイツは環境が変わると寝付きが悪くなるから大丈夫だろうかと心配をしていると不意にドアがノックされた。

「はーい」

 返事をしてみるが反応は無い。
 誰だろうか、と思いドアへと向かう。
 町長さんや奥さん、会ってはいないが息子さんなら返事をするだろう。

 となると残りは勇者カラトかその仲間だろう。
 警戒しつつドアを開ける。

「や、やぁ。さっきはごめんよ」

 案の定そこにいたのはカラトだった。

「何の用ですか」
「いや……さっきはカッとなっちゃってさ。君を傷付けてしまった事を謝りたくてね」
「……そうですか」
「あぁ待って待って。話があるんだ……その、良いかな?」
「……身に危険を感じたら叫びますからね」
「分かった分かった。じゃあ、失礼しますよっと」

 いくら勇者と言えどここまで言っておけば手は出さないだろう。
 そう、その時の私は思っていた。

「俺は、君にパーティーに入って欲しいんだよね」

 椅子に座るなり彼はそんな事を言ってきた。

「どうだろうか。君にとって悪い話では無いと思うんだけど」
「それはどう言う意味でしょうか」
「君は騎士だろう? 当然家の名を上げたいはずだ。なら勇者である僕と共に旅をして魔族を、最終的には共に魔王を倒したとなればその名は世界に轟く事になるんじゃないかな?」
(……なるほど。そう来たか)

 私も騎士の家の子。
 当然私の名を、家の名を有名にしたいとは思う。
 だが、それを使って迫るのは気に入らない。

「どうだろうか? もし君さえ良ければ、僕の正妻として迎えても良いと考えているよ」

 私が答えに迷っていると思ったのか。
 彼は続ける。
 私の目の前に出した餌は正妻の名。

 確かに美味しい話だ。
 ただ私の旅の目的が決まっておらず、また先程の風呂場での一件さえ無ければ考えただろう。

 だが今の私にはそんな事を言われて考えを改めるつもりは無い。
 乙女の柔肌を断りも無く見た罪は重大なのだ。

 そんな私がまだ考えているのだろうと思っているのか。
 カラトは黙って私の身体を、爪先から頭のてっぺんまでを舐め回すように見ながら待っている。
 男として本能に忠実なのだろう。
 全く、呆れて何も言えん。
 が、答えを言わない訳にもいかない。

「その話だが、断らせてもらう」
「なっ!?」

 私の答えを聞き、驚いたのだろう。
 目を見開くカラト。

「ど、どうして……」
「すまないな。そう言う事だから部屋から出て行って……」
「ふ、ふざけるな……認められるか!!」
「なっ!? ぐっ!!」

 なんと彼は私の首を掴み、そのままベッドに押し倒す。
 叫んで助けを呼ばなくては。
 そう思った時だった。

「ガッ!?」

 喉にビリッと言う痛みが走る。
 途端に私は声が出せなくなってしまった。

「へへっ、驚いただろ。これで助けは呼べまい」

 そういうと彼は私の首から手を離しすと私が着ている寝巻きに手を伸ばし始める。

「にしてもスゲェな。セーラよりもデケェなんてよ……こりゃ楽しめそうだ」

 勇者がするべきで無い、醜い笑みを浮かべながら手を伸ばすカラト。
 最悪の光景を想像した。
 その時だった。

「ブヒヒヒィィィィン!! ブルルルッ!! ヒヒィィィィン!!」

 外から馬の激しい鳴き声が聞こえたのだ。
 更に部屋のドアが叩かれる。

「エンシ様エンシ様。貴女の馬が」

 鳴いているのは私のウェイブのようだ。

「エンシ様!?」
「……ちっ」

 私が部屋にいるのは分かっているのだ。
 このまま返事をしなければ部屋の鍵を開けて入って来るだろう。

 カラトもそう思ったのか舌打ちをすると私にかけた声を奪う術を解く。

「……」
「すまないな。何をされても、私は貴方のパーティーに加わる事は無い」
「っ……」
「貴方といても、魅力が無いからな」
「!!」

 それだけ言って私はさっさと部屋を出て行き、町長さんの話を聞いてウェイブの元へと向かった。

 ただ不思議な事にウェイブは私が来るや鳴き止み、もう大丈夫だろうと部屋に戻ろうとするとまた鳴き出した為、私は朝を迎えまでウェイブの側で過ごす事となった。



 翌朝、私は町長さん達に礼を述べる。

「昨晩はウェイブがお騒がせしました」
「いえいえ。今までの環境と違ったから彼も不安だったのでしょう。気にしてはいませんよ」
「そうですか。そう言って頂けるとありがたいです」
「彼も悪気があった訳じゃありませんからね」
「ははは……あ、そうだ。メーアさん」
「はい?」
「ハヤテ達がどこに向かったか分かりますか?」
「ハヤテ様達が、ですか?」
「はい」
「うーむ……行き先は知りませんがあっちの方角に行きましたよ」
「あっちにですか……ありがとうございます。行くぞウェイブ」
「ヒヒンッ」
「では、失礼します」
「はい、お気を付けて」

 そう言って私はアクエリウスを発った。

 結局あの後カラトとは二度と会う事は無く、危害を加えられる事も無くて良かったと心底思うと同時にあの時にウェイブが鳴いてくれて良かったと思う。

 そのまま私はメーアさんが教えてくれた方角へウェイブを走らせる。
 しばらく行くと道が二股に分かれており、そこでウェイブを止めてから探査用の魔法を発動させる。

 この魔法に必要なのは探す相手の姿。
 うろ覚えだがハヤテの姿を思い浮かべる。
 槍を持った長髪の青年。
 緑の髪を頭の後ろで束ねている。

 イメージするのが終わると私の目の前に青い光の魚が現れ、宙を泳ぎ出す。
 それをウェイブに乗って追う。
 この魚が辿り着く先に彼はいるのだろう。

(にしても、まさかあれが勇者とはな……)

 ハッキリ言って失望だ。
 いったいどんな親に育てられたらあんな子になるのだろうか。
 まるで勇者である事を使えば何でも許されるとでも思っているようだった。

 だがそんな彼とも別れたのだ。
 もう忘れよう。
 私は騎士。
 今こうしているのもかつての恩をハヤテに返す為だ。

「さぁ、どこにいるかな」

 魚を追いかけ、私はウェイブを走らせた。



「ここか……」

 魚が私を連れて来たのはエルフの村であるウインドウッド村。
 そこに私を連れて来るや魚は光の粒子となり、溶けるように消えていった。

「貴方誰? ……また旅人さん?」

 そんな私にかけられる声。
 声の主はエルフの女性。
 サラサラのブロンドに宝石のように透き通った水色の瞳。
 エルフにしては少し控えめな胸の女性だ。

「あ、あぁ。ここに知り合いがいるみたいでな」
「どうした? 姉さん」
「あら、この方どうやら知り合いがいるみたいなの」

 エルフの女性のもとに来たのは弟と思われるエルフの青年。
 東方の国にいた者がルーツであるジョブであるシノビなのだろうか、口元をマスクで隠している。

「知り合い?」
「あ、あぁ。ハヤテと言うのだが……」
「ハヤテ……あぁ、知っているよ。案内してやるよ」
「そうか。ありがとう」
「じゃあ姉さん。行くよ」
「うん、じゃあお願いね。フウマ」

 フウマという名の青年に連れられて歩く。
 歩くと言ってもすぐだった。
 連れて来られたのは立派なツリーハウス。
 その家の玄関の前に私が探している人はいた。

「あ、いたいた。村長~」

 どうやら村長もいたらしく、フウマは村長を呼びつつ手を振りながら歩く。

「おっ、どうしたフウマ」
「いやね、そこのハヤテさんに会いたいって人が来てさ」
「ハヤテさんに?」
「あぁ。んじゃ、俺はこれで」
「あぁ、ご苦労さん」
「どうも……って、あなた」

 フウマと別れ、ハヤテと再会する。
 やっと会えた。
 私が王都を発った理由。
 恩を返す相手。
 その彼は私を見るや驚いている。
 そんな彼に向けて私は呼ぶ。

「久しぶりだね。ハヤテ」
「エンシさん!?」

 私に帰って来た言葉には彼の驚きが込められていた。
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