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12話〜水の都〜

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「お、見えて来たな」
「マジか!!」
「やったー!!」
「あ、おい。走るなって」
「こらー。ロウエンさんを困らせないのー」
「ギャーウ!!」

 俺達の目に飛び込んできた光景に俺とミナモは思わず走り出す。
 その背後をやれやれといった様子で歩くロウエンとユミナ。
 俺達の目に飛び込んできたのは目的である水の都・アクエリウスの街並みだった。



「綺麗な所ね」
「あぁ。風も気持ち良いな」
「前に来た時と変わらないな」
「これが海の風……」
「キュルル」

 白いレンガで作られた建物。
 道は石畳で舗装されている。
 海に面しているからか市場で売っている物は海産物が中心となっている。

 海と山に挟まれた所にあり、街中に水路が張り巡らされた様子から水の都と名付けられた都市アクエリウス。
 この水路だが、上から見ると模様を描く様に街中に張り巡らせれている。

「でもこの祭りって何の祭りなの?」
「あぁそうか。説明がまだだったな。この祭りは水宮祭と言ってな。水に感謝する祭りなんだ」
「水に? 海にじゃないの?」
「……ふっ。ユミナ、良い質問だな」
「え、そう?」

 ユミナの言葉に一度頷くとロウエンは山を指さす。

「あの山から流れて来る川の行き先はどこか分かるか?」
「え……どこって……」
「海?」
「ミナモ、正解だ」
「え、それとこのお祭り何か関係があるの?」
「大有りだ。山から流れて来た川は土の中の栄養を蓄え、海へと流れ着き魚達を育てる。それをここの人達は食べて生きている。立派に繋がっているだろう?」
「あ、確かに!!」
「それに、山の方にある畑の作物や果実を育てるのにも川の水が使われている。海だけではこの街は成り立たないんだ」
「だから水に感謝なのか……」
「そう言う事だ。分かったか?」
「おう」
「ロウエンさんって物知りなんですね」
「伊達にお前達より長生きしていないからな。それなりに知識はあるつもりだ」

 と返しつつフフンとどこか得意気に笑うロウエン。

「ま、そんな事より私はね!! 初の海産物グルメを食べたいわけよ!!」
「まずは宿探しだろ」
「ぐっ……じ、じゃあ荷物を置いたら」
「分かった分かったって……つか俺はお前達の保護者かよ」
「え、違うの?」
「ちげぇよ!?」
「あ、ロウエンの驚いた顔初めて見たかも」
「主まで……まぁ、しばらく気を張っていたし、良いか」

 呆れながらそう言うロウエンだが、その顔は笑っていた。

「さて、まずは宿だが……」
「あれ、お前さん……」
「ん?」

 背後からかけられた声に思わず振り返るロウエン。
 そこにいるのは50代半ば程の男性だ。
 ただロウエンの事を知っている様な話し方だ。

「忘れたか? 俺だよ……」
「……あれ、どこかで見た覚えが」
「小さい頃遊んでもらったじゃないですか。ほら」
「小さい頃遊んでやった……まさかお前、ヤナギか?」
「はい!! この街の町長の息子のヤナギです!!」
「本当か。いやぁ……デカくなったな」

 どうやらロウエンの知り合いらしいが、どう見てもロウエンの方が若く見える。
 つかロウエンって歳幾つなんだろうか。
 後で聞いてみるか。と思っていると

「あ、そうだヤナギ。俺達今宿を探しているんだが、良い宿知らないか?」
「宿、ですか?」
「あぁ。無いか?」
「うーん……でしたら我が家に来ますか? 父も喜ぶと思いますし」
「良いのか?」
「はい。お客さんが増えるのはいつもの事ですし」
「先客がいるのか……聞いておいてなんだが、迷惑じゃ無いか?」
「平気ですよ。部屋はたくさんありますし、父も母も賑やかな方が喜びますからね」
「そ、そうか……」
「ではこちらです。と言ってもすぐですけどね」

 そう言って家に先導するヤナギ。
 良いのだろうかと不安に思いつつ、俺達は彼について行った。



「ただいま父さん」
「お帰りヤナギ」
「遅かったな……ん? お客さんか?」
「そうなんだけど聞いてよ父さん。街で誰と会ったと思う?」
「ん? 誰って……!! その顔、まさかロウエンか?」
「お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。メーアさん、ランさん」

 俺達を出迎えてくれた二人の老人。
 ヤナギの父親のメーアさんと母親のランさん。
 二人とも80歳を超えているらしいのだが、若く見える。

「あら、そちらの方は?」
「今の俺の仲間です」
「ハヤテです」
「ミナモと言います」
「ユミナです。この子はフーちゃんです」
「クルルッ」
「あらあら、飛竜の子もいるのねぇ。賑やかになるわ~」

 驚いた事にこの二人、フーを見て驚かない所か受け入れている。

「ふふ。長年生きていればね、竜の子を見ても驚かなくなるのよ」
「人生生きていればもっと驚く事もあるからの」
「そ、そうですか……」
「貴方もきっと、そうなるわ」
「にしても今日はお客さんがたくさんだな」
「そうね。ご飯はたっくさん作らなきゃ!! 腕が鳴るわ!!」

 そう言って気合を入れる様に袖をまくるランさん。するとその時

「どうかしたのか爺さん。なんか賑やかだけどよ」

 と二階から誰かが降りて来た。

「これはこれは勇者様。新しいお客が来ましては」
「へぇ……って」

 その降りて来た誰は俺の顔を見て固まる。
 なんせメーアさんの言う勇者というのは俺の兄貴だったからだ。

「おや、お知り合いですか?」
「あ、えっと……」
「いえ、知らない人です」
「主?」
「そうだろ? 初めまして。ハヤテと言います」
「え、あ……あぁ。俺はカラトだ。よろしく」

 初対面らしく俺はカラトに右手を差し出す。

 彼もそれに応じ、握手を交わす俺達。
 俺は笑顔で。相手はぎこちない笑顔で。

 俺の言葉に驚いたのだろう。
 だがそんな事知った事か。
 お前は俺を捨てたのだ。

 ならば、俺がお前との全ての繋がりを捨てても問題は無いだろう。

「にしても凄いな。勇者なんてこの世界の希望じゃないか」
「い、いや……そう、かな……」
「そうだよ。まぁ、魔王退治頑張れよ」
「そうだ。この後勇者様を海上神殿に案内するのだけど、ハヤテさん達も一緒にどうですか?」
「え、良いんですか?」
「えぇ、えぇ。是非とも」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「じゃあ私はその間にご飯の支度をしておくとしましょう。あ、ハヤテさん達は三階の部屋を使って下さいね」
「はい。ありがとうございます」

 ランさんに言われ、三回の部屋に荷物を置きメーアさんに連れられて海上神殿へと向かう。



 連れられて来た海上神殿は文字通り海の上にある神殿。
 陸から繋がる橋で来るのだが、その神殿は純白の大理石で作られており、とても神聖な雰囲気を漂わせている。

「すげぇ……」
「ここに聖剣が……」
「……なぁロウエン。聖剣って何だ?」
「聖装の一つで、文字通り聖なる剣だ」
「へぇ~。一つって事は他にもあるんだ?」
「あぁ。確認されただけで聖剣、聖槍、聖弓、聖じょう、聖べん、聖つち、聖鎧の七つがある」
「そんなにあるのか……」
「あぁ。聖装に選ばれるのは一握りだけどな」
「まぁ、勇者じゃなけりゃ無理だろうし……」
「いや、勇者だから聖剣を抜けるとは限らん。勇者でも聖剣ではなく聖杖を使った者もいるし、聖鎧でひたすら仲間を守り続けた勇者も過去にはいたと聞く。勇者じゃない、パーティーのメンバーが聖弓を扱ったという記録もある。勇者だから聖装を扱えるとは限らないんだ」
「へぇ~」
「さぁさ皆さん、こちらですよ~」

 神殿の戸を開けたメーアさんに呼ばれ、中に入る俺達。
 その中に入って俺達は思わず息を飲んだ。

「あれが……」
「はい、聖剣でございます」

 神殿の中心にある台座に突き刺さった聖剣。
 それは天井に空いた穴から差し込む月光によって照らされていた。
 のだが……

「お、おい爺さん。あれが聖剣だって言うのか?」
「はい。アクエリウスに伝わる聖剣でございます」
「い、いや……あれは剣と言うより、槍だろ」

 そう。
 突き刺さっていたのは聖剣というよりは聖槍と呼ぶのが相応しい代物だったのだ。

「いえいえ、聖剣ですよ?」
「いや……確かに刃の部分は剣に見えるけど……」

 メーアさんの言う聖剣の姿は持ち手を槍の様に伸ばした剣にも見える為聖剣と言っているのだろうか。
 ただやはり槍にしか見えない。

「ま、まぁ良いか……」

 埒が開かないと思い諦めるとカラトはそのまま聖剣へと向かって行く。

「おぉ、遂に聖剣が勇者様に」
「カラトの手に聖槍が……」

 メーアさんとカラトのパーティー達は感激と言った様子でその光景を見ており、エラスに至っては両手を合わせてすらいる。

「……ふぅ。いざ!!」

 柄をしっかりと握り、台座から引き抜こうと力を込めるカラト。

「ぐっ……うっ、聖槍が遂に、遂に俺の手に!! ウオォォォォォッ!!」

 雄叫びをあげながらゆっくりと台座から引き抜いて行くカラト。
 だが聖剣はまるでカラトと力比べをする様に抵抗を始め、台座へと戻って行った。

「な、何故だ!? 俺は勇者なんだぞ!! 聖槍よ!! 選ばれた勇者である俺を何故拒む!?」

 元通りの姿に戻ってしまいそれからカラトがどれだけ力を入れてもビクともしない聖剣。

「……あ、あの勇者様? 聖剣は……」
「ふ、ふん。心配するな。こ、これはそう。祭りの時の余興用に抜かないでおいたのだ!!」
「と言いますと?」
「祭りの日にこの聖槍を抜いて見せようじゃないかという事さ!!」
「お、おぉ!! それは良いですな!!」

 と、カラトの言葉に喜ぶメーアさん。
 ただカラトは脂汗かいてるし、余裕なさそうだ。
 するとその時ヤナギさんが慌てた様子で神殿内へと駆け込んで来た。

「ど、どうした?」
「た、大変だ……」
「落ち着いて話せ。何があった?」
「ま、魔族が」
「魔族がどうした?」
「魔族が攻めて来やがった!!」
「何だと!?」

 直後神殿の外から地鳴りの様な轟音が聞こえて来る。

「ちっ、行くぞ主!!」
「おう!!」
「こんな所で……全く!!」

 ロウエンを追って神殿を出る風月の群狼。
 それに遅れてカラトのパーティーも出て来るが、その頃俺達は既に橋を駆け抜けていた。



「こりゃマズいな」
「ロウエン!!」
「分かっている!! ミナモ!! ユミナ!!」
「分かってるわよ」
「外さない……」

 槍を構える俺、刀と太刀を抜くロウエン、鞭を振るミナモ、弓に矢をつがえて放つユミナ。
 敵はゴブリンやオークで構成されており、棍棒や斧を持っている。

「ヘヘヘッ、女は連れ帰れ~」
「男も連れ帰れ~」
「ゲッヘヘ~!!」
「グピッ!?」

 一体のゴブリンの首が宙を舞う。

「まずは一人!!」

 ロウエンが刀で斬り飛ばしたのだ。
 続けてユミナが放った矢がオークの眉間に深々と突き刺さる。

「ハヤテ!!」
「助かる!!」

 ミナモか鞭を用いて地面に作り出した陣を踏んで加速。
 敵軍の間を駆け抜け、すれ違い様に槍の刃で切り裂く。

「ちっ、出遅れたか。皆行くぞ!!」
「任せて!!」
「はい!!」
「ウラウラー!!」

 そこにやっと合流したカラト御一行。
 セーラは弓を放ち、エラスは魔法によって生み出した火球を放ち、モーラはゴブリンを殴り飛ばしている。
 ではカラトはと言うと

「受けるが良い。完全無欠の光風アブソルートルスビエント!!」

 突き出した剣から竜巻の様に渦を巻いた光が放たれる。
 その光に触れたゴブリン達は炭化し、吹き消される様に崩れ去る。
 が、その光が何者かに止められた。

「んっヌゥ~ぅ……あぁ、良いねぇ」

 止めたのは巨岩の如き体躯の青いオーガ。
 巨大な剣を右肩に担いでいる。
 その剣だが異様な形をしている。
 剣にしては長い柄。
 その先端にはエルフの耳の様な形をした巨大な刃を持っている。

「我が名はシマイ。四天王の一人、ロウヒョウ様の部下である!!」
「ロウヒョウだと……」
「四天王って……魔王軍幹部の!?」

 四天王と聞いて驚くカラトとその名を呟くロウエン。

「魔王様が本格的に目覚める前に侵略の下ごしらえをしようと来たが、ふむ。勇者と会えるとはな……僥倖僥倖」

 左手を顎に当て、喉を鳴らして笑うシマイ。

「なぁ勇者様よ。良かったら我等魔族側に来ぬか? 当然見返りもやるぞ?」
「何だと?」
「そうだな……俺の配下の女を半分やろう」
「……そ、そんな話に乗ると思うか? 答えはノーだ!!」
「ほぉ……なら良い。ここで朽ち果てよ!! 皆の者よ、略奪の時だ!!」

 大剣を掲げ、叫ぶシマイ。
 それに応える様に雄叫びをあげるゴブリン共。
 しかもおかしい事にゴブリン達がムキムキになっていく。

「これは!?」
「グググッ。驚いたか勇者よ。これは俺のスキル、剛皆同中ごうかいどうちゅうの力よ!!」
「全体のステータスを上げて来たか……厄介だな」

 ロウエンは剛皆同中というスキルがどういうものか知っているのか、苦虫を噛み潰した様な顔をする。

「全く、ロウヒョウの部下と言ったな……」
「んん~? 貴方は~?」
「ロウエン……ただの傭兵だ」
「傭兵、ねぇ~!!」
「っ……グッ!!」

 石畳を踏み砕いて跳躍し、ロウエンへと襲いかかるとシマイは担いでいた大剣をロウエンの脳天目掛けて振り下ろす。

 それを刀と太刀を交差させて受け止めるロウエン。
 だが威力は凄まじく、ロウエンの足元の石畳にもヒビが走り、彼の体が僅かに沈む。

「グッ……この、程度か……よ!?」

 ロウエンを上から押さえ付けていた力を僅かに緩めるシマイ。
 するとどうなるか。
 シマイの大剣を押し返そうとしていた刀と太刀は、大剣の力が緩んだ事で二刀は押し返そうと持ち上がる。

 するとどうなるか。ロウエンの胴の守りが薄くなる。
 そこへシマイは右足裏を押し付ける様に当て、蹴り飛ばす。
 蹴り飛ばされたロウエンはそのまま宙を舞い、煉瓦造りの家の壁に背中から打ち付けられる。

「ロウエン!!」
「あらあら~。貴方意外とレベル高いのね~。ガッシリしてて好きよ!!」

 再度大剣を担ぐシマイ。
 そこへ撃ち込まれる矢。数本は軽く刺さるが数本は刺さりすらしない。

「こそばゆいな~」

 軽く体を揺すり、刺さった矢を落とすシマイ。
 その様子からダメージはほとんど入っていない様に見える。

「光よ!!」

 カラトが剣から光を三日月状の斬撃として飛ばす。

「なまくらぁ!!」

 その斬撃を左手で握り、ガラスの様に割り砕くシマイ。

「ならば懐に!!」
「あら速い!?」

 自慢の俊足で懐に潜り込み、槍を突き刺す。

「でも速いだけじゃダメねぇ」
「なっ!?」
「軽いわぁ!! 色々と軽いわぁっ!!」
「オッ!? ……ゴッ!!」

 槍を受け止めたシマイはそのまま俺をアッパーで打ち上げ、落ちて来た俺を大剣の峰で打ち飛ばす。

「ハヤテ!!」

 吹っ飛ぶ俺に減速魔法をかけて止めるミナモ。

「助かった!!」
「良いって事よ!!」

 着地し、礼は言っておく。

「アンタなんかねぇ!!」
「あらお嬢ちゃん」
「アタシの拳で十分よ!!」

 飛びかかったのはモーラだった。
 固く握り締めた拳を休む間も無くシマイへと打ち込む。

「いたっ、イタタタタタタッ……」
「ウラウラウラウラウラー!!」
「いったいわ、ねぇ!!」
「ウギュッ!?」

 モーラの猛攻をものともせず、シマイはモーラの首を掴んで持ち上げると地面に大剣を突き刺す。

「おいたをした子には……」

 持ち上げたのにパッとその場で手を離すシマイとその意図が掴めずにポカンとするモーラ。

「お仕置きが必要ねぇ!!」

 モーラの身体へシマイの握り拳による剛打が打ち込まれる。
 そのあまりの勢いはモーラの悲鳴をかき消す程。
 左右交互に繰り出される剛拳がモーラの全身を滅多打ちにする。

「ホォラホラホラホラホラホラァ!! さっきまでの威勢はどうしたのかしらぁ!! 可愛いお顔が台無しよ!!」
「うっ……こっ、のォッ!!」
「あら……まだそんな元気が」
「勇者パーティーの私を、舐めんなァァァッ!!」

 滅多打ちにされ、痛みに顔を歪めながらも繰り出す渾身の右ストレート。
 だがそれは……

「そんな……私の、一押しなのに」
「残念ねぇ。レベル差が大き過ぎるとこうなっちゃうのよ。ちゃんと鍛えないとね」

 シマイの左手で最も簡単に受け止められてしまった。
 そして

「はぁい、行くわよ!!」
「ングッ!?」

 顔面に右フックが打ち込まれ、モーラはゴブリン達の方へと吹っ飛ばされてしまった。

「んじゃ貴方達、自由にして良いわよ。私、女に興味無いから」
「ゲヘヘ。ありがとうございやす」
「流石はシマイ様!!」
「分かってる~!!」

 下卑た笑みを浮かべながらモーラへとジワリジワリと迫るゴブリン達。
 慌てずに恐怖心と、これから自分がどうされるのかを想像させる時間をたっぷり与える様に、ゆっくりと迫っていく。

「ギャオォォォン!!」

 フーの咆哮にそちらを見るとなんと、ユミナに迫っていたオークを撃退すべくオークに噛み付いては投げ飛ばし、尻尾でなぎ払うフーの姿があった。

「ゆ、勇者様達を守れー!!」
「俺達の街だ!! 俺達で守るんだー!!」

 と街の人達が手に銛や斧を持ってゴブリン達へと突っ込んで行く。

「馬鹿!! やめろ!!」

 起き上がったロウエンが叫ぶが遅い。
 彼等よりもレベルが上のゴブリンとオークによって街や人達が一人、また一人と殺されていく。

「くっ、本気でいくぞ!! 魔族!!」
「あら?」
「エンチャント!! ファイア!! サンダー!!」

 掲げた剣に炎と雷を纏わせるカラト。

「食らえ!!」

 そのまま剣をシマイへと振り下ろす。

「良いわね~。でも!! 腰が!!」

 対するシマイは大剣で受け

「入ってないのよ!!」

 なんと大剣で炎と雷を吸収し、お返しと言わんばかりにカラトへと放つ。

「グッ!? アッ、ガアァァァァァァァァッ!!」

 直撃を受け叫んでから倒れるカラト。
 服と鎧は焼け焦げ、髪の毛はボンッとなっている。

「勇者様!!」
「そんな……」

 その光景を見て狼狽える街の人達。
 まぁそうだろう。ボスビートルの時やアビスドランの時の事を知っている俺からするとカラトで勝てるとは思わないが、街の人達からすればカラトは勇者なのだ。

 その勇者が敵わないのだ。狼狽えて当然だろう。
 だがここにいるのは勇者だけじゃ無い。

「オッ、オォォォォォッ!!」
「無事か、ロウエン!!」
「当たり前だ。あの程度で沈む程柔では無い!!」

 復帰した俺とロウエンで迫るゴブリン達を薙ぎ払い、シマイへと迫る。
 ロウエンの二刀と俺の槍がシマイの大剣とぶつかる。

「ほっ、ほほほほほほ!! 活きが良い男は好きだよ!!」
「っ!! まだ、まだ倒れる訳には!!」
「膝を折るには、まだ早い!!」
「良いわぁ良いわぁ。滾ってくるわぁ!!」
「ぐっ!!」
「ロウエン!!」
「そのままぁ、吹き飛びなぁ!!」
「グッ!?」

 大剣によるフルスイング。
 それを俺は槍を立てて、ロウエンは刀と太刀で受け止める。
 がシマイは力任せに俺達を吹っ飛ばす。



「グハッ!?」
「あだっ!?」

 吹っ飛ばされた先は何と海上神殿。
 先に落ちたロウエンの上に俺が落ちる。

「イタタタッ……」
「あれだけ受けてその程度で済ませられるとはな……レベルは確実に上がっている様だな。主」
「そうかもな……っと悪い悪い。今どくよ」
「あぁ、すまない」

 ロウエンの上からどき、腕を掴んで引き起こす。
 見た所ロウエンにもたいしたダメージは入ってはいないようなので一安心だ。

「にしてもあの勇者、やはり使えんな」
「セーラ達でもダメージは期待出来ないし……どうしようか」
「……手が無い訳でも無いが」
「本当か? 一体どんな手が」

 勝てる手があるのなら、と聞いた俺に帰って来た答えはまさかの

「主があそこの聖槍を抜くんだ」

 俺の想像の斜め上を行く答えだった。
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